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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第三部 襲撃の魔女編
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第六章 運命の分岐点 01.仮面の慟哭

 階段を下る。下りる。回り続ける。

 まるで悲鳴の様な恐怖が突風の様に苛み(さいな )、こびり付く。

 嘆き声が木霊(こだま)する様だ。呪いが今にも耳に響きそうだ。

 恐怖が逸る気持ちを(くじ)き、皆が無言で後に続く。


「何か、入学当初の頃を思い出す様な場所だなオイ。」

 緊張に耐え切れなくなったポートガスが青い肌から更に血の気が引いた顔で呟く。


「良くこんな軽口が叩けるわね……。」

「黙っている方が辛いんだよ。分かれって。」

 非難めいた視線を向けるパトリシアはジュリアンの腕にしがみ付いている。


 当のジュリアンはと言えば。

「そ、そうか。昔の皆はこんな気分だったのか……。」

「「「………。」」」


「いや悪かったって。でも本当に分からなかったんだって。」

「その割には随分と平気そうよね。」


 【浄化の盾】だったか。多分例の秘宝が精神への干渉を弾いているのだろう。

 下っている最中にジュリアンが見つけた七不思議の説明を簡単に受けたが、グラトニーの知る内容とは随分違う趣だった。成程流石正規ルートと思わないではない。


「しかし、グラトニーはこの場所の事を知っていたんだよな?」

「さぁ。でも学園長が知らない筈は無いわね。」

 後ろの道は閉ざされているが、監視の目が無いとは断言出来ない。


 敢えて明言するのは(はばか)られたが、実際後でドームハウスに入った時にでも多少は明かした方が都合は良いかも知れない。

(鏡のとの関係を教える訳には行かないけど、墓守の方はどうすべきかしらね。)


 思ったより呪詛が残っている様だが、所詮残滓(ざんし)だ。

 前回来た時とは比べ物にならない程弱いし、何より進む際の圧迫感がまるで無い。


 階段を下り切ると、かつて見た通り足元には上から落とされたと思われる無数の骨の山と、そこから崩れ落ちたと思しき赤土の先に。

 山の様な墓が中央一直線の道から左右に筋を伸ばし、地下洞窟の奥まで続いている。



 その無数の墓の先頭、縦筋の道の前にある大岩に。教師ナイトメアが腰かけていた。



「ここにはな。文字通りありとあらゆる苦痛を詰め込んだ呪いが溢れていたんだ。」

 後ろを振り向かずに、心の何処かを置き忘れた様な声で一同に話しかける。

「?」


 グラトニーが呪文を唱えようとしたところで片手を上げ、まるで敵意が無いと示すかのように体を起こして向き直る。


「ここは学園の隠し通路で、昔禁忌の侵入を阻むために閉鎖された墓地なのさ。

 本当なら俺は扉だけ開けて何処かに隠れていて、お前達を先に行かせる予定だった。」

 教師ナイトメアの視線の先には、ジュリアンが構える盾と剣があった。


「なあグラトニー。お前は知っているんだろ?ここに誰がいたのか。

 盗聴なら心配しなくていいぜ。念の為俺も結界は張ったが、そもそもここは呪詛が沁み込み過ぎて、あらゆる呪具が狂うんだ。長く置けば置くほどにな。

 上の方の呪詛だって、途中まで下りないと弱くなっていると分からなかったろ?」


 成程。確かに心当たりはある。

「墓守の魔女、サンドラなら死んだわ。知り合いかしら。」

 ああ。と肩の荷が下りた様な笑顔を浮かべるナイトメア。


「嫁の妹だ。詳細は知っているか?」

「知らないわ。私が知っているのはサンドラが肩の荷を下ろしたのだけ。」

 背後で皆が息を飲む中、一歩前に進み出る。

「そうか。ならお前さんは俺の恩人だ。感謝するぜ。」


「折角だから色々聞いていいかしら?

 例えば男の魔女は居ないって、私は聞いていたんだけど。」


「あぁ?そりゃ聞いた相手が若かったんだろうな。

 昔は不老化した男は邪道士とか、邪仙は両方を指す言葉だったか?他にも魔人とか魔王とか。まぁ色々有って、好き勝手名乗ってたんだよ。


 昔は男の禁呪使いの方が多かったが、禁忌の主が有力者を軒並み殺して回った所為で皆名前を隠して闇に潜むようになった。

 魔女云々の話は禁忌の主が部下達を称して魔女の饗宴、ワルプルギスの夜っていう組織を結成した事が切欠の筈だぜ。


 まあ十五年前まで不老化した連中は〔魔女の饗宴(ワルプルギスの夜)〕以外全滅したって話が、歪んで若い世代に伝わっているらしいな。」


 年寄世代は口に出す事も恐れるから、誰も誤解を正さないという。

 成程。まあ仮面の禁呪使いで魔女の一員だったとして、仮面の魔女と言われて訂正する筈も無いのは分かる。犯罪者一味がわざわざ素性を明かして証明するなど馬鹿である。


「百の魔法使いを一人の魔法使いに融合させた、人造魔女の製作実験だったかしら?

 何故あなたは禁忌の魔女に従っているの?」


「決まっている。禁忌の主がそんな無駄な失敗をすると思うか?

 生者に死者を混ぜたらその時点で発狂ものだぜ。禁忌の主が試したのはあくまで魔法使いの、死霊を合成して未練の塊を魔女化させる実験さ。

 勿論この場所が吹き飛んでも構わなかったらしいが、問題はそんな事じゃない。」


 そこで初めてナイトメアの瞳に憤怒の激情が浮かぶ。

「犯人は学園長だ。

 学園長は此処で禁忌を食い止めるため、当時三学年だったサンドラに障壁宝具の呪文と称して百人目として融合させる事で、意図的に人造魔女を暴走させたのさ。

 要は人柱にするためにサンドラを騙して使い潰したんだよ。」


「「「は、はぁぁぁあああああ?!」」」

 ジュリアン達が悲鳴の様な声を出して耳を疑う。

「ま、待って下さい!何か、勘違いや別の理由は……!」


「ねぇよ。学園長自身がはっきりと肯定した。教えたら暴走しないからってな。

 学園を守るために地下に下りたんだから本望の筈だとよ。」

 想像を遥かに上回る外道の所業にジュリアン達は二の句も告げなくなる。


「それであなたは学園長を殺そうとした?」

「ああ。けれど俺程度じゃ到底及ばなかった。

 そこで例の取引だよ。自分も悪いとは思っているから、彼女を開放する邪魔はしない。

 その代わり君もこの学園の為に協力してくれってな。


 すげぇ面の皮だろ?禁忌の主の魂は、此処の下の隠し部屋にあるんだぜ?

 開放する気なんて、欠片もある訳ねぇよなぁ!!」


「本当ね。けど蓋をされた状態でどうやって中に入れたのかしら。」

「学園長は直通の鍵を持っている。門が塞がれていても直接部屋に入れるんだ。

 あれで学園長は魔法世界創設時から生きているって噂もある伝説級の魔法使いだ。最低でも五百歳は超えているぜ。」

 ここ以外なら俺も出口の無い部屋に案内された事がある、と情報を補足する。


「で、ですが禁忌の魔女を復活させたら学園長だけの話では済みません!

 お願いします先生!考え直して下さい!」

 ジュリアンが我に返り口を挟むが、ナイトメアはグラトニーに視線で促す。


「時期が合わないわね。私の知る限り、墓守の魔女が誕生したのは十五年前。

 禁忌が倒されたのは同じ年、その後。

 一体いつ、あなたは仮面の禁呪を手に入れたの?切欠は?」


「確か二十年前だ。当時の俺は禁忌の主から家族を守ろうと戦っていた。

 けれど純血派の連中に妻子諸共闇討ちされたよ。」


 どう思う?とレイリースにナイトメアが水を向ける。

「い、いや。それ、おかしいと、思います。

 だって。奥さんも無能人じゃないでしょう?」

 無能人は珍しい筈だ、かな。だが当然ナイトメアは鼻で哂う。


「論外だ。そもそも俺達無能人はな、お前達魔法世界にスカウトされて来たんだ。

 魔法の才能持ちを向こうに置けない?血筋が卑しい?

 それ全部、お前達魔法種族の都合だけだよな?お前達は、異世界に来て人攫いをしてまで馬鹿にして見下す為の人間を集めているんだよな?」

「そ、それは……。」


 どんどん血の気が引いていくレイリースを見て、ふぅと肩の力を抜く。

「お前さん達が周りにそれが正しいって教わって生きているのは知っている。


 けど俺達は誰一人として、馬鹿にされるために魔法世界に来た奴はいないんだ。

 希望を以て、期待して、素晴らしい場所であって欲しいと期待して来たんだ。

 そもそもだ。サンドラは純血なんだが、当時同級生はなんて言ってたと思う?」


 今度はパトリシアに答えるように視線を向ける。

「そ、それは……自分の意思で生贄になった、立派な人という話にされた、ですか?」

 ナイトメアは、だとしたらまだ救いがあったと首を振る。


「汚れた一族が犠牲になるのは当然だ。連中に名誉なんざ必要ない、だ。」

 無能人の親戚になるって事は、純血でも罪深いんだぜ、と言われて全員が二の句を告げなくなる。

 当然だが、ナイトメアの素性は殆どの学生が知らない。

 隠蔽されて、学園に居た事実すら抹消されたのだから。


「ま。此処まで言えば分かるだろ。

 純血の姫君達は実力主義を掲げてこの辺の問題点を把握している節は見えるが、俺には何か変わる程期待なんざ出来ねぇ。


 俺が知る限り禁忌の主だけなんだよ。

 無能人出身者以外で生まれに本気で興味を感じなかったのはな。」

 最近一人増えたが、と続けて視線がグラトニーに集まる。


「子供を犠牲にしたくない。間違いは正したい。

 けれどそれ以上に魔法世界の在り方は認められないし許せない、かしら?

 それで?私に恩があるというのなら、私に寝返る気は無いかしら?」


 幸か不幸か、感覚的に分かる。彼の願いは叶えるに足る、力を与える事が出来る、と。

「駄目元で聞いているだろ、それ。」

 苦笑したナイトメアが懐から腕輪を取り出し投げ渡す。


「中に二年以降の全教科の教科書と教材。後幾つかの呪具が入ってる。

 お前さん、卒業まで授業受けられるか大分怪しいからな。

 恩着せがましいかも知れんが、本気で感謝しているから封印の解除をお前さん達が追い付くまで待ってたんだ。恩はそれで返した事にしてくれ。」

「認めましょう。」


「禁忌の主は俺に復讐の為の力を与えて下さった。お前さんが先に義妹を解放してくれただけで、別に裏切ってもいない主を否定なんか出来ねぇ。

 そもそも、学園長を殺すのに禁忌の主以上の相手は居ないって俺は確信してる。」


「学園長の事なら気にしなくて良いわ。彼は私にとっても敵だもの。」

 そいつはいいと、晴れ晴れとした顔で剣を抜くナイトメアに対し、応じる構えでジュリアンも間に立ち塞がり、剣と盾を構える。


「俺も先生の言ってる事が間違ってるとは思えません。

 けれど、だからって友達や他の皆を犠牲にするなんて出来ない。

 グラトニー、君も剣で戦うタイプじゃない。後ろで派手に大魔法、だろ?」


 ふむ。そこまで勝ち方に拘ってはいないから、折角の言葉に甘えよう。

「へ、真面目だな運命の子。

 それなら俺という運命を乗り越えて、精々この世界を本当に素晴らしいものに変えてくれる事を祈ってるぜ。」


 他の皆も杖を構え、緊張感が辺りに満ちる。

 さて。それでは開幕の合図は派手に行くとしよう。

「『幻の霧よ、剣を模れ、刃を突き立てろ』!」

 総計三十本の『幻の剣』が、真横に駆け出す教師ナイトメアに降り注ぐ。


 実は教師ナイトメアに、墓守の呪詛を突破する手段は有りませんでしたというオチ。

 学園長は真っ黒です。単に正義の側にいて結果論で黙らせているだけのまごう事無き屑です。

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