04.掘り出し物
二学年だろうと料理の腕は劇的に変わらないと気付いたグラトニーは、食べ物関係への関心を失った心算だったが。
「どうにも料理で遊んでいるようにしか見えないわ。」
天幕の中一面が小さな森や花壇の様な有り様で、植物の形をしたクッキーや花形の飴、池の形をした水槽の中を砂糖菓子が泳いでいた。
蝶の形をしたチョコが舞う様は幻想的なのかも知れないが衛生的とは言えない。
ここは芝生とは言え砂埃舞う校庭で、しかも大勢が行き交うのだ。
「ほう、今時魔法料理を見た事が無い学生がいるとはね。
随分田舎から来たのだな一年坊。」
髪を両手で掻き揚げた長髪オールバックの男は、やたら芝居がかった仕草で現れる。
「だが慣れておいた方が良い。何せ二年の薬草学では正にその料理魔法を習う事になるのだからな。そして一流のシェフは魔法料理を極めた者だけを指す!
……覚えておくと良い。」
「わ、分かったわ。そしてここは探求寮生が経営している店なのね。」
「そうだ!そして薬草学で好成績を修めた者は生活に困らない!卒業生もだ!
……覚えておくと良い。」
覚えておくと良いの度に両手で髪を掻き揚げる謎の二学年生。
まさにその瞬間が隙だったので、躊躇無くグラトニーは天幕を出た。
そして殆ど似た様な売り方をしていた一学年と違い、二学年は様々な方法で客引きをしていた。とは言え商品なら兎も角、客引きに魔法は禁止されているらしい。
その中でも大体妙な客引きをする者は皆探求寮に所属しており、他の寮とは比較にならない程気合が入っており、意外に親切な者も多かった。
尤も、大体預言者寮の者はグラトニーが来たら店から追い出そうとしたが。
(一応二学年の掘り出し物と言えば、これかしらね。)
あの後押しの強さに負けてちょっとした揚げ菓子を買わされてしまったが、本来買おうと思ったのは今腕輪の中に収納した『濾過式小型洗濯槽』だ。
何でも衣服の汚れを一切傷めず殺菌洗濯出来る旅行用の洗濯槽だと言うが、学生らしく衣服の色も完璧に落ちる欠陥付きなので、白物専用にしか使えない。
が。レース等も問題無く洗えて染み抜きも可能。腕輪に収納出来るなら便利だろう。
二学年で呪詛をまとっていたのは一人しかおらず、肩にはフクロウも戻っている。
取り敢えず教室に向かおうとしたが、不意に遠くで騒ぎが起きた。
爆発音では無い。だが悲鳴や何かが崩れた様な物音。土煙などは特に無し。
使い魔で様子を伺うには我が身の安全を確保する必要がある。どちらにせよこの場所で何が起きているかは判別出来ないと足を踏み出すと。
「あちらは只の陽動です。ジュリアン君達に任せて大丈夫ですよ。」
完売と書かれて商品が並んでいない天幕の奥から、ローブ姿の人影が現れ少女の様な声でグラトニーに話しかけた。
「あら。本命はあなたで良いのかしら。」
「はい、こちらへ。
今結界を張りましたので、外部の音は聞こえますが、天幕の中の音は漏れません。
あなたに頼みたい事がありまして。勿論対価はお支払いします。」
「見えていたから大丈夫よ。あなた、私が探していた魔女じゃないわね。」
結界を張ったのは見えていた。そして目の前の長い白髪を隠したオルガノン以上に吸血鬼を連想させる赤い瞳のアルビノ少女から漂う微かな呪詛は、ハッカ飴とは別の香りだ。
「流石ですね。何故お分かりに?」
少女は幕内に案内し、安物の椅子を進めて座る。
あなたには呪詛が見えないのかしらと返すと、少女は苦笑して首を振る。
「見える者が魔女に成り易いのは事実ですが、魔女視点でも希少ですよその眼。
まあ呪詛絡みで魔女化すると、呪詛だけ見える様になる者も出るみたいですが。」
「何故ジュリアンを?」
「学園長が注目しているのはお二人ですが、大事なのは彼の方です。
単刀直入にお願いさせて頂きますね。
この地図に描かれたダンジョンの最深部をあなたに攻略して戴きたい。近々ジュリアン君が攻略する事になるので、その前にです。
勿論中で手に入れた物は御自由にして構いません。」
手渡された地図は魔法一つかかっていない、手書きの地図だ。半分は目的地への行き方が描かれ、残り半分がダンジョン内の地図となっている。
「……未だ名前を聞いてなかったわね。何故私に?」
少女は瞬きをして、まさかはっきり聞かれるとは思いませんでしたと応えて一礼する。
「初めまして、リリスと申します。異名は能力の開示に繋がりますのでご容赦を。」
今はそれで良いわと応じ、感謝しますとリリスが座り直す。
「他の学生達は最深部まで辿り着けません。禁止されてもいます。
もう直ぐ冬季休業ですよね?ジュリアン君は三学期に挑むと思いますので、あなた以上の適任者はいないんです。私だと玄関から正面対決になるので。」
あなたなら封印があっても解けるでしょう?と告げるが。
「封印を解いてリスクを冒せと?」
「封印があるという確証はありません。地図は二十年以上前のものですから。
因みに最深部からは何も持ち帰らなくて構いませんよ。あなた次第ですので。」
「どうやって最深部に辿り着いたと判断するの?
手前でお茶を濁して報酬だけ受け取ったら何が悪いのかしら。」
お戯れをと深まったグラトニーの笑みを、リリスはにやりと受け流す。
「秘密の森の地図を手渡されて、ダンジョンがあると聞いても驚きませんよね?
あなたの手元には例の教師から奪った教科書がある。察しは付いていたのでしょう?
禁忌の魔女が学園を狙い、学園を確保した校長が絶大な権力を持つ理由を。」
「へぇ。なら私は今も発動具を自作出来る条件が揃っているわね?
何故私はお上品に昇級を待って、発動具を自作しないのかしら。」
「目立ち過ぎるからですよね?奥の手を目立つ場所で作るなんて正気の沙汰じゃない。」
手持ちの呪具の情報は皆が伏せている。二学年以降は呪具の自作も活発化し、発動具の作成も目立たなくなる。何より基礎は呪具作りの質に直結する。
「ですが、魔物素材を使わない発動具なら如何でしょうか。
私が用意する対価はこの【呪具人形の魔導書】です。単純に呪具にする人形を作っても問題ありませんが、この魔導書には人形発動具の作り方も記載されています。
素材の入手も秘密裏に行えますよ?この魔導書の神髄は、魔導書自体が魔力結晶の要領で陶器や磁器、木製素材を魔力だけで精製出来る点にあります。
引き受けて下さるのなら、先払いでお渡ししますよ。」
「――まだ答えていないわよ。発動具が取れなくても手の内を隠せるのは分かった。
けれど、私が最深部まで行くという確信は何?」
「――あなたの性格です。あなたは好機を逃さず無駄を嫌う。
地図の入手を口実にすれば、一度くらいは厳重注意で見逃されるのでは?
何度も挑戦が出来ないのなら、あなたは一度で最大効率を狙うでしょう?」
あなたが一人で辿り着けない難易度だと確認出来るだけでも良いんです。
条件はジュリアン君も同じですから、と補足するリリスだが、最深部以外の難易度は把握していると見て良い。時間的にもそろそろ限界か。
「悪くないけど、見逃されなかった時のデメリットを踏まえれば不足じゃない?」
そこでリリスは初めてうぐぅ!と動揺の声を上げて。
「えっと。連絡用の呪具はこちらがあるんですが、余り呪具が多いと侵入がバレ易いのでして……。現金を少々でまけて下さいませんか?」
「嫌。流石に現金はどうとでもなるでしょ。」
「く……!ぶっちゃけ今、学生から買った魔力結晶の代わりに鉄を作る呪具しか手持ちが無いんですが……。後日何か追加で送るという事で……。」
「いや。その呪具と製作者情報を今寄こしなさいよ。盾の人形作るから。
次回なら何持ってこられても文句言えないじゃない。」
「いや~~~ッッッ!マジこれ地味に凄い便利なんですよ!せめて冬の間だけ待って!
複製し終わったら必ず設計図込みで届けますから!!」
現物しか無いんですと涙ながらに懇願され、つい必ず届けるならと妥協する。
「それなら大丈夫です。学生が作っただけあって大分手軽ですから。」
平常心を取り戻したリリスにこれ製作者の名前と場所ですと手早く書いたメモを手渡される。そしてそそくさと前言を撤回されないうちにと即刻天幕を出て姿を消す。
グラトニーも天幕を出ると、禁止されていた箒を使って教師ドロテアが下りて来る。
「グラトニー!今こっちに誰がいた!」
「もう帰ったわ。多分別口の魔女。」
タイミングを合わせて火花を散らし、周囲に聞き取れない様音を隠す。
それでもドロテアにははっきりと聞こえたので、突然の破裂音含めて混乱する。
「は?別口?」
「ここに罠は無いと思うから、中で話す?それとも周り空ける?」
言外に呪詛で人払いするかと聞くと、流石にドロテアも自分が人前でするのは不味い話を振っていたと思い至り、中でと答えて後に続いた。
本日二話投稿。前半です。
探求者寮生は2パターンに別れます。
所属寮を恥じて悶えるか、好奇心に悶えるかです。
卒業率は一番低いけど、後世に名を残した卒業生は最多という裏設定があります。
魔法世界的に一番信頼される卒業生は、恥じて悶えた地味な探求寮生ですw




