第六章 グラトニー暗殺 01.最後の手段
決闘祭の後、教頭ボルテッカの元に教師ギャザリスが駆け込んだ。
「教頭ボルテッカ!一体どういうお積もりですか!
あなたは何時まであの無能人を好きにのさばらせておくつもりか!」
怒鳴り散らすご老人に対し、即座に反論するのは厳禁だ。ただでさえ思慮に欠けた直情的な性格なのに、頭ごなしに抑え付けられたと更に意固地になる。
ボルテッカは最近止まらない胃痛に加え、更に片頭痛が加わったかと突然の幻痛に苛まれて額を抑えた。
「決闘祭の責任をこっちに押し付けられては困るな。
人の粗探しばかりしていないで、自分の方の進展はどうなった。
そもそも現段階のメインプランは、お前による学生達の扇動だろう。」
深い溜め息を呑み込み、ボルテッカは睨む様に疲れた眼で問い返した。
正しい教育と言って頂きたいと抗議するギャザリスに、早くしろと手で追い払う様に報告を催促する。
どれだけ深々と沈み込む椅子に座ろうと、教頭の席は座り心地がとても悪い。
学園長は普段働かないが、突発的に授業へ介入したかと思えば、今回みたいな手間のかかるイベントを唐突に割り込ませて来る。
全学年参加は流石に初めてだったが、学年単位でのイベントや抜き打ちテストは合わせて既に二回ほど行われている。
その癖生じたカリキュラムの調整や諸々の諸経費、後始末の対応は全部教師任せなのだから堪らない。
今なら何故失脚したムーンパレスがあれ程晴れやかな顔を浮かべるのか、とても良く分かる。
この椅子の座り心地はあくまで仕事が終わらない時に仮眠が取り辛い物にして、度の過ぎた残業を戒めているのだ。
観賞用植物も、棚に隠された隠し冷蔵冷凍庫も、全て残業の為にある。
(前教頭殿は、なるべく長く私を席に就けておきたいらしいな。
こっちの裏事情などどうでも良いという訳か。)
あっちはあっちで胃薬や頭痛薬など、実に甲斐甲斐し過ぎてうっとおしい。痒い所に手助けが来るのが更に苛立たしい。
だがこちらに探りを入れない程の無能ではない様だ。
多分、こちらがむこうの予測を外れ過ぎない限りは長らく神輿として担ぎたい。前教頭の思惑はそんなところか。
「一学年は良い所まで行きましたが、現段階では役に立ちません。
返り討ちに遭って以降は動きも大分鈍った。決闘祭が止めになりかねません。」
まああれだけ残虐ファイト見せられたら怖気付かない奴の方が怖い。ボルテッカ自身も既に襲撃されている事もあって、絶対一人の時は会いたくない奴だ。
「二学年は話になりませんな。ただでさえ腑抜けて腰砕けな上に、運命の子の周りが実に青臭く愚かだ。無能人を庇う抗議活動すらある。」
バッサリと切って捨てるが、それは裏工作に失敗しているという意味だ。
多分コイツの事だから頭ごなしの否定しかせず、懐柔などはしておるまい。
「三学年は賛同こそ多少得られましたが、義侠心を抱くまでには中々。
何より決闘祭の影響で四、五学年での卒業生が増えそうなので、今は多くの者達がそれどころでは無いと卒業を優先する構えに入りました。」
「詰まり自分は碌に成果を出せていないという事では無いか。
良くそれで人の責任だけ追及出来たものだ。」
呆れが籠った溜め息を吐いて睨むと、ご老人は憤慨して唾を飛ばす。
「私に無能人への介入を阻んだのはあなたでは無いか!」
「許可を取れと言ったんだ。策があるなら申し出ろ。
そもそも現状を調べる前に策も何もあるか。それとも貴様には、今直ぐ学園長を失脚させられる具体的な方策でもあるのか。」
あれば聞くと言えば、忽ち口籠るギャザリス。
「……兎も角、決闘祭の影響で流れは大きく変えられた訳だ。
まだ高々一学期と言えど、流れは良くないな。」
「あなたはこの上未だ傍観する心算か!」
このくそ爺。お前が案を出せと言ったばかりだろうが。
「お前には腹案一つ出せんのかと聞いているんだが?」
「それは……!やはり、何かしらの処罰を……。」
「口実はどうする。あの状況を見る限り、学園長の肝煎りというお嬢様方の判断は間違っているとは思えんぞ。
建前も用意出来ない冤罪はこちらが危険だ。何がある。」
体を起こして聞く姿勢を取ってやれば、だんまりだ。
上の命令とは言え、そろそろこの狂犬も大層邪魔になって来た。
(お嬢様方は魔女対策を優先したと言うが、それでも負けは負けだ。
こっちが優位を保てる期間は思ったより短いかも知れんな。)
「まあこっちも後回しにする危険を感じている所だ。
おい、お前は本気で危ない橋を渡る気はあるか?強硬手段を取る覚悟は。」
両肘で机に付けて身を乗り出し、改めて覚悟を問う。
「ほう。何か策でも?」
「策というより最終手段だ。お前が直接奴を一人にして、無能人の息の根を止めろ。
一度だけなら揉み消してやる。失敗した場合は全ての責任を背負え。
だが、成功さえすれば後はどうとでもなる。全力で何とかしてやる。」
どうだ?と問いかければ、悪くありませんと応じる狂犬ジジイ。
「決行はどの様に?」
「ダンジョンだ。実習中なら教師の見張りがあるが、そろそろ授業外で申請する学生達が増え出した頃だろう?
奴が個人的に申請したダンジョンで罠にかけろ。」
庇えるのは成功した一度だけだと念を押し、構いませんと頷き退席する教師ギャザリスを見送り、漸く息を吐いて深々と背もたれに倒れ掛かる。
(フォローする訳無いだろ愚か者め。恨むなら自分の無能と浅はかさを恨め。)
成否に関わらず全責任を擦り付けて処分する方針を心に誓って、証拠固めと尻尾切りの準備を思案する。やはり念を入れ、お嬢様方を頼るべきか。
(となれば決行直後に泣き付く方が良いか。)
この際頭を下げるのは仕方が無い。近頃は議長殿とお嬢様方の距離も多少は改善した気配が見られる。少なくとも互いの連絡は増えている様だ。
「後は全責任を被って消えてくれ給え、引き時を弁えぬ御老体殿。」
自分はここらで損切りさせて貰おう。
本日2話投稿、前編です。
ボルテッカ「足しか引っ張らない部下とかもうイヤ。」
実は現在、学園では無能人排斥運動が行われています。決闘祭はその流れで学園長が強行したために教師一同が下がらざるを得なかったというちみつな裏設定。
作中に影も形も無いって?だってグラトニー、排斥運動に気付いてないし……(目逸らし
グラトニー視点だと、新入生が入って来たから襲われただけで、去年より大人しいので今年は平和だと思ってます。ジュリアン視点ならちゃんと対立してます。
しかもね?ぐら視点だと返り討ちに出来るのに何故反対するの?なのでジュリアン側も全力で関わらせたくないのが現状。
本件で二学年が運動に参加しない理由が衆目に晒されて、一気に排斥運動は沈黙します。
……うん。どう考えてもグラトニーが注目するタイミングが無いよね(白目
なのでこの件は、裏設定で終わるしかないんです。




