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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
間章二 サメの魔法を求めて
97/211

05.空中大決戦、鮫。

 黒い槍が突き刺さる。槍では無い。イカ墨だ。

「た、『盾よ』ッ!!」

 強度だけなら『石壁』の方が上だったと気付くが、実際に受け止めて咄嗟の判断の方が正しかったと気付かされる。


(お、重っ!も、もう持たないッ!!)

「「「『生えろ石壁』ッ!!!」」」

 魔力任せに支え、せめて直撃は避けようと体を動かす前に次々と突き出した石壁が(すみ)を遮り、直ぐに粉砕されたお陰で何とか(しの)ぎ切る。


「す、済まん助かった!」

「鮫は後だ!全員で烏賊(いか)に向かうぞ!」

 射線状にいた一人ティーパーティがグラトニーに謝罪(しゃざい)し、同じく『石壁』を出したジュリアンが一同に指示を出す。


 咄嗟の反応はともかく、指示に関してはジュリアンの方が早いか。

 即座に走り出した一同は、足を止めずに目を疑った。

 ()()()()()()()()()()である。そう、左右順番に変化球だった。


 一瞬脳が理解を拒んだが、必死で理性を呼び覚まして回避しながら。

 次の()()()()()を分析すると、つまりあの巨大烏賊は、自分に従う鮫共を空中で掴んで投げやがったのだ。


「「「ぅおおおおおおッッッッ!!!!!」」」


 滑空(かっくう)しながら自分で向きを修正して迫る鮫に驚く程の危機感を覚えながら、全員が我を忘れて走って避ける。


 背後では受け身を取って転がった鮫が、再び背を向けながら風に飛ばされ、旋回して烏賊の手元へと帰ってゆく。一見して夢の様な恐怖の再来。

 緩やかに風に乗る動きが非常に憎らしい。そして数百程度の距離がまた遠い。

 歯軋りしている間にまた赤い口が迫る。


「『無垢なる巨人よ、総身の無双を、我が身に宿せ』!」

 怪力の呪文は効率が悪いが脚力も上げる。箒を取り出すと避けるのが難しいので今は無理だ。


 足を止める事は許されない。何せあの岩にもたれかかった烏賊は、四本で体を支えて残りの四本と二本の触腕全てを鮫野球に費やしているのだ。


 とにかく見ていて苛立たしい。

 呪文で防げば足が止まる。しかし相手は旋回して背後からも襲って来る。

 実に嫌らしい生き物だ。


「イカ墨だ!」

 烏賊の口は真下、足の中頭の下にあり、突き出して見えるのは口では無く漏斗(ろうと)と呼ばれる器官だ。

 額の中央、目の間に伸びる管が膨らむ姿は先程の、煙幕という言葉を鼻で哂う破壊力の激流を思い出させる。


「全員来なさい!『宿れよ仮面、素は幻想、呼び出すは土蛇なり』!」

 集まった全員を囲む形でグラトニーの袖から巨大な土蛇がとぐろを巻くが、しかし放たれたのは一同の遥か頭上、雨雲の方角だった。


「「「さ、鮫だぁ~~~~~~~ッ!!!!」」」

 振り向いて絶叫する一同。脳の理解が追い付かないと反応が単調になるのはもうどうにも出来ない。


 荒れ狂う五つの竜巻が海上、いや外周湖上から近付いて来た。

 だがそんな事は些細だ。繰り返すが大自然の驚異など些細だ。何故ならその竜巻全てには、全部で五体の、()()()()()中で浮かび上がっていたのだから。


 人より大きな巨大な(ひれ)が、尾が、そして全身が。まるで帆船の帆の様に風を受け空を泳いで。違う、漂っている?

 その巨躯は余りにも圧倒的且つ雄大(ゆうだい)で、空を飛ぶ巨人か船の様だった。


 遠目に見ても分かる竜巻は扇ぐように羽ばたく鰭によって保たれ、しかし小さな漁船や潜水艦などは比較にならないほど大きいだろう。

 敢えて言うのなら、旅客機と同等か以上か。


 飛行機に詳しくないグラトニーには視覚的に竜巻の端が頭から尾に届いているくらいと、烏賊に投擲(とうてき)される鮫が、風圧で弾かれる程度の軽さだというくらいか。

 緩やかに見えて常人が走るよりは早い竜巻の速度が、ある意味では数少ない救いだろうか。


(((もしかして、記録に残っていない理由ってこれじゃね…………?)))

 正直に書く方が正気を疑われる自信がある。


「が、外周湖の鮫は、竜巻すら従えるというのか……。」

 薙ぎ払う様に振るわれたイカ墨の帯は、竜巻の上部を断ち切っただけで終わる。


 体を傾けてあっさりと躱した巨大鮫メガトロンの集団は、まさに空の王者と言わんばかりに竜巻の風を全身で受け止め続け。やがて水平に体を浮かせて、一際大きなメガロドンが咆哮(ほうこう)を上げる。


 何を言って良いのか分からない光景だったが、見守るしか無かった一同へ向けて二体のメガロドンが進み出て体を傾ける。

 それは紛れも無い、狙いを定めた闘争の意思。

 残りの三体は、迷うように鮫を握り締める巨大烏賊に悠然と狙いを定めた。


(…………はッ!不味い!このままではメガロドン達に蹂躙(じゅうりん)される!)

 直感で分かる。あの巨大烏賊では勝てないと。

 あの大メガロドンも同じ結論だからこそ、邪魔なグラトニー達を手下に任せて先に大物を仕留めにかかったのだろう。


 向こうは間違いなくこちらも脅威(きょうい)と認識している。……具体的には派手に瘴気を放つグラトニーを。

(まさか、私が漏らした呪詛に惹かれて来たと云うの……!)


 漏れてる『傲慢』や『嫉妬』に惹かれるとかちょっと予想外だったが、鮫全般に『嫉妬』の効きが悪い所を見ると、単純に魔力だけで獲物と認識して敵意そのものは薄いのかも知れない。


「そっちは任せたわ!」

「ちょ、ま、待て!……ああもう!」

 幸いにも今なら混戦に持ち込める。総掛かりなら二頭相手でもどうにかなる筈、というよりどうにか出来ないなら詰む。


 反論を聞いている時間も惜しいので返事を聞かずに走り出したが、『筋力強化』が続くグラトニーに遅れて追い付き、並走する人影が一人。

 そんな真似が可能なのは一人しかいない。


「あっちは良いのかしらジュリアン。」

「いくら何でも一人は無茶だよ。

 メガロドンがこっちも狙っているのは俺にだって分かるさ。」


 つまり向こうは四人に任せた訳か。あの巨体に通じるとしたら、ピオーネの召喚獣かサンドライトの砂土竜の精霊発動具【シムーンの鎚】がギリギリだろう。

 ティーパーティとて探求寮(シーカー)生、正直厳しい組み合わせだとは思うが。


「なら烏賊を盾にしながら上を取って、二体を巻き込む。いいわね。」

「ああ!」


 どの道大技による短期決戦以外に勝機は無い。

 辺りから飛来する鮫の攻撃を躱しながら、既に完全に狙いをメガロドンに定めた巨大烏賊へと距離を詰める速度を加速する。が。


 メガロドンの(のど)から耳を(つんざ)く咆哮が響き渡り、震える衝撃と視覚的悪夢に全員が思わず体を硬直させた。



 メガロドンの口から、大量の()()()()()()()()()()()



 敢えて言うなら、()()()()だ。

…………鮫ミサイルというには、ちょっとばかり密度が濃過ぎた。



 大メガロドンの咥内(こうない)から数十頭、或いは百頭を超す鮫の群れが雪崩(なだれ)の様に吐き出されて、巨大烏賊が放つイカ墨ビームとぶつかり合う。

 だが。悪夢、いや鮫ビームを放つのは、()()()()()()()()



「「「ぎぃやぁぁぁあああああああッッッッ!!!!」」」



 後ろで上がる全員の絶叫に圧され、鮫の波に襲われた巨大烏賊へと再び走り出すグラトニー達二人。

 悲鳴が痛みを訴えていない限り、絶対に振り返らないと固く誓う。


 だがグラトニーが牽引(けんいん)中の【卍兵】の眼には、ばっちりと滑空しながら追尾してくる鮫ビームの波から、我を忘れて逃げ惑う四人の姿が映ってしまった。


 爆発する様に全ての脚を振るい。

 目の前で大量の鮫が飛び散る。が、殆どは空中で受け身?を取り、互いに自分の群れの意思に従って敵に襲い掛かり始める。

 現実逃避したいが、数百の鮫の群れが空を舞って、次々に滑空を始めたのだ。


「<武人刀>!

 そして、『刻め描爪、群成せ積もれ、諸共に引き裂け』ぇっっっ!!」

「『金剛の獅子よ、灼炎の(たてがみ)に、浄化の光を宿せ』!」


 迫る鮫を切り払いながら、巨大な猫爪の数々が辺りに散らばる鮫達を引き裂く。

 同時に並み居る鮫の群れを一面に拡がる炎がまとめて焼き尽くす。


 近寄るまでは出来る限り温存したかったが、流石に障害物が多過ぎた。

 派手な魔法行使は流石の巨大烏賊も放置せず、丸太よりも分厚い脚一振りを叩き付ける。

 だが一手遅い。


「あっぶな!」

 二人は僅かに出来た間隙で【箒】を取り出し、飛行の呪文を唱え終えていた。

 まあ、種を明かせば鮫が多過ぎて、今まで避け切れる気がしなかっただけだが。


 だが同時に。近付いてしまえば烏賊の巨体は滑空する鮫の障害物だ。

 敵鮫も烏賊鮫も巨大烏賊の体を透過でもしない限り、向かって来る方角は必然的に限られる。


 加速してしまえば二人を狙える鮫は、一定方向から飛来するものに制限されるのだ。よって【卍兵】を進行方向に飛ばすだけで、大分飛行は楽になる。一応。


「さあ、先に近い方の気を引くわ!もう一方は任せるわよ!

 『刻め描爪、群成せ積もれ、諸共に引き裂け』ッ!!」


 巨大烏賊の脚を避けて飛ぶメガロドンの一体に、割とギリギリの射程で十数手の猫爪がその横っ腹を引き裂く。

 メガロドンが怒りの眼差しで二人の方へ視線を動かし、上昇する二人は烏賊の脚を避け、更に視界から振り切らない速度に加減せねばならない。


――いや、それは不要な心配か。何故なら空には、数百どころか下手したら()()()()が宙を舞って互いに食い合っているのだから。


 驚くべき事に、彼らは自分の群れと敵の群れの区別が付くらしい。

 グラトニーの『嫉妬』で同士討ちしかけた鮫は慌てて(かじ)を翻すのに、敵対する鮫と食い合う時は遠慮無く牙を剥いている。


「ま、まさか魔力でマーキングをしている……?」

 障害物もとい障害鮫が多過ぎて中々加速出来ない中、周囲を舞う【卍兵】や《妖刀》《飛杭》が思いの外生命線になっている。


 稀に時々、脚や巨体、竜巻に弾かれて衝突事故を起こす鮫タックルを避け続けると思いの外視覚的にも呪文に集中する余力が無い。


「ぅおおおあああああああああああっっっッッッッ!!!!

 ぼ、『暴虐なる怪童、無双の鉄槌、一刀を以て叩き切れ』ぇッッ!!!」


 ある意味では時々箒から弾かれているジュリアンの方が、烏賊に着地しながら剣を振るって時々魔法で一閃している分、余裕があるとすら言えた。


 そして遂に、鮫ビームが二人に向けて放たれる。



「「ぅうおおおおおおおっっっっ!!!!!!!!!」」



 鮫ビームを後方に全力で飛ばすが、後を追いかける様に鮫は舞い刺さる。

 鮫ビーム最大の脅威は、解き放たれた鮫に意思がある事だ。つまり紙一重で避けようものなら自力で角度を修正する。


 更に弾かれて宙を舞った鮫も、息があればそこで終わらない。再び滑空する。

 意外に機敏な鮫は狙って(ひれ)を斬らせてくれるほど甘くない。


 必死で斜めに上昇を続けてメガロドンを振り切り烏賊の影に回り込んだかと思いきや、目の前にもう一体のメガロドンが狙いを定めていた。

 分断する心算が挟み撃ち鮫ビームの餌食(えじき)になる。成りかける。


「「ぬぅああああああ!!!!!!」」

 もう()()()盾ではない。()()()。走らねば避け切れないし間に合わない。


 何本かの人形呪具達は常に鮫達と相打ちに落下し続ける。射程外に落ちる前に引き寄せないと、手数が減った時が最後になる。

 ぬめる体皮を転げ落ちない速度で走り、必死で『筋力強化』を維持しながら箒を脇に握り締めて上昇力を保つ。


「だ、大丈夫だ!鮫ビームは体内の鮫を吐き出したら放てない!!」

 一度鮫ビームを放ったメガロドンが、宙に舞う鮫を()()()()続けるのが目に移り思わず考えの浅いジュリアンをキッと睨み付ける。目を反らされる。


「『宿れよ仮面、素は幻想、呼び出すは火鳥なり』っ!!

 いつまでも甘く見るなよ海中生物っ!!!」

 割と死に物狂いで集中した<仮面>の呪文を繰り出し、数十羽の火鳥が(いのしし)並みの体躯で宙を舞い、一斉に鮫に突き刺さって火達磨(ひだるま)にする。


「今度は()()()()かぁッ!!」

 およそ半分、十数羽か二十前後の鮫が落下していく。しかし残りの鮫は追尾する火鳥を回転で突き破り、振り切り。

 少しの間だけの優勢をあっさりと覆す。


 そこへ、体を高速回転させた巨大烏賊のイカ墨ビームが薙ぎ払う。

「ほぁうッ!!」


 足場から弾かれ危うい所で射線を逃れたジュリアンが恐怖の悲鳴を漏らし、同時に一体のメガロドンが墨の直撃を受けて体を傾ける。

「今よっ!!」


 咄嗟にジュリアンの手を掴んで加速飛翔し、反対のメガロドンが鮫ビームに狙いを定めるが、今度は先程と違い、追われる最中の話ではない。


「『宿れよ仮面、素は幻想、呼び出すは土蛇なり』っ!!」

 鮫ビームと相殺するかに見せて直前で身をくねらせる巨大な土蛇は、一瞬の隙を付いてメガロドンに食らいついて烏賊の足元へと引き寄せる。


 だがメガロドンが体を捻ればいとも容易く砕け散る。それでもその数瞬は紛れも無い空白の時間だ。

 遂に二人は烏賊のヒレを超え、頭頂部の上を取る。しかし最後の大メガロドンが一同へ今、最大規模の鮫ビームを解き放つが。


「ジュリアン!『牙剥け化け猫、鳴いて群成せ、嘘偽りで包み込め』っ!!」

 掴んだその手を全力で範囲外まで放り投げ、烏賊の背を駆け下りながら巨大な『化け猫』へと姿を変えて。


「おうよ!『金剛の獅子よ、巨躯なる四肢で、牙を鉤爪を振るえ』っ!!」

 角度を修正しようとする大メガロドンより大きく、金剛獅子の剣身を『変形』の呪文で巨大化させる。


 他のメガロドンも頭上に気付くが、体当たり同然に落下し伸ばされた、自分達にも匹敵する『化け猫』の両腕に掴まれて押し込まれる。


「『金剛の獅子よ、金色の毛皮を、勇気で満たせ』!

 これで、断ち切れぇッッ!!!」


 『怪力化』の呪文をかけ直して振り下ろされた一撃が巨大烏賊にめり込み、切り裂いて割れ続け、それでも止まらずその背を走り続ける。

 化け猫を通り過ぎ、地響きを立てて刃が地面に届き。

 巨大烏賊が、地面まで真っ直ぐに両断される。


 地面に落とされたメガロドン達は巻き込まれない様にと藻掻(もが)き、体を跳ね上げようとするが。


「そのまま潰れろぉ!!」

 体に突き刺さったままの猫爪に抑え付けられ、体液を撒き散らした烏賊の直撃を受ける。衝撃で体内に残っていた鮫が血と共に吐き出された。


「『刻め描爪、群成せ積もれ、諸共に引き裂け』っ!!」

 二体が何かするより前に喉元に爪を突き立て、『猫爪』の呪文で喉元を抉る。

 収納具には一つに付き一体が限度だったが、何とか二体の撃退は成功した。流石に烏賊が入る様な収納具は無いが、流石に復活はすまい。


「「ぃよぉおっし!!」」

 呪文効果が消えた二人が合流し、思わず(てのひら)を打ち鳴らす。


「最後の一体は任せなさい。あっちは大分苦戦しているわ。」

「分かった。そっちも油断するなよ。」


 勿論と言いながら手早く頭上、巨大剣の間合いから逃れ切って旋回する大メガロドンを見上げると。

 曇り空からは徐々に飛翔していた鮫が減り、既に半数以上、恐らくは数百にまで減じている。……減じているのは視覚的に見ても明らかなのだ。


 今なら問題無く箒が使える隙間がある。走り出して的を絞らせない様に箒に飛び乗るが、不意に大メガロドンが小さく吠える。

 と、同時に。()()()()()()()()()()グラトニーを視認した。


「ッ?!」


 無論全てでは無い。ジュリアン達の方にいる鮫は全て向こうの二体の支配下にあるらしく、完全に空が二つに分かれた形となる。


 それは詰まり、討ち取った二体と烏賊の配下が全て軍門に下ったという意味だ。


 舌打ちしながら急いで上昇する。如何に『嫉妬』が同士討ちを誘おうが、質量で移動範囲が塞がれてはどうにもならない。

(けれどさっきよりは余裕がある!)


 敵の狙いが集中した分、移動方向がシンプルになる。威力のある【卍兵】で進路を切り開き、魔力量の少ない《妖刀》《飛杭》で横殴りをする。

 飛来する鮫の群れも、安易に一斉に襲ってはくれない。時間差で襲ってくるため振り切るための工夫はその時々で判断を迫られる。


 だが、呪文に集中する隙は確保出来る。

「さぁ、そろそろお終いにさせて貰うわよ!

 『我が分け身よ、素は悪夢、奇形異形の怪物なり』ッ!!」


 仮面の呪詛<空想生物化>。実在しない想像力のみによって成立する、変化術の頂点の一角。


 想像図が微に入り細を穿つ程に質が増し、凡そ万能だからこそ多くの者が実現に至らなかった、【魔女の仮面】という補助具があって尚も膨大な魔力を必要とした大魔術によって、グラトニーは巨大な黒い怪鳥へと姿を変える。


(飛翔の感覚は箒で、巨大化の感覚は化け猫で既に掴んでいる!

 肉体を魔力で構成するのなら、実在する生き物を参照する必要は無い!)

 羽ばたき一つで砲弾の様に飛翔し、槍の様に空気を切り裂き上昇する。


 肉体の質量を変化させる存在であっても良い。幻獣や精霊が生き物と異なる理で生きているのは当然で、魔法生物が物理法則に縛られているとは限らない。

 他生物の理解という意味で、グラトニーの『暴食』で喰らった生物を再現出来る『強欲』は、『仮面』の呪詛と極めて相性が良かった。


 鎌鼬(かまいたち)の速さを怪鳥の巨体で体現したグラトニーは、飛来する鮫を振り切って上昇を続け、狙い撃たれた鮫ビームによる群れを(かわ)し切る。


「取ったぞ!上を!」

 怪鳥が大メガロドンの頭上で羽を拡げ、体を支える竜巻を一瞬弾き散らす。

 重力に負けるかと思えたメガロドンは全身のヒレを傾けて落下の勢いで突風を竜巻に変え、再び体勢を立て直すが、グラトニーも既に狙い定めて降下している。


 ォォォォオオオオオオオオオヲヲヲヲヲヲヲヲッッッッ!!!!!


 それは最後の悪足搔(わるあが)きでは無い。最後の奥の手であり切り札。

 ()()()()()だ。尾を下にして竜巻の回転に身を委ねた大メガロドンが高速で回転を始め、更に手下鮫を回収する時の肺活量を駆使して竜巻の芯の空気を吸い込む。

 さすれば竜巻は天空へと昇る掘削機で在り、全てを抉り噛み砕くドリルと化す。


「さ、させるかぁっ!!!

 『我が分け身よ、素は悪夢、奇形異形の怪物なり』ィッ!!!」


 グラトニーが選んだのは抵抗では無い、加速だ。

 落下と吸引の勢いに逆らうのではなく、更なる降下の加速。

 吸引力の影響が同方向への加速によって拘束力を失い、巨大化した肉体の大部分を再変換してグラトニーの全身が殆ど魔力の中から飛び出す。


 残された魔力が形作ったのは、眼前に迫る大口を引き裂くに足る巨大剣。


「薙ぎっ払えッッッッ!!!!!!!!!」

 鼻先に足を載せて翻る刃に上下から牙が迫り落ち、しかし先に頬の間に剣が届き滑らかに刃が肉を引き裂き始める。


 重厚であるからこそおいそれと止まらぬ勢いは、竜巻に振り回されながらも加速して。遂にその全身の両断に成功する。


 抵抗が消えると同時に剣を消し、落下の最中に収納を試みる。

 着地直前を狙い澄ます鮫を《飛杭》で仕留めて足場にすると、箒を取り出すまでも無く着地出来た。


 顔を上げるとすぐ後ろに、呆然と立ち尽くすジュリアン達が居た。

「うわぁ…………。何、今の大怪獣決戦。」

 呟いたサンドライトの何かに疲れた表情の意味は分からなかったが、ふむ。


「あら、どうやら大物退治は私が一番遅かったようね。」

 グラトニーの一言に、総掛かりでメガロドン二体を倒した一同は呆れた顔で無い無いと片手を振った。

 本日3話投稿、前編です。

 鮫ウォーズである(挨拶)。

 恐怖と親しむグラトニーが恐れるとしたら、理解不能。脳が理解を拒む状況以外に他なりませんw多分本編含めて一番グラトニーが戦慄してますw

 正直書いていて一番楽しかった間章ですが、これが当たり前の作品になったらその方は作家としてお終いでしょうwしばらく常識が書けなくなりますよ!

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