第二章 ジュリアンの決意 01.二学期の始まり
二学期頭の乱闘は、ジュリアンに焦燥感を芽生えさせるに十分だった。
グラトニーが呪詛を完全に制御出来る様になった。それは喜ばしい事だ。
実際ジュリアンも手放しで祝福したし、周囲の風当たりも弱くなるのでは無いかと一瞬脳裏を過ったくらいだ。乱闘後に聞いた話だったので即我に返ったが。
だがグラトニーの過去を聞き、生半可な覚悟では彼女の隣にいる事は出来ないと知り、改めて自分を鍛え直そうとした時、サンドライトの真実を知った。
友達があそこまで追い詰められていた事も驚きだが、それ以上にグラトニーがその悩みを苦も無く解決した事に戸惑い。
何より直前の覚悟が如何に半端だったかを思い知った。
覚悟を決めて割って入った筈が、結局仲裁という取って付けた様な解決方法に走った自分に後で自己嫌悪に陥り、何故もっと早くと致命的になるまで迷った自分を罵倒する。
だが結局治療を終えたサンドライトは何処か晴れやかな顔をしており、それを見てジュリアンは前に進む覚悟を決める。
「それで君は僕に頭を下げに来たというのかい?学園長である僕に贔屓をしろと?」
割と本気で後悔したが、分かっていたので我慢出来た。
「いえ、知恵をお借りしたいんです。
元々学園長から教わった事ですし、最初に学園長に相談するのが筋だと思いまして。」
無関係を装うな、煽ったろと言外で要求する。ここで愁傷な顔をしたら絶対に付け込んでくる人だとジュリアンは確信している。
「君も図太くなったねぇ。まぁ君は運命の子でもある、ヒントくらいはあげよう。
七不思議の謎を解きたまえ。」
本当にそれしか教えかったので、止むを得ずサンドライトとも相談して彼女の協力を得た上で、なるべくグラトニーには内緒にして貰い七不思議について調べる。
サンドライトを心配した彼女の友人、パトリシアとも同寮の誼で親しくなり。三人での図書館通いが続いた。だから舌打ち止めろ、男ども。
最近とみに男友達が出来ない事を愚痴ったら、サンドライトに処置無しという顔でグラトニーと親しくなる敷居は男の方が高いと諭され、納得したら溜め息追加。何故だよ。
今思えばこの時気付くべきだった気もするが、後の祭りだ。
途中淑女の会という純血トップと一騒動あったらしいが、預言者寮内の話なので気を揉んだだけで、グラトニーにしては穏便に終わったという顛末だけを聞いた。
「『綴って閉じて、縫い留めて、物語という名の檻の中』。」
何の変哲も無い本棚だったが、ラインナップに共通点があると気付いて呪文を唱える。
図書館内で全ての呪文を一つも重複させずに唱え終えた状態で禁書庫の前に辿り着き、一人で呪文を唱える。それが禁書庫への扉を開くキーワードだ。
扉が現れて良しと手を叩き、周囲に人影が消えたと気付いて気持ちを改めて出現した扉をくぐると、先程と同じ図書館の光景の中で一人宙に浮かぶ椅子に座った美少女の姿に気付いて、呆然と見つめてしまった。
「あらお客さんのようね。……何か?」
物凄い美人だった。いや美少女か?下手したらグラトニー以上の、白尽くしの美少女に問い返されるまでずっと呆然としていた筈だ。いや別にスカートは白くなかったか?
楚々とした上品さに彫像の様な整った顔立ち。浮世離れした美貌とは正にこの事か。
あの時は本気でそう思ったし、実際表情は殆ど動かなかったと思う。
「私はこの禁書庫の司書オルガノン。正規手順で訪れた以上は客人として遇するわ。
けれど大部分の禁書は持ち出し厳禁。何を知りたくてここに来たのかしら?」
「あ。ジュリアンです。ええと、あなたは魔女なんですか?」
「……それ、大分失礼な質問だって分かってて聞いてる?」
言われて気付いたがもう遅い。友人が魔女扱いされてて違和感が無くなっていた事や、物凄く落ち着いていて大分年上に感じた事などを、何度か呆れられながら弁解した。
「今後、魔法使いの中には寿命が尽きるまで歳を取らない者もいるって事を忘れないようになさいな。あなたの父親は私の後輩よ?」
詳しく聞きたかったが、禁書庫には危険な魔導書が多いため長期滞在は認められないという。慌てて七不思議の謎を探していると尋ねたら、そう。と小さく溜息を吐いた。
彼女曰く、七不思議には運命の子を見定める試験があり、全ての七不思議の謎を解ける者か否かが鍵だという。彼女は解説役も担当しているという。
禁書庫は入室出来た段階で合格だったらしい。
「さて。私が七不思議の手掛かりとして渡せるのは一つ、この『音楽室の竪琴』よ。
呪文は箱と一緒に入ってるメモに書いてあるから、後は自力で見つける事。
ここが最初だというのなら、順番に意味は無いから他を先に回ってみるのも手よ。」
会話の最中に紙で出来た白一色の豹が、頭に箱を載せて現れ、ジュリアンに渡す。
視線で問うと諾と頷いたので、箱を受け取った瞬間、何かが変わる。
「それと私は学園長に忠実な駒では無いわ。その証拠に一つ教えてあげる。
世間で知られている運命の子の預言は一部隠蔽されているの。」
「内容は『運命の子が七度魔女を討ち、己が命と引き換えに究極の魔女を討つだろう。
十年を超えて魔法知らずに育ち、十五年を経て真実に踏み込む。
至高の後継者にして唯一の跡継ぎによって、世界は唯一の救済を得る。』
これで全文よ。私が辿り着いているのは学園長も気付いていない筈。」
咄嗟に声を挙げそうになった瞬間、紙の蝶が口元を塞ぎ。口元に指を立てて沈黙を指示される。監視されている可能性に気付き、慌てて頷いた。
「運命の子は他の占いでも補強されて分かっているけど占いは解釈で意味が変わる。
魔女の方は誰が該当するかも不明、七度目に引き換えなのか、八人目なのかもね。
けれど世間的には知られない預言の側面として、前段階の預言が成立する事は、後段階の預言も確定する強制力を生む。運命という名の、間接的な呪いをね。
そして確定していない究極はあなたの大事な彼女の可能性もある。」
例の魂は封印されているが故に、究極に値しない可能性があるのと語り。
「預言は公言も相談も駄目よ。あなたが知っていると気付いたら絶対罠を準備するわ。
他所で知るまでの準備時間だけが、今話した最大のメリットだと心得て。」
何処かから現れた二つ目の箱がジュリアンの手元に積まれ、人差し指が口元から傾く。
直後、何かが歪む気配がして。
「今直ぐその箱を仕舞いなさい。絶対に学園長に気取られては駄目。
あの男のあなたの父親への執着は並じゃないから、気付かれたら未だ早いと中身を没収される恐れがあるわ。」
「え?は、はい!」
急な早口に慌てて言われた通りに父の物だという腕輪に品物を仕舞い、その時腕輪にも蝶が付いていた事に気付く。
「多分その腕輪に細工はされてないけど、残念ながら魔法使いとしての腕で勝てるのは、ナイトバロン以外いないわ。だから念の為これも渡しておく。予備に使いなさい。」
見た目そっくり同じだが、内側の感触が微妙に違う腕輪も運ばれてきたので受け取る。随分色々と気を配ってくれる事に驚いたが、多分向こうの都合もあったのだろう。
この辺で彼女は早口を止め、椅子に背中を預けたのを覚えている。
「そろそろ隠蔽も限界だから、最後に質問が終わったら帰りなさい。
ただ答えられない質問もあるから気を付けて。」
「はい。ええと、オレ強くなりたいんです。
オレが父さんみたいになるにはどうすれば良いんでしょうか!」
その瞬間、彼女は不自然に笑顔になった。
「父親の真似はするな。絶っ対、無理。アレは筋肉で解決するタイプだから悪い例よ。
頭の良い脳筋って本っ当に厄介だから。頭の良い子が真似しちゃダメなタイプよ。」
気が付けば顔が近かった。が、我に返って再び椅子に座った。
「本当に強くなりたいなら応用とは別に基礎の精度を上げ続ける事よ。
格上に勝つ手段なんて、一瞬の隙を確実にものにする以上の手段は無いわ。」
あの時の事を思い出すと、ちょっと申し訳なさに毎回胃が痛くなる。
あの後でオルガノンさんを疑う気にはなれなかったので、大事な物や父さんの私物等は彼女に貰った腕輪へ仕舞っている。
箱の中身は《百剣豪の塔》という携帯ハウスの一種だった。
父ナイトバロンが修行に使っていた物で、自分には十分だからとプレゼントされたと、メモに書かれていた。百人の剣豪の幻影と斬り合い魔法の塔を攻略するゲームらしい。
死んだら外に追い出される仕様だが、うん。本当に殺されたかと思うほど痛い。
(コレ確かに修行になるわ。呪いのアイテムと誤解されていたというのも超納得。)
ショック死の危険アリと注釈されていたので、一日に何度も使うのは控えている所為かいまだに十人抜きが出来ない。
因みに中では普通に魔法が使える、というか剣豪自体が格ゲー仕様だった。
ジュリアン編その一です。本日二話投稿、最初。
回想編なのと、主人公では無いので駆け足で。
サンドライトの親友なのにジュリアンと距離があったのは、パトリシアが逃げてたからですw
けどサンドライトの方が大変になったので腹を括り、序でに取り成しをお願いした次第。
ジュリアンは鈍感系というより単に友人との距離感を知らないだけ。
尚、オルガノンは後輩の息子であるジュリアン寄りです。
出来ればグラトニーを闇から救い出して欲しい、というのが本音。
父親の時も同じノリで余計な苦労を背負いましたw




