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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第三部 襲撃の魔女編
60/211

03.大罪の呪詛

「全く。運命が何だって、皆騒ぎ過ぎじゃないかしら。」

 全員致命傷じゃないにせよ、事実上全滅したジュリアン達に溜息を吐くグラトニー。

 流石にナイトメアも苦笑いを浮かべる。


「しょうがないさ。今のこいつらは殺し合いの覚悟が出来てないだろうしな。

 本来の預言より一年は早い筈だ。」

「あらどういう事かしら。」


 分身に勝てたのはジュリアン、サンドライト、レイリース。但し全員気絶済み。

 アヴァロンは早々に脱出を諦め傍観(ぼうかん)に徹している。


「本当は俺達の襲撃は来年まで念入りに下準備を済ませて行う筈だったのさ。

 だが誰かさんが次々と手勢を発見し、治療すら始めた。お陰で所在が突き止められそうだと、慌てた埋伏が前倒しの決行を要求したんだ。」

 本来であれば、此処を訪れるのは七不思議の最後、全てのナイトバロンの遺産を揃えたジュリアンの手で、墓守の魔女サンドラが討ち取られる筈だったという。


「へぇ。その段階から預言がズレていたのね。」

「いや。預言がズレたかどうかは俺達の予想止まりだ。サンドラが誰の手にかかるかを記した預言は無かったからな。単に学園長が手筈を整えていただけだ。」


 けれど同時に、異世界の住民が居ない状態でなされた預言が、どの程度の精度かは確証を持てる者はいないという。

「そういう意味でも、預言を信じている側からも学園長は信用ならんのさ。」

「へぇ。予言に異世界の要素が含まれないなんて初めて聞いたわ。」


「天文学の領分だからな。先駆者(パイオニア)なら兎も角、預言者(プロフェット)なら仕方ないさ。

 だがまあ、情報や手掛かり、縁が深い程予言は精度を増す。

 逆に言えば障害や妨害だらけの魔女、それも禁忌の主が関わる予言の精度がそこまで高い筈は無い。

 その辺は俺の仮面と同じだな。お前さんの分身なんざ五割再現すら無理だ。」


 一切油断せず、慎重に太刀を構えるナイトメア。

 既にゴーレムは破壊して破片も再利用出来ぬよう回収し終えたが、あれが最後の一体と断言する根拠は何も無い。


「つくづく惜しいわね。あなたの様な人間ほど部下に欲しかったのだけど。」

 既に覚悟を決めた人間を何度も勧誘する程無粋になった積もりは無い。

 何よりも呪具の扱い、魔法の技術では明確に格上。

 事ここに至っては『傲慢(ごうまん)』を抑え続ける意味も無い。


「ほんとう、あの子達の意識が無くて良かったわ。

 彼らを皆殺しにする準備出来て無いもの。あなた相手に手加減なんて到底無理。

 最後に聞いておくけど、あなた学園入学前に私と会った事ある?」


 生きとし生けるものを刺激する恐怖を撒き散らし、漸く自由になったと軽くなった体を実感する。

 浮かべる笑みは妖艶ですらあったが、魅了される者など一人とていまい。


「ん?ああ、お前さんの仇の話か?

 根拠の無い心当たりなら一つあるが、少なくとも俺じゃない。

 隠す意味も無いから言っておくが、俺以上の変化使いは魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)にはいないぜ。」


 殺意に満ち、敵意に溢れ。

 生き物に等しく死の予感を与える呪詛、瘴気の渦がグラトニーから溢れ出る。

 互いに弓を引き絞る様に狙いを定め、隙を伺い。


「『我が現身よ、素は悪夢、奇形異形の怪物なり』!」

「『無垢なる巨人よ、総身の無双を、我が身に宿せ』!」


 《浮き盾》を掴み『巨人の左籠手』による怪力呪文の膂力(りょりょく)で肉薄し、叩き付ける。

 が。《浮き盾》を巨大な手が鷲掴みにしてグラトニーごと投げ飛ばし、別の《浮き盾》を背にして加速を殺す。

 一振りで壁まで離されたグラトニーは、盾から着地しながらもう一方を引き寄せ、手の主を睨む。


 果たしてそこに居たのは平屋天井に届く程の体躯に、胴体と同じくらい大きな恐竜か(くじら)を連想する歪な牙付きの頭部。人間比で言えば常人の倍は長そうな鉤爪付きの太い五指。

 腰から生えた槍の様に長い尻尾を振り回し、上体は筋肉で膨れ上がり。


 怪物の形をした大男が瘴気を漲らせて巨大化させた太刀を振り上げていた。


(成程。こんな魔獣、聞いた事無いわね!)

「『亡霊よ、影を映せ、形に力を宿せ』!『お前に、騎士の剣を、与えよう』!」


『全力だ!手加減せずに叩き潰すから乗り越えて見せろ!』

 咆哮の様な声と共に異形のナイトメアが走り出す。

「『浮かべ箒よ、空を舞え』!」


 迫る《飛び杭》を容易く弾きながらの一撃を天井を滑る様に飛び、反撃に動く前に《浮き盾》二つをぶつけて追撃を防ぐが、即座に火の鳥が足止めに飛び掛かる。


 《亡霊騎士》達は倒れた一同を纏めて担ぎ上げて雑にアヴァロンの後ろに置いて、グラトニーは火鳥を『暴食』で吸収する。


「!『嫉妬よ!』」

 《浮き盾》が弾かれたと認識する間が辛うじて。瞬く間に壁を走り大剣が迫る。

 膨れ上がる呪詛が距離を詰め切ったナイトメアの太刀を止めるが、常人なら己を断ち切る筈の呪詛に包まれて尚、強引に刃をグラトニーへと叩き込む。


「『宿れよ仮面、素は幻想、呼び出すは鎌鼬なり』!」

 最後の《浮き盾》で一撃を受ける傍ら、《妖刀》と《飛杭》の包囲網を全てナイトメアから放たれた『鎌鼬』が弾き飛ばす。


 残滓は戻った《浮き盾》で凌げたが、武器人形では手数に劣る。

 それでも戦力外を運んでいた『亡霊騎士』三体が追い縋り背後から攻め立てるが、距離を離す間に一つ一つと、鍔迫り合いに持ち込まれる度叩き潰されていく。


(実在しない怪物への変化に、異常な程の身体能力。

 さしずめ外見は愚か身体能力も含めて想像上の存在を体現する変身魔法と言ったところかしらね!)

 武器人形の援護は無意味と見切り回収し、全ての『亡霊』が粉砕される直前に<戦火の武器庫>を間に合わせて『投槍』を次々と飛ばして行く。


 だが鉄の様に硬い大男の体は、多少の手傷を覚悟すれば容易に間合いを跳び越せる。

 壁を蹴り天井を跳ね、周りを旋回する《浮き盾》で受け止めるのが精一杯で。


「<茶菓の怪物>よ!」

 盾を掴んだ手に、その裏側に。次々とケーキやミートパイ、クッキーが文字通りに牙を剥き舌を絡めて怪人ナイトメアに襲い掛かる。

 一つ一つは兎や猫に等しい小動物サイズであっても、十を超え五十と増えればピラニアの群れにも等しく獲物を喰らい尽くす。


『甘いぜ!素は悪夢、奇形異形の怪物なり!』

 再び吠える様に呪文を唱えた怪人の体からは無数の棘が針鼠の様に飛び出す。

 腹を殴り飛ばす様に割り込んだ盾を掴み捨てると、既に最初の盾ごとグラトニーの姿は背後に回り込んで着地して。


「『巨人剣』!」

 繰り出した巨大な剣は、刃を掴まれて地面に叩き付けられた。




 グラトニーは自らが大罪の呪詛と呼ぶ七種類に派生した呪詛を持っている。


『暴食』(グラトニー)……魔力を器ごと奪える力。自身に危害を加える者が対象となり、攻撃魔法等も吸収出来るが殆どの場合消耗の方が大きい。尚、一度奪った力は返還不可能。


強欲(グリード)』……暴食で吸収した魔力や奪った能力を修得、複製する力。吸収した能力を全て修得出来る訳では無く、正しくは奪った他者の魂や器を自身の器に同化させる力だ。

 但し吸収出来る力は全て解析可能であり、魂を吸収すれば固有術式すら習得可能な程の分析、拡張能力を有する。故に繰り返し吸収する事で器が含まれずとも習得は可能だ。


色欲(ラスト)』……自身の能力や器を複製し他者に譲渡出来る力。譲渡した力は相手の魂と同化するため、自らの意思で自由に回収可能だ。契約に用いている力がコレになる。

 譲渡する力は複製なので減退自体は一時的だが、譲渡した力は相手の体力や精神力で回復する永続的な代物だ。要は魔力で自分の魂を複製し、相手に付け足す上限値の追加だ。


怠惰(スロース)』……言葉に出した要求を強要する力。命令限定の言霊というべきか。

 その本質は洗脳では無く脅迫にあるため、従った場合は何も起きない。ただ拒んだ時に込めた魔力分の殺意が使い切られるまで苛み続ける。実は逆らった時にしか発動しない。


傲慢(プライド)』……周囲に恐怖を振り撒く力。相手の距離と害意に応じて影響力や濃度が増す。

 敵意や害意が強い程効果を発揮するが、殺気を消しても効果対象になり、何より自身が敵と見做せば問答無用で効果が及ぶ。反面、精神以外には一切影響を与えない。


嫉妬(エンヴィ)』……自身への攻撃を全て自殺含めて敵対者達に狙いを逸らす力。自ら相手を指定しない限りは誰に狙いが反れるか自分にも分からない。

 反射対象はあくまで危害を加える者であり、敵の数が多い程呪詛は増す。『傲慢』を用いる事で更に効果を強める事が出来るが、危害を加えない者には完全に無力だ。


 そして最後の一つであり、唯一物理的に、実体や肉体に効果が及ぶ呪詛。


憤怒(ラース)』……自らの殺気や意志の具現化。実体化する程に呪詛を圧縮する力。粘体状の魔力を視覚化硬質化して変形自在な凶器として操る。

 形状自在で盾なら透明状態でも強度を保てるが、攻撃の際は赤黒さが増すほど魔力圧縮密度と変換効率が増す。より殺意を鮮明にするほど呪詛の質が上がるのだ。



「『憤怒よ』!剣諸共塗り潰せ!!」

「何?!」

 全身から溢れる赤い光が弾け、壁に五つの柱が生えた様に突き刺さる。


 グラトニーの周りに溢れた呪詛の塊が柱を捻じ曲げる様に軋みながら持ち上げ、まるで巨大な手の様に折れて。赤い不透明な塊が指先を狙い定める。


(なんだ?何が起こっている?)

 自身より巨大な真っ赤な手の根元に、影の様に赤に紛れたグラトニーの姿が見える。

 初めて見る異様な呪詛に、ナイトメアも触れて良い類の力かと判断に迷う。


(く!やはり強い呪詛程上手く狙えない!曲げる事が難しい!)

 イメージが足りないのだ。あらゆる相手を殺せる激情。全てを砕く憤怒。

 だが硬く重く呪詛を練る程、呪詛は動かず的に当たらない。


(イメージを造り替えろ!殺せない殺意に意味なんてない!

 どうすれば殺せる!どうすれば狙える!)

 槍では溜めに時間がかかり過ぎる。武器として振り回すには生身が追い付かない。


 怒りの侭に今ある五指の槍で指先を並べるように突き立てるが、当然の様に檻にも入らず後ろに飛び出す異形の怪人。


 咄嗟に指を開くように下から壁を抉るが、容易く(かわ)された上に中指を跳ね上げて折られかける。

 強引に指を戻すが今度は内側から第一関節辺りを切り裂かれ、握り締めても容易く隙間から飛び退かれる。


(駄目だ駄目だ!手の動きなんか再現しても碌に狙えない!

 もっと柔軟に、もっと自在に!)

 今の『憤怒』は正に暴れ馬だ。出力に振り回されて形状すら不鮮明なまま暴れ狂う。


(いや違う!威力が強度に依存するのは物理の話だ!魔法は物理現象じゃない!

 殺意の強さが硬さに捕らわれる訳が無い!)


 硬質化した殺意を関節では無くうねりを意識してくねらせると、地面を抉りながら指先だけに圧力を、密度を凝縮すればと気付き。

(蛇!)



 五頭の大蛇が鎌首をもたげて次々とナイトメアに襲い掛かる。

(くそ!段々と狙いが定まってきている!早く距離を詰めないと!)

 焦るナイトメアは首の下に潜り込むが、まるで手の甲を裏返す様に胴体部が地面を圧し潰し、咄嗟に間合いから離れる。


 一度全ての首が離れたが、壁から壁に届く巨大な呪詛の塊には間合いなど然したる意味は無い。天井を使い壁を跳ね、辛うじて胴部を削るが奥まで狙う余裕が無い。


 元よりナイトメアは魔力総量で圧倒的にグラトニーに劣っているのだ。

 実力や練度こそ勝っているが、それ以外の出力も総量も決して恵まれた存在じゃない。

 才能なんて無かった努力しか無かった。魔人の根源は願望であり渇望だ。


 魔力に恵まれていれば自分を誇っていた。

 才知に溢れていれば変身願望など抱く必要も無かった。

 情けなく膝を付く自分が嫌いだった。


 強い自分。英雄にも負けない自分。怒りを自制出来る自分。

 理想を体現するために自分が邪魔なら、自分なんて要らない。だから仮面。

 魔人は自身の歪みを糧に、魂から魔力を産み出す。限界を超える。超える程に魂が歪み人に戻れなくなっていく。原形を失う。だから限界がある。


(『そこまで歪んでおいて何故無能人か否かに拘るのかしら。あなたに必要なのは、復讐を果たす、残された家族を救う。それ以外の全てを捨てているのでしょう?』)

 復讐に必要な力なら貸してやると太刀を渡された。彼の者は加減が出来ないから家族を救うのは自分でやれば良いと。


(『空想生物化』は全てを一つの魔法で行う分、消耗の桁が違う!

 五分に追い込まれたら詰みだ!)


 与えられた魔剣【八竜骨の太刀】は切った相手の魔力を奪って蓄え、寿命や生命力を刀に注ぐ事で魔力を産み出す。

 云わば回復特化の『暴食』と言えるが、既に今迄溜め込んだ分と埋没の魔力は殆ど枯渇して術が切れかかっている。もう選択の余地は無い。後は隙だけだ。


(お前がこの蛇で満足するとは、思わねぇよなぁ!)



 鎌首が決して絡まる事無く獲物を狙い続けるが、その全てを治せる掠り傷で凌がれる。

 元より実体無き呪詛の塊だ。重なってもくっつけて通り抜ければよい。

 だが五つの頭脳が狙いを定め続けても尚、獲物を捕らえるには至らない。


(人形の真似事では速さが足りない……!)

 技術で勝てないのは既に理解した。

 先程の<茶菓の怪物>を蹴散らしたのと同じ、剣山の棘で潰し返そうか。


(駄目だ。圧し潰す攻撃は今一番警戒されている。)

 肌身から毒の様に瘴気を振り撒こうか。


(無駄だ。そもそも漏れるに任せた『嫉妬』が突き破られている。)

 むしろ全てを『憤怒』に回そう。無駄を減らせば速さも上がる。

 だが足りない。読み合いで追い付けないと首を一つ飛ばされて悟る。


(そもそも頭数に頼ったのが間違いか。)

 次の瞬間、全てを呑み込まんと牙で埋め尽くされた口内が洞窟の壁ごと怪人を囲んだ。



 巨大な刃が、洞窟の半分を埋め尽くした口を切り裂いた。

 赤黒い影に紛れて視認が遅れ、辛うじて硬質化した盾と埋め尽くす『憤怒』の壁で受け止める事に成功したが、死力全てを振り絞るかの如き一閃は止まらない。


 鉄の筋肉に等しき憤怒の壁を引き裂き続けて壁際まで押し込まれ、太刀が地面を削った瞬間咄嗟に腕を跳ね上げて刃を振り抜かせる。

 脇腹と肩から出血し、憤怒が維持出来ずに膝が折れるが、咄嗟に足を踏みしめて腕を振り上げた所に、尋常の長さに戻った刃が籠手に打ち付けられる。


 余力が無いのはどちらも同じままに、籠手と太刀で強引に競り合う。

 グラトニーは憤怒が解けて、ナイトメアは人の姿に戻り。

 そして何より、じりじりと生身の力でグラトニーの首筋に刀身が迫る。


「お前さんならよもやと思ったがな……!

 防御術の基礎。魔法使いが剣の間合いで切り合えば負け確実だ。

 お前さんが呪詛に意識を向ければ、その瞬間に俺はお前を切、」

 鮮血が飛び散り、ナイトメアの力が緩む。


「グラトニーは、殺させない!」

 いつの間にか意識を取り戻し、震える足で立ち上がったジュリアンが剣を構え直す。

 黄金獅子の剣の刃は血に濡れて、ナイトメアの背中からは血が流れ続ける。


 手当が間に合えば致命傷ではあるまい。だが、魔力を殆ど失った体では只の失血ですら意識を保つ気力を奪い続ける。

「は。流石は運命の。いや、俺が見込んだ生徒達だ。

 良く、頑張った。」


 膝を突き、太刀を杖にして二人を振り向き立ち上がる。

「き、教師ナイトメア!」

「同情はするな。俺の死は、いや。お前達は、確かに俺を殺した。

 だが否定するな。卑下するな。お前達は自分達の為に、必要な事をした。

 お前達が手を下したから、そこの今、気絶している、連中は助かった。忘れるな。」


 捕まえるという選択肢は無い。よく見れば既に手足にヒビの様なものが入っている。

 何より今、一撃だけなら反撃する力を使って遺言を残しているのだ。

「勝ち逃げされた気がして面白くないわね。」

 正直な感想にそりゃあいい、と笑われる。


「だったらそう思ってろ。今の〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕、十人残って無かった筈だ。

 俺以上の武闘派か、癖の多い奴だけだ。もっと強くなれ。次は甘くない。」

 言いたいだけ言い終えたナイトメアが、体を起こして刃を首に添える。


「まっ「禁忌の主よ、我が最後の魂をあなたに捧げます。」!」

 ジュリアンが慌てて手を伸ばすより先に、喉を貫く教師ナイトメア。

 飛び散った鮮血は思いの外少なく、何より刺さった太刀から心音が響いて瘴気が辺りに漲り、ナイトメアの体を包む。


「な、何だ?一体何が。」

 判断を間違えたかと動きの鈍った体に鞭を打つが、瘴気が黒ローブをまとった別人の姿に変わったのを見て、手遅れだと悟る。

 ジュリアンも慌てて剣を構えて切りかかるが。


「止めておけ愚か者めが。全く以って苛立たしい。

 お前達の魂を糧とすればあるいは我が望みが叶うまで息を永らえるかも知れんが、流石に無粋と部下への労いが足らぬ。

 邪魔をせぬなら今回はお前達の勝ちを見逃してやらなくも無い。」


「あなたが禁忌の主、禁忌の魔女なのかしら?」

 驚くジュリアンを脇に、瘴気をまとった死霊はナイトメアの体で鼻を鳴らす。

「所詮欠片だ。今捧げられた命では伝言を残す程度の力しか残っておらんわ。」

 瘴気で鳥を作る禁忌の欠片とやらに、慌てて切りかかろうとするジュリアンの肩を掴み押し留める。


「賢明だな。本来であれば魂を捧げるのが遅過ぎると詰るところだが、どうやら我が唯一の魔人は妾への忠義を失った訳ではない様だ。

 主に恥を掻かせぬ忠心を、無下にする訳には行かぬからな。」

 面白くなさそうに再び口を歪めて、禁忌の欠片は瘴気の鳥を転移させた。


「あら。何か予想外があったのかしら。」

「予想の範囲内だ愚か者。そこの無駄な封印を開けてみればわかる。

 ではな。次に相見える時はきちんと首を垂れよ。」

「ッ『暴食』!」


 行きがけの駄賃とばかりに瘴気の渦を放る禁忌の欠片。

 咄嗟に出した『暴食』で瘴気を喰らい、判断が甘かったかとナイトメアの体も諸共に喰らい尽くす。


 既に残滓程度の命が砕け散り、塵の様に全て消え果る。

 後に残ったのは、欠片の魔力すら失ったひび割れた太刀だけだった。

 第三部決着。一年編は終わり、後は終章だけです。

 第四部からは二年編になり、魔法使いとして最も重要な発動具を手に入れる話になります。

 グラトニーも本格的に学園探索に乗り出せるようになりますが、物語自体は全て学園内で完結する予定です。今後は更に正義の味方には許されない展開となるのでご覚悟をw

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