終章 魔女達の会合 00.盲目の魔女
螺旋状の階段を数階分下りながら、羽衣の魔女リリスは溜息を吐いた。
この螺旋階段の長さはいつも一定していない。
そして全速力で走ろうがのんびり歩こうが必ず五分間進み続けねばならず、立ち止まる時間は含まれない。
これは防犯装置だ。様々な術式秘術呪具で監視され、単独で訪れたかどうかを確認の上で奥の玉座に通される。
此処は独立した一つの、小島一つ分程度の異世界であり、宮殿でもある。
かつては禁忌と呼ばれた魔女の宮殿。今は、その後継者の宮殿だ。
彼女は自らを禁忌の主の生贄と名乗り、自分が禁忌の器であると宣言し魔女達の上に君臨している。
此処は禁忌の魔女の信望者の祭壇だ。
彼女が禁忌の後継者である証に、禁忌と契約し服従を誓った全ての魔女は、彼女に誰一人として逆らえない。この強制力は禁忌一人にしか働かない筈なのに、だ。
「不服が気配に出ていますよ、羽衣。」
扉を開ければ目の前には指定席と円卓がある。
「申し訳ありません。学園と私は相性が悪いので、未だに臭いが残っている気がして。」
席に着きながら他の魔女達に視線を走らせる。が、今は一人しか来ていない。
嘘は厳禁だが、全てでは無い。リリスが主と認めたのは禁忌只一人。
後継者など要らない。主が死んだのなら自分も死んで終われば良かった。
如何に主の魂だろうと、別人の体に宿っても主と同じ人格が保てるのか。リリスは今の主の命にはどうにも命を賭ける気になれなかった。
「本当かしら?あたしにはアナタが我らが主の復活に積極的には見えないのだけど。」
ストレートに髪を伸ばした金髪の美女が、犬歯をチラつかせるように挑発する。
「目立ち過ぎて仕事が出来ない奴に言われたくありませんね。
これでも仕事はきっちり果たしていますから。」
腕を組んだまま舌打ちする様は如何にも行儀が悪い。これが最古参の魔女だと言うのだから世も末だ。いや、魔女だから当然か。
「その様ですね。彼女は我々の望み通り役目を果たしてくれたようです。」
「マジですか……。」
後継者殿の言葉通りなら、彼女は学園内を監視出来ている事になる。
「仮面の報告ですよ。仮面は良くやってくれています。」
「信用出来るのですか?本来封印の探索は仮面の役目、埋伏の出番は無かった筈だ。」
苛立たし気に爛々と輝く赤い目を、空白の座席へと向ける煉獄の魔女。彼女は舌打ちをせずに話せないのだろうか。リリスは彼女が機嫌良く振る舞う姿を見た覚えが無い。
「封印の探索だけなら仮面は済ませています。
問題はその解放手段です。仮面は決して戦を得意としている訳では無い。」
増員は止むを得ないのだとの返答に、謝罪の意を示す煉獄。流石の彼女も後継者殿だけには忠実だ。
「この際、一つ疑問に答えて頂いてもよろしいですか、盲目殿。」
咄嗟に席を立つ煉獄を制し、話せる内容ならと許可を出す後継者殿。
「何故我らが主は事前に器を用意しておられたのでしょう。
敗北に備えるなどと言うのは我らが主らしくないと思えてなりません。」
「貴様ぁ!!」
「敗北したとは思っていないからですよ。所詮私も主にとっては手段の一つです。」
怒り任せに腰に手を回した煉獄が、理解出来ないと全身で戸惑いながら立ち尽くす。
当然だろう。実際リリスも同じ表情を浮かべていたと思う。
「我らが主が警戒したのはナイトバロン只一人なのですよ。
決して老いぼれのダーククロウ如きでは無い。
あなたは我が主がナイトバロンを仕留め損なった回数をご存じで?」
「えっと。私が把握しているのは七度、だったかと。」
「九回です。首を切り落とす様な真似は出来ませんでしたが、それは火口に落としたり、土砂崩れで圧し潰したりと、死体が残る方がおかしい手段を選んだからです。
実際主は別人の可能性も魂が別にある可能性も疑いました。」
実際には全部、重傷で生還したようですが、と語る後継者殿に、改めて何で生きていたのかと首を傾げてしまう。
「だから我が主は確実にナイトバロンを殺せる手段を選んだのです。
心臓を貫いてもナイトバロンは生還した。ならば自分と相打ちさせるためであれば、手遅れになるまであの男は粘る筈だと我が主は考えた。
もうお分かりですね。我が主は最初から死を超越している。魂を封じられたのも想定の範囲内。
主は予定通りナイトバロンを討ち取ったのです。」
「で、では!」
リリスが思わず席を立ち、ええと笑顔で頷く。その金色の瞳は一切光を宿さない。
「我らが主は完全な形で、何一つ損なう事無く復活しますよ。
御懸念は解けましたか、羽衣の魔女よ。」
ギリギリ間に合ったので2話投稿しています。
周囲の目には、ナイトバロンと学園長は両雄ですが、
禁忌視点だと学園長とかどうでも良くなるぐらいナイトバロンがバグ(笑)




