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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第一部 入学編
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第二章 呪詛 01.秘密の森



 魔法史、教養学の二つは概ね題名通りの授業だった。

 どちらも純血は教わるまでも無く実家で学ぶ内容という話で、純血達は受講自体が恥とすら言い切っていた。


「オレは受けないと不味いんだけど、グラトニーはどうする?」

「授業は全部受ける予定よ。」


 在学中の生活費は働かない限り授業の成績で決まる。

 これは必須科目での合格が最低額になるだけで、それ以上は受ける数が多く合格数が多いほど増えるという意味だ。


 教師の許可を得れば条件付きでバイトが可能らしいが、そもそも探すのにコネが必須なのでまぁ不可能。

 教師に紹介して貰えるバイトもあるというが、紹介者が保証人になるという意味でもあるので、成績と覚えの良い生徒しか紹介しないと授業で答えていた。

(それに、幾つかの呪具や魔法薬は学園で買い取るって話だしねぇ。)


「それで最後の必須受講は魔獣学だったかしら。」

「ああ。秘密の森へ向かうんだけど、先ずは玄関待機だってさ。」

 生徒が勝手に向かうには危険過ぎるので、最初は迷わない様に教師が案内する。


「よぅし!さぁ着いたぞ!此処が君達を鍛える場所!秘密の森だ!」

 ボディビルのポージングなんて名称分かんない。


 常にポーズを取り続ける生活指導兼魔獣学教師、マッスリゲル。

 ヘルメットを被っている所為か、それとも鋼のパンツ一丁な所為か。

 彼は顔が印象に残らない教師だった。


「魔獣学で学ぶ事は魔獣の飼育法!そして特徴だ!

 ある程度の基礎を学び、実体験が済んだら本番だ!

 魔獣との契約方法を学び、使役術を修得するか、使い魔を見出すか!基礎は教えるが、方向性は君達次第だ!」


 只管(ひたすら)に暑苦しい。後時々彼は言葉を忘れる傾向にあり、興奮するとポージングを言葉代わりに使っていた。

 一部生徒が理解出来ていた事も驚きだが、その度に彼の大猿使い魔マロンが(たしな)めていた。


 最初の授業は魔獣と幻獣と魔物の違いを説明するだけだったが、事前知識のある生徒達には退屈だったようだ。


(ねぇねぇ。ちょっと森に入ってみない?)

 え~危ないよ~と言いつつ二人の少女がこっそりと森へ入っていく。

 グラトニー以外は気付いた様子が無く、放置した。いや、厳密にはもう一人。


「せ、先生!二人居ません!」

 失踪に気付いた所謂(いわゆる)お友達の方々がマッスリゲルに訴えるが、彼は事も無げに答えた。


「うむ、放っておいていいぞ!只の欠席だ!」

「いえ!最初は居たんです!」

「うむ知っている!さっき秘密の森に入っていったからな!」


 授業中に森に入る危険性を語っていた筈と、皆がざわつき始め説明不足を悟ったマッスリゲルが、頭を悩ませながら言葉を足す。


「えっとだな。秘密の森に勝手に入ったら処分対象に成るっていうのは言ったな。

 これは俺が管理している森で、様々な危険魔獣を閉じ込めているからだ。

 で、別に全部命令に従う訳じゃないから、危険なモンスターはそもそも出さない。出すのは使役出来てる奴だけだ。」


「じゃあ授業で森には入らないんですか?」

「いや、安全な所だけ入る授業もある。」

 そこで一旦マッスリゲルは首を捻り、頭を掻きながら話を纏める。


「詰まりだ。授業中のトラブルなら兎も角、授業中に勝手に入ったのならそれは只の自業自得。全ての責任は自分自身にあるというのが学園の方針だ!

 森の危険性は今日の授業で説明済みだからな!」


 授業をサボってまで森に入る連中はどうでも良いと、ばっさり切り捨てる。

 しかも、生徒達がざわついている間に森の奥から絶叫が響いて来た。


「おお、今年は一段と大きいな!

 ま、という訳だ。森からは勝手に出られない様にしているが、許可無く森に入った時点で責任はお前達にある。よく頭に叩き込んでおくように!

 授業を再開するぞ!」

 当然の事だが、森に入った生徒は二度と戻って来なかった。




 全ての授業が終わった後。グラトニーは秘密の森の前にいた。

「さてと。確かこうだったわね。」


 隠されていた森の門に触れ(かんぬき)を開くと、森を囲む巨大な壁の、その一部が姿を現し門が実体化する。

 鍵の入っていない鍵穴を捻ると、門が開いてローブ姿の人影達が飛び降りる。


「ここは立ち入り禁止区画です。

 直ちに立ち去りなさい。さもなくば処罰対象に成ります。」


「肉体が放つのはエーテル、マナを発する生物は幻獣のみ。変換する手段は在っても一つの肉体に両者を両立させる手段は無い、だったかしら。」

 ならば筋肉と外皮が別個の存在の様に両者が用いられたローブ姿は人間では在り得ない訳だと納得する。


 そういう視点で見れば、成程エーテルがローブ達から森へ一筋ずつ伸びているのがはっきりと見える。それもちょっと再現に手間取る程に細く長い。


 ローブ人形達がグラトニーの態度に戸惑っている間に、指先から複数本のエーテル糸を伸ばしてまとめて断ち切る。流石に制御は奪えなかったが、一律で無力化に成功した。

 今のの干渉で目的地が分かったので、糸へ更に干渉して暫く宙を漂わせておく。


 門の先には樹齢数百年はありそうな大樹と数十年程度の大木が乱雑に並び、中央に馬車が通れそうな車輪の跡が固まった大通りが真っ直ぐに伸びていた。


 大通りを進むと途中で枝分かれしており、左右の道の先には遠目に大きな小屋が見えており、恐らくあの辺りが飼育小屋、家畜小屋なのだろう。

 大通りも若干狭く、苔生した森には幾重もの倒木が点在している。


 グラトニーの進行方向から獣達が、漂う異様な瘴気に怯え小動物達が悲鳴や警戒音を発する中、漂っていたエーテルの筋は元が既に切られている。

 だが霧散するには早く残り香の様に進路を示し、巧妙に隠された獣道に入ると、その先に続く倒木の上を歩いていく。


 倒木を通らずに進むと罠が隠れているようだ。更に偽装された枝を進み、別の獣道に偽装された道に降り立つ。


 更に進めばとある木の洞がマナで隠されていたので、中に隠されたレバーをマナの経路を揃える形で動かすと、隠れた通路が森の影から姿を見せる。

「へぇ。これも呪具の一種なのね。」


 影の森を進むと糸は地面から生えており、周囲を三度回ると地面がせり上がって(ふた)の様に開いた。

 地面の中は煉瓦造りの階段から、足元だけ補強された洞窟状の通路へと続く。


 通路には幾つかの分かれ道があったが、グラトニーが追う糸は最奥の扉に消えていた。


 今回の扉には普通にドアノブがあり、さては目的地かなと戸を叩く。

「あーけーてっと。」


 三回ノックすると内側から扉が開き、不可視の糸が弾ける様に散った。

 糸がグラトニーを拘束して部屋の中に引っ張り込み、後ろの扉が閉じた所で床に足が付く。


「そこまでよ。今あなたを拘束したわ。

 殺されたくなかったら質問に答えなさい。」


「あら何かしら?」

 部屋の中で身構える、全ての指に金属の指輪をはめた妙齢の美女に続きを促す。


「どうやって私の工房へ辿り着いたの?迷わず一直線、偶然とは言わせない。」

「人形から伸びた糸を辿って来ただけよ?痕跡なら随所にあったし。」

 首や全身の糸が朽ちる中、彼女にも分かり易いように糸を指で弾く。


「っ!そんな、察知するなら兎も角、見えるだなんて……。

 あ、あなた新入生の筈よね?」

「ええ。まだ碌に授業を受けてないわ。」


 全ての糸は金属指輪に繋がっており、彼女が手を振ると無意味な糸がはらりと落ちる。エーテルで出来た糸は床に付く頃には霧散した。


「……まぁ、そうね。確かに見えているのかも知れない。

 見える奴なんて初めて会ったけど、解析魔法程度じゃ私の糸に干渉するなんて不可能だものね。そういう魔女が居てもおかしくは無いわ。

 それで、ご用件は?」


 室内は入り口からやたらと本だらけでかなり狭いが、整理されていないというより本棚自体をインテリアにしているようだ。

 見回すと随所に足場の様な大小の椅子があり、鉢植えが置かれた台座も紛れて水が本にかからないよう様々な工夫が施されていた。


「魔女って何?」

「禁呪の代償で不老化した魔法使いの事よ。

 今の所女魔法使いにしか起こり得ない現象だから、魔女。普通の魔法使いは禁呪の代償が命だったりと相当重いんだけどね。

 不老化だと実質デメリット無しになったりで色々危険なのよ。」


 延命なら割とあるのだが、完全な不老化は魔女以外にあり得ないという。

 適当に椅子を寄こして自分も座る彼女は、存外取っ付き易い性格かも知れない。


「私が此処に来たのは質問の為よ。

 人間を操ったり造り替えたりする、又は人形を人に見せる魔術。

 誰かさんは心当たりあるかしら。」


「いやいやいや、そればっちり禁呪じゃない。

 名乗っておくけど、わたしはクリス・クロノイドよ。

 死の召喚、死者蘇生、支配、呪い。これら全般が禁呪で研究自体が違法。」


 分かる?と指を立てて注意するクリスと名乗った美女だったが。

「禁呪なら可能って事かしら?」

 差し出された紅茶を飲みながら訪ねる。これ普通にもてなされているのでは?


「存命なら禁呪使いね。禁呪って大抵デメリットが重いから、生きているなら魔女の可能性が高いわ。

 ただ、居るかも知れないけど人形を人に見せる魔術は基本無理。あなたが言うんだから幻術や外見が精巧なだけの人形とかじゃないのよね?」


「ええ、エーテルが人と見分けが付かない程に精巧な魔術。」

「ならそもそもエーテルが見えるあなたが最有力。

 マナとエーテルの区別が付く事は、生き物の体内のエーテルが分かる事とイコールじゃ無いのよ。普通はあなたの言っている意味が実感出来ない。

 あなたの血縁に同じ体質は居ないの?」


「生憎全く。無能人だもの私。」

「うっそだろおい。」

 真顔になるクリス。


「何よぅ、自分でも確認すればいいじゃない。」

「しょうがないでしょ。でもそうなるとお手上げよ。

 ……いや、そうでも無いのか?真っ当な魔法使いならそもそも無能世界、詰まり魔法の無い世界なんて危険地帯、恐れるくらいが普通なんだけど。


 禁呪使い、特に魔女は人格に障害をきたす例も少なくないわ。そういう意味では魔女ならあり得る。普通の魔法使いは絶対に無い。」


「絶対に?犯罪者は?」

 いやに強く断言されたものだ。


「普通の魔法犯罪者は魔女とは呼ばないの。禁呪だけが特別に危険。

 禁呪の共通点は歪める事。それも正気の枠を砕いてしまうほどに強烈に、ね。

 あなたは授業を進めてないから実感が無いだろうけど、他人の精神に干渉する術はそれだけで難易度が跳ね上がるの。人を殺す難易度とは桁違いに、ね。」


「ふむ。だから死の召喚。問答無用で即死させる魔法、という訳ね。」

「そう。使えれば間違いなく必殺だけど、ロスは桁違いに大きいのよ。

 まあ昔は絶対防げなかったから習得価値はあったかもだけど、防御術の授業を学び続ければちゃんと防げるわよ。」

 だから覚えようとはするな、か。


「大体分かったわ。詰まり禁呪は特に才能が必要なのね。」

 それでいて使い勝手と習得難度は別。まあ無駄なデメリットを負う意味は無いだろう。


「行くのね。なら私の名前とここの事は秘密にしておいて。

 あと余程の事が無い限りここに来るのも駄目よ。一度くらいなら見逃せるから。」

「ええ、有り難う。」


 余談だが、門を閉じた後も教師マッスリゲルが現れる事は無かった。

「ん?誰かが俺の筋肉に魅入られたかな?」

 この主人公は正規ルートを進みません。

 ジュリアン君が正規ルートの主人公となりますが、基本描写される事は稀です。

 何故なら主人公視点でボスの動きは描写されないからですw

 2021/9/28 改行スペース他微修正。

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