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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
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02.陰謀談義

 学年昇格式の翌日。

 教頭達から呼び出された淑女の会の三人が、校舎の会議室を訪れた。

「ようこそいらっしゃいました純血の姫君方!

 今この場におられます我々六名は純血至上主義派の者であります!」


 どうか今後とも、お顔を覚えお役立て頂きたいと頭を下げる、ボルテッカ他魔女狩りの四名を含めた教師の二人。

 上座に座るよう促された三人は、躊躇(ためら)う事無く序列順に座り話を促す。



「成程。学園長を非難し切れなかった分、魔女側に動きを封じられた教頭に責任を取らせる形で魔法議会の者を入れた訳ですか。

 ですが天文学?むしろ教頭をそちらに回し、預言者の必須教科である防御学に力を入れるのは不可能だったのですか?」


「……ふがいなくて申し訳ない。ですが前教頭めは元々百年以上防御学講師を務めた猛者、あの者を学園から排除するのは現段階では影響力不足でして。

 今回は防御学だからこそ、降格に成功した面もあるのです。

 此度は後々の、議会の影響力を高める為の下準備と思っていただきたい。」


 前天文学教師が寿(ことぶき)退社したために交代で入って来たもう一人の新教師、ギャザリスと名乗った白髪老人は、無感情に答える。

 その顔は目が隠れ眉毛と髭の区別が付かない程に(あふ)れて容易に表情が伺えない。


「ところで姫君方は今度の新入生歓迎会で無能人を主席扱いするとか。

 酔狂も程々にしないと御父上に見限られるのでは?」


「おい!」

 慌てるボルテッカに対し、溜め息を吐いて。


「ボルテッカ、と言いましたね。

 飼い犬の(しつけ)が出来ないのなら、話はこれまでです。

 先ずは口の軽い犬を下がらせる所から始めなさい。」


「な!なんと!」

「黙れ!今直ぐ部屋を出ろ!二度は無いぞ!」

 早々に無視され犬扱いされた老教師を庇う事無く、ボルテッカは退席を命じる。


 顔を真っ赤にして会議室を出た後、カーリーは再び溜息を吐く。

「父の名を使われては甘い顔も出来ません。

 値踏みの挑発すら受け流せない人材しかいなかったのですか?」


「は。いえ……、申し訳ありません。彼の者を選ばれたのは、御父君でして。」

 言い辛そうに口を開くが、その目は双方を秤にかける様な色を見せる。


「ふむ。であれば、挨拶(あいさつ)の場に出せという指示までは無かったのでは?」

「は、はい!た、確かに!ですが、顔合わせをさせないのもご無礼かと!」

 当たりか。とは言え父ならば、顔合わせをさせた上で敢えて非難させる気でいたのだろう。老人の口の軽さや扱い辛さも、ペナルティ替わりの心算か。


「顔合わせだけ、でしょうね。もしくは父の前ではもう少し取り繕えたか。

 ですが、あなたは他にも指示を受けていますね。」

「は、はい。僭越(せんえつ)ながら御父上は、無能人に主席を取らせた事にご立腹をなされていたようで。

 お嬢様の真意を伺い、相応の態度を、と。」


 慎重に、しかし反撃の機会を伺うボルテッカ。表情は隠せているなと及第点を与えつつもカーリーは父の分かり易過ぎる態度をつい想像してしまう。

(全く相変わらずね。

 議会の延長で学園に政を持ち込めると思っているのだから、始末に負えない。)


 凡庸(ぼんよう)な父と言えど、肉親の情が無いではない。先ずは遠回しに暴走を防ぐか。

「まあ、学園長に悟られぬ程度の手紙では、こちらの真意の把握も容易ではありませんか。」


「?それはどういう……。」

「運命の子の入学に合わせて、それ以上の成績を修める無能人。

 幾らなんでも不自然では?

 彼の者は人格も異様。私なら預言を鑑み、入学を見送るでしょう。」


 無能人の入学年齢など、誰も気にも止めないでしょう?と問い返すと、ボルテッカも首を傾げて迷い顔で、言われてみればと相槌を打つ。


「こちらも探りを入れていますが、無能世界出身というのは確かでしょう。

 ですがあの力は本物。学園長の肝煎りを、安易に肩書き通りと信じる気には到底なれません。


 特に血気に逸る純血をあたら罠に飛び込ませる気などとてもとても。

 特例を曲げたと思われたのかも知れませんが、私の意図は隔離(かくり)です。

 危険な獣には近付くな。良き先人は、教訓を伝えるものでしょう?」


「それは……まあ……。」

 想定外の迷いを漏らし、判断を鈍らせた声で同意とも付かぬ返事。()()か。


「出身に間違いは無くとも、産まれに細工は出来るでしょう?

 ああ、そう言えば言い忘れてたけど、あなた達が排斥に動く分には構いません。

 会の顔を立てる限り、自由に動いて構いませんよ。」


「は?え、しかし、それでは……。」

 咄嗟に言われて対応し切れなかったのだろう。素の声で戸惑うボルテッカに、影の合図を受け取ったメフィレスが軽く頭を下げ、自分(カーリー)に口を挟む許可を取る。


「淑女の会と無能人は別に扱え、と言っているのです。」

 一言だけ告げて、反論や疑問を口に出す前に一礼して下がる。

 この手の駆け引きはメフィレスの得意分野だ。簡単な指示だけで察してくれる、家臣を兼任出来る本当に得難き親友の一人だ。


「私の意図に対する報告は、手紙では無く直接伝えてくれると助かるわ。

 私達への確認も、今後は最小限。そうね、経過報告程度で構いません。」

 聞き方次第でフリーハンドとも取れる言い回しで区切り。


「そうねぇ。表向き我々はあなた達が父、魔法議会議長の密命で来ているから口を挟めない事にするわ。

 あなた達が成功すればそれでよし。失敗した時は我々が学生側の不満を解消するために教師達の横暴に対抗する、という形で収拾に動く。」


「それは……。」

 どうかしら?と自分達が失敗した時の対応まで語られたボルテッカが不満の表情を浮かべ、カーリーは不満を慰めるように優しく微笑む。


「教師ユエルの末路は把握しているかしら?

 私達が介入すれば、学園長による処刑を追放という形に減刑出来るかも知れないわね。保険はあった方が、あなた達も思い切った事が出来るでしょう?


 それに多少強引な事をしても、私達が黙認する理由があれば、皆も多少の不満は呑み込む事が出来る。ああ、父の名を騙る恐れは要らないわ。

 私が言外に匂わせて、あなた達は真相を教えられない。

 ただそれだけの事だもの。」


 教頭ボルテッカと魔女狩り達を残し、薔薇の園に戻ったカーリーにメフィレス、ガトレスの二人はお疲れ様ですと、気遣わし気にお茶請けを用意する。


「あの二人は当てに出来ないわね。

 魔女が徒党を組んでいる件を、気にした様子も無かったもの。」


 最後の最後に間を作ってやったのに、気付きもせずに退席するに任せた。

 あれでは学園長にも利用されて終わりだろう。

「全く。誰も彼も、上辺だけの情報に振り回され過ぎじゃないかしら。」


 〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕復活の噂を見て見ぬ振りをする父の姿を幻想し、つい椅子に倒れ掛かるが、友人二人は見て見ぬ振りをしてくれる。

 さて学園という檻の中で、どれだけの手が打てるものか。



 一方。教頭ボルテッカは言質を取る前に暴走した身内に頭を痛めていた。

 世間知らずの小娘と侮っていたが、正直予想以上にあれはヤバい。

 馬鹿の失言に足を掬われた形とは言え、ああも想定をホイホイと超えられては対処も覚束無い。


 本来であれば、相手を煽てて先に口を滑らせる予定だったのだが。

「ボルテッカ殿!何故学生にあのような振る「黙れ!勝手に議長の名を使うな!

 お前が議長に指示を受けたんじゃない!お前は私の下に付けと命じられた筈だろうが!折角の金看板がお前のせいで台無しだ!」……っ!」

 未だに自分の失態を理解していない愚か者に、思わず怒鳴り散らす。


「全く。お前のせいで急所を押えるどころか首の根を掴まれるところだったぞ。

 お前は今後淑女の会に関わるな。無能人絡みでも絶対に先に私に話を通せ。

 それが今回の罰だ。次に私の信頼を裏切ったら、全て議長に報告し貴様の処罰を嘆願する。」


「…………っ!」

 歯軋りをして返事が出来ないご老人の振る舞いに、一つガス抜きをすべく話を進める。どれだけ扱い辛かろうが、こいつは部下。

 部下を御するのも期待された手腕の内だ。


「幸いにも無能人排斥に口を挟む気は無いと言質を得た。

 どうもお姫様方は学園長を警戒して、寮生と隔離したというのが実情らしい。

 まあ、確かに言われてみれば淑女の会としての発言権をあの者が行使したと聞いた覚えは無いからな。

 我々が手を汚してくれるなら歓迎されてもおかしくは無い。」


「……それは我々に矢面に立てと言われたも同然では?」

 まだ言うかとも思うが、少しは冷静さを取り戻したらしい。


「誰のせいかは忘れて欲しくないがな。だが黙認は向こうから言い出してくれた。

 元よりお姫様方を敵に回しかけた点を踏まえれば、随分(ずいぶん)と向かい風じゃないか?

 お前だって姫君との()()を無能人排除より優先したくはあるまい。」


 大人の思慮を見せて貰いたいものだなと付け加え、漸く溜息としてご老体のガスが抜ける。


「……已むを得ませんな。お嬢様方が無能人を人扱いしたというお話に、思いの外義憤(ぎふん)に駆られてしまったようです。

 お嬢様方は本当に信用出来るので?」


 つくづく態度デカいなコイツ。

 だが薄々議長の思惑とコイツの扱いも分かって来た。

(挨拶だけで下がらせるべきだった、か。

 しかし議長はあなたに狂犬という爆弾を見せるのが目的だったようですよ?)


「必要無い。どの道淑女の会の看板に傷をつける訳には行かんのだ。無能人を責める際は淑女の会への侮辱は避けろ。ルールさえ守ればお姫様方は味方だ。


 本音ならどの様なタイミングで口を挟むかで分かるさ。

 お姫様方は、学園長が黒幕だと(おお)せだ。コレを口に出せば、分かっているな。」

 此処まで言えば、流石にご老人も機嫌を直す。反省は期待しないことにした。


「……承知しました。その件はそちらにお任せします。

 無能人如きに足を取られ、老害の排除を忘れては本末転倒ですからな。」

 口に出さないとは本気で思っていない。だから何のとも教えず、重要な情報は与えず、暴走するタイミングをコントロールせねばならない。


 老害を下がらせ、ボルテッカは内心で独り言ちる。

(誰も彼も勝手を言ってくれる。だがまあやってやるさ。私の為だ。)

 ボルテッカにとって、議長も姫君方も出世の道具には違いない。

 会話に出番は無かったけど、ちゃんとガトレス嬢も一緒にいましたw

 派閥や利害関係などの駆け引きはカーリー様の独壇場ですね。

 周囲から見れば純血至上主義トップのカーリー様も、身内や同派閥から見れば大分改革派寄りなので、結構疑いの目で見られてます。

 実は淑女の会の三人は、結構無能人文化に精通していたり。


 2021/10/16 誤字修正。

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