終章 開幕の為のエピローグ 01.取り敢えずの結末
駆け付けた教師ドロテアは隠し部屋から出て来たグラトニーを見て、錯乱しながら絶叫し息絶えた。
別に死んではいない。単に過呼吸?倒れた勢いで咽返ってのたうっている。
(何してんのと何があったと何やらかした?とにかく一度に全部言おうとしたのね。)
割と体力と魔力的に一杯一杯だったのに、唯一遊撃が出来る立場だったので必死で箒を使う魔力を節約しながら階段を駆け下りてきたようだ。
状況を整理しよう。
教師ナイトメアの体を使って現れた禁忌の意思。これはこっちの折れた【八竜骨の太刀】に封じられていた、禁忌の魂の欠片だった。所謂分御魂、憑依体というべきか。
怪我の治療をしながら全員起こすと、特にアヴァロンはナイトメアに完敗した事を地団太踏んで悔しがった。封印素材はジャンケンで勝利し、何とか回収に成功する。
で。欠片の言い分を確認するため、封印を解いた。
「お前がかよ!」
「何故怒るの?必要な事じゃない。」
教師ドロテア、再び過呼吸に陥る。
「話を進めるわ。分からなかったら他の誰かに聞いて。」
隠し扉は赤土の砂地の下、但し螺旋階段の影だ。
階段の裏に杖を嵌めて『十三階段』の呪文を唱えると、砂が飛ばされて隠し階段が顔を出す。砂を戻さないと螺旋階段を上るには梯子が必要なスペースが空くのだ。
「だから飛び降りた後ろにお前がいたのか。」
普通に心臓に悪かったぞと怒られる。意外と怖がりなのねと納得したらドロテアは顔を抱えて泣き始め、全員に肩を叩かれて労われていた。
「で。中にはこの台座しか無かった訳だ。これが何か分かるの?」
「この太刀よ。鞘を当て嵌めればほら、ピッタリ。」
反応は半々だ。首を捻る者と頭を抱える者。
「で、何が変なんだ?」
「ここにあった筈の太刀で、ここの封印を開けようとした事がよ。」
「しかも最初から禁忌の魂の欠片は外に出ていたんだ。順番がおかしいだろ?」
外に出た禁忌の魂を入手したナイトメアが、封印に戻す手段を探していた?そんな馬鹿な話がある訳が無い。説明されたポートガスは首を捻る。
「本物の封印が別の場所にあるってだけだろ?」
「それを何故禁忌達は知らなかったの?わざわざ伝言を飛ばしたのよ?」
禁忌は想定の範囲だと言っていた。更にグラトニーは知っているが、此処には墓守の魔女がおり、学園長ですら干渉出来ない状態だった筈。
太刀が持ち出された事、魂を封じた場所として用いられた事。どちらもおかしい。
まして少数精鋭であった貴重な部下を、二人も使い潰してまで得た情報だ。
「まあ手掛かりが足りないわねぇ。
禁忌達は確信を得たけど、私達には必要なヒントが出揃っていないのかも。」
何せ七不思議の最後に訪れる場所だ。色々確認する事はまだある。
「しかし、教師ナイトメアの正体が仮面の魔女改め魔人ノーティスの正体ねぇ……。」
学園長との裏取引といい、頭が痛いわーと遠い目でドロテアは語った。
後日。職員会議は揉めに揉めたという。
「あなたは本件で一番の重傷者です。
事情聴取中も含めてベッドに拘束させて頂きます。」
皆と揃って保健室で治療と診察を受けて早々。嫌なら新型毒物の実験台にすると脅され、急ぎの用事は無かったのでまあいいかと一旦指示に従った。
教頭ムーンパレスは自室で封印されているのを発見されたが、事前に駆け付けた教師達の証言では間違いなくそんな封印は無かったと確認が取れている。
恐らく教師ナイトメアが調査後の部屋に戻し、発見を遅らせたのだと予想されているが実際に閉じ込められていた場所は判明していない。
「教師マルガルはね。魔法議会に元〔魔女の饗宴〕だった両親がいるの。
その関連で真っ先に裏切者疑惑が出たんだけど、純血のお嬢さん方と行動する事でその辺のアリバイが確認出来たわ。
結果論かも知れないけど、純血のお姫様相手だと計算通りでも驚けないのよね。」
しかも本人自身が魔女と関わりがあったという噂もあり、今でも〔魔女の饗宴〕絡みの事件では時々有力容疑者に上がるくらい、関係は深かったという。
「元魔女が魔法議会に現役で所属しているの?」
「〔魔女の饗宴〕は魔女中心だけど、禁忌の部下全てを指すのよ。」
詳しく聞くと、魔法議会は禁忌戦役と呼ばれる全面対決の際に、一度陥落して禁忌の支配下に置かれていたという。
ナイトバロン達が奪還するまで魔法世界は殆ど禁忌の支配下にあった時期があったとの話だった。
「そんな訳で〔魔女の饗宴〕に所属した魔法使い自体は実は珍しくないの。
親世代が禁忌時代の詳細を語るって事は、自分が犯罪者に与した経験を語るのと同義になる者達もいるわ。それが禁忌の事を皆が語らない本当の理由。」
「戦争だったからって割り切れないの?」
「逆に聞くけど、甘い汁を吸わなかった証明。どうやってする?」
「成程。」
迫害側に回る事で難を逃れる。良くある話だ。
被害者が隣にいる中でその家族を売った証拠を開示する?無理だろうなと断言出来る。
誰も彼もがお互いを疑いながら、臭いものに蓋をしている。
「唯一信じられるのはナイトバロンだけ、か。そりゃ運命の子は期待されるわよね。」
最高の偶像ではないか。
「……嫌な言い方だけど、その通りよ。
誰も彼もがナイトバロンの息子を中心に、信用出来る裁きと政治の復活を望んでる。」
噂に聞くナイトバロンはあらゆる意味で黒い噂が無かったという。
脳筋。正々堂々。理屈抜き。特徴を上げるならそんなところか。
「な、ナイトバロンは悪事を難しいとか細かいとか公言する青年だったから……。」
「それフォローじゃないし。」
成績だけの優等生。彼を味方に付けようとした犯罪者は悉く心が折れたという。
「おーっす。調子はどうだい?」
「重傷といっても一番は出血量ですからね。『造血丸』飲ませて『ポーション』使えば細かいところは経過観察です。
食が細くないので明日まで大人しくしていれば大丈夫かと。」
「私に聞く質問じゃあ?」
「あなた痛み感じてます?」
「失敬な。気にならないだけよ。」
揃って溜息を吐かれた。
ドロテア曰く、調査のために当分魔女狩り達が出入りするが、数日後には授業再開する手筈だと言う。学園に魔女狩り常駐させる話も出たが、学園長が一蹴したという。
「学園以上に守りの厚い場所は無い。死者は犯罪者だけなのに何故大事なのかだとさ。」
「うわぁ……。あのサボり魔が言ったの?うわぁ……。」
尚、保健室にはサンドバックになる人体模型がある。
「淑女の会が手を打ったお陰で預言者寮は五学年以外の被害はほぼ無い。
先駆者寮は苦戦したが、重傷者も殆どない。
探求者寮は……。普段より負傷者が少なかった。」
「あの寮って毎日怪我人出ているの?」
「そりゃ奇人と研究者の寮ですから、重傷者は少ないですけど。
毎年人に戻れなくなる生徒が出るのはこの寮だけですよ?」
「……何故預言者寮は、五学年だけ被害が?」
「お姫様方が対処しなかったからだ。
元より自分達は下級生、守れる人数にも限界がある、とな。」
実際その通りだし、何より五学年は下級生を守る側だというのが淑女の会側の言い分だという。実際学園の認識としても反論の余地は無い。
だが、一番汚染された生徒が多かったのは全寮共通で五学年だった。
現状は被害者である五学年へ、何らかの処罰を求める意見が上る程だという。
(事前に気付いていて庇わなかった線もあるけど……。聞いても答えないでしょうね。)
身を危うくする言質を漏らす相手ではない。元々大した興味も無い事柄だ。
「それで学園長が行った取引に付いては?」
「学園長曰く元〔饗宴〕関係者は珍しくないし、何より予言でジュリアンに殺される事は伝えた上での話だったと答えたよ。
予言成就を考えると見えないところで暗躍される方がデメリットが大きい相手だったと言われたら、まぁ他の教師が誰も魔女だったと気付けなかったしな。」
実際教師ナイトメアが黒だったと聞いて頭を抱えたのは全教師共通だ。
「正直、事情を聞いちゃうと……うん。よく学生達に分け隔て無く接したよ。」
「まぁ。学園長の責任問えないのに、教師ナイトメアを責めるのはちょっと無理があるというのが教職員全員の本音でしたよね。ええ。」
際立った才能こそ無いが、最も学生に親身で真面目。他の教師同士の間を取り持った、いわばムードメーカー的存在。それが教師ナイトメアへの総評だ。
結局学園長の責任で魔女狩りの調査受け入れだけ同意させて、事は終わりとなった。
教員としては不満も残るが、魔法議会が通したのなら処罰も此処までだ。
「で?治療直後の数日間、失踪に見て見ぬ振りをしてやった成果はあったんだろうな?」
昨日はグラトニーの面会謝絶が解けた日。と同時に保健室に帰還した日だ。
本日二話投稿予定。前の方です。
前半は地下墓地、後半は保健室に戻った後の話です。
事情を聴く際、グラトニーだけは一番の重傷を理由に隔離されました。
最後の最後で微妙に話が食い違っているのは演出上の都合、回想と現在の会話が混ざっているからです。この辺が二話投稿の理由でもあります。




