03-5.音楽室の魔女
※申し訳ありません!第四部三章に未投稿部分を発見いたしましたので、急ぎ投稿させて頂きます!
全部で二話分、こちらが後になります。
「『奏でて歌え、夜限刻限、秘密の部屋の演奏会』。」
音楽室の扉が開いた時、魅惑の魔女ウェンディは何故と首を傾げた。
昨日の今日でジュリアンが訪れるとは思えないが、彼が《竪琴》を持っているのに当分新しい来客が訪れるとも思えない。
何より彼は預言の子で、であれば当分他の誰かが訪れる筈も無いのだが。
「あら、あなただったのね。何か忘れ物かしら?」
現れたグラトニーを見て成程?と小首を傾げる。
「ええ半分は。二つ確認したかったのよ。」
んん?一つでは無く、二つとはどういう意味か。
言葉遊びではなさそうだと続きを待つと。
「ここ、新校舎よね?旧校舎や、寮じゃなくて。」
軽い気持ちで耳を傾けていたウェンディの表情が固まる。
その質問に下手に答えれば、誓約に触れかねない。
(『この誓約は呪いにも等しい力を持つ。
もし違反すれば、君の命の保証はしないよ?』)
「……質問の意図が不明瞭なんだけど?」
「じゃあ聞き方を変えるわ。ここと旧校舎は、全く別の空間よね?
この空間は、何処まで広がっているのかしら?」
ビンゴだ。彼女は気付いている。
「わたしは此処から出られないって知っているでしょう?
質問の正解が言えると思う?」
「ええ。囚われている内は無理ってところかしら?
でも私達の名前を聞かなかったのは手落ちじゃないかしら。結果的には正解だったとは思うけど。
私の名前、グラトニーよ。他の魔女達から聞いているでしょ?」
「……生憎と、わたしの呪いは他の魔女達にも届くの。
だから最低限しか接触出来ないわ。直接話せるのは紙と茶会の二人だけ。」
「鏡とは接触を禁じられていて、傀儡とは間接的に漸くってところかしら。」
「そうね、その通りよ。」
ウェンデルの脳裏が警鐘を鳴らす。自分は今、危険に晒されているのだと。
だが同時に紙からは迂闊に敵対するなとも強く言われている。それは何故?
「それが聞けたなら十分よ。『暴食』。」
「ッ!」
咄嗟に距離を取り、頬の血を拭う。
「ああ、先に説明すべきだったかしら?
私呪詛の性質を調べられるの。まあそこまで精度は高くないんだけど、今回は予想通りかを確かめたかっただけだから十分ね。
あなた、自分の呪詛がどうして生まれたか気付いている?」
「産まれた時からのものよ?分かる訳無いでしょう。」
「いいえ。だって呪詛は衝動、感情から産まれるものよ。
あなたは孤児で、父親に捨てられた母は、あなたに望みを賭けた。けれどそれは叶わずあなたの出産と同時に息絶えた。
違うかしら?違わないわよねぇ?」
「な、何でそんな事まで?!」
記憶を読んだ?そんな魔法知らない。そもそも呪詛を調べたんじゃなかったのかと脳裏をぐるぐると動揺が巡る。聞いてはならない。聞きたくない。
「別に悪いとは言って無いわ。単純な推理だもの。」
何を言っている?今のが推理?
「あなたの呪詛は、二人分が混じっているの。一つは母親の未練、無念。
それがあなたの呪いと化した。愛されたい、代わりにしたい、この子でやり直したい。……てね。」
なんだそれは。それじゃあ母は。
「……もう一つは。」
「勿論あなた自身よ。赤ん坊のあなたを育てるのは同情だけでは重過ぎる。
他人の子を育てるんだもの、簡単な話ではないわ。だけどあなたは最初から方法を知っていた。
教えてくれたものね?どうすれば愛されるか。大事にしてくれるか。
あなたは母親の呪詛を吸収し、自分の一部に取り込んだのよ。」
だから二人分、混じり合って、殆ど一つとクスクス嗤う。
紛い物の愛。歪められた心。誰もが自分を求め、依存し、同じになる愛。
「虚しくなったのよね。他人の気がしなかったのよね。
だって最終的には全てお人形の様に自分の言いなりに。手足同然に。自分を、心を捨てあなたの為だけの空っぽになったから。
だけど逃げられなかった。あなたは他の愛され方を知らなかったから。
呪いを止めたらどうすれば良いか分からなかった。だから抑えが利かない。」
「じゃあどうすれば良いのよ!わたしにとってはこれが空気なのよ!
自然なの!呼吸なの!愛する誰かが当たり前にいた人には分からない!!」
歯止めが利かない。息が枯れる。声が詰まる。自分にはこの呪いが消えた後の生き方が想像出来ない。幸せが思い浮かばない。
「なら私と契約しなさい。あなたの愛は、私の為だけに使うの。
私の許可無くあなたの呪詛を使えない体に造り替えてあげるわ。
私に逆らえば死ぬ。私のために生きる。その代わり、あなたは決して失う事の無い絆を得る事が出来る。
私との、魂の繋がりという絆をね。」
彼女の心を守ってやれば良い。彼女の魂を器で包み、鍵をかけてやれば良い。
力の使い方は、手足の使い方は自分が知っている。
「あなたの魂を否定する必要は無いわ。単にスイッチを付け足して、私という重しで蓋をするだけ。私には難しい事じゃない。
出来るかどうかなら、体験すれば直ぐに分かるわ。違う世界が直ぐに見える。」
グラトニーには、それが出来る。
「……それで、わたしは此処から出られる様になるの?」
「先ずは学園長を排除する必要があるわね。
けれどその前に、先ずは私と共にする魔女と会えばいいわ。彼女達はあなたの仲間なのだから。」
恋人でも家族でも敵でも無い、只の仲間。
「その言葉が真実である事を、わたしも信じるわ。」
本日2話投稿。後半です。




