02.教師からの依頼
購買祭が近付くと、魔道具学の補講が殆ど予約で埋まるようになった。
教師マルガルが一番忙しい時期で、しかも補講は材料の準備と鑑定しかしなくなるというが、正直授業後の周囲の補講確保争いを見ると分からないではない。
「なのに何故防御学は不人気なのかしら?
使い捨てな上に売れそうな物が揃っているのに。」
「いや、言うほど売れないからな?護身用って本来、授業以外でそうそう消耗する物じゃ無いんだぞ?」
日除け風除け雨避け等、多様な生活防災系お守りに加え、特に肉体硬化は可能な限り数を確保しておきたい。
身代わり人形は身に付ければ一定ダメージを肩代わりする使い捨ての人形呪具だ。
自身に外見が近い程ダメージ吸収量が多いが、人気なのは何故か動物型だとか。
「アクセサリー代わりに付けられるからだな。小さいと打撃一発で限度だが。」
「成程。目立たないのね。」
数隠し持てるからかと思ったが、何故か頭を抱える教師ナイトメア。
何かあるのかと質問を返す前に、ノックの音が話を遮る。
促されて入って来たのは扉の枠に額をぶつけそうな長身の女性、教師ドロテアだ。
「おやアンタもいたのか。だったら話は早いか。」
「ん?一体どっちに用なんだ?」
ナイトメアが確認すると、ドロテアは両方と答えて適当に席に着く。
「ちょっとグラトニーに頼み事があってね。その報酬を前払いで用意するために教師ナイトメアの力を借りたかったんですよ。
教師マッスリゲルに聞いたところ、呪印術はあなたの方が得意と伺って。」
問いに少し首を捻った後、ああと気付いたナイトメアが頷く。
「そうか。その報酬ってのは使い魔か。」
「使い魔?」
教師ナイトメアはドロテアと視線で説明していいかを確認し、姿勢を正した。
「使い魔って言うのは簡単に言えば、動物や魔獣を使った雑用係だ。
ゴーレムやらと違って力仕事には向かないが、指定した場所への連絡等に使える。
より上位の技術を用いると、例えば鳥の使い魔なら視覚を共有して空から様子を探るとか、蛇なら狭い隙間も調べる事が出来るとか、まあ発想次第だな。」
色々便利に使えるが、誰でも作ったり使える訳じゃないという。
そこでおや、とドロテアが口を挟む。
「誰でもは無理なんですか?確か調整すればどうにかなる筈では。」
「使い魔には二種類あるのさ。一つは魔獣学で扱う召喚魔法、召喚獣による使い魔。これは魔獣学を極めても相性があって、腕次第で出来る事もまるで違う。
だが最低でも三学年の選ばれた者しか扱えない。使えれば相当便利だがな。
もう一つが防御学で三学年が習う、呪印術を用いた使い魔呪法だ。
こっちは動物や魔獣の死体、ミイラや剥製を使う。召喚獣ほど自由には扱えない反面、事前に作った使い魔は特定の手順で他人に譲り渡す事も出来る。」
魔獣学の教師が自分で使いたがらない理由も、無能人が相手だからってだけじゃないだろうと補足する。死体の鮮度も大事だというのだ。
「あ~。出来れば視覚共有と伝聞が出来る使い魔を用意したかったんですが……。」
これで出来ますかねと鞄を開き、拳より少しだけ大きなフクロウの剥製を見せる。
「ん~。……使い魔様に加工された剥製みたいだな。
数日かかるが、まあ購買祭に間に合わないって事は無いな。早い方が良いのかい?」
お願いできますか、と言われ快く引受るナイトメア。
「対価とか事情は聞かないの?」
が。妙に気まずい顔になる。
「あ~。こっちは事情が分かるっていう面が……。
あ、取り敢えず用事を済ませたらどうだ?」
「あ。そうですね。ではグラトニー、お前さんこの間襲撃を受けただろ?」
ドロテアの言う襲撃とはジェンドの事ではない。
あの後も先駆者寮の二学年に襲われたのだが、特筆する長所も無かったので止めを刺そうとして、ふと他にも増え続ける可能性に思い至り、保健室に運んだのだ。
因みに呪詛を吸収出来る事もその時に話し、実際にその状態を彼らの呪具で観測出来るかを試して貰った。結果はドロテアが改良した方が辛うじて、だ。
「例のハッカ飴だけどな。実はそもそも生産出来ない事が分かってる。」
「んん?現物はあるんだろ?生産出来ないって何だ?」
ドロテアはナイトメアの問いに頷きつつ、グラトニーに向けて話す。
「ハッカ飴の原料は、今の魔法世界に現存していない。
昔禁忌に滅ぼされた里の一つが生産していた名産品だったんだ。そしてその里が滅びて以来、ハッカ飴は現存しない幻の飴とマニアの間では知られていた。
無能世界からの物資の持ち込みは厳しく制限されているから、例のハッカ飴が魔法世界産なのも間違いない。その特徴はあったからな。」
「……詰まり、飴自体が魔女の魔法で生み出されたって話だったりする?」
「他に考えられない。学園街にハッカ飴を売り出している店も当然無かった。
吸収した呪詛の性質もある程度分かる様になったんだってな?」
厳密には理解可能な呪詛なら、に限るが。だが茶会の魔女ローレルの調査報告を違和感無く話すにはその方が都合が良い。
「判別出来る条件は未だ分からないけどね。
対象の心を開放して興奮状態にする作用と、周囲に何かを発する性質があるわ。」
「それは……複数の効果があるって事か?」
「いいえ?体の中に十分溜まったものを噴き出しているだけ。」
体内の衝動を魔力増幅源に変えて、外に放出する体質に変える術式だと言っていた。
「分からんなぁ……。それで何が出来るっていうんだ?」
「あら。数が揃えば、空白以外が埋まるじゃない?」
「「!!!!」」
グラトニーの指摘に二人の顔が驚きで一致する。
「探知機替わりか!学園内の封印場所の候補が絞れるようになる!」
生徒達が適当に動き回ってくれるだけで、術の効果の及ばない場所が自然と浮かび上がるだろう。向こうは候補が減るまで今の様に黙って待てばいい。
「後は、陽動を起こしやすくなるでしょうね。どうせ学園の人材だし、ねぇ。」
使い潰して困るのは学園側だと楽し気に告げると、苦みを噛み潰した様な顔でドロテアがそこで頼みたい事がある、と本題に入る。
「購買祭の時に騒ぎを起こされる可能性を、我々は一番警戒している。
だが呪詛を確実に発見出来るのは今の所お前さんしかいない。そこで、呪詛をまとった生徒がいたら、この使い魔越しにそいつの顔を記録させてあたしに届けて欲しい。
前金がこの使い魔で、治療は保健室で別の機会に行う。
発見と治療、別々に人数分の追加報酬を付けよう。期間は購買祭終了翌日までだ。」
ふむと少し思案し、使い魔の相場を聞くと箒よりもずっと高かった。
「自作すると材料費は極論タダになるんだがな。
獲物を捕らえる手間と、保存状態と、術者の技量による技術料、手数料。
見た景色を撮影する念写機能まで付けると、ちょいと使う側にも訓練が必要だ。
防御学で成績優秀者なら多少授業の先取りをして二学年中間だな。」
色々な機能を付けたいのなら、多少の魔獣知識と魔道具学も必要だという。
ちょっと拘束時間が多くなるが、結構高性能な使い魔になる様だ。
多分今話してくれている内容も、本来もっと上の学年にしか説明しない筈だ。
(となると、使い方の説明で少しは授業の先取りも出来る訳か。)
「その条件で構わないわ。」
「おっしゃ!それじゃ作った後は、使えるようになるまで補講で特訓だな!」
即座に立ち上がり力瘤を作って見せた教師ナイトメアが、それじゃ借りてくぜと梟を鞄ごと持っていく。
教師ドロテアも、微妙に気まずい様な遣る瀬無い様な、自分でも良く分からない顔で教室を後にしていった。
本日2話投稿しています。
平和な時代の護身具にアクセサリー要素は必須。
でもグラトニーは「何で町中で鎧着ないの?」とか思ってる人。




