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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
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第三章 音楽室の魔女 01.化け猫騒動

 夜間外出を大寮長が禁じに来た。

 具体的には通達という形で、先日大寮長に着任したという預言者(プロフェット)寮三学生サルモネラがグラトニーの前に立ちはだかったのだ。


「あら。でも私は先日の魔女退治の功績として、学園長の方から直接許可を得たのだけど?」

 表向きはそういう事になった。というより、グラトニーは寮の封印を鍵無しで解除して勝手に出歩くので、当然出た後は開きっ放しの扉が残る。


 流石に防犯的な理由で問題だと学園長が吊し上げられ、じゃあと会議室に呼び出されて鍵を渡された。


(『なので君の在学中、この《星形の不思議鍵》を貸し出そうじゃないか。

 これで全ての寮が自由に出入り出来るよ。』)

 教師一同、怒号による一斉抗議。


 学園長曰く、現在でも全ての寮の鍵を好き勝手に開けられるのだから、閉じたら自動で閉まるこっちの方が安全上確実だろうと応じ。

 グラトニーを知る教師は問答無用で沈黙するしか無かった。


 グラトニーとしては大差は無いが、こういう時は役に立つ。

 因みに一学年末の三学期半ばの話で、別に公表はされていない。


「えぇ~~~……??ななな、何でそんな……。」

 腹部を抑えながら恨めしそうに鍵を見るのは、チラつかせた時に咄嗟(とっさ)に奪おうとしたからだ。そのまま(くび)り殺そうかと思ったが、それ以上に混乱と失望の表情が心地良かった。


「元々出入りは自由に出来たもの。結果を出したから公認された。

 それだけの話でしょう?」

 長々と話す程の興味も無かったのでそのまま立ち去ろうとすると、慌てて胸張ったサルモネラが人差し指を立ててまだだと立ち塞がる。


「痛い痛い指止めて話聞いてよ折らないで下さい!

 ……あ、あたしには寮長として、成績上位者用の個室、その使用許可を剥奪(はくだつ)する権限があります!

 つまり談話室の使用許可と合わせて、あんたが寮内で使える部屋は自分の部屋以外一切無いって事ですよ!」


 指を放して漸く本題を話し始めたサルモネラの言葉に首を傾げ、そう言えば今年から寮内で個室の使用許可が下りると説明されたのを思い出す。


「あら。でも今までそれ申請した事無いけど、今あるの?」

「……空きならありますけど。あなたが空けてた一人なんですか?」


「だって去年も使わなかったじゃない?

 それともあなたには教師の補講を禁止する権限も与えられているの?」


 グラトニーの質問に、サルモネラは悲しそうな声で答える。

「準教師権限だから、授業の邪魔する権限は一切無いです……。」


 何コレ楽しい。敵だけど殺すのはとても勿体無い。

(いっそ腕力ならぬ魔法に訴えてくれるまで待ちたくなったわね。)

 慢心という気がしないでも無いが、良い練習台になるかも知れない。


「それじゃあ、他に話が無いなら私は行くわ。」

 哀愁漂う背中の肩を叩き、早速グラトニーは寮を出た。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 発動具と呪装の違いは、詠唱を必要とするかしないかだ。

 呪具作りは《携帯錬金房》があるので自室で出来る。

 細々とした素材を買い揃えて戻ったグラトニーは、手に入れた《化け猫封印石》の加工を進めていた。


 化け猫は布地と同化させれば伸縮性の高い服飾呪装として優秀だが、特に強力な個体は呪装よりも発動具として希少で優れた効果があるという。


(というか、呪装を発動具にするという発想は一般的では無いのね。)

 最近聞いたが、伸縮自在な槍と発動具の両立は結構な難易度だ。淑女の会のガトレスが用いた【ギガースの槍】は、あれ一つで格の違いを見せつける逸品なのだ。


 幸いにも小さい方の封印石を上衣とスカート(ばかま)に同化させても、大型の方が未だ余っている。

 大型は胴甲と一体化させて発動具として用いる心算だ。


 銀の胴甲に山程の呪文を刻み、呪文文として用いられる呪文を全て記す。この時、呪文と素材に理解があれば、独自の文面を刻んでも良い。

 これは詠唱する際の文章では足りない部分も記載されており、詠唱の簡略化に役立つ。


 尚、詠唱時のイメージが不足していれば不足分を補い切れないし、記載文が多い程消費魔力も増える。呪文や記載ミスがあれば当然発動しない。


 加えて呪装を兼ねる発動具は道具としての効果も魔術文として成立させる必要があり、一つの効果の文は一筆書きで記載するという制約がある。

 更にこれを文章の冒頭と末尾で繋げないと、一つの効果として発動しない。


 複数効果を同時に発動させたいなら、全ての文を繋げて刻む必要がある。

 当然制作時の必要魔力は増しマシになるが、普通は無理してでも発動具に書ける呪文は全て記すのが普通だ。後でやり直しは利かないのだから。


 呪文の(みぞ)が刻み終わると、魔力を流した自らの血を溝に流す。血が呪文全ての溝に行き渡るまで魔力を絶やしてはいけない。

 尚、血は固まったり腐っていなければ、事前に抜いて保存した分で構わない。


 薬草学で作る『造血丸』は血の量を短時間で回復させるが、当然魔力が乱れるので魔力を注ぐ間は使用出来ない。

 生き血ほど質が良いからと言って、気軽にリストカットしてはいけないのだ。


 呪文を一通り刻み終え、全ての溝に血を流し込み終えると、今度は封印石との一体化を進める作業に移る。


 これは《封印石》を作る作業と本質的には同じで、素材の『魔力結晶』化を進めればいい。


 封印石を固定した状態で魔力を注ぎ続ければ、素材全体を封印石化が進み、形状は魔力を注ぐ際の感覚で調整する。

 この結晶状態が続く間は縮小化と変形が自在で、魔力を注ぎながら徐々に望む形状やサイズに縮小させていくのだ。


 尚、この手間を簡略化する方法として、封印石の素材を中から出して、素材側に直接呪文を刻むという手法がある。

 強度や出力が落ちるが形状加工は極めて容易になり、魔力の少ない術者にとって負担が少なく有り難い手法だ。


 むしろ大抵の魔法使いは出力上限を気にする必要が無いので、普通はこちらの手法を選ぶ。

 呪文を刻み終えてから封印石に戻し、封印石を直接血液に浸すのだ。後は結晶化の際に血が浸透し、完成すると魔力が中を走る様になる。


 グラトニーは用いる気が無いので、とにかく自分サイズの胴甲に魔力を注ぎ、封印石を均一に馴染ませる。この作業が一番魔力と日数を必要とする。


 注いだ魔力量が素材の強度と質に上乗せされるので、可能な限り日数をかけた方が良いのだが、生憎同化が始まった封印素材は半分生物だ。

 長くても半年から一年以内に加工を済ませないと呪具が腐る。

 こちらの意味でも加工済みの魔物素材を用いた手法は難易度が下がるのだ。


 が。その点グラトニーの魔力は桁が違う。

 一度に注ぎ過ぎれば素材を歪める心配こそあるが、半日飲まず食わずで魔力を注ぐ事も出来る。

 出力と強度を両立させても一月と掛からず、授業後の魔力だけで完成した。


『早い早い。魔女でもその強度と期間はちょっと無い。』

 クリス曰く、自分なら裏技使って年かけると言われた。

 裏技に付いてはいずれ聞き出す。


「さて。服を自分の血で浸してから呪装化したら、一番良いんじゃないかと思ったのだけど。」

 刺繍で裏地に呪文を描く手法があると聞いたのでやってみたのだが、何故か黒ずんだ赤色一色には成らなかった。


 炎の様な黒縁(くろぶち)模様に上腕や胴部分、スカート袴の足首回りより上の膨らみ部分と腰回りが茶色の虎猫模様へと変化し、魔力を込めると微妙に伸縮する。

 当然だが伸縮機能など付けた覚えは無い。猫皮だからなのだろうか。


 魔力による加速が可能な自然修復と呪装化、体温調節を刻んでいるが、元の素材が猫皮を同化させた布地なので基本は破れないだけの衣服の筈なのだが……。

(ぶっちゃけ破れて仕舞った物が落ちる方が困るから、服の方はダメージ軽減よりも形状保護を優先しているだけの代物なんだけど……?)


 考えても分からないので《携帯鍛錬場》の方に移動し、実際に着た上で使ってみる事にすると。少しサイズ違いかと思った服はピタリと体のサイズに一致した。


「あら。これが呪装効果かしら?」

『ニャア~~~~ゴォ………………。』

「?!」

 突如胴甲の正面に猫の両目が開き、腹の辺りから鳴き声が響いた。


「『傲慢(ごうまん)よ!!』」

 咄嗟に膨大な量の呪詛を放出し、全身を包む化け猫呪装を力尽くで従えようとしたのだが。


『ンミャァァ~~~ンンン………。』

 喉を震わせるような圧力が呪詛を吸い込むと、まるで体の一部の様に呪詛に馴染み瘴気が落ち着く。

 いや、まるで杖越しの魔力を放ったかのように呪詛が安定する。


(つ、使い易くなった?いえ、コレ私の呪詛に馴染んだの?)

 そう言えば呪装や発動具を作る際は魔力や呪具が変質しない様にとエーテルだけで魔力を注いでいたが、流した血には呪詛がある程度浸み込んでいる筈だ。


 『暴食』や『憤怒』を出してみても、以前より遥かに使い易い。

 何より『憤怒』は妙に、出力の(さじ)加減や形状変化が遣り易くなっている。


「コレ、使えるわね。」

 手元に呪詛を集めながら呟くと、巨大な猫爪が袖から生えた。

「????」


 出したり仕舞ったりを繰り返し、袖口が変形しているのが分かる。当然だがそんな機能つけていない。


 目を閉じて胴甲に意識を集中すると、何故か目を閉じているのに視界が開けて、良く分からないまま目を色々動かして気付く。

(これ、猫の目の視界だ!!)


 出来ると気付けば簡単に、胴甲の表面であれば自在に両目を動かせる。

(うわぁ。コレ目を開いても普通に背中の景色が見える……。)


 化け猫にこんな事が出来るなんて知らないと、色々呪文を使いながら性能実験をすると。どうも爪出しや『化け猫化』の呪文は胴甲と呪装両方を付けた時しか使えないようだ。


 化け猫の呪文は外見を錯覚させる誤認術『猫騙し』に、姿足音体温を隠す『忍び足』、大小自在の猫爪を具現化させた『猫爪』攻撃の三種だ。


 稀に『化け猫化』だけの発動具が出来上がる事もあるというが、その場合は仮眠可能な寝具型の発動具が必要な筈だ。

 要は寝具を化け猫の中に収納する、変身呪文の亜種なのだが、四種全てが発現する例は未だかつて存在していないと教科書にもある。


(えぇっと。詰まりこの服が、寝具の代用品と化している?

 というより、呪装が発動具と一体化しているの?)

 ヤバい。心当たりというか、素材にした封印石が多分一体化していた化け猫だ。


 失敗作と断じて良いのか分からないが、使いながら《エーテル球》を使うなどの特訓を試し続ける。体が軽い。というか動き易い。


 何と言うか、体が柔らかくなった気がする。

 バク転も前転も驚くほど簡単にこなせるし、走るのも楽だ。呪装に魔力を流せば軽度の身体強化が発現するらしい。いや疲労もほぼ無いし、柔軟化止まりか?


 【巨人の左籠手】で強化呪文を試すとはっきり違いが分かる。やはり強化というよりは運動機能の補助止まりだ。


(……うん。失敗どころか大成功の類よね。瓢箪から駒だわ。)

 化け猫と呪詛使いは余程相性が良かったのかも知れない。

 こうなると、実地で色々試してみたくなる。

 本日3話投稿、中編です。

 発動具の作り方がメインですw大寮長など知らぬ。

 怨霊と呪詛の合体事故により、普通の発動具では起きない現象が発生しましたw

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