02.魔女の刻限
夜の森を赤い煌めきが跳ね回る。
木片が飛び散り、丸太の様な柱が玩具の様に砕けて宙を舞う。
「『石喰蜥蜴よ、其の牙其の顎、檻の如く噛み砕け』!」
着地の瞬間を狙い澄ました根の槍衾は、檻の様に包んだ石牙が盾となって噛み千切る。
攻撃の術式を守りに使ったガトレスは牙が引く前に踏み台にして、間合いの外から槍を伸ばしてテトラドの脇を抉る。
引き戻しの速さは既に常人のそれでは無く、しかし相打ち同然に弾けた向日葵の種全てを無傷で凌ぐ術までは無い。
「『盾よ』!」
――但し、狙い澄まして放たれた障壁が無ければだが。
「うぉおおおおッ!!!」
物陰に隠れるように身を翻し、盾の魔法の影から走り抜けたガトレスの連撃に対し。
魔女テトラドは自らの一部の蔦を武器に手数を増やすが、隙間をすり抜け繰り出される一本で成し遂げられた槍衾相手には分が悪い。
そも。大よその魔法使いで接近戦が得意なのは稀なのだ。
無能人と魔法使いならばともかく、魔法使い同士なら得意な距離も同じ。
必然手数と制御の技術で競り合い、遠距離からの早撃ち、読み合い指し合いと言った、緻密な判断力による凌ぎ合いとなる。
強化魔法は多数存在するからと言って、制御を維持しながら乱戦を行うのは容易な所業では無く、同じ緻密な制御を必要とするなら魔法のみに集中した方が効率が良い。
強化魔法とは、魔物退治、幻獣退治のための魔法だ。
武器型の発動具を持っているからと言って、乱戦を得意とする必要は無い。
「『石喰蜥蜴よ、石鱗の巨躯を、障害と成せ』!」
「はぁ?!」
手を止めず体を捻り、足早に距離を取らせず槍で抉り続けながら。
テトラドとガトレスの頭上に家より大きな岩盤、巨大石が出現する。
相打ち狙いかと落石が迫る傍ら、カーリーの袖から伸びた茨がテトラドの身体を縛り上げる。と同時にその身を蹴り飛ばして砲弾の様にガトレスが離れる。
「しまっ!「『伸びろ!』!」」
動じたテトラドの足の在りそうな位置を、ガトレスの【ギガースの長槍】が貫く。
落下の衝撃で足元が揺れて巨石が砕ける最中、ガトレスの籠手に魔力が宿る。
「『石喰蜥蜴よ、其の牙其の顎、檻の如く噛み砕け』!」
テトラドを包囲する不揃いな石槍の牙が、実体を失う最中の石片ごと噛み砕く。
バシリクスの籠手【コルゴン】。岩石を操り盾にも使える強度を誇るそれが、ガトレス二つ目の専用発動具。
遠距離攻撃は時間稼ぎに用い、徹底して接近戦を挑むための武芸と魔術を磨き上げる。
ガトレス・ナーガは正に、魔術師殺しの魔法使いなのだ。
「『茨の姫よ、我が心の花よ、称賛し祝福の華と咲け』。」
カーリーの呪文が切れかけた精神耐性と士気高揚を再度ガトレスに付加し直す。
「おのれ……、小娘…………ッ。」
(くそ!この小娘共、花粉毒に備えてやがる!)
銀の仮面を付けた赤髪の娘は未だ分かる。
だがテトラドの花粉は毒であると同時に種でもある。
体内に入れば根を張り菌糸を育て、やがて体内の養分を奪い対象の命そのものを糧としテトラドの種、一部へと作り変える。
が。それらは未だ、ガトレスどころかカーリーにも一切効果を及ぼさない。
千切れかけの大花の中から芽が膨らみ、瓦礫を押し退けて再び大花が花開く。
しかし最初の花同然の花弁とは違い、花弁というよりは花の形をした髪の毛だ。
「『火花よ、集まれ、砕け散れ』!」
(拙いわね。別に弱点として球根が地中に埋まっている訳じゃない。
相手は単に、肉体の大部分が植物と化している。)
千切れ落ちた大花の方を、地に付く前に焼き払いながらカーリーは確信する。
この魔女に急所が無いのではない。
単に肉体がほぼ植物そのものだから、幾らでも作り直せるだけだ。
直接精神を破壊する手段があるなら兎も角、そうでなければ回復力を削る、消耗戦を挑むより他に無いと見るべきか。であれば。
「『無垢なる巨人よ、総身の無双を、我が身に宿せ』!」
「同じ手が何度も通じるか!」
再度の強化魔法に対し、髪の毛がまるで六腕八腕を連想させて殴り返す。
個々の技量で劣っていようと、それ以上の手数で翻弄すれば良いという単純な発想。
「その程度か!ならば『伸びろ』!」
下から掬い上げる様な一刺しが崩れた体勢に突き刺さり、傾いた体を押し上げる。
「何を「『石喰蜥蜴よ、其の牙其の顎、檻の如く噛み砕け』!」……?!」
高々体の一部が地面から引きずり出されただけと思ったテトラドの足を、地面スレスレに生えた石牙の顎によって噛み切る。
「はぁああああああ!!!」
テトラドが柄を握るより早く長さを引き戻し、落下させずに連続突きを放ち続ける。
「ッ!『火花よ、集まれ、砕け散れ』!!!」
髪を盾にテトラドが身を固めた瞬間、咄嗟にカーリーが地面に残された根を撃墜する。
「くっ!」
一瞬遅れて察したガトレスが飛び退き、爆発を突破した根槍を躱す。
しかし一部だけ花開いた種の散弾までは捌き切れず、数発が脇腹を打ち抜く。
「戻りなさいガトレス!」
「し、しかしッ?!」
掠り傷と判断したガトレスとは真逆の指示に、一瞬戸惑った後に異変に気付くと。後ろに飛び退いてカーリーの脇に跪く。
「傷口を。」
「申し訳ありません。」
痛みを堪えるガトレスの傷口に茨を突き刺し、根を張り始めた種を枯らして全て引き抜くカーリー。
その間に地面に落下したテトラドは、地面から複数の芽を息吹かせて根を広げる。
「ようやく芽吹く隙が出来たわね。此処まで持った事は誉めてあげる。
けれどそっちのお姫様の種もそろそろ割れたわ。遠距離型、ドライアドを発動具化した防御系の魔法使いと言ったところかしら。
そりゃ同タイプの魔女相手に矢面に立てる訳ないわよね。」
魔女は人の枠を逸脱する性質上、長所に著しく偏る者が多い。
中には肉体が発動具と融合する者もおり、テトラドもドライアドを吸収した口だ。
種を枯らせるのも茨を操るのも、明らかに植物系の特徴。まさにドラクロア家のお姫様にとって、テトラドは上位互換に当たる筈だ。
「そっちのナーガ家のお嬢さんに花粉対策をさせておきながら、自分は平然とあたしの毒に身を晒せるのも耐性付与を得意とする補助系だから。
ハッタリを利かせたかったのかも知れないけど、自分の魔力を過大評価してない?」
漸く攻守が逆転した現状に、魔女テトラドは見事に足止めされたものだと内心の苛立ちを隠しながら笑みを浮かべる。
だが本来の埋伏の本領は、無数にばら撒いた種の発芽による手数の乗算だ。
只の散弾に見える攻撃が、相殺に思える防御の残滓が。
全てが時間と共に甦り溢れ続け、最後には城を呑み込むほどの波となる。
それが魔女テトラドの本領で在り、単騎で学園に攻め入らねばならない要因である。
「たった二人で随分と粘ったわね。既に結構な魔力を消耗しているでしょうに。」
今迄絶え間無く攻め続けていた手を、治療後も脇に控えさせているのがその証拠だ。
ドラクロワ家のお姫様が前に出れない以上、荒い息を吐く壁役の疲労が少しでも抜けるまで時間を稼いでいるのだろう。
が。その間にテトラドは根を広げ続ける事が出、来。
「もう良いわ。あなたは暫く観戦して、体力回復に努めなさい。」
「は。申し訳、ありません。」
違和感に気付くがカーリーの言葉に遮られ、そちらの態度。
特に下がったガトレスの、森影から進み出たカーリーに全幅の信頼を寄せるかのような声音に不審を抱き、訝し気に目を細める。
「『茨の姫よ、御身は我が身、我が声は貴方へ』。」
一見して全身を包む強化呪文。では魔法薬同然に効能を再現したのか。
(回避能力を高めた?まさかそんな細腕であたしを殴る気?)
はったりかと思うには溢れる様な魔力量が不自然過ぎる。強化魔法は元の身体能力が低いと碌な効果を発揮しないのだ、と。
「?!」
先程の違和感。カーリーが話す直前、地中の根が捕らえた奇妙な感覚。
「『茨の姫よ、我が血我が糧、彼の元へ届け』!」
カーリーの背中、首筋へと至る肩口で。背中一面を覆い隠す薔薇の大輪が花開く。
薄く黄色の交じった白に花先だけが赤みがかった花冠からは、幾重もの黒茨がカーリーの周りを囲み、地面からも飛び出してしならせる。
揺らぐ月明かりに照らされた地面は、気付けば枯れ果てた草花が土色を晒し木が倒れ、檻の様に魔女テトラドの足元へ迫って来る。
「き、貴様ぁ!その力、一体何に手を出した!!
全ての植物へのの枯渇など、ドライアドどころかエントの力でも叶わんぞ!」
植物への干渉ならドライアドの力で何とかなる。樹木への支配はエントの領分だ。
だがあくまでそれは足し算、魔力による現象の加算。
成長を促す事はあっても奪う事は無い。植物使いの基本はあくまで促進だ。
テトラドから芽吹いた種が枯渇し、既に大花を芽吹かせた株にすら影響を及ぼす。
これは魔法使いにすら届かぬ学生の所業では断じて無い。
純血の頂点、最も優れた血族。ドラクロワ一族の集大成。
「決闘の作法として改めて名乗らせて戴きます。
我が名は純血一位、ドラクロワ家が一子カーリー・ドラクロワ。
僭越ながら魔法使いとしての二つ名に【茨姫】の名を拝命する予定ですわ。」
茨の檻にいだかれて、謡うようにカーリーは手を伸ばして闘争の開演を告げる。
(ふむ。結局偵察が付いてくる様子は無いわね。)
地下の階段を進むグラトニーは、監視のため上階に隠していた使い魔を引き戻す。
相手の正体こそ見えなかったが、付かず離れずの距離を保っていた謎の生物は迷宮の中に付いてくる事は無かった。
その所為か道中は予想以上に順調だ。休息は地上と地下でそれぞれ一回だけに留まる。
「何というか、随分すんなりと進んでるわねぇ。」
グラトニーの呟きに、下の階で休息中だったジュリアン達が苦笑で返す。
「いやぁ、そう思っているのはグラトニーだけじゃないかな。」
現在位置は石像内の階段、最下層一歩手前。
道中ギガースに二度も遭遇し、大蜥蜴や四頭首の大蛇に遭遇し、先程ミノタウルスまで突破した一同は、精神的にも疲弊し力尽きていた。
グラトニーとしては今更目新しいものも無く、次回は森周辺に足を伸ばす必要があるかと首を捻っていたくらいなのだが。
「いや。まぁ、正直一発で最深部まで来れるとは途中から信じられなかったよ。」
何とかなって良かったとのジュリアンに、他の一同も思わず笑い合う。
「うま。うま。」
待っている間に道中倒したオーガを食べていたアヴァロンは、満腹感でご満悦だ。
戯れに目の前を通った蛇も拾って踊り食いする。
「「「…………。」」」
何故かグラトニーが見ると皆目を反らし出す。
「さ!そろそろ行くか!」
扉を開けると、前と変わらぬ円形闘技場。その階段最上部に躍り出る。
(『嫉妬の緑目よ、祖は我が眼、息吹御魂一つ見逃すな』。)
皆が周囲を警戒しながら様子を伺う中、グラトニーも小さく呪文を唱え直す。
「あれが、この最下層の番人か……。」
闘技場の中央には溢れんばかりの害意と敵意、命を奪うためだけの悪意が満ちていた。
人というには益荒男が過ぎて狂気に溢れ、大男ではあるが巨人程ではない。
しかし目立つほどに特徴的なのは、兜飾りの下にある無貌の顔であり、四本の腕であり。
更には大鎧を何重にも重ね着したような丸みと大袖の肩当てであり、腰回りを庇う草摺であり佩楯であり。何より形状の定まらぬ武器を握り構えていた。
「あれは……、赤カブトかしら?」
「だな。何であんな変な鎧の着方しているんだか分からねぇけど。」
サンドライトにポートガスが同意するが。
「あれは複数体の死霊武者が無理矢理一つに融合しているからよ。
要は重なり切れなかった部分がああやってはみ出しているの。」
「……死霊武者って、融合するの?それ学会発表物じゃね?」
「怨霊が食い合って一つになるのは別に珍しい事じゃないと思うけど。」
何に冷汗を流しているのか分からないが、やはりジャバウォックと同じくある程度近付かない限り動き出しはしないのだろう。というか、一ランク下がってる?
「ねぇジュリアン、貴方封印を解く前提で話しているわよね?何故かしら。」
「ちょっとソレ今聞く話じゃないでしょ!」
相手から目を逸らせずにいるいるパトリシアが怒るが、こちらも敢えて今聞いている。
「相手は番人、近付かなければ動かないみたいよ?
ジュリアン、あなた最深部の封印破りは本来重罰よね?このダンジョン侵入も本来違反行為。他の七不思議も解いていない状態で強行する程じゃない。
あなた、何を隠しているのかしら。」
まるで罰則を受けないと確信しているみたいな態度。というより最低でも学園長の意思があるのは確実だが、どの程度ジュリアンが把握しているのか。
「……それ、後で覚悟が出来たらって言うのは駄目か?」
「今答えないなら後で聞く意味は無いわ。」
赤カブトから目を離さないグラトニーに、思っていたのとは違うという顔で少し悩んでから分かったと答えるジュリアン。
……何か別件で悩んでいた?
「…………ああ、うん。実は、さ。
俺、今家と縁が切れてて、在学中は学園長が代理の保護者になっているんだ。
それで、学園長に相談してる。強くなりたかったら七不思議の謎を解けって。」
「……もしかして、あなた地図の字に見覚えがある?」
「ええと。実は俺達、禁書庫はもう見つけてるんだ。
そこで父さん、ナイトバロンの字を見せら、見つけて。多分これ父さんの字だ。」
「禁書庫ね、私も今度行ってみるわ。後で何処回り終えたのかだけでも教えなさい。」
(禁書庫、オルガノンね。私に何も言わなかったのは本当に中立だからかしら?)
これで良いかと尋ねるジュリアンは知らないが、こちらにも同じ筆跡の地図がある。
しかも封印の解き方だけ記載されていない物が、だ。どちらも本物のナイトバロンなのだろうか。本当に?いや、原典なのか、か?
「……ねぇ。今回は亡霊騎士一体分だけ援護してあげる。」
前言を翻すのがらしくないと思ったのか、ジュリアンが首を捻る。
「それは俺達が倒した扱いで良いって事か?」
「ええ。その代わり全員余力を残しておきなさい。
この後もう一波乱ある心算でね。」
(もしかして。運命の子の運命は、既に動き始めている?)
預言を根拠にして動く連中の考え方は分からないが、魔法使いにとっては思った以上に動機になるのかも知れない。
妙に場当たり的だと感じていた魔女側の行動も、預言を根拠にタイミングを合わせられるとしたら。今このタイミングでジュリアンが怨霊と戦う必要があるのだとしたら。
「わ、分かった。皆もそれで良いか?」
グラトニーが収納呪具から人形呪具《浮き盾》二つを取り出したのを見て、他の面々も慌てて頷き承諾する。
(な、なんかグラトニーが奥の手っぽい物を出して来た?!)
現状では浮遊状態を魔力結晶で負担させるだけのほぼ只の鉄盾だが、『幻の剣』程度は防げる。詠唱不要な盾は大事だ。
元々何処かのタイミングで使う心算だった見せ札でもある。
「よし!準備は良いな皆!行くぞ『誇りを』!」
「『亡霊よ、影を映せ、形に力を宿せ』!『お前に、太刀を、与えよう』!」
ジュリアンが例の如く呪具の盾を取り出して先陣を切り、他の面々も赤カブトを射程に収める位置まで移動する。
「「「『火花よ、集まれ、砕け散れ』!」」」
ここに居る一同は一学年の中でも上澄みだ。既に並の一年では難しい三節目の呪文を苦も無く唱え、実用レベルで一斉に炸裂させる。
ジュリアンに狙いを定めていた大男が爆炎に包まれ、正面を避けて左右からアヴァロンと挟み撃ちにする。
「「『幻の霧よ、剣を模れ、空を舞い続けろ』!」」
左右から持続時間のある刃が煙の中心を囲むように突き進むが、殆ど同時に砕かれる。
が。一度に出していた本数は三振り、砕かれたのは一振りずつ。
位置が見当付いたところを狙い澄ますが、赤カブトが煙を突っ切り突破したのは狙いを定める後衛達の方で。
『亡霊騎士』の一閃が交差する二刀と火花を散らし、挟まれる二刀を腕の下に滑り込んで躱し、そのまま足元を薙いで跳び下がる。
(ジェンドの動きを再現した亡霊騎士。実用レベルに届いたか試させて貰うわ。)
「「『生えろ石壁』!」」
「「「『幻の霧よ、剣を模れ、刃を突き立てろ』!」」」
足止め出来た事に驚きつつも、振り上げた腕の邪魔になる間合いで石壁が出現する。
動きの速い相手に魔法を当てるには、如何に相手の足を止めて狙える瞬間を作るかだ。
石壁が砕かれるまでは前後が狙える。投げられた槍を躱すためずっと同じ場所に陣取る余裕は無かったが、バランスを崩した身内を遠距離で守れるのも包囲の強みだ。
(まるで設えた様に距離の取り方が練習出来るわね。)
グラトニーの役目は赤カブトが大きく動く前に割り込む事だ。
使い魔で死角を補う事も考えたが、現状『亡霊騎士』に加えて『生命探知』と《浮き盾》二つ。騎士以外は維持だけなので、無手との併用より楽ではある。
(けど学園長が殴りに来る筈も無い。秘密の森に羽衣以外が潜んでいた?)
それも現実的では無い気がする。ではジュリアンの居ないタイミングを狙ったのか。
(だとしても今のジュリアンはそこまで強くない。)
ここは温存を選ぶべきか。此処で得た何かを奪いに来るなら、脱出のタイミングを狙う方が効率的に思える。
「『輝け』!」
ジュリアンが赤カブトの武器から放たれた雷撃を盾で受け止め、呪文と共に赤カブトが纏う瘴気を掻き消していく。
(死霊の呪詛を払うっていうのはああいう事か。)
よろけた赤カブトの背を切り裂き、何枚目かの大袖や佩楯、或いは草摺を切り飛ばす。
この赤カブトにとって鎧は防具であると同時に体の一部だ。手元を離れた武器や防具片はやがて形を保てずに消失する。
「封印石を!」
ポートガスの声に、ジュリアンが大型の《封印石》を掲げて赤カブトを封じる。
皆が一斉に喝采を上げてジュリアンの元に駆け寄り、グラトニーも亡霊騎士を消し周囲への警戒を解かずに一同の元へ歩み寄る。
「落ち着きなさい。目的はこの先でしょう。」
「あ、ああ。そうだったな。
って、封印を解くのは、この真ん中で良いのかな。」
懐から地図を取り出し、音読で呪文を唱える。
「『魂を掲げよ、運命を開け、真なる鍵は我にあり』!」
(呪文が違う?)
どういうことかと光に包まれたジュリアンを見ると、手に掲げた獅子紋章の印からマナの輝きが両目に向かって伸びていた。
アヴァロン以外が顔を手で隠す中、空中に現れた紋章の中心に印を当て嵌めると獅子印を中心に幾重に光の鎖が巻き付いてジュリアンを拘束する。
誰かが何かを叫び、ジュリアンの手元が輝くと、獅子印の代わりに一振りの黄金の鞘に赤い鬣の様な飾りが巻き付いた直剣が握られていた。
「うわぁ!」
突然重くなった腕の重みで転びそうになりながら剣を抜き、白銀の刃に見入る。
「どうやら、無事に手に入ったようね。」
床に現れた箱を拾って開けると、地図が入っており。
(……これ、〔地下墓地〕への行き方と、隠し部屋の地図?)
それも只の地図では無い。地図そのものが呪具であり鍵として組み込まれている事までグラトニーには読み解く事が出来る。
(成程。その為の呪詛対策だった訳ね。)
「あ、ああ。そっちは?」
「次の隠し部屋の地図よ。持ってなさい。」
グラトニーがジュリアンに地図を投げ渡した直後。
突如迷宮全体に振動が走り、階段を巨大な何かが転がり落ちる音がした。
本日2話投稿、前半です。超長い前半の後に、短過ぎる後半があります。
ガトレス嬢のターンw筋力強化を維持しながら別の呪文を使い、更に槍で立体的に動き回るという呪文以外が凄い天才枠。こんな三人と比較されるメリザー寮長が哀れでなりませんw
作中もう明かされる予定の無い裏話ですが、実はジュリアン達に渡した地図を魔女達が複製してグラトニーに渡しています。つまりジュリアンが受け取った地図も羽衣の仕業です。
コピペだったので隠し文字が写らなかったという種明かし。どっちにしろ学園長が割って入るのでコピー出来ても状況に変化は起きません。




