表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
77/211

02.学園長の策謀

 新教頭ボルテッカは頭を抱えていた。

『はぁ?学園の教師は生徒に勝てる教師しか認めてないよ?

 君は魔法議会の特例で、部下含めた戦力で条件を満たしただけなんだけど?』


 先日のグラトニー襲撃に対する罰則を求めた結果がこれである。

 生徒に負けるなら教師たる資格は無い。例外は三学年上位成績者のみだ。


 三学年ともなれば稀に天才が教師を下す事も在り得る年代で、故に教師が不覚を取っても許される。だが無能人で、二学年に負ける教師は必要無い。

 それが学園長で在り学園全体の方針でもあった。


「そもそも何だよ、呪詛(じゅそ)持ちの状態で入学してくるって……。」

 魔女を見分ける一番簡単な方法、それが呪詛の有無だ。

 呪詛を宿していれば禁呪に手を出した証拠として最も分かり易く、同時にこの事実こそが禁呪被害者も魔女認定される最大の要因だ。


 だが無能世界から招いた以上、その段階で宿していた呪詛を理由に裁く事は出来ない。隠されていたならまだしも、入学前から判明していた代物だ。

 故に呪詛を感知したという冤罪(えんざい)は論外。公認されたから学園にいる。


 加えてグラトニーは基本自分から仕掛けない。過剰防衛は大体全部だが、敵意や害意を見せない相手にはまず攻撃しない。自分達は希少例だったのだ。

(口実が出来るまで待っているとか、ホント質悪いわ!)


 大寮長は現状返り討ちに遭っている。まあ情報収集が一番の目的だったので生徒間でのパイプという役目は果たしている。それはいい。


 二年は去年で心が折れている。一年は自分達から仕掛けて殺されかけた。

 『過去視』の魔術がある限り、魔法世界で冤罪は権力や詭弁(きべん)(ろう)さないと不可能だし、強大な魔法使いならそれすら(くつがえ)る。


 狂犬だが対処法さえ守れば無暗に噛みつかないという点が実に厄介だった。

 後アレ、役に立たない仲間は絶対見捨てる。人質は最悪諸共に消される。脅迫(きょうはく)者を嬉々として殺しに来るタイプ。


 しかも最も親しいのがグラトニーのブレーキとなっているジュリアンと、純血第五位ケイロン家の御令嬢という時点でかなりの危険地帯だ。

 下手に巻き込めばこちらが詰む。


 アヴァロン。あれ何なの?何で危険生物じゃ無いの?雑種とか嘘でしょ?

 しかもどうやらある魔法世界の領主一族の嫡子(ちゃくし)らしい。雑種だけの魔法世界なら別に珍しくもないが、数百人規模の中堅世界という爆弾持ち。


(天文学に出席してくれないから、正直もう打つ手が思い付かない……!)

 執務室のテーブルに突っ伏して軽く泣いていると、全校舎に声が響いた。


『あ~、テステス。皆さんお元気かな?

 あなたのお耳の恋人、学園長のダーククロウですよっと。』

 校舎のそこら中で手元の物を叩き付ける音が響く。


『今、学園周りは何かと物騒だね。

 先日も新教頭が襲撃を受けたばかりだ、君達も何かと心細いだろう。』

 頭部を机に叩き付けた。突然の暴露(ばくろ)話にボルテッカは胸元を握り締める。


『そんな君達に朗報だ!君達に実戦経験を与えて自信を付けさせるため、来週全学年生を対象とした決闘祭を開催する事にした!


 ルールは簡単!私が作ったダンジョンに潜り、出会った相手と強制的に一騎打ちで闘い勝利するだけ!勝利した分だけ自分の成績、平均点に加点されるぞ!

 勝負は相手が気絶するまで!殺害は反則負けだが、それ以外は何でもありだ!』


「は?……はぁぁぁあああああああ~~~~~~~~~!?!?!」

 ボルテッカの絶叫とは裏腹に、校舎全体から歓声の様な地響きが届く。


『期間は最後まで残れば三日間!

 一日最大十回先取で、十勝したら休息エリアへ転送だ。

 対戦相手と転送位置は完全ランダム、回復は自前で用意するか、休息エリアまで持ち堪えるしか無いぞ!』


『注目の加点量は自分未満の学年は全て1点!同学年2点!一学年増加毎に1点加点だ!一学年が三学年に勝てば4点だね!

 最高学年は四年でも五年でも三年扱い!つまり五学年が最後まで残れば最低でも三十点は平均点に加算される計算になる!』


 大歓声。何処から響いたか、歓声の内容は分からない。だが要は万年五学生にすら運と組み合わせ次第で首席卒業の可能性が生まれた事になる。


『最後に、参加人数に上限は無いが、参加者は任意だ!

 日頃自分なら無能人に負けないと公言している者達は、今こそ合法的に叩き潰すチャンスだ!こぞって参加してくれ給え!以上だ!』


 通信が切れる。一瞬の間の後、怒号が響く。


 そうだ。分かり切っていた事だ。学園長が学生に甘い顔をする筈は無いと。

 最後の煽りを無視して決闘祭を欠席した場合、日頃無能人を馬鹿にしている者達は無能人から逃げたというレッテルを張られる事になる。


 今学園に所属している無能人は一人。あの将来の魔女、グラトニーなのだ。


「おま。それ。誰が準備するんだよ……!」

 思わず呟いたボルテッカの元に使い魔が届き、目の前で参加者の受付や会場、その他手続きの諸々を丸投げする旨を記した書類へと戻る。


 全教師に通達し、緊急会議を開く旨を告げた後。

 教頭ボルテッカは軋む胃痛を堪え、頭を抱えてむせび泣いた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「やってくれたわね学園長……!」

 一方。珍しくも拳を叩き付け、はっきりと不快感を露わにしたのはカーリーだ。

 今回の発案は決して生徒のガス抜きでも只の嫌がらせでも無いだろう。

 これから起きる事を想定すれば、放置すれば大惨事は確実だ。


「カーリー様、全員揃いました。」

 急遽(きゅうきょ)呼び出された淑女の会の面々は、皆珍しいカーリーの表情に少なからず動揺する。


(へぇ。随分と余裕の無い顔を見せるわね。)

 純血として何らかの対策を練るだろうとは思ったが、自分まで集めるとは予想外だった。


「率直に言うわ。

 本件に対し淑女の会の方針は、相手の血統如何を問わず、敗者を必要以上に痛めつける真似はしない。


 我々は純血代表として、対戦相手に気絶以外の戦闘不能と降伏、棄権(きけん)を認める旨を公言します。無論、相手の対応次第ではあるけどね。」


 内容は穏健、日和見とも言える内容ながら、驚くほどに強い宣言。何より意見一つ聞かずに断言から始めるなど常の態度とは違い過ぎる。


「先ずそれ、私にも適用するの?」

「あなたは聞かせるだけよ。無能人相手に態々(わざわざ)命令しない。

 立場も違うし、これを機に私達と全力で戦いたいんでしょう?」

「ええそうね。手は抜かないわ。」


(無視して当然、というより最初から無関係を貫く気だった?)

 聞かせるだけが目的、となると口を挟むのは質問限定か。


「では私から質問を。我々は純血代表として無能人排除に全力を尽くす旨を期待されていると考えます。

 大寮長がいる今、純血全体への我々の影響力を削ぐことになりませんか?」


 傍で聞いていたレイリースが真っ向否定とも取れるガトレスの発言に驚いた顔で固まるが、カーリーも正にと言わんばかりに頷いて応じる。

「多少は止むを得ないわ。むしろ過激派とはこの機に距離を取ります。

 我々は純血代表としてケダモノの真似事をする心算は無いと宣言するわ。」


 続いてメフィレスが手を挙げて許可を求める。

「では先駆者(パイオニア)への対応は如何しましょう。向こうは全力を望むと思いますが。」

 手を抜くか否か、か?だがその質問の意義は分からない。


「全力は出しますが、奥の手は不要です。切り札を温存して負けるなら実力です。

 我々は殺し合いでは無く試合として応じるのみです。」

(切り札は出さない。これを聞かせる心算だった?)


 強引に戦いを強要しても無駄と言いたいのか。しかしグラトニーを警戒しているというより、共犯に近い立場に置かれている気がする。


 同じ疑問はレイリースも思ったらしく。

「あの。違反した場合は罰則(ばっそく)があるんでしょうか?

 それと今のお話、カーリー先輩はどうも、無能人?を警戒しているようには聞こえません。」

 レイリースもグラトニーを居ない扱いで質問する事にしたようだ。


「ええ。余りに酷い戦い振りをした時は会の除名もあると心得なさい。

 特に奥の手があるなら温存は絶対です。必ず手の内の一部は隠す様に。」

 そこで一旦言葉を区切り、全員を見回す。


「私は最低最古の純血、ダーククロウを疑っています。

 彼は本当に純血なのか、グラトニーは純血を潰すための駒では無いか、とね。」


「「なっ!」」

 何をと首を傾げたレイリースと違い、三年コンビは明確に顔色を変える。


「カーリー様、それは!」

「構わないわ。私は常々疑念を抱いていたの。彼は、純血嫌いでは無いかと。

 もしそうなら彼が本当に純血かも疑念が出る。何せ彼は魔法世界の最高齢、彼が純血である証拠はそもそも実在しない。


 そんな昔の資料を保持しているとしたら、彼以外いないから。そして純血以外にあれ程の寿命を保持する魔力は無い、というのが通説。

 彼が雑種だとしても全て闇に葬れる力が彼にはあるわ。


 だから彼は純血であると疑わない、暗黙の了解が成り立つ。」

 成程。読めて来た。


「詰まりあなたは、より多くの純血に私をぶつけて潰し合わせる事が学園長の目的だと踏んだ訳ね?」


「その通りよ。あなたは敵を再起不能にするのを躊躇(ためら)わないわ。

 そして血統主義過激派は合法的にあなたを再起不能にする好機だと考える。」


「……成程。一対一ならグラトニーが簡単に負ける事は無い。

 我々と序盤で当たらない限り相当数の純血が減る恐れが出ますね。」


「他の教師達の目を掻い潜って細工が出来るんですか?」

「三人いるのに細工が必要なの?」

「「「…………。」」」


 レイリースの疑問の意味が分からなかったが、全員にそうかこういう奴だったという顔をされると、流石に何か間違えたというのは気付く。


「細工、不要ですね。」

「そうね、その通りよ。

 兎に角私は、魔女騒動前にグラトニーに純血の絶対数を減らされる事を危惧しているわ。

 その為には我々が率先して魔女対策を優先すると、大々的に喧伝しに動く必要がある。」


「成程。確かに学園長が純血を潰そうとしているなら、魔女と共倒れにするのが一番良いですもんね。」

 魔女達の動くタイミングによっては相当数の被害が予想される。


 慌てる訳だと思いつつ、確かに今まで学園長は純血側、魔法使い側だと無意識に決めつけていたなと納得させられた。


「なら一つ提案があるわ。

 同期は知っているだろうけど、私には魔力を奪う呪詛がある。

 ギリギリまで奪った相手は最低でも一生ものの障害になる筈よ。」


「! 続けて。」

 グラトニーの言葉にカーリーが待ってましたとばかりに向き直る。


「私は今回で敵対する連中から奪えるだけ奪ってしまう心算だけど、あなた達に従う連中に目印を用意してくれれば除外して構わないわ。

 代わりに純血の定義について昔に溯っ(さかのぼ)て調べてくれないかしら。」


「純血の定義……?」

「だって純血って、不自然に多過ぎると思わない?

 ……そうね。ドラクロワ家って、始祖の直系なの?」

 グラトニーが質問すると、カーリーははっとして首を振る。


「いいえ、確かに変ね。……私の知る限り、我がドラクロワ家を含めて始祖の血縁を語る一族は純血に居ないわ。

 けれど純血が始祖の子孫なら、直系と傍流の違いが無いのも変。


 正確な比率が分からないにせよ、没落する元純血だってあるのに純血が一割を切る気配は欠片も無い。

 純血が増え続けているなら兎も角、千年減り続けてコレは確かに多過ぎるわ。」


 禁忌が現れ総数が激減(げきげん)するまで、順当に魔法世界の総人口は増え続けた。

 だが一家族から派生して何倍の数で増え続ければ現在の人口比率に届くのか。

 少なくとも純血とは、最初に移民した魔法種族という意味では使わない。


「まさか、昔と今では純血の意味が違うと云うのですか?!」

 気付いたメフィレスが薄目の侭に驚く。だとすれば今の家名では無く血筋に拘る血統主義の始まりは、一体どんな集団なのか。


「それを確かめて欲しいのよ。それが対価。」

「……私達に従う者には、胸元に薔薇(ばら)のブローチを付ける様に命じましょう。」

 交渉成立ね、と握ったグラトニーの手を両手で掴むカーリー。


「あ。折角だからお茶会には参加していきなさいな。」

 もう面倒な話は終わったからと手を掴んだまま座らせようとする。というより、座らない限り手を離す気は無さそうだ。


 まあ必要経費かと付き合う事に決める傍ら、レイリースが恐る恐る他の二人に小声で尋ねる。

「あの。もしかして。」


「想像通りよ。」

「敢えて口には出さないのがマナーだな。」

 何故かレイリースは、力尽きる様に椅子に倒れ込んだ。

 本日2話投稿。後半です。

 純血は貴族的存在ですが、魔法世界自体は術式が公開されているので、血統無関係に製作者の家族が引き継ぎます。

 ある程度の規模だと村長的存在が居るので、いずれは純血が引き継ぐ可能性が高いですが。

 ある意味ぶどうの房の様な発展をしている世界だと思って頂ければ。最小の魔法世界は0人、もとい一人です。住民の居ない世界は発見者が登録するか、売却されます。

 この辺を管理するためにも魔法議会があるのです。

 それはそれとして、カーリー様は個人的にグラトニーが超お気に入りですw

 けど流石にレイリースほど呪詛に鈍感にはなれないですw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ