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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第三部 襲撃の魔女編
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03.人形呪具

 全身白装束から着替えたクリスは、これで漸く人形作りに入れるわねと心から安堵した声で肩を解した。


 白物しか洗濯出来ない《濾過(ろか)式小型洗濯槽(せんたくそう)》が此処まで大活躍するとは思わなかった。

 二日目で洗濯の件で泣き言を言われた際、何でもっと早く教えなかったと首根っこを掴まれる程には辛かったらしい。


「当り前でしょう?初日のご飯は血の味しかしなかったわよ。」

「残り食べたの?」

「食べてない!単に鼻が麻痺して味が分かんなくなってただけよ!」

 咳払いして話進めるわよと怒り、腰に手を当てて人差し指を振り上げる。

 毎回思うが何故彼女は怒った時に迫力が無いのだろう。襟首を掴んだ時は本気で怒りを見せていたというのに。


「さて。私の得意とする人形だけど、ぶっちゃけ極めると質の良いゴーレムよ。

 突き詰めればゴーレム化になるけど、その前段階を使い分けると色々使い勝手が増す。

 前の授業で言えば、人形発動具を極めると宝具ゴーレムになるわ。」


「人形段階の利点は質より量と言う意味かしら?」

「それもある。でも一番は勿体無いかしらね。名刀より名包丁の方が料理し易いでしょ?

 人形呪具は魔物素材が無くても量産出来る、ローコストが売りなの。

 それでいて一人で大勢の役割分担を担当出来るから、条件次第でハイコストに勝る。」


 背後で数体の人形が血に汚れた床を清掃しているが、クリスからエーテル糸が繋がっている様子は無い。

 けれど指示を出した時は間違いなく繋げていた。


「例を見せましょうか。」

 言うと同時にエーテル糸が服の隙間に入り、拳二つの人形達が次々飛び出す。


「『剣』、『槍』、『盾』。」

 言葉と同時に人形達が自身の体より大きな、正に人間が使うサイズの武器や盾を懐から取り出して整列する。凡そ各十体ずつだ。


「サメ盾だっけ?一つの人形に一つが限度だけど、私にはあれと同じ事が複数体で同時に出来るわ。更に言えば、それ以上の事も。

 一時期私の異名は『傀儡子(くぐつし)』と『兵団』の二つがあったくらいにね。」


「……小さいのは、仕様?」

 展開速度が驚くほど速い。

 <戦火の武具庫>でも<茶菓の怪物>でも、対抗するのは不可能だろう。何より維持に相応の負担がかかるのに、クリスが苦にした様子は無い。


「コストよ。大きいと浮かすのも手間なのよ。

 大型もそれなりに用意はあるけど、役目一つなら小型の方が小回り利くしね。」


 掃除が終わった人形も含め、全てが一斉にクリスの服や腕輪に戻る。

 彼女の服は随所に収納呪具を内包し散りばめた物だったのかと納得する。成程、あの服自体が彼女の戦装束に相当する訳か。


「使い分けるのは慣れが必要だけど、多様性が少ない程扱い易いわ。

 更に発動具化する場合、術の負担を大部分発動具に依存出来る。その分少ない魔力で、素早い準備も可能になる。

 事前準備が人形呪具の全てね。事前に手間をかけた分だけ強くなる。」

 それだけ聞くと、何故人形呪具が流行らないのかも疑問になるが。


「欠点は一番に手間ね。後火力。素材が安い分上限も低いのよ。

 補うためには使い魔かゴーレムが必要。だから手間だけは消えない。

 そして他の魔法使いには【呪具人形の魔導書】が無い。素材は安くてもお金次第よ。」

 成程と納得する。魔力だけで素材が量産出来る、この魔導書が如何に破格か。


「だからこの魔導書は発動具として使えるのね。

 発動具と魔導書を分けたら宝の持ち腐れに成り兼ねない訳か。」

 魔導書を売りに出す意味が無くなってしまう訳だ。そしてこれは才能や魔力の低い、凡庸な魔法使いでもそれなりの領域にまで成長出来る。

 天才よりは秀才向けの魔法。それがこの呪具人形使いか。


「使い魔は感覚共有分野で、ゴーレムは応用力と多機能で有益よ。

 ある程度人形を蓄えたらこっちに専念すべきね。」

 ゴーレムに関しては魔導書に記されていない。ゴーレムと言えば金属か石が定番と言う気がするのだが、クリスによると間違ってはいないらしい。


「複雑な術式を作ると今度は魔物の特性が邪魔になるのよ。後弱い術式は刻めないわ。

 人形をゴーレム化するのが終着点ね。ゴーレムは単純命令で動く自動人形みたいなものと言っても過言じゃないわ。

 まあ私は人形にも人型にも拘りは無いから、半自動が一番使い易いかもね。」


 完全自立なら魔物を使う利点もあるらしく、最終的に死体漁りと言う禁呪に手を出した魔法使いの逸話が残っているという。その意味でも使い魔が上限だ。


「で。ここからが私の秘伝で真価になる。

 私にとって人形の出力不足はデメリットじゃないわ。」


 クリスが袖口をまくり上げ、手首の腕輪から伸びる鎖が五指の指輪に繋がる様子を裏表引っくり返して見せながら解説する。


「これは指示用の呪具よ、呪文不要だから発動具じゃない。

 単純に目標とエーテルを繋ぐだけの呪具で、小型の人形はこれだけで操れて糸が繋がる間は遠隔でも呪文を発動させられる。

 詰まり、呪具を経由させる事で遠隔操作が可能となる。これが第一の利点。」


「それだけかしら?だとしたら動いた人形も指示も多過ぎるわ。」

 グラトニーの指摘に、にやりと?にへらと?とにかく自慢げな笑みを浮かべる。

「その通り。それが第三の利点。」


「第三?第二は……いや、そうか。

 浮遊だろうと中型だろうと、その程度の出力でずっと操作し続けるのが不自然だわ。」

 掃除していた人形は結構な数が長い時間活動していた。考えてみればおかしい。


「その通り。この人形の中を見なさい。

 ここに収納具、ここにエーテル延長具、浮遊呪具、そして。魔力結晶よ。」

「発動具と言う言葉に誤魔化されたけど、人形の全てが発動具である必要は無い……!」

 グラトニーの驚きに、正にとクリスが力強く頷く。


「一つに見えて一つじゃない。これが人形最大の長所よ。

 第二第三は分かった?」


「第二は魔力結晶を出力補助に使える点。

 第三は複数の呪具を随時切り替えれる点ね。

 第四が、全ての呪具を同時に運用出来る点かしら。」


「ええ、完璧。さっきの人形は『剣部隊』に『槍部隊』といった形で、一見別の場所から現れた様に見えて、最終的に一つの呪具、発動具として繋がっていたの。

 更に言えば、補助用の魔力結晶は人形内にある必要も無いわ。」


「……正に技術の集大成ね。

 呪具の切り替えなんて魔法使いの一番の苦手分野だと思っていたわ。」

 紙の魔女オルガノンは一律で大量の紙を操っていたが、逆に言えば複数の魔導書を併用した姿を見た覚えは無い。無論出来ないと決めつけはしないが。


「紙は紙で別分野でのハイエンドだけどね。

 素材の加工、応用と言う分野では他の魔女に負ける気は無いわよ。」


 殆どの魔女や魔法使いが秘伝の流出を重く見る中、契約を結んだとは言え気軽に秘伝を解説した理由が良く分かる。

 彼女の切り札は膨大な情報と組み合わせによる修練の成果だ。教えた程度で再現が可能なら誰も苦労はしないのだ。


「正直、あなたが私の後継者になるとは思っていないわ。

 だから使い魔は省く。一通りの手順を教えたらゴーレムの基礎は最低限か二年以降よ。

 数揃えるのは後日か、自分の部屋でやりなさい。


 冬季休暇末に、あなたが集めた素材の発動具化まで漕ぎ着ければ八割方私が教える事は終わりだから、兎に角駆け足で進めるわよ。」


 本日投稿文の二話目です。クリスさんの人形呪具講座。

 クリスの立ち位置はぶっちゃけ才能のあるオルガノンです(真顔)。

 オルガノンの秘術は全てクリスは習得出来ますが、逆は逆さに振っても無理。

 クリスは芸術的センスに優れていますが、オルガノンは普通止まり。

 でも戦えば経験と練度だけでクリスを圧倒しますw

 魔女の中では一番話が合う二人で、魔女達の善性の上限組でもありますw

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