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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第四部 教頭失脚編
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第一章 第二学年 01.学年昇格式

 一人の欠員も無く血の従者達が結成し、入学前休暇が終了した。

 卒業式では主席争いを繰り広げた探求者(シーカー)寮の前寮長ティーパーティが留年したという波乱があったが、ジェンドは問題無く卒業し、魔女狩り見習いに就職した。


 因みに留年理由は単位数を間違えていたためで、探求者(シーカー)寮には時々ある事なので別に騒がれもしなかった。

 裏も何も無く、ただ期待の新人就職を歓迎していた某研究局長が(ひざ)を折り、崩れ落ちる景色が目撃されただけの話である。


『久しいな(さめ)の同志よ!これも何かの縁だ、よろしく頼む!』

『何、無能人が何だって?それは鮫の同志である事よりも大事か?!』

 別に鮫の同志になった心算は無いと言ったが『アイデアが鮫の同志だ!』と認めて貰えなかった。まあ別に不都合は無いかと気付いたので放置する。


 因みに預言者(プロフェット)寮長メリザー殿は問題無く卒業出来たが、卒業生主席は先駆者(パイオニア)寮のアルガスト寮長だと発表があった。


 学園最強と言われ、教師とも渡り合えると太鼓判を押されていたので、魔女と戦う様子は是非見てみたかった。

 魔女狩りに採用されたそうなので、何れジェンドから情報が入るかも知れない。


 仮面の魔人ナイトメアから自分の遺産として譲り受けた、全教科分の教科書他により、二~三学年の授業内容は大筋把握出来た。

 勿論実践や理解までは伴っていないし、何より魔術師として成長するには多様な呪具を揃えておきたい。


 何せ授業で作る呪具の数々は多かれ少なかれ便利な物が多い。特に防御学は戦闘でも重要なので、優先して確保したい。

「ぶっちゃけ今は、授業よりもダンジョンの解禁の方が大事なのよね。」


 鏡の部屋で予定を聞かれた際、授業をどの程度真剣に取り組むのかと聞かれた返事が今の発言に繋がる。ダンジョン探索も授業単位に含まれるらしいのだ。


「主の機嫌が良くて何よりです。本格的に仕込みを始めたようですが、血の従者達に我々の事を伝えるお積もりで?」

 鏡の魔女ラビリスと傀儡子(くぐつし)の魔女クリス・クロノイド。二人の魔女はグラトニーと契約を交わし、元々の倍近い力を得ている腹心的存在だ。


「正直時期尚早(しょうそう)に見えるわね。今は力に溺れないかが心配なくらい。」

 クリスの言葉に敢えて反論せず、言外に同意を伝えるラビリス。


「当分は様子見よ。というより一応あなた達も今後は血の従者達と呼ぶけど、彼らは戦闘員と言ったところかしら。幹部昇格は功績次第ね。

 先ず彼らに中型《封印石》を幾つか用意して、しばらくは裏で小金稼ぎをさせようと思っているわ。」


「小金稼ぎ……成程。

 コネづくりを兼ねて、彼らの実力変化を金の所為にするお積もりで?」

 急激な実力変化は高学年ほど敏感だ。実力を隠す努力はさせているが、未だ未だ甘い。きっと直ぐに気付かれるだろう。


「ええ。順次慣れた者から発動具作りをするよう指示してある。

 あの子達に期待するのは数よ。願望だって小市民、裏方向けだもの。」

 細工師だの空を自由に飛びたいだの、実に微笑ましい闘争にそぐわぬ衝動だ。

 一人二人は牙を見せる者もいたが、今の所最大の見所は忠誠心しかない。


「ま。そっちは焦っても仕方が無いわ。降って湧いた幸運だもの。

 本命はこっち。他の七不思議の進展ね。」


 禁断の森、図書館、十三階段、鏡の部屋、旧校舎。五人の魔女には面会したが、残りの二つ、音楽室と校内トイレが未発見。

 正確な場所は同じ七不思議である彼女達にも分からないという。


「校内トイレの方は、紙だけは知っている様ですが全魔女が会えません。

 何でも正気を失っているそうで。」

「音楽室は、まぁ。悪い子じゃないわよ?ただ陰謀向きとは言えないわね。」

 オブラートに包んでいるが、何となく気まずい顔でクリスが語る。


「何故紙が知っているの?」

「元々紙の手に負えなかったから隔離(かくり)になったそうです。

 紙が索敵を得意とする理由もその時鍛えられたからだと言ってましたね。」


 最後に一息お茶を飲み干す。

 つい先日、携帯収納具の一種であるスノードームハウスの中に鏡を設置し、鏡の部屋と直結に成功したので、今後は外出せずに此処へ来れる様になった、


「まあ当分は調査と呪具作りね。早く堂々と発動具を使いたいわ。

 それに呪装。その辺も自作したいしね。」


 現在極秘に作成した発動具は【巨人の左籠手】と【緑目の腕輪】だ。

 人形呪具を普段使いしていたが、奥の手というにはどれも弱い。

 可能なら今年一杯力を蓄えたいところだが、多分不可能だろう。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 学年昇格式。

 新入生に入学式がある様に、進級出来た学生にも式がある。

 出来なかった学生?無いよ。新一年の教室で一緒に頑張ってね。


……閑話休題。まあ流石に一学年で進級出来ない生徒は稀だというし、去年に引き続き今年も無かった。


 因みに新入生歓迎会は寮生別に、進級した二学年三学年だけが行う。

 そこで教師達の投票により成績優秀者上位十名の中から寮長が発表され、最初の役目として新入生歓迎会を開かせるのだ。


預言者(プロフェット)寮では毎年、成績上位者を上から三名、新入生の前で紹介しているの。

 その三名が上から順にグラトニー、レイリース、アヴァロン嬢の順よ。

 去年歓迎会の時に私達が壇上に上がっていたのは覚えていないかしら?」


 淑女(しゅくじょ)の会会長、カーリー・ドラクロワ。

 昨年末の魔女撃退において〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕の中でも第一級の危険人物として手配されていた埋伏の魔女を、前先駆者(パイオニア)寮長アルガストを含めた学生三人で完封した、魔女退治の立役者。


 ぶっちゃけ、当の次期寮長には事前に通達が届く。昇格式に簡単な宣誓をするためで、預言者(プロフェット)寮は事実上一択だ。

 純血代表〔淑女の会〕のメンバー相手に渡り合える三学年など、あらゆる意味で存在しない。


 一同は淑女の会専用個室〔薔薇(ばら)の園〕では無く、預言者(プロフェット)寮の談話室に集っていた。

 そして言われてみれば、確かに誰か壇上に登っていた気がする。


「ああ。『先輩は食べ物に入りますか事件』の時ですね。」

 レイリース・ケイロンがジト目でアヴァロンに視線を向けると、ついと目を反らして口笛を吹く。


 先輩方もそう言えばと思い出して苦笑する。

「そうだったな。止めに新入生による『純血は種族詐欺(さぎ)疑惑』だったか。

 随分命知らずがいたものだと思ったが……。なぁ。もしかして。」


 新三学年となったガトレス・ナーガの言葉に、アヴァロンとレイリースが思わず他所を向いたのを見て。ああと思い出す。


「そう言えばそれ、何でか聞いた事無かったわ。」

「お前ソレ人に言うなよ?!無能人とか以前に『お前達猿と区別付かない』って言うのと全然変わらないからな?!」


(先輩方も大分グラトニーの扱いに慣れたよね。)

(そうね。グラトニーは説明すればある程度分かるけど、説明しないと大体の注意を聞き流すものね。)


「……諸説ありますが、純血の方が異形率は高い傾向にあります。

 名門ほど家伝魔法か異形による超感覚を得ている家系が多いので、見た目を否定する事は純血社会全体に喧嘩を売っている事になります。注意して下さいね。」


 同じく淑女の会の三強メフィレス・マローダが無用なトラブルを避ける為にと補足するのは、元々この手の問題に詳しいのもあるが、一番はカーリーの手を煩わせないためだ。


 ガトレスとメフィレスの三学年コンビは家格的には精々一歩譲る程度。ほぼ同格でありながら、明確にカーリーを主君として敬っている。


「けど私も上位成績者に入っているの?

 ぶっちゃけ同期では中間くらいかと……。」

 アヴァロンが頭を掻いて首を捻る。実際上の下程度だと思っていたら。


「実技ダントツなのと、他の上位がジュリアン達だからそう思えるだけよ。

 実際私やグラトニーと比べれば、あなたは平均点が二十点近く違うわ。」


 レイリースは筆記トップで三席、グラトニーは総合トップで首席だ。

 先駆者(パイオニア)寮のジュリアンが総合で次席、次パトリシア四席、サンドライト五席。


「そう言えば総合で七番目か八番目位だったわね。」

 成績は学内の向上心を煽ると言う名目で全員一律で張り出される。ちゃんと寮の名前も脇に添えられているが、寮内の順位は記載されていなかった筈だ。


「後は探求者(シーカー)寮が極端に高い成績と低い成績を両立させているから、概ね総合力の預言者(プロフェット)寮と一部エリートの先駆者(パイオニア)寮で競い合っているわ。

 と、言う訳で。二人は最初だけで良いから、歓迎会に参加して欲しいの。

 準備は他の寮生でやるわ。」


 因みにレイリースは全面強制参加だ。但し本来歓迎会は上級生にとっても息抜きイベントになるのだが。


「ま、待って下さい!確認したいのですが、グラトニーは呪詛(じゅそ)アリですか?!」

「三割まではアリよ。

 だって無能人の首席なんて、身の程知らずが名を挙げる絶好の標的じゃない。」

 ぐ。とレイリースが口籠る。おやつかな?


「私は別に構わないわよ?見込み有る新人は配下にするし。」

「新入生の未来を潰すのは無しね。歓迎会なんだから死者禁止。」

 それを言われると確かに面倒だ。


「わ、分かりました。呪詛アリで。」

「ねぇ。何かレイリースが私のマネージャーっぽくなってない?」

「え?でも面倒な事を判断するのは彼女では無いのか?」

 確かに。

 非常に複雑な顔で、レイリースは同意するグラトニーの顔を見ていた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 ぶっちゃけ準備さえ済ませたら新入生を案内しない寮生は入学式に出席しない。

 では寮生は何もせず待っていれば良いのかと言われれば、そうでは無い。


 実は寮の階層は学年ごとに毎年入れ替わり上昇していくのだが、これは学生達の移動では無く、寮の階層そのものが積み木の様に交換されるのだ。

 この時全ての生徒が一度寮を出るが、この階層の組み換えを行う間に開かれるのが、新学年昇格式だ。


 何をするかと言えば、教師達の祝辞と事務報告だけだ。グラトニーにとって無駄な時間にしか思えないが、本命が寮の組み替えと言うなら逆らう意味も無い。


 因みに三学年の教室は翌年の四学年で地下一階に移動する。留年した学生と四学年は一旦部屋を出る為、前日までに荷物をまとめて置かねばならない。


 四学年は相部屋の統廃合が行われ、単に整理される程度で済む。病気など已むに已まれぬ事情があったりするので、四学年の初年は割と緩い。

 流石に授業だけは教室が別枠扱いとなるが、他の制約は無いのだ。


 だが二年目の四学年は五学年と同じ扱いで、問答無用の強制退去になる。

 四学年の寮室は翌年の一学年の寮室となるからだ。余程の事情が無い限り、別の年の四学年が同じ階層で暮らす事は無い。


 五学年は最下層で交換自体が無い。単に期日に割り当てられた集団部屋へ移動になるだけで、荷物は全て自分で運ばねばならない。

 大部屋のベットだけが事実上の個室となる。


 運び出さなかった私物はゴミとして全て処分されるので要注意だ。どんな貴重品だろうと学園に没収される。

 しかも五学年では時々盗難事件も発生すると言うが、全て自衛が出来ない方が悪いとなる。お陰で五学年は事実上、収納呪具に入る私物しか持てない。


 地上階に来た時や教師の目の前で行われた時だけ現行犯で処罰の対象になるが、そもそも優秀な学生は五学年を目撃する事無く卒業する方が多い。

 よって五学年を目撃する事は、地上の学生間では不名誉扱いされている。

 実に(くず)の様な格差社会である。



 更に、この魔法世界においては学園を卒業するまで未成年扱いなので、結婚は出来ない。自主退学も同様なので永遠に未成年となる。

 一応徒弟(とてい)制度があるので、卒業資格を与えられる魔法使いに弟子入りして卒業を勝ち取る方法もあるが、普通才能の無い者を弟子にする魔法使いは稀だ。


 故に、学園に入学した以上は、学園卒業以外の方法で出る事はあらゆる意味で難しい。五学年になった学生は親に捨てられる例も少なくはない。

 十年以上在学する生徒もいるが、大抵はそうなる前に病死か自殺する。五学年という学年は、そんな劣悪な環境だった。


「ボス的な学生が居そうな気もしたけど、意外と無いのね。」

 廃墟の中でその五学年達に説明を受けながら、グラトニーは素直な感想を呟く。

 率直過ぎる感想に傍らの五学生は苦笑いを浮かべた。


「学園の規則で四、五学年のクランメンバーは上限五人に規制されているんです。

 学園長は兎も角、教師達は割と良識的な人ほど長く学園に残っているので、質が悪い連中は簡単に鎮圧されるのも大きいですね。

 後は、マナーが悪い生徒は犯罪に手を染める事も多いので。」


 クランメンバーとはダンジョンに挑むためのグループだ。そしてクランメンバー以外の衝突は明確に罰則対象になると言う。


「多いので?」

「そのまま失踪する生徒も多くなります。

 中には教師達に魔術の実験体として獣にされた生徒もいました。」


 現在位置は、グラトニーの先兵もとい、血の従者達が鍛錬に励む〔残骸(ざんがい)区画〕。彼ら五学年が自分達の工房として確保している廃墟だ。

 ナイトメアの遺品【姿隠しの外套(がいとう)】を使って現状を確認しに来たグラトニーは、思わぬ情報に興味を引かれていた。


 因みにこの【外套】は、纏っている限り手足が外套から出ていても姿が見える事は無い上等な呪装の類だが、魔法の探知を無効化するまでの代物ではない。

 但し素材が不明な程度には希少な代物なので、無くさないように使いたい。


「他人を変化させる魔術なんてあるの?」

 魔女の呪詛だけかと思っていたが、モドキならやりようはあるのか。


「単純に変身薬を使えば、自身を瓶の中に封じて、(びん)が体内に入る大きさの生き物へ変化出来るという方法もありますが、大体は『魔石』などを使い捨てます。

 熊より大きな体は上質の呪具が必要ですし、まあ維持にも魔力を消耗するので長くても一日保つ術は無い筈です。」


 永続的な変化の魔法の実験台にされた生徒がいるというのは、古い学生達には実しやかに囁かれている噂だ。実際失踪した生徒はいるという。


先駆者(パイオニア)寮の近く、塀と結界で閉ざされた区画があるでしょう?

 あの隣の森は獣の森と言って、様々な獣が放し飼いにされている区画です。魔法で獣にされた生徒達はあの森に逃げ込んでいると言われていますね。」


「この学園で長生き出来るのは、将来に絶望して自暴自棄にならずにいられる者だけです。しかも一部には生計が立てられず、餓死する者もいる程です。

 中には五学生の間で商売を行い成功する者もいますが、目を付けられ易い。

 結局他の生徒を力でどうにか出来る奴は、卒業出来る奴だけなんですよ。」


「そして魔法の才能が一定以上ある者だけ、と。」

「ええ。それが多くの学生の自殺動機です。」


 グラトニーとの契約は想像以上に五学年にとって希望らしい。

「成程ね。契約に慎重になるよう言った訳が良く分かったわ。」

 グラトニーの契約の問題点は、気紛れや衝動的な殺意だ。

 そして学園は情緒不安定な者を量産している。


「我々としても全員が同じクランを組んで活動している訳じゃない。

 クランを変えるのは珍しい話じゃありませんが、主との契約者を増やす事が主の危険に繋がらない限り歓迎してます。」

 代わる代わる交代し、会話に加わりながら特訓を再開する血の従者達一同。


「今の所は目立たないように噂集めと評判の確認に終始していますが、信用出来そうな者を見つけたら素行調査後、紹介前に報告する形で宜しいですか?」

「そうね。一学期中は徐々にで良いわ。

 あなた達が新人を統制出来ない方が問題でしょうから。」


 彼らが使っているのは紙の魔女オルガノンが開発し、今は教師マルガルが権利を引き継いでドラクロワ家が量産を進めている《エーテル球》。

 玩具(おもちゃ)程度の魔力で操れ『幻の霧』などよりも手軽に制御力を鍛えられる、彼らが望んで止まなかった待望の呪具だ。


 片や只管回避に専念し、もう一方は複数個を飛ばして命中訓練。複数ペアが工房内の広場を終始走り回っている。

 因みにこの訓練方法を考案したのは彼ら自身だ。


「……随分長く続くようになったわね。」

「「「ええ劇的に改善しました!!」」」

 体力、反射速度に限らず、血の従者達の成長はかなり著しい様だ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 新学年昇格式当日。

 一応何か発表があるかも知れないので参加したが、帽子飾りにした《エーテル球》だけでは最近特訓にならない程に浮かべ慣れてしまった。


 なので今は靴の下に仕込み、自分の体重を持ち上げる事で式典中を実質特訓時間にした。厚底ブーツ程度のものっそい微妙な上昇度合いなので、周囲も殆どの者は気付いておらず、微妙な視線の高さに疑問を覚えた同期が居たくらいか。


 地味に箒代わりにも使えそうなので今度試そうとでも考えていると、教頭ムーンパレスが実ににこやかな笑顔で壇上に上がり、演台の前に立つ。


「生徒諸君。年度末に起きた魔女の襲撃により防御学教師に欠員が生じ、私が代理で授業を担当していたのは記憶に新しいと思う。

 私も過労で幾度も死ぬ、じゃない。時間外の補講にも応じる事が出来ず、生徒諸君には何かと迷惑をかけたと思う。だが、それも昨年までの事だ!」


 力強く拳を上げるムーンパレスの頭部が、日光を反射して燦然(さんぜん)と輝く。

 学園長ダーククロウの横暴を必死に常識的範囲に落とし込もうと、必死で奔走する姿を見慣れる学生達は、ムーンパレスが頭髪に賭ける情熱を思い出しそっと目頭を押さえる。


 我らが教頭は、今でも胃潰瘍(いかいよう)が治れば頭髪が戻ると信じている。

 その熱意はグラトニーにすら届き、たじろがせた事もある。


「私は昨年の一件の責任を取り、今年からは防御学の一教師として学園を支える事になった!

 それでは諸君に、この度魔法議会から派遣された今後の学園を担う新たな教頭を発表しよう!」


「「「「「な、なにぃ~~~~~~!!!!!」」」」」


 教頭改め新防御学教師と化した教師ムーンパレスが後光が差さんばかりの満面の笑顔で宣言し、遅れてその意味を理解した一般生徒達が驚愕(きょうがく)の悲鳴を上げる。

 学園の良心兼学園長の防波堤としてムーンパレスこそが最後の砦だったのは、呪法学園カーズの学生であれば誰もが知っている事実だ。


 詰まり今後は百戦錬磨の学園長に対し、新参の教頭を中心に対抗する事になる。この事実がどれ程絶望的に感じるか。それは在学歴が長く、より実家が権力を持つ学生ほど重く深く圧し掛かる。

 中には今の発表だけで膝を折り、すすり泣く生徒達すら現れる始末だ。


「な、何だこの騒々しい悲鳴は!

 全く、今の学生は大人しく発表を待つ事も出来んのか!」


 尊大に言い放ちながら壇上に上がって来た、とても小柄な夫人を周囲の教師達は大多数が苦々し気な表情で見つめ。

 たった一人ムーンパレスだけが大歓迎で後ろに下がる。


 その顔は、帽子から溢れてはみ出して輪郭を倍くらい膨らませる、自己主張が強過ぎる膨大な茶髪と比べ、余りに没個性で印象に残らない。

(何と言うか、せめてその小柄さが子供並だったら印象に残るのかしらね。)


 宿したエーテル量も明らかに低く、教師に匹敵?ギリギリしていなくはない?

 とにかく、今まで見た教師達の中で確実に下から数えるべき内包量だ。


 続いて壇上に登って来た脇に控えるもう一人の老人の方が、肉体に宿るエーテル量は多いのではなかろうか。


「諸君!私が偉大なる魔法議会から派遣され、今迄の緩み切った学園制度に改革をもたらすべく学園に着任した新教頭、ボルテッカである!


 私がこの学園に着任したからには、今迄の様な身の程知らずは絶対に許さん!

 全学生諸君は持って生まれた立場と血統というものを正しく理解し、教師達の言う事を良く聞き、秩序に準じた学園生活を送って貰う!」


 差別主義者らしく驚くほどはっきりと明言し、周囲も気付いた者から手に汗を握り緊張に身を固くする中。

 当事者の筈のグラトニーは、次の授業に思いを馳せていた。

 本日2話投稿。後半です。

 因みにこの学園、裏口入学ならぬ裏口退学があります。

 五学年生五年後以降であれば、親が一定額を支払う事で、学園在籍記録ごと抹消して極秘退学させられるというものです。

 事実上の学園追放で在り、何より学生側には一切説明されず、公表もされていない退学手段なので、実際の死者数は当事者の想像よりもずっと少な目。

 只、学生側がいくら支払おうが退学は出来ません。

 この辺は本編に関わりが無いので多分作中では明かされないw

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