03.決闘祭準備
決闘祭が宣言された結果、四学年、五学年では驚くほどの反響があったらしい。
無能人排斥に挙って名乗りを上げて騒ぎ立てる始末で、血の従者としての対応や基本方針を訊ねられた。
「参加は自由意志で構わないわ。むしろ今回で目立っておいた方が丁度良い位。」
彼らには今、商売の傍らで血の従者候補を探させている。
成程、と会合に出席した従者達が頷く。
「では我々とグラトニー様が戦う場合は如何しましょうか。」
淑女の会が後遺症が残るまで戦いを強要する真似は看過出来ないと、降伏の権利と同意による勝敗の決定を要求した結果。
即座に教師達も同調して学園長に抗議し、大筋を変更しない限り仔細のルールは教師側が精査した上で、後日改めて発表すると通達がなされた。
お陰で多少の暴走は収まったのだが、裏では明確に不満が出ていたようだ。
「淑女の会が上手く抗議してくれたお陰で降参が出来るようになったのだもの。
なら開始の段階で私に対価を差し出せば見逃す事にしましょう。」
折良く《破魔の指輪》を増やしたところだ、一人に付き一つ降伏用に渡しておいて後日本人に戻せばいい。
それと現段階での収益と追加の血の従者候補が上がったが、こちらは後回しだ。
「戦いに向かない呪具を売り払おうとする動きが出るでしょうから、ポーションを多めに渡しておくわ。
この機に手広く買い集めておきなさい。」
「承知しました。」
彼らの中には商才のある者もいる。方針さえ決めておけば大丈夫だろう。
魔道具学。
補講枠を久々に確保出来たので、この際気になった事を聞いておこう。
補講用の部屋は講義用の部屋と違い、概ね半分以下の面積の部屋が殆どだ。
別に個人向けに限定するほど狭くは無いのだが、複数人を纏めて講義していたのは教師人数の多かった昔の話だと言う。
禁忌戦役前の教師は今の倍以上居て、全学年を一人の教師が担当する様な状況も本来は無かった。
今の四、五学年が大量にいる状態も、全てが学生側の不勉強や才能の無さが問題という訳では無く、昔はもっと低学年からも募集し授業も緩やかだったのだ。
その頃に生まれてなくて良かったと思いながら、グラトニーは懐からペンを取り出す。
「授業で習わないオリジナルの呪具を作ったんだけど、これって呪具五種の一つに入れて貰うのはアリなのかしら。」
名付けて《刻印ペン》。呪具に呪文を刻むのが刃物だけでは手間だったので、字を書く要領で金属に刻めるようにした魔法のペンだ。
教師マルガルはふむとペンを手に取る前にと、簡単な講義を優先しようと語る。
「学生が自作呪具を単位に認めてくれと言うのは珍しくないが、大抵は市販品の劣化版でオリジナルとは程遠いものだ。
だから別に確認せずに却下しても構わないが、完全オリジナルを提出する場合は別の問題がある点を君は理解していないな?」
「ええ。何か不都合があるのね。」
苦笑してその通りだと告げるマルガル。
「完全オリジナルの呪具だと説明するためには、教師に呪具の解体と設計図の確認の両方に同意が必要だ。
というより、出した時点で同意扱いにされても文句は言えん。」
似た様な用途の呪具が無かったとしても、確認一つ無くオリジナル認定は不可能だから、当然の作業ではあるのだが。
「だが私がこのペンを私の作品だと言って売り出しても合法だ。何せ全ての構造を把握しているからな。逆に君が盗作していないという証拠も無い。
すると、君はオリジナル作品を私に提出などしていなかった事にも出来るというのだ。まあ流石に設計図は自分で写す必要があるが。」
「……ふむ。詰まり下手な教師が相手だと、単に設計図を奪われただけで単位を獲得出来ずに終わるのね。」
「その通り。事実プライドの無い教師にはは寸分違わぬ物を、自分が改良したと言い張り自作物として企業に売り込む者もいた。
時には欠陥を隠して提出され、そのまま失脚した教師もな。」
成程。単位に認める価値のあるオリジナル呪具は、逆に教師に手渡してはならないのか。自分でコネに使うか、秘蔵するのが普通の様だ。
「君の場合は特に普通に授業で作る呪具を完成させて提出した方が良かろう。
大抵の学生にある魔力制御の甘さも魔力不足も無いのだから、手順さえ間違えないだけで全部出来る。学園が用意する素材で多様な製作経験を積んでおくべきだ。
君にとって単位の取得など、只の手段だろう?」
「そうね。強くなれないなら単位に興味は無いし。
その辺も気になっていたんだけど、学園は半分軍事学校の側面もあるのよね?
なのに二学年の教科書にある呪具も、大部分が農具や日用品にしか思えないんだけど、これで強くなれるの?ダンジョン探索は推奨なんでしょ?」
今まで授業で作った呪具は《警報ベル》に『使い魔呪符』、この二つは分かる。
『使い捨て太陽』『使い捨て雨雲』。次は《給水パラソル》の予定だった筈。
今学期中は『使い捨てダム』と『浄水球』の後、『白紙の魔導書』で終わりだ。
詰まりグラトニーは今学期中に二学年に必要な単位は全て取れる。
「そうだな。正直こう答えるしかない。なれるし、なれない。
そもそも武器と防具の頂点は【発動具】と《呪装》の二つだ。
【秘宝】も【宝具】も質の高い【発動具】や《呪装》の称号でしかない。稀に《呪具》の場合があるだけでな。
では君と私ら教師の最大の違いは何だ?」
と言われても、むしろそれを知りたくてここに居るのだが。
「年季?少なくとも魔力量では無いわね?」
「その通り。魔力量なら多分、教頭や学園長以外君に勝てない。
年季は外れだ、それに曖昧過ぎる。では何が足りない?」
「……呪具の数?」
他に思いつかなかったが、マルガルはそれで半分だと肯定する。
(間違いじゃない?でも呪具は武器にも防具にも含まれな……、いや。
含まれるのか?)
「発動具や呪装を補助する呪具?」
「その通り。発動具は使い続ける程魔力に馴染み、流れも出力上限も増すが、それだけで脅威と呼ぶのは難しい。だから呪装がある。」
呪装と発動具の違いは呪文の有無だと思っていたが、どうやら違う様だ。
「魔法使いでは足りないから発動具の魔力で強化する。発動具では足りないから、呪装の効果で補助する。手順を省くとかな。
なら、足りない分を呪具に溜め込めばいい。狙いが甘いなら呪具で的に当たる様に補佐すればいい。
どれだけ授業を学んでも、他に何も作らないならなれない方だ。」
では、なれる方にはどう授業が関わるのか。教科書に無い暗黙の了解でもあるのかと、グラトニーは首を傾げる。
「そもそも元々学園は軍事だけを教える学校じゃない。
魔法使いが生活に必要な技術全般を教える学校で、魔法使いが生活するならある程度の自給自足は必須だ。だから農業や生活関連の呪具は必然増える。
では。極論、強い発動具と強い呪装を破るのに、必要なものは何だ?」
相手の呪具次第と応えかけて、はたと気付く。違和感を感じる。
いつか教師ドロテアが言っていた、魔法使いは研究者向きだという言葉。
「……もしかして、魔法使いは戦争を想定していない?」
「?……まあ、そうだな。そもそも魔法使い同士の戦いは、多くても数十人だ。
ドラゴン退治ですら百人を超える事は無いぞ?」
それ、今重要なのかと首を傾げる教師マルガル。
(……そういう事か。魔法使いは絶対的に数が少ない。
それは戦略、軍略がそもそも機能しないという事。何より個人の上限が違う。)
一度に争う人数が少なく、大勢集まる事態が少ないので、強い個人が全て解決するのは決して絵空事では無いのだ。
加えて、兵站、補給の概念は、収納呪具があれば破綻する。
「……呪装や呪具で最大威力を上げられるなら、極論相手が絶対防げない一撃さえあれば良い……?」
「その通り。発動具も呪装も大体同じ力を発揮するだけで、全く同じ結果はむしろ稀だ。であれば如何に長所を磨き続けるか、如何に短所を補うか。
それは全部魔法使い次第になる。」
弱点は必ずあるから、魔法使いは手の内を隠す。隠したがる。
「日用品やら諸々の呪具効果を、如何に呪装や呪具に転用するか。
それがなれる方の魔法使いなのね。」
「その通り。戦闘用の呪具呪装とて、全てオリジナル作品だ。」
で、どうするとマルガルがペンに視線を戻すが。
「ん~。ぶっちゃけ便利だから作ったんであって、別に設計図を売るのは全然構わないのよね。類似品の調べ方とか、権利関係は良く分からないし。」
「権利か。基本は特許を魔法議会が管理するから、オリジナル作品を他人に規制されたく無いか、自分が儲けたい時に申請するものだな。」
魔道具学は大体権利で出来ているので資料はあると手渡された本は、それこそ元世界と比較するととても薄い本だった。
類似品の有無は、魔法議会に申請する気で調べて貰うしかない様だ。
(条文どころか指針程度しか書かれてないわねぇ……。)
実際に使い方を説明して試した教師マルガルは、微妙な顔で首を捻る。
因みにペンのイメージはドリルでは無く、熱の出ない半田鏝だ。
「君なら確かに便利なのだろうが……。
呪装や発動具作りでは一番魔力を節約したい要素だ。確かに刻印を刻むのは大分楽だし早くなるが、同じ出力で刻み続けるのも結構難しい。
個人では欲しいが、売れる商品にはならんな。」
結局、ペンに関してはレイリースに権利ごと丸投げした。
本日2話投稿、前編です。
本当に価値のある呪具は絶対に人に見せない。それが魔法使い達の常識です。
便利だからと大々的に売りに出せるのは天才か、経済的に余裕がある方達だけなのです。




