間章 海竜湖キャンプ 01.湖で遊ぼう
本日から暫く間章が続きます。
間章は本編よりはっちゃけた内容になっており、読まなくても本編に支障は無い様に出来たと思います。
本編は来年から再開予定です。
二学年になり、全員が揃って学園内で迎える休暇期間。
卒業が迫る三学年と違い、最も余裕があり自由に振る舞える時期であり。
多くの学生達はこの時期に思い出作りに励むのが常だった。
一部の魔力不足を実感する学生達ですら、この季節に危機感を抱く者は少ない。
発動具も呪装も、時間と魔力さえかければ用意出来る物で。
多くの場合、素材探しに奔走する時期でもある。中には金儲けに走り、先々に備え元手を増やそうとする者もいる。
学園街に短期の店が増えるのもこの時期だ。
「魔獣学で習ったと思うけど、多頭蛇やギガースは学生も養殖出来るのよ。
だから狩猟に自信が無い学生は授業で半年かけて飼育に成功すれば、育てた方の魔獣を素材にする許可が下りるわ。」
【発動具】さえ作れれば無理に狩猟目的でダンジョンに行く必要も無いし、逆に凡庸な学生だろうと狩猟の勝機も生まれる。
だが召喚士を目指すピオーネにとって、《召喚駒》さえあれば発動具の有無など重要ではなかった。
が、タートルキングという肉食大亀の発動具だけは欲しいという。
「あれ護身用に最高だからね。海竜湖の岩場付近に沢山いるって話なんだけど。
どう考えても一人じゃ捕まえられないんだよね……。」
椅子に顎を載せるピオーネの溜め息に、教師ナイトメアが地下で使っていた防御魔法かと、少しだけ懐かしい気持ちで思い出す。
「海竜湖?学園内にも湖があるのかしら。」
「知らないの?ダンジョンの情報なら全部チェックしていると思ったけど。」
隣で小首を傾げるパトリシアとの距離感は、正直良く分からない。
ライバル宣言して来たのに戦いを避けたがるし、その割に役に立たなそうなところで比較勝負を挑んでくる。何の意味があるのかさっぱりだ。
そのくせ妙に役に立つかも分からない、日常的な小話を教えたがる。
「あ~。授業以外でグラトニーの情報源ってあんまり無くない?」
成程、と机の上で少し溶けているアヴァロンの指摘に納得すると、チャンスと言わんばかりの勢いでピオーネが立ち上がりグラトニーの手を握る。
なお今日の日差しは程好く暖かく、食後の昼寝には最高なのだとか。
(血の従者達に頼んだ調査は未だ暫くかかるしねぇ。)
教師ギャザリスが学園内を調査した際に入手した地図は、そのまま血の従者達に丸投げした。
彼らの知る情報を描き加えた物で清書して貰うためだ。勿論その情報自体は彼らがどう使おうと自由だと答えてある。
彼らも全員が同じクランでは無いので最初こそ戸惑ったようだが、直ぐに積極的になってくれたようで、色々と新しい情報も書き加えたいと言っていた。
「じゃあ一緒に行こう!案内してあげるから!」
「ふむ。悪くないわね。」
〔海竜湖〕とはその名の通り海竜の棲む湖一帯で、水中系の魔物が数多く生息する学園世界唯一の湖だという。ダンジョン認定されている場所が幾つもある。
どうやら海竜湖というのは結構な広さがあるらしい。
タートルキングの呪文も、防御力ならグラトニーの調べた中では最硬だ。
ドラゴンも肉体そのものは防具素材として優れているが、防御呪文の類は未だ誰も成功してない未知の領域になる。
時間は有限とは言え〔魔女の饗宴〕の戦力は未知数。手札は多い方が良い。
「ん~、でも湖に行くのにダンジョンだけなのも味気無くない?
折角だから泳ぎましょうよ。」
パトリシアがジュリアンとポートガスに誘いをかけるのは、確か男一人だとジュリアンが気まずいからだと聞いた事がある。
だが今回はジュリアンも乗り気で、むしろポートガスの方が躊躇っていた。
面倒さを隠さない顔でそれでも何か利点は無いかと念の為思案している辺り、情には厚いのか。
「あら。あなたが迷うのは意外ね。こういう時真っ先に参加しそうなのに。」
「いや。だって湖って特に気になる薬草とか無いし……。」
薬草学と銘打ってはいるが、授業では各種様々な魔法薬の原料を扱う事が多い。
だがポートガスの興味はあくまで薬草、植物限定の様だ。特定の条件でしか栽培出来ない薬草には、今しか採れない品種もあると言う。
「そうなの?てっきり海竜湖って言うくらいだから、ドラゴンの魔力を浴びた薬草とかありそうな感じがしたけど。」
ぴくり。いやそんな目で心当たりを聞かれても、そっちほど薬草に興味無いし。
「こっちの世界で言うドラゴンって強大なマナを浴びて育ち、自身がマナを放つ巨獣と化した魔法世界最強の大型生物なんでしょ?
てっきり周辺環境にも影響を与えるものだと。」
仰け反る。腕を抱える。頭を捻る。
「あ。ちょっと行く方向で話進めといて下さい。
おいらちょっと教師マタハリに質問があるので……。」
いそいそと言うしかない不審者そのものな素振りで、ポートガスは明らかに思考が他所に飛んだまま教室を後にする。
何か順調に話がまとまりつつあるが、結局ダンジョンへ行くのか泳ぎに行くのかどちらの方向で話が進んでいるのだろう。
「そんなの二泊三泊以上で予定を汲めばいいでしょ。
最初の一泊か二泊遊んで、次の日をダンジョン探索に充てれば良い訳だし。」
呆れた顔でレイリースが口を挟んだが、そんな彼女も確か最近、呪装作りに苦戦しているとか。
「ふむ。折角だしあなたも参加しなさいな。」
「へ?いやいやいや!何で私が先駆者寮と慣れ合わなきゃならないのよ!」
うん?一体何を言っているのだろうかと一瞬悩み、そう言えば各寮は成績でマウント取り合っている間柄だったなと思い出す。
確か無能人以下は恥というのもあったか。私が首席だが。
「でも本命のピオーネが預言者なんだから無駄な配慮じゃない?
ダンジョン探索だけ参加でも良い訳だし。」
「いや、でも私はこっちの二人の勉強を見なきゃだし……。」
よく見ると元取り巻き三人衆の二人が机越しに向き直って唸っていた。
「あたし達の事は気にせず行って来て下さいレイリース様。」
「そうそう。夏季休暇中も勉強すれば何とかなりますよ!」
二人は満面の笑顔で応援しているが、内心でかなり冷汗掻いているのが伝わってくる。あの二人、血統以外は凡庸だった筈だ。名前は忘れた取り巻き達だ。
多分次席のレイリースに教えて貰わなかったら大分厳しいだろう。
だが当のレイリースには有効だったようだ。ちらりと視線でピオーネの期待振りを見て、それならと納得して参加を表明する。
「ええと。今の参加者が、預言者の私とアヴァロン、ピオーネ、レイリース。
先駆者がジュリアンとサンドライトとパトリシア。
探求者がポートガスね。全部で八人かしら。」
さて。そうと決まれば装備を整えないと。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「で。魔法世界の水着ってどんな代物なの?」
「だから何で私に相談した。」
グラトニーの問いに、オルガノンは溜息を吐く。
「だって鏡に聞いたら、あれは流行物だから今世代のセンスまでは分からないって言われたし。
傀儡は嫌味かこの野郎って言われて耳塞ぐし。」
魅惑に至っては論外だ。そもそも水着自体を知らなかった。
この辺で向こうと魔法世界では、水着に対する考え方が違うのではないかと思い至った。正確には、向こうでも水着文化は百年二百年前とは別物の筈。
ああ成程、と拗ねるクリスの顔を幻視したオルガノンは、自分も知識中心だからねと前置きしてから口を開く。
「こう言っちゃなんだけど、水着文化は無能世界からの流入品よ。
ぶっちゃけ透けない下着としか言いようが無いわ。」
「うん?」
何か未知の発想が流れ込んできた気が。
「でも水辺に行く機会はあったでしょう?呪具目的で。」
「それが水着着用に変わったの。昔は魚類や爬虫類変化で済ませてたのよ。」
「昔の魔法世界の住民は、水泳をしなかったって事?」
「いえ、素材採取は完全武装よ。遊び目的の恰好じゃ無いの。」
オルガノンはなんて言ったら良いかなと首を捻り。
「そもそも魔法世界の水浴び文化って、入浴とイコールなのよ。
素材採取は防具で、水遊びって言えば今は服でしょ?
昔の水遊びは体を洗うためだから服も着ないし、温泉や大衆浴場と同じく異性とは別行動。
けれど百年くらい前、無能世界から見せびらかしたいほど煌びやかな下着文化がこちらに流入して、爆発的に流行したわ。」
本当に歴史の話になった。でも百年前は未だ禁忌全盛期では?
「禁忌戦役の始まりは断片世界の消失、言わば51年前に遡るわ。
世界の消滅は捨て置けないと、今迄正面対決を避けていた魔法議会は、禁忌に決戦を挑む決議を固めて討伐軍を組織した。これが50年前。
百年くらい前はまだ小競り合い続きで戦争という空気は無かったのよ。」
「うん?禁忌の魔女って何時頃くらいから居たの?」
かなり古い魔女という印象があったが、50年そこそこの話とは思わなかった。
しかしオルガノンは首を捻り、ふとそう言えば彼女の着る服も毎回ちょくちょく装いが変わっている事に気付いた。
殆ど白一色なのは代わり無いが、レースがあったりフードがあったり袖が膨らんでいたりと、毎回微妙に、何かしら違った気がする。
防具と下着、確かに別物だろう。水遊びの服装で戦うのは不釣り合いなのも理解出来る。というより鎧を直に着るのは流石にキツイ。
そう言えば今迄彼女に戦いを挑んだ事は無かったが、着ている服は全て呪装なのだろうか。呪装化する時間ならあった筈だ。
「記録上、ええと。今から173年前?
その時に禁忌の魔女として指名手配されているわね。
けど当時は邪道士、邪仙狩りをしている魔女っていう認識しか無かったと思う。
150年くらい前までは、むしろ実害が無いなら放置した方が平和じゃないかって意見も多かった筈よ。」
ざっと取り出した本を確認するオルガノンに意識を戻す。
「邪仙?魔女狩りでは無いの?」
「ええ。男嫌いの魔女、というより男を狙っていたから推定魔女だったんじゃないかしら?」
当初魔女は殆どが無視されていたようで、手下が居たという記録も無い。稀に目撃情報で性別不明の手下らしき存在が確認される程度だった。
因みに禁忌の魔女の性別は、今でも判明していない。
ナイトバロンも男女両方の禁忌の魔女相手に大立ち回りをしたと言うが、何故かナイトバロンだけは必ず正体を見破り禁忌に驚かれていたという。
「どんな術を使ったの?」
「本能。本人も分からないそうだから、禁忌も本気で頭抱えたでしょうね。
で。本格的に脅威とみなされたのは129年前。
〔魔女の饗宴〕結成が切欠ね。」
んんん?割と重要っぽい新事実が出て来たけど。
「まあ初期の禁忌は強い魔女ってだけで、殆どの魔法使いにとっては無関係だったのよ。」
そこではっと我に返ったオルガノンが咳払いをする。
脱線していると気付いたようだ。残念、そっちの方が気になったのに。
「……話を戻すわ。無能世界から大量の下着技術が流入した結果、当時の淑女達はそれを同性や夫だけに見せるだけで満足出来なかったの。
けれど淑女が下着姿を見せびらかすなんて流石にはしたないでしょう?
でも水着ならセーフだって、下着に似せた水着が流行し出したの。」
当初ははしたないと言う意見もあったが、それ以上に水遊び文化が魔法世界全体を巻き込んで大々的に流行した。
なによ当時は元々際どいドレスが流行っていた時期でもあった。透けない水着の方が健全という印象もあった。
水着も輪郭ピッタリの物よりレース過多の防水呪装が好まれ、段々透けない方が重視される。
逆にドレスは丈が短く、規制が入る程煽情的な物が増えていた。
やがて水着は健全な服装という印象が強まり、近年の水遊びは男女を気にせず行う文化に変わったのだと締め括る。
「つまり水着での水遊び文化が流行った結果、素材探しでも特製の水着を使う様になったのよ。」
近年では水辺の素材探しは濡れても問題無いよう、水着の上に武装するのが普通なのだとか。
それまで水陸で装備を変える習慣は無かった。元々魔法使いは鎧を着ない。水中で動けない様な服装など、陸上でも身軽に動けない。
はっきり言って優れた魔法使いほど運動が苦手な傾向があるくらいだ。
「だから水着は基本ビキニ型が中心ね。で、素材探しはビキニだと脱げ易いって話になってワンピース型やその中間が出回っているの。
ワンピース型は水着の中じゃ新しいんじゃない?
まあ呪装化すれば普通に脱げないから、水着は大体ビキニで探せばどこでも通用するわね。」
「防御力は気にしないのね。」
「魔法使いに耐久力を期待するな。直撃したら死ぬのが魔法使いよ。
不死術式だって即座に蘇生出来るとは限らないわ。」
成程。つまり色々な服、というより色々な呪装を持っているのは。
「つまり鏡と傀儡みたいな若い魔女は水着をファッションだと思っている。
けれど年寄り魔女からすれば下着で出歩くみたいで抵抗があるって話なのね?」
「わ、ワンピースなら在学時に着た事あるわよ!!」
(白い服だと赤い顔がとっても目立つわね。)
彼女は白い水着しか着なそうだ。
本日2話投稿、前編です。
テスト的に本日金土日の三日間で間章一本を全部投下予定です。
一遍に投下するとどの程度大変なのか、これ次第で年末の予定が変わりますw
魔法世界で水着使う理由って、真面目に考えると無いんですよね。
水中生物に変身出来ますし、魔法使いは隠しポケットが多い方が有利なので基本厚着向き。体育会系は魔女狩りだけなので、薄着になる理由がありません。
なので調べてみると、昔の下着ってエロい物じゃ無いんですよね。現代で言うステテコやランニング姿、汗脇パットのノリで、寝間着はエロいけど下着は臭いだけ、的な。
グラトニーの出身地的に全くリアル事情とは無関係ではない世界。ふむ。
独自文化でビキニを強引に流行らせてみようかw
という訳で長老魔女様に犠牲になって貰いましたw




