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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
71/211

03.新教頭の改革

 事の起こりは放課後、夕食前の自由時間。

 夕食後は他寮との接触が規制される、所謂門限があるので、この時間帯が一番学生達が活発に動く時間帯だ。


 細かく言えば、補講時間後。

 教師ムーンパレスに予約を取り、早々に指輪シリーズ四種の内、授業で習った《破魔の指輪》に続き、今日《保身の指輪》を完成させた。


 補講で予習する学生は特に二学年以降は珍しくないらしい。ダンジョンでチームの都合を調整するため、狙った授業を受けられるとは限らないからだ。


 しかし教師ムーンパレスには驚かれていた通り、防御学では補講を活用する学生は案外少ない。

 大抵の学生は授業内容の理解度より実践で失敗し、反復練習がし易い鍛錬所や自習部屋の方を望むからだ。


 よって、案外一人になり易いのだ。教室を出て暫くすると。

「よぉ。無能人風情が随分デカい顔をしているじゃ無いか。」

 現れたのは一学年が数名、比較的ガタイが良く共通して柄が悪い連中だった。

 背後から武器を構えて襲い掛かった一人を、柱の影に叩き付けるが反応が無い。


「お、おい。先輩方は手を出すなって……。」

「うるせぇ!腰抜けの言い分なんか知った事か!」

 殺気にしては空気が緩いし何より隙だらけだ。何をしたいのか理解出来ないグラトニーとしては、首を傾げるしかない。


「邪魔よ。」

「おっtッいぃででででッ!!」

「『火花よ』。」

 肩に手を伸ばした一人の腕を捻ると煩かったので、口の中を吹き飛ばす。


 白目を剥いた男から手を離すと、周囲の男達はやたら慌てて腰が引け始める。

「ま、待て!お、おま、お前!純血のo「『(つぶて)よ、飛ばせ』。」」

 杖を構えて敵意を見せた男の顔面に礫が減り込み、倒れる前に何の用か聞けば良かったかと気付いたが、どうでも良いと思い直して歩き出すが。


 慌てて男達は杖を微妙にグラトニーから逸らしたまま進行方向に立ち塞がる。

 正直対応に困る。敵意にしては微妙過ぎるし、何より弱い。


(小動物でももうちょっとちゃんと噛み付くわよねぇ……。)

 グラトニーには彼らが噛み付こうとしているのかすら判断し辛い。


(ちょちょちょ、何コイツ?今躊躇いも無く魔法で排除しやがった!)

 虫を殺す様な感覚で仲間を襲われた、無能人に因縁を付けたかった純血の学生達は、目の前の惨劇に恐怖しながら必死で見栄を張り通す。


「お、お前!よくもやりやがったな?!俺達を敵に回しtてててて!」

 銀髪を背中に流した美貌(びぼう)の悪魔が、小さく喜色を浮かべる。男達はたったのそれだけの仕草で舌を強張らせる。


 赤い血の塊の様な瞳の輝きが初めて正面から男達を見据え、漏れた瘴気が心臓を鷲掴(わしづか)みにされる錯覚へと変える。


「あら。何だ只の敵なのね。

 『幻の霧よ、弓を引け、(やじり)よ撃ち抜け』。」

 それなら遠慮は要らないと、余り使って無かった魔法の的にしようと思い至る。


「ひ、ひぃ!」

 一方全員で囲めばどうとでもなると思っていた一学年達の心情は最悪だ。


 まさか問答無用に近い勢いで反撃された挙句、逃げる隙も無く全員を『幻の矢』の呪文で手足を打ち貫かれるとは思わない。

 というより、何故自分達が追い込まれているのかすら理解が追い付かない。


「『描いて騙せ、べそ描き落書き、いたずら小僧』。」

 全員の片足を豚に変えてみたかったが、上手くいかずに一人の片足を変える。

(そうじゃないかとは思ったけど、コレ一人しか干渉出来ないわね。)


 『部分変化』は術構成を複数並べてどうにかなる他の呪文とは、どうも術構成の根底が違うらしい。

 何人かで手足や顔、頭の形を変えようと試してみて、肉体に変調をきたす様な変化だと術が失敗し易いのだと理解する。


 さて、既に戦意は失い気絶している者も増えたが、そろそろどう殺そうかも含めて思案し始めたグラトニーは。

 懐から大きな、顔の付いた円盤に四刀が付いた、妖怪にも似た手裏剣を抜き放ち空中に放り投げた。


「新作の人形発動具【卍兵(まんじへい)】、折角だから試し切りしましょうか。『(えぐ)れ』。」

「ままままま、待って!いや待って下さい!!」

 卍妖怪の顔周りの刃が高速回転し始めたのを見て、慌てて意識を保っていた一学年達が土下座して口々に命乞いを始めるが、グラトニーは気にも止めない。


「そこまでだ!何をしているぅお!」

 駆け付けた教師が危うく髭の一部を切り飛ばされる中、もう一つの【卍兵】が宙に浮かび両者の間に立ち塞がり、直後横合いから弾き飛ばされる。


「教頭!」

「今は教師ムーンパレスだよ。

 さて、見間違いじゃ無ければ今、君は一年を殺そうとしてる様に見えたが。」

「ええ。間違いないわよ?だって敵だもの。」


 円盤を構えて目下の学生一人を庇える位置に立ち塞がった、ムーンパレスの問いに頷き。弾かれた【卍兵】を操り手元に引き戻す。

「ほう。敵であれば好きに命を奪っていいと抜かすか。」

「何か変かしら?」


 グラトニーの返事に額に青筋を浮かべてそうかと円盤を構え直す。

「ならばも「教師ムーンパレス、グラトニーには伝わってません!」、も。

 ……。」


 後ろから駆け付けた教師ドロテアに出鼻を挫かれ、前のめりに立ち止まりながら渋々振り返って問い質す。

「教師ドロテア。どういう意味かね?」


「文字通り、です。生徒グラトニー……。人命尊重という、考え方。

 本気、理解して、いません……。」

「あ。うん。待つから深呼吸して良いわよ?」


 四つん這いで過呼吸に陥っているドロテアの復活を待ち、グラトニーも一旦卍兵の回転を止める。


「えっとですね。彼女は痛覚に無関心で、死の恐怖というものが理解出来ません。

 なので一旦説得を任せて頂けませんかぁ?」

「……うん?ま、まあ構わんが。」


 毒気を抜かれたムーンパレスは疑問符を浮かべながら承諾し、よしとドロテアはグラトニーに向き直る。


「よし!事情は後で聞くとして、教師ムーンパレスはあたしより強いぞ。

 なんでそこの一学年を解放する代わりに発動具有りの模擬(もぎ)戦を要求しても、今回は止めないと約束しよう。」


「ッ!成程、その手があったわね。」

 思わぬ名案に拳を握り、振り向いたムーンパレスは「ぇえ……?」と小さく呟き、直ぐに諦めた顔で溜息を吐く。


「ま、まあお前さんがそれで良いなら構わんけどな。」

「じゃあ明日の補講時間で大丈夫かしら?」

「ああ。」


 ならば撤回される前にと密かに展開していた他の人形呪具も全て戻し、また明日と手早く立ち去るグラトニー。

 その足取りは誰が見ても軽やかだ。



 グラトニーが立ち去り、手を振って見送ったドロテアにムーンパレスは気絶した学生達の怪我を確認しながら問いかける。


「なぁ。」

「敵認定しない相手を無暗に殺さない程度の自制心はあるんですよ。

 弱肉強食には理解があるんで、立場を前面に出せば腕力で勝つ限りある程度なら従ってくれます。」


「ま。その辺は分かっているがな?」

 天文学で習う『占い』や『過去視』の術を用いれば、事の真相くらいは直ぐに分かる。


 今日の見回り当番だったムーンパレスが間に合ったのも、事前に騒ぎの怒るタイミングを占っておいたからに他ならない。そして多分ドロテアも。


 だがムーンパレスが聞きたいのはそんな事ではないと、口を開く前に。

「無能人を下等生物扱いする魔法世界の倫理で、命の尊さを説くのは無理です。

 アイツ自頭は良いんで普通に論破されますよ。」


 既に通った道だと即答するドロテアに、頭を抱えるムーンパレスは何を言って良いのか全く分からない。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 現教頭ボルテッカが事の次第を聞いたのは数日後の事だった。

 教師ムーンパレスが無能人に負ける事は無かった。それはいい、当然の話だ。


「何故私に何の報告もしなかった!職務怠慢では無いか!」

 内々に処理した訳では無い。単に教師の裁量の範囲内というだけだ。


 元より学園教師には学園長が奔放(ほんぽう)な分、特に強い裁量権が与えられているし、教師達が処理出来る案件を逐一報告する義務も無い。


 だがそれでは自分が魔法議会から派遣された意味が無い。ボルテッカの役目は学園長の影響力を弱め、教師の側から学園を取り込む事だ。

 だがこうも情報が入らないのでは、出来る事も限られる。


「くそ!くそ!これじゃ全ての対応が後手に回るじゃないか!」

 天文学、事に占いはボルテッカが一番苦手とする分野だ。魔法世界において天文の不備は情報戦で後れを取る事に他ならない。


 出来れば学生側の協力者、いや密告者が欲しかったのだが最大の候補だった淑女の会は誰かの暴走により協力を得られなかった。


「……いや。そうか、増やせば良いか。」

 ボルテッカは自分の思い付きに爪を噛む手を止めてほくそ笑む。


 そうだ。何も馬鹿正直に黙って見ている必要は無い。教頭である自分には学園への改革案を打ち出せる立場にあるのだ。

 散々当たり散らした教頭室の中で、ボルテッカは忍び笑いに(イヒイヒと)身を捩らせた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 血の従者達は順調に力を付け、商売も予想以上に元手を増やす事が出来ていた。

 魔力の総量が増すという事は、今まで作れなかった呪具が自前で用意出来る様になるという意味だ。


 呪具の数は魔法使いの力の幅を広げる。彼らは今、着実に成果を上げていた。

(隠れて四、五学年の様子も伺ったけど、あの子達が目を付けられた様子もない。

 どうやら上手く事は運んでいる様ね。)


 最近は練習を兼ねて<仮面>の呪詛で黒猫に化けて色々な場所に出入りし探りを入れているが、今の所特に注目されず小金稼ぎに成功した集団で済んでいる。

 今の内に全員発動具作りを完了させて、護身手段を確保して欲しいものだ。


「ねえジュリアン、今日の集まりは何か知ってる?」

「いや。まあ他の生徒も知らされていないみたいだ。」


 放課後。講堂に集まった全学生達は、折角の自由時間が台無しだと口々に騒ぐ。

 今までは式典以外で学生が呼び出される事は無かったのだから、これも新教頭の改革によるものだろうか。実害さえなければどうでも良いが。


 静粛(せいしゅく)を呼びかける教師の声に振り向くと、壇上に登ったボルテッカが新学園制度の発表があると高らかに宣言していた。


「私は現学園において、様々な問題が起きている事を憂慮(ゆうりょ)している!

 今学生同士のいざこざに教師は最低限の手出ししかしないという規則があるが、では学生の間で全ての問題が解決出来るかと言えば、そうならない事態の方が多いのが現状だ。


 これは各寮長が他寮生との争いに対し、寮のメンツが先に立ち仲裁が機能しないという欠陥による点も大きい。

 よって私、教頭ボルテッカはここに、『大寮長制度』の発足を宣言する!」


「だ、大寮長?つまり各寮長の上に大寮長が任命されるって事か?」

「そ、それじゃ大寮長以外の寮長はどうなるんだ?!」


 他の学生達は(にわ)かにざわつき出すが、グラトニーは既に新制度への興味を失いつつある。というより寮長に関心が無い。


「大寮長には従来の寮長より一段高い、教師に準ずる権限を認め、独自判断で学生に罰則を加える許可を与える!

 同時に全寮長の代表者として他の寮長を統括し、指導する役目も担って貰う。


 無論、独裁を認めたものでは無いぞ。行使した罰則には報告義務が伴うし、週毎の定期報告も義務化する。寮格差が酷いと大寮長の責任となる。」

 此処でボルテッカは一度言葉を止め、にやりと笑う。


「つまり大寮長によって責任と引き換えに学生を取り締まり易くする制度だ。

 代わりに見事大寮長を勤め上げた者には魔法議会への推薦(すいせん)状を与える!」


「今まで寮長は成績上位者の中から教師会議で指名されていたが、今年からは各寮の上位五名の中から立候補者を募り、寮ごとに投票で選出する。

 ここで決まった寮長を改めて全学生で再投票し、教師の推薦を加えて最も得票数を集めた者が大寮長だ!」


「待って下さい!既に各寮の寮長は任命されている筈!」

 現先駆者(パイオニア)寮長が慌てて口を挟む。


「再度立候補すれば良い話だ!

 一度教師の推薦を受けた者はその時点で有利である!

 昨年度上位五名の中で立候補したい者は壇上に上がれ!投票は明日、同じ時間に行う。立候補者にはその際、自己ピーアールを行って貰う!」


 ギリギリ記憶に残っているのは此処までだ。

 無能人に投票権は無かったし、そもそも誰がなったところで興味はない。


 投票日は学園街に出てた。人形呪具の素材になりそうな騎士甲冑を、処分に泣いている学生が居たので捨て値で山程買えたのだ。

 原価割れしても感謝される程の勢いで。


(まあ、呪具に使えそうだからって騎士甲冑みたいな大物を百も買い揃えるだなんて馬鹿そのものよねぇ……?)

 年一つ売れれば良い方の在庫が五十まとめ買い。借金返せるギリギリに値切った筈が、まさか借金取りが隣にいたとは思わなかった。


(『オレ、これから真面目に人生を生きるよ。』)

(『へへ。俺らは無能人を少し、見下し過ぎていたかも知れねぇや……。』)

 何故良い話風に終わったのかは今でも分からない。


 何にせよ、グラトニーにとっては選挙よりこちらの方が印象深過ぎて。

『汚れ役は推薦した寮長に押し付けさせて頂いたわ。』

 と淑女の会でカーリーから話題に出されるまで、すっかり忘れていて少し気まずかった程度しか印象に無い。

 本日3話投稿、前編です。

 ホラー演出の時ほど容姿が強調される主人公w

 影シルエットと裂ける様な笑みがとても似合います。

※前に教育の重要さを理解した筈じゃあ?

 「敵の芽を摘むのは普通じゃない?」

※ドロ「人命尊重!」

 「無能人を除くわよね?あなた達が必ず勝つルールに従う利益は?」

解。「何を止められるか察して貰った方が話早ぁい……。」


※ボル「これで無能人差別と密告制の合法化や!」

 学生「「「但しグラトニーを除く。」」」


 学生達も、闇討ちの方が危ないとそろそろ察してきました。

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