03.音楽室の入り口
※申し訳ありません!第四部三章に未投稿部分を発見いたしましたので、急ぎ投稿させて頂きます!
全部で二話分、こちらが先になります。
大寮長と言えども、成績模範生模範生且つグラトニーのブレーキ筆頭が申請した個室使用権を却下するのは自滅に等しい。
なので七不思議の相談は、ジュリアンの個室で行われている。
「七不思議の調査は申請理由が思い浮かばなかった学生達の定番で、これが通らなかったら個室使用権が有名無実と化すんだって。」
真面目に七不思議が実在すると思っているのは探求者寮くらいで、普通の学生にとっては馬鹿をやるための口実らしい。
音楽室の考察を触り程度口にしただけで、流石運命の子達は目の付け所が違うと驚かれたくらいだ。
「じゃあもう疑われる事も無いのね。」
「そうなるわね……。」
グラトニーの呪装を恐々と触りながら、パトリシアが頷く。
先日最初の呪装合格者が発表され、普段から化け猫呪装を付けて歩くようになったグラトニーの印象は、既に二学年以外は見つけたら隠れるほど悪化していた。
もう二学年は訓練され尽くしたとも言えるが。
何せ一学年襲撃の件が知れ渡った時、真偽を疑うどころかだから言ったのにと、改めて忠告する程の理解度だ。他学年の方がちょっと引く。
当初発見し易い方だと思われていた校内トイレの隠し通路は、四、五学年の校舎全てを見回ったにも関わらず、エーテルの痕跡が発見出来なかった。
「多分どっちも、偽装とかじゃなくて盲点の類なんだと思う。
トイレとして探すから見つからないんじゃないかな?」
「あー、馬小屋のトイレみたいな?」
校舎内じゃないけど、多分そんな感じとジュリアンは苦笑する。
「で。一旦校舎内の施設を一通り挙げてみようと思ったんだ。」
「教室、保健室、職員室、校長室みたいに?」
レイリースが例を挙げると、一旦思い付く限り全部と乞われた。
「えっと。トイレ、食堂、調理室。図書室は除外で良いわよね?」
サンドライトが頷き、手書きの校舎地図を取り出す。
「旧校舎も除外して良いですよ。前に私達だけで行った時に、同じ場所に七不思議が重なる事は無いって教えて貰ったんで。」
上がった場所の位置を丸で書きこんで行く。
「教師が良く居る部屋は除外して良いんじゃない?あったら教師が知らない筈は無いだろうし、第一隠し切れないと思う。あ、勿論宝物庫もね。」
侵入者があったら大惨事だ。流石に学園長も入れとは言うまい。
「後は、錬金教室、個室錬金房、機材室、素材室。
資料室、会議室、用務員室?後は……多分、無い?
講堂は微妙かしら。でも用具室はもう無いわよね。」
「そこだ。用具室の上には放送室があったよな。」
「え~?アリなのそれ~。」
ジュリアンの指摘に、アヴァロン含めた全員が首を捻ったが。
逆にジュリアンは確信をもって首を振り、腕輪から《音楽室の竪琴》を取り出し全員に見せた。
「これは音楽室の手掛かりとして禁書庫で呪文と一緒に手に入れた呪具だ。
もしかして音楽室って、この楽器を使って開く部屋だから音楽室だったりするんじゃないか?」
グラトニーが《竪琴》を渡されなかった理由は、呪文を唱えて入ったか否かに加えて、オルガノンがジュリアン達と同一クランと判断したからだと聞いている。
別クランと判断された場合、相談禁止のルールが適応されるので不満は無いが。
《竪琴》自体は複数あるが、学園外で出したら壊れる仕組みになっているらしいと事前に忠告されている。
「つまり、秘密の部屋に入るための部屋が音楽室だと?」
グラトニーの言葉に頷き、もし近くに他の部屋があったり音漏れするような場所ならばもっと噂が違うものになっている筈だと言う。
「なにせ『影の無い美女が引くピアノ』だ。竪琴じゃない。
これ、秘密の部屋にも管理者がいるんじゃないか?」
「ありえそうね……。じゃあ、行くのはいつにする?」
既にレイリースも部屋の一員として馴染んでいる。以前ダンジョン実習で手に入れた、キングアウルの《中型》で発動具化に挑んでいる筈だ。
「ジュリアンは赤カブトの発動具は完成した?」
「いや、悪いけど当分かかりそうだ。」
パトリシアの問いには首を振るが、アクセサリー系は布に血文字で呪文を記して封じるという手法を用いるので、割と時間はかからないタイプだ。
ジュリアンは敢えて溝を彫った物を縮小し、出力を高める方針で挑んでいる。
「レイリースはもう直ぐなのよね?
時間を懸けて作った方が出力は上がる筈だけど、どうするの?」
レイリースはあっさりと首を横に振り、手間をかける気は無いと返す。
「元々こっちは練習用だもの。今回は合格基準さえ満たせばもっと良い素材で本命を作りたいの。
今週中には完成させるわ。」
他のメンバーに発動具作りを始めている者はいない。というより、大抵の二学年は呪具作りで手一杯になるので、二学期以降に発動具を作る。
「じゃあ全員が《破魔の指輪》を作り終えたら出発する?」
「「「うぃ~~~。」」」
当日までに四種全て作り終えたのはグラトニーとジュリアンだけだった。
ただ全部指輪だと使い勝手が悪いので、《退魔》と《硬化》は耳飾りにして現物を作った。
後日《破魔》は首飾り、《保身》は帽子飾りで作り直そうと思っている。
古い方はどんどん〔血の従者達〕に売り、資金源にさせていく予定だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
週末には全員準備が終わり、全員講堂に集合した。
一学年と違い、魔物達の中には夜間しか出現しない種族もいる。
ダンジョンは全て公表されている訳では無いので日帰り予定であれば、事前申請すればダンジョン捜索のための夜間外出は可能だった。
流石に既存のダンジョンの場合はブッキング対策に指定必須だが、一方で学園に異性不順交友とかの罰則は無い。無いのだ。勿論出産施設など無いが。
但し許可の無い外出は夜間見回りをしている教師達に見つかれば問答無用で排除される上、妊娠するとほぼ留年確定なので、別れる気の無い恋人達は卒業まで一線を越えないのが常識だ。
というより、手を出したがると別れ話を疑われる。
「だから恋人同士の愛情表現はキスが一般的ね。
キスをどこまで受け入れるかがカップルの駆け引きで醍醐味よ。」
「ゴメン。その話題本気で勘弁して下さい。」
え~?と青褪めるジュリアンに不満を漏らすパトリシア。
最後に来たポートガスがホント御免とジュリアンに謝っていた。
「首筋を噛むのが愛情表現だったなんて知らなかったわ。」
甘噛み限定ね、と念押しされるがグラトニーにはどの道関係無いと思う。
「さて。全員揃ったようだし、そろそろ頼むわ。」
放送室とは言っても、音を出す機材は殆ど無い。
電気を使わない魔法世界では拡声器は呪具だ。効果範囲内で聞こえ辛いとか無いので十個も要らない。
実際に操作するのは殆ど講堂の照明関係だが、それでも照明室と呼ばれないのは此処が式典の際に音を鳴らす楽器を幾つか収納しているからだ。
此処が音楽室と言われない理由も、楽器を使う際は直接壇上へと並べられる点が挙げられる。
つまり試しで音を鳴らす事はあっても、演奏でこの部屋を使う事は無いのだ。
あくまでこの部屋は調整用に使われる部屋で在り、防音機能も備えている。なので放送室とは呼ばず、第二用具室と呼ぶ時もある。
演奏するジュリアン以外の全員が適当に椅子に座り、皆地味に何の曲を弾くのか気にしている。
「いや、期待されても音を鳴らしながら呪文を唱えるだけだから。
正直曲を弾きながら呪文に集中するとか、オレには無理。
『奏でて歌え、夜限刻限、秘密の部屋の演奏会』!」
反論される前に適当に音を鳴らしてジュリアンが呪文を唱え切ると、部屋の何処かからガチャリと音が響き、入って来た扉が色違いの年代物に代わっていた。
「おや。グラトニーは気付いてた?」
「いえ。今のは《竪琴》から流れたエーテルが扉を染めた様に見えたわ。」
アヴァロンの指摘はグラトニーの疑問でもある。扉が染まった途端、変化の様に扉全体が別物に変わった。それがグラトニー視点での印象だ。
(事前にあった訳では無い……?それとも偽装が剥がれた?)
「と、とにかく入ってみようぜ。」
「よし。ジュリアンあなたに任せたわ。」
手早く《竪琴》を取り上げ、まるで危険な役目を押し付ける様に場所を開ける。
思わず周りを見回すジュリアンは、周りが中に入るのを躊躇っているのを見て、溜息を吐いてノブを捻る。
廊下に続いている筈の扉はあっけなく開くと、中からピアノを弾く音と共に仄かな花の様な香りが漂ってくる。
「これは……。」
「何々、ピアノの音?」
ジュリアンに続き、続々と中に入る間に《音楽室の竪琴》を腕輪に仕舞う。
中に入れば少し広めの一室の中で、ピアノに手を置いたまま驚いた顔で振り向ている、全身赤尽くしの妖艶な美女の姿があった。
足元まで届く薄手のドレスに腰まで届く滑らかな赤髪、縊れた細い腰付きは怪しげな魅力を湛え、豊満でたわわな胸元はグラトニーよりも気持ち大きめで。
ぱきり。と何かが砕ける音がするのと周囲に薄く漂う呪詛にグラトニーが気付いたのは殆ど同時の事だった。
「おおぉおおお!おねぇさんオレくしめと結婚して下s「てい。」!」
ふらりと進み出て跪いたポートガスの後頭部を殴打し、力を失い気絶する腕を掴んで、既に指輪が砕け散っている事を確認する。
「あらあら、御免なさいね。でもあなた達は無事なのかしら?
だとしたら今回のお客様はとても優秀な子達なのね。」
気持ちオロオロしながら腰を上げた美女は、相貌を輝かせて一同を歓迎する。
部屋の中は天窓から指す月光に照らされた暗がりの一室で、奥には階下に繋がる階段が手すり越しに伺える。
正面にピアノが置かれた一同がいる広間はちょっとしたホールになっており、奥の方に天蓋付きのベッドがあった。
ピアノに杖が置いてあるところを見ると、放送室にあった諸々の楽器と同じく、弾いた曲を後で自動演奏出来るのかも知れない。
室内にベッドがある所為か、室内は意外とこじんまりしている様だ。
「ぶ、無事という事は、彼の異常はあなたが原因だと?」
ジュリアンの問いにこくりと頷き。
「あ、御免なさい一旦扉を閉じてくれる?
遅れたけどわたしは魅惑の魔女ウェンディ、この音楽室の管理人よ。」
ざわりと動揺が走り、警戒心が広まるがグラトニーには周知の知識だ。
ポートガスを脇に捨て置き、立ち上がって前に進み出る。
「あら、言って良かったのかしら。
この部屋に拡がっている呪詛も、あなたが原因なのね。」
因みにポートガスの指にはグラトニーの《破魔》の予備を付け、既に呪詛を抜き終えている。この辺の手際はハッカ飴の件で手慣れたものだ。
「ええ。そっちの子には悪い事したけど、私の『魅了』は生まれつきだから自分では制御出来ないのよ。
でも教師マタハリなら治療出来る筈よ。」
両手を合わせて皆は《破魔》の指輪を作成済みなのよね、と確認し安堵の息を漏らして七不思議のルールは知っているかと訊ねてくる。
「ええ、最初の一つでは無いから。」
「助かるわ。その子の治療は、音楽室を探していたら居なくなった一人が倒れていたとでも言えばいいわ。
七不思議を漏らした場合の罰則は、それ以降の不思議への立ち入りが出来ないというものなの。」
「そっちは心配無いわ。私が呪詛を抜いたから。」
グラトニーの返事に、ウェンディと名乗った魔女は目を丸くして混乱する。
「え?ぇえ?じ、じゃああなたも魔女なの?」
「違うわ。」
返事を聞いて、そうよね。そうでないとね?と疑問符だらけの顔で、呪詛を抜くという言葉の真意を検討する。
「あ!浄化……はしていないわね?」
無言で首を振る。他に方法は無いという事か?
「あの、ウェンディさんは何故こちらに?
七不思議の管理人は皆、魔女だという認識で良いのでしょうか。」
気を取り直したジュリアンが少し早口で割って入る。
「え?いえ、わたしは他の七不思議全てに管理人がいるのかも知らないから。
わたしの『魅了』は無差別だから、この封印の間から出られないの。だからそうよね、余り長々と話しても居られないわ。」
指輪の効果も限度があるからと、咳払いして息を吸う。
「わたしの管理人としての試練はこの部屋を見つける事よ。
だからここに来た時点で全員が資格を持つけど、景品が与えられるのは一人。誰が受け取るかはそちらで決めてね。
後で他の人に渡すのもありだから。」
「じゃあジュリアンで良いんじゃないですか?」
ん。と頷き、進み出たジュリアンの手にウェンディが呪文を唱えて杖を載せると、小箱が一つ現れる。
箱を開くとジュリアンの体を渦が包み込み、直ぐに鎧へと変化する。
「【四竜の鎧】、学園が秘蔵する最高の鎧よ。
まあ魔法世界に鎧の呪装自体が少ないんだけどね。
箱には説明書きと、次の七不思議の手掛かりが記されているわ。」
(うん?どういう事?窓から月が見えているの?)
皆は驚きながら鎧を見つめていたが、グラトニーは不意に気付いた違和感に慌て、部屋中をもう一度見回した。
影が無い。正しくは、自分達とウェンディの影が、無い。
異空間に繋がっているのだからと気にしてはいなかったが、考えてみれば今この部屋の面積は目測で二階用具室とベッド含めて同程度だ。
(階段の位置も同じ。天窓は隠れていたから無かった?)
ではまるで鏡の様に同じ場所に戻って来たようでは無いか。
「この呪文は、鏡の世界への入り口……?」
ジュリアンの呟きにはっと我に返り、自分も文章を見せて貰う。
「成程。さっきと同じ要領で、何かの条件を満たして呪文を唱えるのね。」
グラトニーは鏡の自室に入るためには専用の手鏡が必要だと知っているが、七不思議の挑戦者にはもう一つの方法があるとも知っている。
偶然でも何処かの鏡が繋がっているが、市販の手鏡を学園備え付けの鏡に映した状態で呪文を唱える事で、その鏡を指定する事が出来る。
(専用の手鏡が無いところを見ると、此処で呪文を見つけて市販の手鏡で入るのが試練を受ける手順となるのね。)
七不思議巡りはある意味ジュリアン専用の試練だ。
だがこれでグラトニーも裏事情を聞き出すための準備は整った事になる。
「さあ、そろそろ帰りなさい。
時間があれば持て成したいところだけど、正気を失ったら此処の事を忘れて貰わなきゃならないから。」
意識を取り戻したポートガスはノーカンで良いが、教師マタハリの手を煩わせた場合は彼女に情報を漏らさないために忘却は必須だという。
「あの。あなたは誰に此処へ閉じ込められたんですか?」
ジュリアンの質問にウェンディはくすりと笑い。
「わたしのお友達はね?皆わたしを巡って、自分だけのものにしようとして、最後には必ず殺し合うの。
だけどここに居ると誰もわたしを奪おうとしない。殺し合わない。
わたしは此処に閉じ籠ったお陰で、安住の地を得たのよ?」
出ていくなんて真っ平だと言外に告げた言葉に、ジュリアンは何も言えずに頭を下げて部屋を出る。
去り際に。
「もしあなたの呪詛を封じる手段が見つかったら、もう一度ここへ来ます。」
まぁと小さく呟き。
「その時は喜んで迎え入れるわ。」
笑顔で見送られて部屋を後にする。
◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後。ジュリアンは失敗に気付いた。
呪詛を封印出来ればグラトニーも普通に暮らせるのではないか。
そんな思いはずっと前から抱いており、表の図書館に通って色々な封印術というものを調べていた。
ただ殆どは魔獣相手の術式で在り、魔女に対して有効な術は碌に無く、いつか破られる程度の術式しか無いと記載されている。
まあそれは未だ未熟な身。焦る事じゃない。
問題は、グラトニーに《音楽室の竪琴》を預けたままだった事だ。
締まらない事この上ないと思ったが、丁度折よく彼女の方から連絡があった。
「あなた《竪琴》の事を忘れてるんじゃない?」
顔から火が出る思いとはこの事だ。
本日2話投稿、前編です。




