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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
間章一 海竜湖キャンプ
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05.見参!大蝦蟇大将

 洞窟内に降り立ち、円筒状に整備された人よりも大きな存在を想定した様な広さの道は、まるでトンネルを連想させる直通路だった。


 周りが不安げに進む中、ふと久々な気分で『無手』の呪文を唱え、不可視の(まく)の中に納まって先頭を進む。密かに『生命探知』の呪文もだ。


 歩き続けて再び鳥居が現れると、先が百段ぐらいありそうな白い下り階段が真っ直ぐに続いている。

「明らかに何かあるわね。しかもコレ、門の心算なの?」

 レイリースの問いに、ふと振り向いて訊ねる。


「あなた達は鳥居って知らないの?寺や神社は?神殿は?」

 グラトニーの問いにジュリアン達全員が顔を見合わせて、しかしピオーネだけはハイハイ手を伸ばした。


「知っているわ!無能世界の魔法儀式場よね!」

「当たらずとも遠からず、ね。神や私みたいなのを祀り上げた場所よ。」

「いや、それは多分違う。」


 グラトニーが鳥居を潜り、歩いて降りる中。皆が箒に乗ろうとすると、浮かび上がった者から次々と、鳥居の外に弾き出された。

「ちょ!何これ!」

「あら不思議な術式ね。歩く人を選別しているのかしら。」


 だが階段自体には何の術式も無い。というより今のエーテルを見るに、地に足の付いていない人品を対象にして、鳥居の外に飛ばす術式か。

 下り道全体が指定範囲になっているのが見える。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 慌てて他の面々も箒を下りて追いかける。


 何となく分かって来た。ここは興味半分で来た者を追い返すための道だ。

 途中踊り場が四か所、合わせて百八段。

 普段歩き慣れない魔法使い達は、多くがふぅふぅと荒い息を吐く。


「ちょっと、何よこれ……。」

 鳥居の先の、一面に拡がる大広間。しかし道があるのは両端側。

 中央にはかなり勢いのある水流が、滝の様に流れている。


「一体何の為の道なのよ……。」

「これ、もしかして。」

 アヴァロンの問いに、グラトニーが頷く。


「ええ、さっきと同じ。

 地面を歩かない者は強制的に外、さっきの鳥居の上に放り出されるわ。」

 滝に落ちた場合は恐らく外だ。怪我をさせる術式じゃない。

 道中はひたすらに面倒な道、しかし根気さえあれば辿り着ける。


「あとさっきは違和感に気付かなかったけど、此処の呪文、私の故郷の字だったわ。

 あなた達が見ても文字と言うより模様か落書きに見えたかもね。」


「!?っそれって!」

「興味本位で近付くな、そう聞こえるわね。」


 全員が一本道を進み、階段を下り、上り、再び中央に戻り。鳥居を潜ったところで一同が揃って床にへたり込む。

「ちょ、ちょっと休みましょうよ。」

「あら残念。もう目的地に付いてしまったわ。」


 鳥居の先には開けた地底湖モドキに出て、眼下には大量の水草と苔。

 そして何より、があがあゲロゲロと、眼下一帯に蛙の群れ、群れ、群れ。

 千は下らないであろう、大小様々な巨大蛙の集落があった。


 しかも只の蛙では無い。彼らが着るのは赤いちゃんちゃんこ、そして同じく帽子。

 幾つかの部屋分けはあるが、屋根は無い。


 糸を育てる養殖部屋、糸を紡ぐ糸車部屋に、帽子と服を織る裁縫(さいほう)部屋。

 大部分を占める育児用食材の海藻(かいそう)畑と育児部屋。そして()()

 中央の大広間を除けば全てが自給自足の為の空間。


「成程。宝探しなら罠一つ無い面倒なだけの道、進む間に興奮も覚めるわよね。」

 驚きで大声を上げかけた者全員を腹パンした後、グラトニーは納得して呟いた。


 通らせない道なら苦労してでも押し入るかも知れない。

 だが、面倒だが通れる道なら。

 無理矢理じゃ無ければ通れる道なら、その道を超えて来た者はきっと冷静だ。


「そういう話なんでしょう?大蝦蟇(がま)のお爺さん。」

「そう思うなら武器を下ろさんかい。物騒で痛々しいお嬢さんや。」


 向かい合って正面、立てば天井に届くだろう。

 大仏の様に鎮座して、煙管(きせる)を咥えて煙を一吹き。

 白髭(しらひげ)白眉(はくび)を水平に伸ばした、二階建ての家屋に丁度良い座高(ざこう)の長老蝦蟇が。綱を引いて幕を引き上げ、一同の前に姿を現した。


「痛々しいというのは良く分からないわね、私は私を気に入っているのに。

 それに私は丸腰が嫌いなの。それで、折角だから聞きたい事があるのだけど。」


 常人の目には岩肌にしか見えなかった幕向こうの一室が現れ、狼狽(うろた)える皆を放置して周囲に漂わせている『妖刀』の狙いを定める。

 茣蓙(ござ)が開くと同時に鈴が鳴ったが、下の者達は長老蝦蟇が手で制する。



「がぁーーーっ、はぁーっはっはっはぁ!元気の良いお嬢さんだ!」


「だが儂らはそちらで言う自給自足、出せるものなど昔話くらいさね。

 それ、そちらのお嬢さん方が困っておるが、そっちは良いのかね?」


 口を挟む隙を伺っている一同に対し、しかしレイリースが黙っていろと手と視線で抑えている。


「別に構わないわ。あなた達は魔物かしら?幻獣かしら?

 蝦蟇って油が良く取れるって聞くのだけれど。」

 そこで長老蝦蟇は顎髭(あごひげ)を引っ張る様に撫でて、はてはてと(とぼ)けて首を(ひね)る。



「生憎、生憎。儂らはようけ柔らか過ぎる。

 この地はマナに満ちておるが、この土地を離れれば生きられぬ程度の脆弱な獣。

 発動具だか呪装だかには到底向かんよ。」


「そら油如き安物を以てここから出たいなら好きにするが良い。弱肉強食は自然の常故、恨み言等一々言わんよ。抵抗だけはさせて貰うがのぅ。」


「はて。そう言えば儂らに差し出せるものは、古い頭にしか無いと思うが。」



 ニヤニヤと笑うが決して嫌味では無く。これは軽口の応酬だ。

「残念だわ。私は暴力って好きなのよ。

 それで、何か隠さなきゃいけない秘密でもあるのかしら?」



「そうさのう。隠し事は無いが、退屈はあるなぁ。

 一銭の得にもならん事はしたくないが、一つ頼み事なら無いでは無い。」



「我らが大爺様の大蝦蟇大将様が、湖向こうの大洞窟に、儂らを守って囚われてしまってなぁ。」



「オクトパスタ共の大巣窟(そうくつ)だが、頭の悪い奴らならば、《召喚駒》という奴にならなるだろうなぁ。奴らは増え過ぎると地上の子らが困る筈だて。」



「そうさな。大蝦蟇大将様は既に(よわい)三百を超えておったか。

 あの爺様なら、召喚駒には相応しいかも知れん。」



「成程、成程。

 つまり頼み事は、大蝦蟇大将をどういう形であれ解放すれば良いのね。」


「ちょ、ちょっと待って!

 無事に助け出そうとする方が先でしょ?!」

 ピオーネが堪らず話に割って入る。まあ、そういう話ならそれでも良い。


「ならあなたが付いて来れば良い話でしょう?」

「ッ!行くわよ!

 だったらあたしが助けに行くからグラトニーは手を出さないで!」


「それは駄目。願いを叶えるのは私。聞きたい事があるのも私。」

 他の三人は戸惑いどっちの味方すべきか迷い、レイリースは恐らく契約で変化した『無手――女家庭教師な淑女(カヴァネスレディ)』の助言を受けている。


「~~~~~ッ!じゃあ助け方を私に任せて!それか最初に私に助けさせて!」

「決まりね。他もそれで良い?」

 異論は出ない。決まった様じゃなと、長老蝦蟇が声を張り上げる。


「話はまとまった!客人達に歓迎の用意を致せ!

 客人達は、昼の飯はお済かな?」


「いいえ。口に合わなかったら自前のを食べるわ。」

「いや、グラトニーさんそれは失礼。」

「あら。種族が違うんだから口に合わない事もあるでしょう?」

 安心したのかジョーズが口を挟むが、構わん構わんと長老蝦蟇が呵々(かか)と笑う。


「実際我らの食事は小魚か薬草しか無くてな、おんしらも口に合わんと思ったら遠慮なく残すが良い。

 どうせ水に返せん食事などここには無いからのぅ。」


 両手を叩くと巻物が出現し、床に置いて筆を立てて水掻きのある手を重ねると、(たちま)ち筆が勝手に動き地図を描き出す。


「初めて見る魔術ね。」

「魔術ではのうて、呪具じゃのう。

 安物と聞いたが、上の街では今売っとらんのかね?」

「割ト高いヨ?」


 カクカクした絶妙な表情でララバイが答える。そうか、知っているのか。

 そして欲しかったけど買えなかったのだろうと、追及は止めて目的地までの簡単な海底地図を受け取ると、外周を回る階段を下って大蝦蟇達の接待を受ける。


 流石に宴会は狭い階段周りでは無く、下の広間で行うからだ。

 薬学三狂生は毒狂いジョーズだけは直ぐに興味を失ったが、他の二人は成功報酬という形ならと海藻薬の製法と栽培法、現物の幾つかを譲り受ける約束を取り付けていた。


 食事自体は然程美味しいとは言えなかったが、貴重な栄養源なのは伺えた。

 周りに聞こえない様に慎重に、レイリースがそっと近付いて来る。

(『女家庭教師な淑女(カヴァネスレディ)』は問題無く扱えてるようね。)


 家庭教師な淑女(カヴァネスレディ)所謂(いわゆる)、契約によって生み出された疑似的な多重人格だ。

 『無手』としては無詠唱で自在に操れる他、普段は脳内で一切魔力エーテルの類を用いる事無く、相談役として使用出来るという利点がある。


 加えて相談役とは云ったが、レディはあくまで質問に答えるだけの、レイリースの記憶を参照した喋る百科事典。

 演算(えんざん)力しかない代わり、彼女が忘れた記憶も全て参照出来る特別仕様だ。


 厳密にはレイリース自身の自問自答であり、戦術分析も状況判断も質問にしないと答えられない。正しい意味での別人格では無いのだ。

 とは言え、本人の代わりに立案出来るのは十分な利点だろう。

 感情が乱れた時は助言機能も付いているのだから、正しい意味での百科事典とも言い難いのだし。


(じゃあやっぱり、そういう事なのね?)

 小声のグラトニーに対し、レイリースは質問ではなく確認を問う。


(多分ね。伝えるかどうかは任せるわ。私からは何も言わない。)

(伝えないわよ。只の推測なんて。)

 離れた気配を感じ取り、お茶をすする。

「このお茶は悪くないわね。これも少し頂こうかしら。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 一息吐き終え、一同は最下層の下を進んだ洞窟へ来ていた。


「満ち潮の間はこの下の潮流に飛び込めば一発で辿り着く。

 だが途中で無理に出ようとすれば、最悪海竜の巣に落ちる事もあり得る。絶対に自然に割れるまでは中から出るなよ?」


 青年蝦蟇が全員に注意事項を説明を受けて。岩場から一人ずつ(あみ)の上に置かれた風船の様な泡の浮袋に入る。

 中に人が入った袋から順に、入り口を紐にした海藻で結ばれていく。


「それでは大長老様の事、お頼み致す。開けろ!」

 網が外されて水門が開き、一斉に一同の入った浮袋が水中に呑まれていく。


 泡の中からは外の景色が透けて見え、周りを流れる気泡の動きで景色の移り変わりの差がはっきりと認識出来る。


「おっと。これは座っていた方が良いわね。」

 隣で追い付き追い越しをしている他の浮袋の中では、皆がバランスを崩して必死に姿勢を保とうとしたり、そもそも転がり続けてそれどころじゃ無い者もいる。


 グラトニーも座っているお陰で横回転こそ絶え間なく続いているが、縦の変化は殆どは半回転とせずに戻っている。慣れると段々観察の余裕も出て来た。


(魚達でも追い付けない速さ……。いえ、そもそも追いかけようとしないのね。)

 泡立つ後方を見る限り潮流の幅は思ったより広い。それでも流石に、先程の滝のあった部屋程の広さは無い。あの滝は何処に流れ込んでいるのだろうか?


 少しだけ岩場を警戒していたが既に潮流の勢いで削られた様子で、完全に障害物は取り除かれている。

 やがて進行方向の水の色が変わり、動きが激しさを増すと同時に浮袋が何処かに引っかかると、勢い良く裂けて中に水が入って来る。


「よっと。」

 《浮き盾》を宙に放り投げて、体が飛び出される勢いの間に回り込ませて、着地する様に足を載せる。

 一旦壁側が地面と錯覚する感覚の後、重力が戻って地面に飛び降りた。


 続いて次々と悲鳴が上がり、潮流の脇の湖中へと放り出されて行く。

 だが潮流が拡散しているお陰で流される事無く体が湖底に沈んで、主流の外に放り出されているお陰で、湖上に這い上がる際の支障は無さそうだ。


「けほッ!ちょっとコレの何処が一番安全で早い方法なのよ~~。」

 這い上がって最初に文句を言ったのは果たして誰か。


「実際安全で早いんじゃない?その証拠にホラ、『明かりよ続け』。」

 空中に《浮かぶランタン》を放り投げて灯りを点す。


 照らされた洞窟の隣の部屋には、無数の眼球の光が此方を向いていた。

「ほらね?」

 本日3話投稿、前編です。

 カヴァネスレディが女家庭教師な淑女だったり家庭教師な淑女だったりするのは仕様です。どちらも同じ意味ですが、多分家庭教師な淑女の方が語呂が良いのでそっち多用するかも。

 レディが完全な別人格になって無いのは技術的な問題ではなく、用途が理由です。

 別人格だと喧嘩したり判断基準が違う事もあり得ますが、あくまで警報として平常心を保つための機能がメインなので、レディが悪いという言い訳を封じる為でもあります。

 レディはあくまで補佐であり道具。なので決断の責任は全てレイリースにあります。

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