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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第三部 襲撃の魔女編
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02.呪詛の同化

 魔人ノーティスを倒してそのまま保健室入りしたグラトニーは、教師二人に自分が魔女の呪詛を吸収して自身の呪詛が不安定になっていると語り、数日間身を隠す旨を告げた。


『だって今倒れたら学園長に口封じされるかも知れないし。』

『わ、わかった。まあ、後で呪詛の影響を話してくれるなら口裏を合わせよう。

 流石に何も話さない気なら此処で寝ろとしか言えん。』


 此処まで消耗した状態でこれほど強力な呪詛を吸収した経験は無く、一度眠ったらある程度回復するまで何も出来ないと確信が持てた程だ。

 適当に許可を得て一旦自室に戻ったグラトニーは、その足で鏡の世界に入りラビリスに後を頼んで数日間完全な眠りについた。




 仮面の呪詛は、魂が太刀に捧げられたため結果的には残滓程度しか獲得出来なかった。それでも間を置かず使い魔に変えられた事もあり、割と残っていた方だろう。

 何より。以前《魔女の仮面》を手に入れた経験が十全に活かされ、『空想生物化』を含めた呪詛由来の魔法は、辛うじて全て理解し修得出来た。あの場で見せていない手札は無かったと思いたい。


 問題は【八竜骨の太刀】から吸収した禁忌の欠片を中心とした呪詛だ。

 我の強さは伊達ではなく、結局呪詛の形を維持したままは吸収し切れなかったが、それでも辛うじて全て自身の呪詛として取り込み器の拡張には成功する。

 だがそれでも多少の手掛かりはあった。断片的にではあるが、誰とも付かぬ記憶の一部を入手するに至ったからだ。



「体調はどうですか我が主。」

 呪詛の吸収は自我の奪い合いだ。例え肉体に痛みが無かろうと自我を苛むし、魂の拡張は自我の改造に等しい。

 吸収する側が常に優位に立ち、加工し易い形に取り込んでからの拡張とは言え、手足を増やし神経を巡らせる作業を麻酔無しで行う様なものだ。

 全てが終わった後の覚醒は、その影響が大きければ大きい程、達成感と開放感を与えてくれる。


「ええ。最高の気分よ。」

 極上の成果が得られたのなら、正に歯が軋む程に笑顔が(こぼ)れるというものだ。


「わ、我が主?!」

 ラビリスがグラトニーから溢れ出した赤色の呪詛と共に振り撒かれる恐怖の渦に、全身が粟立ち怖気が走り、飛び退くのを堪えてベッドの傍らに留まり続ける。

 全力で呪詛に対抗しながら、最悪の事態が脳裏を過る。


「あら?御免なさいね。

 でも離れてて良いからもう少し待ってて。今歓喜が溢れて収まらないの。」

(歓喜?憎悪か殺意の間違いでしょ?)

 歯軋りが止めば口元は引きつる様に拡げて歪み、髪を掻き上げる手は痙攣(けいれん)して。

 充血した目から血の涙を流し、むせ返る様に呻けば誰が笑顔だと思うのか。


 それでも後ろに少し下がって、部屋の結界を更に重ねて張れば、溢れ出す呪詛が外に漏れ出す心配は無いだろう。

 全身を黒塗りの人形と錯覚させる程の呪詛が鎮まり、体の痙攣(けいれん)も引いて。


 漸くにして落ち着いたグラトニーは、今度こそ能面の様な笑顔で顔の血を拭う。

「驚かせたみたいだけど、これは本当に歓喜よ。だって朗報だもの。

 こうとなったら是が非でも学園長の魂は欲しいわね。」


 深々と溜め息を吐いた声はようやく平時のもので、ラビリスも元の位置に戻って椅子に座り直す。

「意図をお伺いしても?」


「別に深い意味は無いわ。魔力や呪詛に溢れた魂は私の力を容易に引き上げるから。

 短絡的だけど学園長を倒すのは過程になるかもね。

 こっちも質問するけど、あなたは仮面と墓守の関係をどの程度知っていたの?」


「残念ながら殆ど知りませんでした。

 サンドラも姉夫婦が入学に手を尽くしてくれた事は知っていましたが、年が離れた義理の兄との面識は殆ど無かった筈です。

 親しくなる前に死別してしまったと悔いていましたので。」


「ではあなた達に〔魔女の饗宴〕との繋がりは無かったのね?」

 ラビリスが魔女化したのは十二年前、サンドラを解放するための研究の結果らしい。

 卒業するかどうかのタイミングで禁忌が討伐されたため、実際には縁が無かったというのが正しい位だと言う。


「では主は〔魔女の饗宴〕と事を構える方針なので?」

 些か急な話だと思ったラビリスは、爛々と目を光らせるグラトニーに息を止める。


「実はね。遂に見つけたの。私が探していた、私が殺すべき相手。

 盲目の魔女ハイネ。〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕の首領代理になるらしいわ。」


 知ってる?との指摘に慎重に首を振るラビリス。満面の笑みを浮かべる今のグラトニーは、嘘偽りを口にした時点で殺されるという確信があった。


「まあ。それは仕方ないわね。でも急がなくちゃ。

 何せ向こうから来るかも知れないのに、万全の準備が整わないだなんて有り得ないわ。

 これからドンドン忙しくなるわよ。」




――「私の呪詛は記憶を覗く類の力じゃないわ。

 だから分かるのはあくまで吸収した呪詛や魂に関わるものだけ。」

 教師ドロテアとマタハリを前に、念押しをしておく。


「あの太刀に封じられていた禁忌の欠片は魔法で作ったコピーでも断片でも無いわ。

 正真正銘、禁忌の魂の一部よ。学園が封じた禁忌の魂は三分の二以下。

 あの太刀に封じられていたのは残りを三分割した内の一つ。禁忌の魔女は自分の魂の一部を分割して武器に宿していたようね。」


「ま、待て!なら残りの二つは今どうなっている!」

「多分他の呪具にでも宿してあるんじゃないかしら?いつでも指示を仰げるように。」

 本日二話投稿。後半です。

 鏡の世界の中は回想、保健室が現実です。ですが教師達に語られたのは本当に僅か。

 禁忌が元々完全封印されて無くて、魂の一部が普通に活動していたという衝撃的事実に、仔細を追及するどころでは無くなりました。

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