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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
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第四章 学園長の気紛れ 01.魔性の魔獣使い

 鏡の部屋、血の従者の会合部屋。

 今後のためにと増築された会議室は、今三人の魔女が居並んでいた。

 傀儡子(くぐつし)の魔女クリス・クロノイド、鏡の魔女ラビリス。そして三人目。


「じゃ~~~ん!魅惑の魔女ウェンディ、血の従者に転職しました!

 今日からご主人様の忠実な従者で~~~す!」

 今までの落ち着いた雰囲気から一転したハイテンションに、思わず魔女二人は腰が引けてしまう。


「や~~~。その反応新鮮だけど少し傷付くわぁ~~~~。」

「と、言う訳で新たな血の従者が加わったわ。」


「色々待って。ちょっと気持ちの整理が付かないの。」

 私通信越しだけどそこそこ話してたんだからと、頭を抱えながらクリスが自分の胸倉を握りしめる。


「確か聞いてた話だと魅惑のって結構落ち着いた、ほわほわした感じって話じゃあなかった?」

 それで合ってたと言われても、今のウェンディを見れば違和感しかない。

 強いて言うなら終始満面の笑顔だという点くらいか。


「別に人格改造とかの願いじゃなかったのよね?」

「勿論!でも今後はわたしも今迄のイメージを崩して行きたいのよね。

 その辺は出来れば分かって欲しいかな。」

「『魅了』に関しては問題無いわ。魅了を使う対象は私が決める契約だから。」


 面識が無い分比較的精神ダメージの少ないラビリスが、ぐてっとテーブルに突っ伏したまま訊ねる。

「取り敢えず先の展望とかは無いのかしら?

 というかご主人様って何?」


「ん?単にわたしの愛の全てを預けたからってだけよ?

 わたし、これでも顔やスタイルに自信あるの。」

 ひくひくっと口元が引きつる魔女二人。


「や~、何か癖になる。でも引かないで。魅了だらけのわたしって周り皆、全肯定だけなの。

 だから例え本当は不細工だったとしても、皆わたしを褒め称えるわ。

 それにね。わたし今迄友達は出来なかったの。全部恋人か未来の恋人だけ。」


「つまり正当な評価をされたいって事で良いのね?」

「そうね。贔屓(ひいき)無しで誉めて貰いたいの。

 あと友達って言う絶妙な距離感も欲しいの。」


 何の事は無い。ウェンディは単に、今まで出来なかった事をやりたいと言っているだけの話だ。

 紙が何と言うかと呟くラビリスだが、それに関しては既に伝達済みだ。


「凄い葛藤(かっとう)された後、魅了で部下を増やす気かって聞かれたわ。

 それじゃ血の従者に出来ないって言ったら物凄く反対し辛いから何も言わないって返されたけど。」

「うん、まぁ。気持ちは分かるわ。」


 オルガノンには今回説明以外の用事が無かったので、通信越しで話を済ませた。

 ので結果的に二人より先に話が終わっている。


「ところで、七不思議の最後はどうなってるの?」

 クリスの指摘に、順調では無いけど、とグラトニーは肩を竦める。


「一通りトイレと名の付く場所は全部見回ったわ。

 序でに言うと、七不思議絡みの呪文は多分出揃ったと思う。

 多分ジュリアンが茶会から手に入れた呪文こそ校内トイレの秘密の部屋のもので間違いないと思うわ。」


 七不思議の中で最後の魔女に関しては、誓約関係無く知らない、というのが魔女三人の共通認識だった。

 とは言え、逆にある程度見当も付くようになって来た。後は候補を絞るだけだ。

「わたしは戦闘向きじゃないから、出来る事は後方支援とか、呪具作りのサポート中心になると思うわ。今迄本気で強くなりたいと思った事は無かったし。」


「後の事を考えるなら全力で戦う準備はしておくべきよ。

 学園だって無事とは限らないんだから。」

「そうね。〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕の事もあるし、学園長との敵対は確実だし。」


 最近はある程度活発に先を見据えた議論が交わされるようになった。

 《紙の魔導書》を一旦貸し出して大量の使い魔呪符を用意したし、避難用のドームハウスも作らせた。

 備蓄に関しては(おおむ)ね揃ったというので、今後は奥の手の構築に取り組むという。


「なるほどね~。ならわたしも先に切り札を優先した方が良さそうね。」

 出来れば召喚駒の素材となる幻獣が欲しいというが、この辺はグラトニーが確保する他に解決策は余り無い。


 例えば傀儡が秘密の森で乱獲などをすれば、学園長に気取られるのは確実だ。

 血の従者達の方もそろそろ水面下で同士を探す方針に転換して良い頃合いだ。

 彼らにも声だけはかけておこう。


「あ。指輪だけは増やしておいて。

 場合によってはそれを血の従者の証として配るから。」

「「「了解。」」」


 情報を秘匿する《保身の指輪》と精神干渉を防ぐ《破魔の指輪》は今後の血の従者達の活動には必須となるだろう。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔獣学。

 魔獣学を進めれば方向性は三通りに分かれる。


 一つは飼育員。家畜を育て、時に魔獣や幻獣の養殖で生計を立てる。


 二つ目は魔獣使い。魔獣を捕獲して封印駒で縛り、ペット同然に飼育しながら戦闘要員として使役する。《封印駒》に封じている間は仮死状態で運べる。


 三つめは召喚士。魔獣学の花形と呼ばれ、捕らえた幻獣やその一部を結晶に封じて作る《召喚駒》を核に、魔力で複製体を作って使役する。

 一般的な魔法より強力で手軽な反面、幻獣しか封じる事が出来ず。魔術の中では特に消耗も大きい。


「という訳で、今日は先日作った《召喚駒》へ実際に幻獣を封じて貰う!

 具体的にはこの秘密の森の実習区画で放し飼いにされている幻獣を一体捕獲し、『召喚駒』に閉じ込めろ!

 実習区画にいる幻獣ならどれでも良いぞ!」


 教師マッスリゲル。

 雑な授業で有名且つ、死亡者人数最多。


「ん~?区画ごとにどんな魔獣幻獣がいるかは看板に書いてあるだろう?

 ここに居るのは全部授業で習った奴しかいないからイケるイケる!」


 ボディビルのポージングを無能世界最大の発明と断言する教師の言葉だ。鵜呑みにする学生など正気じゃない。

 皆が皆最も安全な飼育場を探して殺到する。


「だからね。最初の一回くらい普通の場所で挑戦するべきだと思うんですよ!」

 ダンジョンと同じ組み合わせを強要されたピオーネは、必死でグラトニーを説得する。グラトニー的には初心者の難易度は(だる)い。


 ダンジョン突入は自主的に組む場合に限り、クランに拘る必要は無いのだが。授業では必須なのでピオーネに選択の余地は無い。


「初心者向けの幻獣は単に養殖ものってだけじゃなくて、決して腐る事は無いって意味もあるので、練習と割り切って協力して戴けないかなぁ~……と。」

 話せば話す程腰が引けて来るピオーネだが、別にグラトニーは威圧してない。単に興味が湧かないだけだ。


「……まぁ。別に活かさなきゃ行けないって訳でも無いしねぇ。」

 練習の価値が分からない訳では無い。希少種に失敗しても困るので渋々(しぶしぶ)承諾して初心者向けの牧場へ向かう。既に混雑は解消される程出遅れていた。


(説得すれば理解して貰えるのが逆に辛い!割り切れないし!)

 下手に逆らえば命に関わる危険人物だが、自分に敬意を示した相手には割と寛容だとピオーネにも分かって来た。

 序でにレイリースが彼女を拒否しなくなった訳も。


(レイリース様は私達を守ってくれていたんだね!よく分かったよ!)

 時々心が折れそうになるぐらい怖いが、味方ならこれ程頼もしい相手はいない。

 正直一番行きたかったユニコーン、ペガサスエリアは不浄なる者の前には姿を現さない事で有名だ。グラトニーと一緒の時に絶対近付く訳が無い。


「ジャックオーランタン、ピクシー、アクスバード棟か~。

 グラトニー的にはやっぱりアクスバード~?」


 アクスバードは平たく言えば嘴が斧の形をした食火鶏(ヒクイドリ)モドキ、顔面から敵に突進する習性のある地走り鳥だ。

 序でに言えば魔法世界で最も多く騎乗用に用いられる養殖幻獣になる。


 ジャックオーランタンはまあ空洞の南瓜顔に襤褸(ぼろ)切れの様なマントを纏い、手が生えた南瓜畑の幻獣だ。鬼火を操り畑荒らしを襲う。


 ピクシーは小さな昆虫の羽をもつ、悪戯(いたずら)好きの妖精達。子供の守護者でもある花の化身だという。


 どっちも初心者向けの弱い幻獣で、長く使える幻獣はアクスバードだけだが、実の所《召喚駒》としては腐る程じゃない。

 余裕があるので全部《駒》に出来るのがグラトニーの強みだ。


 因みに訊ねたアヴァロンの両腕には籠手状の発動具【液体伸縮鎌】がある。液体金属が変形した四振りの鎌が全て柄で籠手と繋がり、宙に浮いていた。

 正直視覚的に気になるし、それ『自分の体の一部じゃねぇの?』と酷く突っ込みたいが、ピオーネ的に物凄く危険を感じる行為なので必死で素知らぬ振りをする。


 二人は既に複数の『召喚駒』を作製成功しており、昨日ギリギリで『封印駒』の方を用意出来た自分とは雲泥の差だと魔力量の差を実感する。


(と、兎に角!戦力では過剰なんだから何とかして見つけないと!)

 周囲は膝の高さ以下の草が生い茂る牧草地で、他の生徒達は見当たらない。


 二人を先導して森の境界線側を目指して進むと、不意にグラトニーが口を開く。

「……ねぇ。分かって進んでるの?」

「何が?」


 進行方向に根拠など無いが、強いて言うなら隠れ易く深入りにならない場所を目指しているだけだ。

 何か行きたい場所があるのかと思ったが、分からないなら良いと首を振る。


 まあ良いかと思って再び前を向くと、ひょこりと現れた二足歩行の黒猫と視線が合った。

「?」


(え?何で?結界でエリア外の生き物は立ち入れない筈だよ?)

 取り敢えずグラトニーを制止しながら目を擦るが、突然目の前に現れた幻の幻獣ケット・シーっぽい黒猫は、養殖どころか契約出来れば一生モノの運を使い果たしたと言われる希少種だ。


 いや、幸運の黒猫と言われる超当たりくじだけど。

「何かお探しですかなお嬢さん。」

「え。……ええと、召喚獣と契約がしたくてですね。

 ジャック・オー・ランタンか、アクスバード辺りを探してたんですが。」


「おや。私めは不適格ですかな?」

 にこやかにタキシードの蝶ネクタイを揺らし、帽子を取って優雅に一礼しながらアピールする黒猫さん。


(???召喚獣は幻獣達にとって結構不自由だから、何かしら条件を付けられるのが普通だった筈なんだけど……?)


「いや。契約してくれるなら嬉しいんだけど、ここに居るとは思わなくて。

 『封印駒』は一つしか用意出来て無かったんだよね……。」


「ほう、それは嬉しいお話だ。

 ワタクシ、ケット・シーのウォルターと申しまして、そろそろ定住を考えていた際に身を守って下さる主を探していたのですよ。

 あなたの末席に加えて下さるなら《召喚駒》のご相談にも乗れるのですが。」


「あ。はい、オネガイシマス。」

 騙されているのかなと思ったが、何一つ罠も無く契約が終わり、試しにと確認も進められて完璧に手続きが終わってしまう。甘い話過ぎないかと首を捻る。


「それで、どちらにしますかな?」

「じ、じゃあ今回はアクスバードの方で。」

 グラトニー達の希望にも沿うだろうとウォルターの問いに答えると、ざっと周囲の空気が変わり、何か向こうの森が薄くなった気がする。


「あら。急に半分近く居なくなったわね。」

 血塗れの拳とぐったりしたアクスバードを引き摺り、グラトニーとアヴァロンがこちらに戻って来た。


「えと。何しとんの?」

「召喚用の幻獣を狩って来たわ。一応あなたの分も拾って来たわよ。」

 話によると、先程から三種の召喚獣が複数、全部で三十以上が森と境界線付近の草原に隠れてピオーネの様子を伺っていたらしい。


「こっちはこのまま『召喚駒』に封じるけど、あなたはどうするの?」

「おや。これは手間が省けましたね。

 因みに我々は別に同族以外に仲間意識など有りませんが、ピオーネ様は魔獣使いとして絶対的な魅力を持ち合わせております。

 後日『封印駒』を使えば大抵の相手は即契約出来ると思いますよ?」


「あ。うん。……こ、今回は召喚駒で良いかな。

 魔獣使いだとエサ代の工面も必要だし。」


 手早く封印を終え、後日の加工を残すのみとなる。召喚獣を封じた《召喚駒》はある種の発動具と言える。


 現地で全てを終えられるのは魔獣使いの使う《封印駒》だけだ。

 封印駒の中で幻獣、魔獣は仮死状態となり、呼び出されるまで眠り続ける。

 だが魔獣使いはペットと契約する者も多く、契約対象との絆が重要だ。


 死体を用い複製を作り出す召喚術とは根底の考えが違うのだ。

 一説によれば魔獣使いが死後も使役獣達と共にあるために生み出したのが召喚獣の始まりだという。


「アンデットは当時の失敗作がダンジョンで増えたもので、正しい意味での悪霊とは少し違うんだよね~。」

(ま、まあ。別に後でも召喚獣化出来るって事だし、今後は『封印駒』を優先して作った方が良いって事だよね?)


 何か恐ろしい話を聞いてしまった気もするが、明日はきっと晴れだろう。

「配下になるなら歓迎するわよ?」

「聞いてないから!」

 本日2話投稿。前半です。

※分かり易いよう、完成前の駒を『』、封印後の駒を《》で分ける事にしました。

 あまり重要じゃないから後の方で忘れてるかも……。

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