間章 サメの魔法を求めて 01.研究開発
「つまり!伝説の古代鮫メガロドンは、外周湖にいる!!」
学園内に存在する水中ダンジョンのメッカ、海竜湖。
学外に出られない学生達にとっては夏場の憩いの場でもあり、二学年になって初の夏季休暇を迎えたグラトニー達にとっても例外では無かった。
一同は夏の思い出作りを兼ねて海竜湖でキャンプを楽しみつつ、防御系発動具としてはドラゴンに並ぶと言われるタートルキング狩りに訪れていた。
そこで偶然留年中の第四学生、元探求者寮長のティーパーティと遭遇。彼から別ダンジョンへの探索協力を受けたのだが。
「先輩、つまりの前をお願いします。」
キャンプに訪れた全チームが一度〔湖沿いダンジョン〕を訪れた後。
改めてティーパーティに話を聞こうとして集まった、開口一番が今の台詞だ。
「おお、ついうっかり結論だけ話してしまったか。
詰まり海竜湖の魔物達、その勢力分布の話だ。学生達にとっての寛ぎ空間である湖岸帯はこっち、秘密の森との境界付近になる。
此処は浅瀬が多く、大型種はそもそも入れない。」
大雑把な学園地図を取り出しての説明によると。
海竜湖は三方を外壁、秘密の森、渓谷地帯に囲まれている。この内、秘密の森側が浅瀬の砂浜、渓谷側が岩だらけの岩礁地帯になっている。
岩礁付近は入り組んでおりタートルキングの群生地だ。この辺に古代鮫がいれば確実に目立つので、この付近はそもそも無い。
そして外周寄りの湖の底は、海竜の巣となっている。
巨大な地底湖があり、一定の比率でドラゴンスレイヤーを目指す大勢の歴代首席達が訪れた結果、割と詳細な地形が判明している。此処も目撃情報無し。
「で、だ。湖の中心湖底こそが、古代鮫生息地としては最有力候補だったんだが。
昨年、この中心部分は超巨大幻獣、鬼海月が群生する〔岩礁珊瑚迷宮〕があるというのが判明した。してしまったのだ。」
「ああ、メフィレスの発動具ね。」
彼女が【人魚】の二つ名を持つに至った発動具、それが【鬼海月の腕輪】だ。
「ぶっちゃけ海月が幾ら群生してようが、他の魔物の餌にしかならないんじゃ?」
「いや。鬼海月は大きいのは普通にドラゴンより大きくなる。学園の外で発見されたら即討伐班が組まれる優先駆除対象だ。」
しかも笠が残れば別々に成長するぞ、とその脅威と倒し辛さを語る。
本来は三人どころか十数人~数十人規模で駆除する、超絶にタフ過ぎて発動具化出来る内臓部まで攻撃が殆ど届かない危険生物らしい。
しかも成長前ならドラゴンすら捕食するとか。
「まあ巨大鮫なら捕食するかもだけど、共存出来るとは思えないわね。」
「その通り。
なので何時頃まで目撃情報があるかを遡ってみると、丁度250年前頃。つまり外壁成立前後で目撃情報が途絶えていた。
よって外周湖に生息しているのでは無いかと見当を付けた訳だ。」
「外壁外って今廃墟しか無くて、出られないのでは?」
「表向きはな。だが実は自力で突破出来るなら自己責任で許可が下りる。」
「……相変わらずとんでもない場所よね、この学園は。」
概ね納得した一同が改めて頷き合う。
「なので今回は外周部へ繋がると思われる洞窟を突き止めたので、外周部まで辿り着くのを手伝ってくれという話だ。」
相談の結果、ポートガス以外の薬学三狂生は今回リタイアとなった。
アヴァロンとレイリースも興味無いとの話だったが、折角なのでピオーネは強制参加だ。
「ちょっと?!私もう手持ちの召喚駒無いんだけど!?」
「封印石なら幾らでも売ってあげるから幸運の置物役をやりなさい。
希少幻獣なんだから少しでも遭遇率上げないと。」
因みにジュリアン組は全員一致で参加を表明したので、後はいつ行くかの相談になったが、こちらは明日に直ぐという事で満場一致した。
元々グラトニー達は先にダンジョンに向かったので疲労は抜けている。
ジュリアン組は昨日の帰還なので若干不安があったが、購入したての【サメ盾】発動具を早く実戦で試したいのだという。
パトリシアはグラトニーに謎の対抗意識を燃やし、サンドライトは単純に好奇心を優先した結果だ。割とこういうの好きらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それはさて置き。空き時間があれば少しでも次の予定を進めておく。
例によって例の如く、携帯錬金房に籠ったグラトニーは一日の平均疲労回復分に相当する魔力を費やしての研究を進めていた。
今回は召喚駒の微調整は後で良い。
先日『暴食』で喰らった魔獣の中で、電撃砲鰻とオクトパスタの特性が『強欲』に馴染み新たな能力として安定化出来そうなのだ。
(――よし。電撃砲鰻はそのまま<電撃砲>を正確に再現出来れば問題無いわ。)
(逆にオクトパスタは少し手間ね。
黒墨の煙幕が肉体由来だから、こっちは再現出来ないし。)
墨を生成する臓器を増やす気は流石に無い。年単位の時間を掛ければ多少は何とかなるだろうが、それなら魔術的に墨を再現する方が早い。
が、やってみるとロスもかなり多いので放棄。
(八本脚を刃物の様に扱うのは、肉体の形状変形……では無い?圧縮と硬質化?)
にしては弱過ぎる。記憶を読めればもっと簡単に能力を把握出来るのだろうが、グラトニーの吸収はあくまで魂や術性質、体質の解析までだ。
感覚的な理解も多少は可能だが。
(手足を若干軟体化、密度を魔力で変化させられるだけでアレの再現は……。
あら、出来そう?)
自身の肉体で再現してみると、感覚的には間違いないと実感が得られる。
という事は理解が足りないだけで方向性は間違っていないらしい。少しバラバラになった方の素材も確認してみようと、手足中心に取り出してみる。
「あら。魔力が抜けたのに微妙に硬さが違うわね。……もしかして?」
手刀の小指、小指球側の密度を高め、気持ち形状を刃物に近付ける。
この程度でとも思ったが、感覚的に間違っていない気がするので試しに脚を切り裂いてみると、僅かに切り裂ける。断ち切れる方が近いと思った筈だが。
(え?もしかしてコレも技術?しならせて体内の水圧を変化させるとか?)
魔力の流れだけならイメージとして残っている。動きの方が案外大事なのか。
ちょっと召喚を試してみる。本来召喚駒は、契約用の術式を事前に作るのが大変だが、駒に封じてしまえば他に必要な事は無い。
理論上即時召喚は可能なのに、実際には出来ない理由は、自分と召喚対象に宿る魔力の違いだ。
要は駒の中の魔力を性質を壊さない様に自分の魔力と一致させ、駒を媒介に自分の魔力を変質させる手間が必要なのだ。
術式自体は召喚駒に備わっているが、力加減は術者の技量となる。
この同調に呪具共々慣らす作業が必要となるからで、これは魔力量よりも微調整と時間が必要だからと一旦後回しにしていた。
だが駒としては不安定でも、召喚や能力が使えない訳じゃない。
昨日出来立ての召喚駒を取り出し、壊れない範囲で『オクトパスタ』を使役状態で召喚。『石壁』を出して足で攻撃させてみる。
(うん?捻りと圧縮が足らないの?)
どこが不安定かのイメージが妙に鮮明に分かる。
ちょっと自分でも弧を描く様に、足での攻撃に近いイメージ。断ち切るより切り裂く様に全身を振るって、手刀強化脚刀化を試してみると。
「……切れるわね。あ!もしかしてこういう技術?」
魔力で足らない部分を表皮の密度や経験で補っていたのかと、独楽の様な動きを意識して。
『石壁』に四肢を繰り出す度に、攻撃の質や精度が増していくのが実感出来る。
召喚していたオクトパスタは邪魔なので術を解き、『強欲』内の感覚に従い四肢の感覚を意識に近付けて振り回す。遠心力を生かす様に全身を振り回し続けて。
手先足先に限らず、肘に膝。脛に前腕部、上腕部と、筋肉の外側。皮の部分、表皮を変質させる事で四肢の大部分が刃物、又はヤスリ化出来る事が分かった。
「<全身刀>、いえ。武術が不可欠だから、<武人刀>かしら?」
形式として確立させる事で、イメージを先鋭化させる。
意識手順を型式化して登録する事で、動作そのものを術式の様に再現し微調整出来る様になる。
「ふむ。」
(<武人刀>使用。)
手袋を付け、靴を履いたまま再び『石壁』を出して切りつける。
獣故に肉体以外を使う発想は無かったが、これなら専用の靴や服を作らずとも、問題無く装備越しに扱えそうだ。
むしろ肉体に負荷がかからない分、体に密着させた服の袖を変化させる方が反動的な意味でも良さそうだ。
いっそ装備の耐久度を考えれば、後日靴や手袋を専用の呪装化しても面白いかも知れない。とは言え、そこまでやるなら時間を掛けられる寮でやるべきか。
「今日はこんなところかしらね。」
取り敢えず今日は余分な魔力の貯蓄だ。
少しでも早く自身に馴染ませるため、全発動具に一通り魔力を通して術を使った後、残りで『魔力結晶』を十数個単位で作る。
人形呪具ならサブ出力として幾らあっても困らない。
だがグラトニーはここで自分独自の工夫を凝らす事にした。
というよりこれは、自分にしか出来ない実験だ。
「『傲慢よ』。」
自身の呪詛の魔力結晶化。他者が見れば邪悪そのものの所業に見えるだろう。
だが呪詛がグラトニーの一部である以上、本来は魔力結晶より遥かに生成し易い筈だった。
「……『憤怒よ』。……『暴食よ』。」
今の所失敗はしていないが、明確な使い道もまだ決まっていない。
だが順調に。『呪詛結晶』ともいうべき三種の呪詛の塊が、収納具の中に着々と貯蔵され続ける。
そして最後に。
手首を切り、自身の生き血を貯蔵し続けて早数ヶ月。
今日も日課分を蓄えた後、今迄に蓄えた分が壺一つ分と同量になったのを確認。
古いが未だ鮮血のままで蓄えられていた血壺の中身、全てに魔力を浸す。
これは《封印石》化だ。魔力結晶は魔力だけで作る。封印石は鉱石や金属を魔力結晶化する事で魔力の塊を実体のある存在に馴染ませる。
では、自身の血を結晶化したらどうなるか。これに関しては実験だ。
呪詛結晶では既にある程度方向性が定まってしまうため融通が利かない。
なので呪詛は後付けにして、先ずは魔力だけで結晶化すればどう変質するか。
「あら。これは失敗の内かしら?私の全ての呪詛の影響を受けているわ。」
ある意味では当然か。例え魔力から呪詛を抜いても血の方に濃厚な呪詛が宿っている。これなら今後は全呪詛を一つに、偏らせずに込めた方が使い易そうだ。
「名付けるなら、――そうね。《殺生石》にしましょうか。」
本日2話投稿、前編です。
物語としては海竜湖キャンプ後編、内容は外周湖を目指して、となります。
正直間章全てを一つの章に纏めようかとも思いましたが、〔魔女の饗宴〕が全く出て来ない上に個別に区切った方が話としてまとめやすかったので。
グラトニーは隙を見ては、いつも邪悪な研究に精を出していますw




