表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
84/211

03.失脚者の結末

 万一に備え持たせていた教師ギャザリスの存命を知らせる呪具が砕け、教頭ボルテッカはまさかと思いながら水晶玉で『千里眼』の術を使う。


 ボルテッカは天文学を苦手としているが、触媒(しょくばい)となる呪具さえあれば妨害されていない現在のギャザリスの場所を突き止めるくらいは出来る。

 水晶に移ったのは、魔物の巣の中で捕食されている誰かの手足だった。


(やばいやばいやばい!まさか本当に教師が二学年に負けるだなんて!)

 一学年と二学年に明確な差があるなら、二学年と三学年も同様だ。


 一学年との間には発動具の壁、二学年には結界術の壁がある。陣地破りの手段を持たない二学年が三学年に勝つ事は本来あり得ない。

 例外は先日の決闘祭の様に、結界構築に時間を懸けられない時だけの筈だ。


(甘く見ていた!暗殺するならあたしが襲われた直後にすべきだった!)

 淑女の会の一角を落としたのはまぐれ等では無かった。魔女対策に切り札を伏せる様に徹底(てってい)されていたから、本気を出せば決して負けないだろうと。


 だが彼女達は既に準教師級、特にドラクロワの姫君は今や一人で教師と渡り合えるのではと評価されている。

 護衛付きで教師相当な自分と畑違いでギリギリ合格なギャザリスよりも、とっくに彼女達は自分達より上の魔法使いだと認めるべきだったのだ。


(くそ!今直ぐお嬢様方に泣き付いて命乞いをしなければ!

 学園長が動いてもあの怪物に見つかっても不味い!)


 グラトニーが何処まで突き止めているかは分からないが、ギャザリスが拷問(ごうもん)されずに済み、自分の事まで口走らなかったと期待する程夢を見てはいない。

 勿論学園長に気付かれないという期待もだ。


 先程続報があったら知らせる様にと使い魔の連絡を受けたばかりで、向こうの受け入れ準備が出来ているかは全くの未知数だ。

 念の為と逃走時に備えて私物を整理してあったのが幸いし、気付けば直ぐに部屋を出れた反面。


「いや?君はもうここで終わりだよ。」

 ギャザリスがグラトニーを殺す時間を稼げるようにと、ギリギリまでカーリーへの教師暴走報告を遅らせたのが仇となった。


「ひぃ!が、学園長?!突然何を言われるのです!」

 暗がりから立ち塞がる様に現れた優男、ダーククロウの姿を前に、咄嗟(とっさ)に取り繕えた自分の頭を褒めてやりたい。


「惚けたって無駄だよ。君が学生の暗殺を命じた事も、命じた教師ギャザリスが返り討ちに遭った事も、全て僕は把握済みで君の前に現れたんだよ?

 この学園内で、僕に知り得ない事があるとは思わない方が良いね。」

 だがボルテッカの希望はいとも容易く否定される。


 だがその程度で素直に諦める程、ボルテッカは行儀の良い生き方をして来た積りも無い。


「おや、それでは学園長が魔女達と協力関係にあるという噂は真実に聞こえます。

 素直に出来る事と出来ない事があるのは認めた方が良いですよ?」

「例の学園襲撃の件かい?それなら気付いていたと言った筈だが。

 実際僕が出向かずとも解決しただろう?」


「な!」

 信じられない発言に思わず自分の耳を疑ったが。


「ほう。それは流石に聞き捨てなりませんな。

 わたしにも詳しく聞かせて頂きませんか、我らが学園長ダーククロウよ。」

 夕暮れの暗がりに()()が輝き、強面の威圧感を放つ男が姿を現す。


「む、ムーンパレス教師……。」

 助かったと思う反面、脂汗も流れる。この男は良識派という点で自分にとって、ある意味学園長以上に危険だ。


「おや、何故君が此処に?」

「とある者から教師暴走の報告と同僚の保護を頼まれまして。

 ですが話を逸らさないで頂きたいですな。学園長、あなたは魔女の手引きをしたのですか?

 それとも魔女を見逃したのですか?」


 ギロリと凶眼を向ける様は、目元の隈によって更なる迫力が加わっている。

 自分が睨まれた訳でも無いのに、ボルテッカは心臓が止まる思いだ。


「ふむ。教師ナイトメアに対しては手引きだね。

 僕は彼に改心の機会を与えたのさ。彼は善良で、自分が嫌っていた学生にも分け隔てなく接する男だった。


 埋伏の魔女テトラドに付いては見逃した方だ。

 魔女の一人や二人、学園の総力を挙げて撃退出来ない様では未熟の一言だよ。

 君達が鈍っている様に感じたんで、訓練代わりに見逃したのさ。」


(コイツ……!長生きし過ぎて気が狂っているのか?)

 正気を疑う暴言に、姫君方が口にした学園長への疑惑が脳裏を過る。


 平気で有力者達の子女御子息達を危険に晒した発言に、ボルテッカの学園長への猜疑(さいぎ)は確信へと変わる。無能人など後回しで良い、成程確かにその通りだ。

 こんな危険人物の懐に禁忌の封印があるなど、危ないにも程がある。


「そうですか。では尚の事あなたの好きにさせる訳には行きませんな。

 あなたは学園の防衛網を好きに差配している。これ以上穴だらけにされた上責任だけ我々の所為にされては堪りませんよ。

 まさか自衛するなとは言いますまいな。弛んでいると口にしたのに。」


「おや君が防衛の責任を持ってくれるのかい?

 それは有難い。」


「はっはっはっ!あなたが空けると分かっている防衛網の責任を!!

 わたしが要求しているのは防衛網の管理への口出しと、あなただけが行使出来ると主張している教師達の管理権限ですよ。


 あなたの好きに振る舞わせては、あなたの意に添わぬ教師二人を謀殺しただけと言われても反論の余地が無さ過ぎる。」


 そう思いませんかと派手に両手を広げ、学園長に尋ね返した前教頭ムーンパレスの額には、ボルテッカから見てもはっきりと分かる青筋が浮かんでいる。


「ふむ。まあ次の失態があるまでは見逃そうか。

 次の教頭はどの道、君になるだろうしね。」


「ええお任せを。それに失態では無いでしょう?

 我々が黙らされていたところにあなたが口を挟んだ。あなたが口を挟んで良いのなら先ず我々に口を出させるべきだ。」


 それもそうだと高笑いを木魂させながら、学園長が暗がりに消えていく。

 有り得ない。転移魔法は実在を疑われる魔法の一つだ。

 ああも容易く見せ付けられては、疑いの余地すら無い。


「自業自得とは言え、教師ギャザリスは残念でしたな。

 あなたに怪我はありませんか、教頭ボルテッカ。」

 腰を抜かしてへたり込んだボルテッカに、ムーンパレスの手が差し伸べられる。


「え、ええ。お陰様で助かりました。有難う御座います教師ムーンパレス。

 ……あの、あなたが此方にいらしたのは。」


「ええご想像通りの生徒です。あなたも感謝しておくと良い。」

 立ち上がったボルテッカに不自然な程にこりと笑顔を浮かべるムーンパレスだが、既にボルテッカには、虚勢(きょせい)を張る気力も無い。


「さて。流石にわたしもあなた一人に全ての教師の責任を持てとは言わない。

 彼は自分の責任で行わなかったからこそ判断を誤った。

 だが、あなたが無罪放免とは行きません。」


「……ええ、心得ています。」

(やはりこっちにも事前に把握されていたか……。)

 向こうが狐ならこちらは狸だ。自分が化かし合いで二手も三手も後れを取っていた事を自覚する。もう抵抗する気も無い。


「だが無茶振りをされたあなたにも同情の余地はある。

 あなたには教頭の座を降り、代わりに空席が出る防御学の教師になってわたしの監督下に入って頂く。


 流石に新しい教師を何人も用意するのは骨ですからな。それに監督役もいない状況ではあなたを学園に置いておく事も出来ない。」


 授業内容は必ず報告して貰いますと告げられ、素直に頷く。

 これ以上化かし合いに付き合うのはコリゴリだ。自分はやっぱり、深く考えずに安穏と暮らせる地位が良い。


(ふむ。これで彼女の方は由、だ。

 彼女が失敗した以上、魔法議長殿もこれ以上娘の意向を無視した人選はすまい。

 彼女ならこちらに配慮した人選になるだろうが……。さて、念の為彼女には帰宅の許可を特例で発行する事になるかな?)


 ムーンパレスは次の一手に備えて思考を巡らせる。

 学期末直前の暴走は誰の予定通りなのか、さてはて。

 本日2話投稿、前編です。

 ムーンパレスは現実問題学園に最も必要な人材です。彼がいなくなると学園長と渡り合える良識派は居なくなりますし、議会との利害調整も出来ません。

 ただ議会側から見ても強権を振るうには邪魔で、一方で学園長を排除出来ない状況では絶対失いたくない相手。

 え?学園長視点?「彼はとても真面目で誠実な、疑う余地のない教育者だよ?」

 ハハッ。ムーンパレスの髪は学園に所属する限り必ず抜けますw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ