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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第三部 襲撃の魔女編
64/211

04.血の従者達

 三学年のジェンドから卒業が確定したとの報告と、今後の方針について相談があると連絡を受けた。

 仇が〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕にいると分かった以上、魔女狩りの情報は当初より重要度が増したので、これは間違いなく朗報だ。


 面会序でにまとめ買いした《エーテル球》を持っていく事にする。

 これは教師マルガルがドラクロワ家と販売契約を結び、子供向けの訓練呪具として大々的に売り出す事が決まったからだ。


 カーリー曰くもっと早く教えて欲しかったとグラトニーに満面の笑顔で愚痴(ぐち)を零され、早速完成品を宣伝という口実で淑女の会全員に十個ずつ配っていた。


『まだ生産開始したばかりだけど、二~三年で魔法世界全土に流行らせて見せるわ!』

 大量注文に備えて公表はしていないが、販売価格を考えるとジェンドが気軽に買うのは難しそうだ。今は投資に見合う成果を期待するとしよう。


(サンドライトは……様子見ね。ジュリアンとパトリシアの件に関しては言葉を(にご)す傾向がある。やっぱり動機も一致した忠誠とは違うわ。)

 それにサンドライトはジュリアン達に隠れて使うのは難しいだろう。彼女に渡すのは無しだ。

 自陣営を強化する際にジュリアン達も強化する事になったら目も当てられない。


 欲を言えばもう少し早く欲しかったが、こればかりは止むを得ない。

(今学期は教科書の確認と《封印石》と《人形呪具》の量産で手一杯だったものね。)

 《エーテル球》は兎も角《エーテル水晶球》は二学年でも出来そうだったので、予習が間に合えば幾つか渡すのもアリだったろうが、所詮捕らぬ狸の皮算用だ。


 戻って来た使い魔によると、今晩なら都合が付くとの事。

 さてはて。



 調査に訪れていた魔女狩り達も既に無く、様々な占いを加味した結果、新学期までは何事も起こらないと判断されたらしい。


 尤も占い結果というものは、知られれば知られる程に精度が落ちるという。

 まあ自分が犯人側の視点で考えれば、占いで何かを言い当てられたと知った時点で計画変更を視野に入れる。納得のいく話だと思う。


 なので校庭をうろつこうが別段不審者扱いされる事も無い。

 待ち合わせ場所は寮の裏手、但し学園街や秘密の森とは逆方向。

 寮の裏手にあって渓谷地帯と呼ばれる、立ち入り禁止の実習用区画。


 寮からも近い割に秘密の森とも近く、若い学生ほど好んで近寄らない辺りにある、木々の影。そこに幾つも廃墟があった。


 ここは禁忌戦役の頃に破壊された、難民用住居や軍事工房の跡地。

 危険が無い事は調査済みだ。此処の残骸(ざんがい)自体は学園も把握している。

 だが敢えて撤去(てっきょ)するには費用も馬鹿にならないそれらは今、四五学年の生徒達に溜まり場として利用されている。


 普段申請しても中々通らない談話室や訓練場の代わり、教師がフォローしない自習場。

 ここに来る事自体が落ち零れの証と呼ばれる一角。

 それが〔残骸区画〕と呼ばれる場所だ。


「ふむ、ここね。」

 使い魔が運んで来た地図に従い、一見して崩落した様にしか見えない洞窟の奥に踏み入ると、瓦礫(がれき)に偽装された扉を見つけて呪文を唱える。


「『盟友に勇気を、誓いに鍵を』。」

 呪文を唱えると瓦礫が下のタイルに収納されて扉が自動で開く。この扉が閉じると瓦礫が出現し、扉を固定したとしても一定時間で閉鎖状態を復元する仕組みだ。


 この場所は残骸区画の中でも比較的状態が良く、特に避難場所として再利用されていた時期もあって他所よりは環境も良かった。

 但し、有志学生が管理している割には、という注釈が付くが。


 中に入ると十名程の学生が待機しており、警戒心の籠った眼差しがグラトニーに殺到し、場の空気が軽く剣呑(けんのん)なものに変わった。

「ふむ。どうやら全員集まっている様ね。」

 緊張感あふれる一同を前に、グラトニーは先日のジェンドからの提案を思い出す。



(『我が主殿に五学年の魔術師を十名ほど推薦したい。

 何れも魔法使いとしては才能が無く卒業の目途は無いに等しいが、全員口が堅く一芸を持った、いわば魔法使いとしての才能だけが無い面々だ。』


『あら。それで何処まで話を通す気かしら。』

『君がどの程度かは分からないが、魔術師としての才能をどうにか出来るとだけ。

 但し君が部下に臨む条件として、命を対価としているところまでの予定だ。』)


「……アンタが噂のグラトニーで間違いないな?」

 この場にジェンドはいない。


 条件諸々は全てグラトニーが決める事で、ジェントはあくまで仲介止まり。契約の際にジェンドが今日の契約で何かを保証する事は無いと事前に伝えてある。

「ええ。あなた達全員、私の部下志望で間違いないわね?」


(『良いけど契約するかは私が選ぶわよ?

 それに契約の内容を話す以上、条件に満たなかった者や拒否した者をその場で殺す事態も有り得る。あなたはそれをちゃんと許容しているのかしら?』


『勿論だ。先日の魔女騒動でオレも腹を括ったよ。

 今のままでは彼らに未来は無い。純血の魔法使い達にとって、彼らはただの養分でしか無い。』


『へぇ。一応付け加えておくけど、お姫様方の言い分に嘘偽りは無いと思うわよ?

 実際上限一杯だったのは確かだろうし、私自身言い分は真っ当だと思っているわ。』

『だろうな。実際純血のトップとしては我々に理解もあるし、話の分かる御仁(ごじん)だ。

 オレも掬い上げられなければ五学年に落ちていた側だ。だから分かる。』


 自分達が上位学年だと明言してくれる分、世代的には()()()()とすら言えると語り。

『あれがオレ達の扱いの上限だ。オレ達に選べるのは、使い潰され方しかない。』)



 ここに入った時から自己紹介代わりに呪詛は抑えていない。

 いや。正しくは本来の半分程度までは漏れるに任せている、というのが正しいか。


「まだ部下になると決めた訳じゃない。

 あんたが本当に信用出来るか、分かったもんじゃないからな。」

 一人の言葉に全員が同調し、不信感を前に様子を伺うが。


「論外。信用も何も無いわ。

 私はこちらの提示ずる条件や対価を聞き、部下にするに値しないと判断した者は全員に死んで貰う心算でいるわ。

 部下になった者達には忠誠の証拠として、処刑を命じても良いと思っている。

 主と部下が対等だとでも思っているの?」


「そんな出鱈目(でたらめ)な条件があるか!」

 一同が健気にも杖や武器を構えるが、悲しい程に脅威を感じない。

「そうだ!俺達はお前の都合の良い駒じゃない!」

 そもそも呼吸すら控える程度の呪詛に対し、半分近くが抗し切れていないのだ。


「出鱈目?なら今立ち去れば命は守られるわ。

 そもそもあなた達に信用を保証するのは私じゃない。 甘い汁を吸いたいだけの奴に何を与えろと?

 下らないわね。拒否権は今与えている。

 条件を聞きたいなら、命を賭けなさい。」


「「「っっっ!!」」」

 全員が唇を噛み締め、或いは口籠り躊躇(ちゅうちょ)する。


 一息程度の沈黙が過ぎ。

「……話を聞こう。俺は此処に残る。」

「な!待てよ!」

 一人の言葉を慌てて制止するが、当の本人は首を振る。


「いや、確かに今更信用を口にしても始まらない。

 俺はジェンドを信じてここに来たんだ。命を賭けた話だってのは最初に聞いてる。」

「そ、それは……そうだが。」


「……そうね。信用云々を言うならジェンドに言うべきだったわ。

 あの子を信じたのなら、今更グダグダ言うのは筋違いね。」

「~~~くそっ!これで口先だけだったら只じゃ置かねぇぞ!」


 最初の一人を皮切りに、口々に同意を口にし、一人残らず残る意思を示す。

 全員意外に距離の近さを感じるが、同時に相応の覚悟も感じる。


「なら説明するわ。あなた達が私と交わすのは、魂と直接結ぶ契約。

 私は自分の器の一端をあなた達の魂に直接追加する事で力を与える事が出来る。

 この力は永続的なもので、言ってしまえば魂の増量ね。


 但し器を譲渡した場合、私はあなたの意志に関係無く、常にあなたの魂を吸収し器ごと回収出来る。当然回収したらあなたは死ぬし、抵抗は契約違反になるから出来ないわ。

 そしてこの増量の上限値は、あなた達自身の限界と交わす契約の内容で決まる。

 但し、最初から上限一杯力を与えるとは思わない事ね。」


 ジェンドと交わした説明との違いは、契約そのものの差異もあるが、それ以上に成長や実際に契約を結んだ事で理解が進んだ点も大きい。

 相手が望む力であれば、当初思っていた以上に加工も同調も容易だった。


「契約の内容はシンプル。あなた達が叶えたい願いの為に、私に忠誠を誓い、自分の生殺与奪を握らせなさい。私は対価として、願いに必要な力を与える。

 私にとって忠実であればあるほど、与える力は増すものと心得なさい。」


 説明が終わった後の場の面々は、一律で顔を蒼褪めさせて沈黙が降りる。

(お、おい。今魂の加工とか、器の増量とか言って無かったか?)

(え、ええと。契約で魂を縛る、という解釈かしら?

 その割には契約が随分と緩い気がするけど……?)


(だ、だが確実に契約に違反すれば死ぬな。コレ事実なら相当強制力は強いぞ。)

「???」

 急に囁き合う一同の態度に、今一理解出来ず首を傾げる。


「あ。えぇ~と。済まない、契約した際に後遺症は出るのか?

 魂の加工とか、人格崩壊モノの禁呪だと思うんだが。」


「それを避ける為の契約と同意よ。

 後あくまで加工したものを付け足すだけだから、与える力が少ない方が馴染むわ。

 逆に言えば、殺される気は無いけど同意する、は契約が成立しない。」


 他に質問はと聞くと、年上の少女が手を挙げる。

「ね、願いってどんなのでも良いの?例えば飛行魔法の才能とか!」

 ざわりと周囲の空気が変わる。何故だ。


「適性の低い願い程難しいけど、魔力の器は契約を結んだ時点で増えるわよ?」

 適正程度なら増量分が多ければ割と何とかなる。変化後の練習の方が大事なくらいだ。


「ああ、お金が欲しい系の欲望は止めておきなさい。手段系は願いの質は悪い上に、忠誠心の面で期待出来ないもの。

 自分の衝動や渇望を直接訴える契約の方が上限は大きいみたいね。」

 より良い手段を見つけた時点で乗り換えたいと思う様な願いは、約束を守る意思が弱いのだ。その癖際限が無く増大するので反意に繋がり易い。


「それはこの境遇から抜け出したいとかじゃなくても良いのか?!

 た、例えば俺は細工師として大成したいとかでも!」


「願いを叶えるのは自分だと言うのを忘れなければ問題無いわ。

 けどあなたの好みを変えるのは人格改造の類だから、ある程度の多数派の好みが何となく分かる程度の効果しかないわよ?

 それなら呪具加工の才能の方が便利だと思うけど。」


「是非そっちで!!!!」

 むっちゃ即決された。一応平均以上の才能であって天才化は無理だと注釈しておく。

 イメージ的には自分の経験と知識に他人の記憶をある程度参照したデータベースの追加に近いので、感覚的に適切か否か、客観的に評価の高い低いが判り、器用さが増す程度だ。


 レイリース並に重い契約をすれば仮想人格を独立させる事は出来るが、あれは魂の優位性を保った上での上限ギリギリ。初期状態で九割近く増量した人格系の頂点になる願いだ。

 序でに人格ベースのシミュレーションなのでAIではない。応用の利く計算機の類だから仮想人格の反乱も起こり得ないのだが、流石に彼らにレイリースと同等の力を与える予定は無い。


「一応補足しておくと、私は自分の怪我の治療にあなた達の魂を回収すれば致命傷の治療が出来る。

 それは私側の権利だから、回収の結果願いが叶わなくなったとしても、契約違反ではないのだと理解なさい。」


「ああ。極論契約を結んだ直後に回収しても違反では無いのですね。

 とすると、契約段階で同意していれば後で気が変わっても違反じゃない。

 もしかして我々は契約を終えた後にあなたを殺す事自体は可能だったりしますか?」

「え、ええ。そうねその解釈で合ってるわ。」


 別の一人が竜殺しは手段でしょうかと尋ねながら確認する。

「竜殺しを夢とかロマンみたいな目標にしているなら問題無いわね。」


「オレは複数の発動具が使えるような大魔法使いになりたいんだよな。

 コレだと手段になっちゃうし、多分魔力増量時点で叶うよな?目的に歴史に名を遺すとか、魔法の器用さを願う形にすべきか……。」


「じゃあ契約の際に、主であるあなたを害した時点で契約違反が成立するとしたら、願いの強度は上がるって解釈で間違いないですよね?」

「ん~。デメリット増やし過ぎても配下なのを隠す必要が出来た時に不便じゃない?」


「そ、そうね。けど私があなた達の記憶を読める訳じゃないから、裏切り即死に繋げると不便な時もあるわ。例えばスパイ行為とか。」

(その質問は想定してなかったわ。まあ契約が関わるなら感覚で分かるけど。)


「あ、グラトニーさん。例えば忠誠心の参照に私の記憶を自由に読めるとかデメリット系の文言を加えたら効果増します?」

「増すみたいねぇ……。」

 記憶を読む手間は大変だが、契約時に読み方のイメージの指定をしておけばこっちの負担も減るのでアリっちゃアリだ。


 何かもう、全員拒否する空気じゃない。

 というか呪詛、もう誰も気にしてない。肩の力を抜いて本来の量に戻しても、彼ら彼女らは全く気付きもしない。


「あ。じゃあ結束を高めるために、忠誠誓った面々の呼び名を決めときましょうよ!

 組織名とか、隠すべき情報は厳密な方が!」

「「「賛成!主としては如何でしょうか!!」」」

 咄嗟に振られてもちょっと困る。


「えっと。個人では血の従者で団体だと血の従者達、みたいな?」

「ええと、血の従者達より良さげな案、出せる人ーーー!」

「「「無いでーー~~~っす!!」」」

 あれ?質問だったのに本決まりになった?

 本日2話投稿。後半です。終章はこれで最後なので、四部に続きます。

 契約について面倒だと思った方は、グラトニー的にピンとくるかどうかという解釈で問題ありません。あくまでこれは呪詛なので。

 どれだけ条件化してもグラトニーが納得しなければ無意味。彼女はこういう人物です。


 ニュアンス的には「最高の音楽家になれるなら死んでも良い」はその心意気や由。

 「大事な人間を捧げた分だけ才能を」と願ったところで「捧げるなら自分の手足にしろ」で、手の方は注釈入る感じですかね。

 もし「聴力」を捧げるとか抜かしたら「叶う訳無いだろ屑」扱いですw自分で叶えない願いに興味なんて示してくれません。彼女は才能をあくまで補助輪程度に認識しています。

 一番注目するとしたら、グラトニーにとっての対価でしょう。

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