02.入学式
「あら。もう今日は入学式なのね。」
本棚の漫画が楽し過ぎた。
前の人が残していった物らしく、危険物は無いので自由にしていいと言われた。
因みにこの世界で電話は危険物らしく、テレビ電話でオスさんに話を聞いた。
テレビ電話は鏡と鏡を繋げる原理で、電話は稀に異種族が電線を通るので何かと危険らしい。
『なので充電は入学後に専用の防犯器具を購入してからにして下さい。』
どの辺が物理法則同じな並行世界なのか問い質したくなるが、魔法とはそういう技術の様なので敢えて何も言わない。
教科書も既に一通り目を通してある。
「でもまあ、失敗出来る場所で練習した方が良いわよね。」
寮から学校へは廊下が繋がっている事もあって迷わない。
入学式で適性審査を行い、必須科目から三単位、残りの科目から二単位を選ぶ。余分に単位を取ればより卒業が近付き、必須科目以外は三学期全てで選び直せる。
この適性審査が曲者で、純血の魔術師ほど多くの分野に適性を持つという。
こう言うと器用貧乏になりそうだが、実際には全ての適性に平均して高く得意な分野が更に高いだけだとか。だが魔術を学ぶ上で血統が評価対象に成るほど重要だとも記されている。
(パンフレットにも書かれる程なら、あの駄目人間の言動も案外一般的だったのかしらね。)
遠目にひそひそと話していた連中も講堂には入らざるを得ない。
グラトニーが扉を抜けると、直前のざわついた空気がまるで水を打ったように静まり返って、海が割れる様に道を空ける。
彼らの表情は呆けたような沈黙と、背筋を凍らせた恐怖。例え異形と言えども例外など無いのだと彼らの態度が物語っている。
席番が縦に一致し横へ進もうとした時、正面に位置した数人の取り巻きが立ち上がって囲まれて。
少女とは思えぬ豊満さを実らせた金髪美少女が、意を決して声を上げる。
「あらら~~?何故この学校に無能人が来ているのかしら。
学園のスカウト達は目が腐っているのかしら。」
「そうねぇ、少なくとも片方は目に加えて心も腐っていたわ。
あなたは特に気を付けなさいな。」
「え?えぇ……。え、心も?マジで腐ってたの?」
何故か取り巻き達共々やたら動揺していたので、肩透かしを食らった気分で放置して道を進み、怯える様に周囲が下がる中席に付く。
講堂は意外な程に大学と良く似た会場で、椅子の手摺が材質不明な以外は何一つ特別な光景は見当たらない。
強いて言うなら脇に控える教員達が極めて個性的な種族が揃っている程度か。
「それでは、諸君。ここに呪法学園カーズの入学式開催を宣言する。
学園長、お願いします。」
うむと花吹雪の中から現れたのは、先日塔から手を振っていた白髪の優男で、皮肉気な笑みさえなければ間違いなく美男だっただろう。
長い紅蓮のローブに身を包み、怠惰な欠伸と共に演台に立つ姿は毒蛾の美しさか。
「えー。この学園に入学した、前途溢れる有望なる若者達よ。
君達の中には優れた才覚を持ち栄光ある一族に生まれ、未来を担う逸材と将来を嘱望されるエリート達が数多くいる事だろう。
その大部分がこの学園には不要である。」
(おやまぁ。)
ざわりと動揺しない、数少ない例外になりながら。グラトニーは職員達の呆れ顔を眺め今回の暴言が決して珍しく無いのだと悟る。
「この学院に必要なのは天才と狂人、一握りの一欠片だけだ。
それ以外は一切要らない。」
生徒達は聞き間違えでは無いと気付き、更に動揺する。
「意外かね。だが百年二百年と在籍し続ければ、その程度の人材は幾らでも揃う。
秀才も要らない。凡人、無能など当然論外だ。必要なのは結果だけだ。
規格外こそがこの学園で価値がある。その為この学園は上に進む程苛酷になる。
最初の一年だけは比較的穏便で、そこが引き返せる最後の猶予期間だ。
名門卒業等という肩書欲しさに命を散らす者が毎年数多く現れるが、我々は一切頓着をしないという事実を忘れないでくれ給え。以上だ。」
言いたいだけ言って壇上を降りた男は、教頭と思しきスキンヘッドに怒鳴られながら花吹雪の中に消える。慌てて舌打ちしながら彼は壇上に上る。
「え~、校長の激励は過激ですが、真実の一端も含まれます。
我が校はその扱う技術難度故に、毎年必ず死者行方不明者が出る。
なので甘い考えで入学した者は必ず後悔するでしょう。後悔の無い、成果を残せる生徒を目指すよう、頑張って下さい。」
(あらあら、間違っているとは言わないのね。)
「それでは、教師一同の紹介に移ります。」
教頭がフォローに入ったお陰か恙無く進行し、やがて適性審査が始まる。
適正審査は言わば適正に合わせた必須科目を決める儀式だ。この儀式によって所属する寮が決まり、先輩後輩関係も決まる。
適正で寮が分かれるのは相談内容が適正次第で別物になるからで、他寮の上級生に相談毎をしても良いが、トラブルは相談側の責任となる。
あと、性別の垣根は男、中、女に分かれており、同室は同性のみ。
勿論自己申告の話では無い。中性該当者は無性生殖や単為生殖などだ。
……話を戻そう。
適正は預言者プロフェット、先駆者パイオニア、探求者シーカーの三つ。
預言者は古き魔術に精通し、伝統の継承と神秘の理解を深めるもの。代々名門が多く、最も純血主義が根深い排他的な派閥。
必須科目は防御術、魔道具学、呪文学となる。
先駆者は神秘の理解を広げ、新たな魔術を切り拓くもの。実力主義の傾向が強く雑種扱いされる者が多く所属する結果、過激思想に走る者が多い。
必須科目は天文学、魔道具学、呪文学となる。
探求者は未知に挑み既知に囚われず、魔境へと挑むもの。思想的には中庸だが独自路線を進む偏屈者の集まり。
必須科目は魔獣学、薬草学、呪文学となる。
多少の科目数は前後するが、一年で学ぶのは八科目。呪文学は適性を問わず学ぶ必要があり、選択限定の教科が二つ、魔法史、教養学。
この二つだけは最大三単位で、卒業までに一単位取れれば良い。
ついでに言えば必須六科目は全制覇する学生も稀にいるため、派閥外の受講自体は寧ろ推奨されている。ただ魔獣学と薬草学は普通一方しか取らないという。
妙に間延びした口調で語る彼女の発言を整理すると、こんな感じだろうか。
偶然隣り合った少女の名はアヴァロンといい、小柄な銀髪を靡かせたドレス姿が良く似合う、若干形状不安定な美少女。
大事なのでもう一度、若干形状不安定な美少女。
彼女の輪郭は、少し危い液体系金属質だ。
実は本名を忘れて仕舞い、誰かが間違った名前を本名として使っているらしい。
(それでも入学出来るのね呪法学園とやらは。)
「魔法を使える世界の住民は全般貴種って呼んで、私もコレね~。
んで、特に名門の血だけを引く一族だけが純血種。
貴種でも両親に名門以外の血が混じった時点で雑種、純血外扱い。まあ雑種も純血も貴種には違いないんだけどね~。
ん~で。魔法が使えない世界から来ると、全部無能人だね~。」
大体分かった?と小首を傾げるアヴァロンからは、一切の嫌悪感は見当たらない。
「ええ、色々と助かるわ。」
何せ他の連中と来たら、少しでも距離を取ろうと席を離し、絶対に視線を合わせようとしない。グラトニーが来る前は、無能人に石を投げつけるのは純血種の義務だと彼らは語っていたらしい。
(((余計な事言うんじゃねぇよ雑種!!!)))
聞き耳を立てていた連中が揃って体を硬直させた。
「でも誰も石を投げないのは何でかな?」
「入学式に石を持ち込むのは非常識だからじゃない?」
成程な~と深々同意する辺り、良くも悪くも他人に関心無いのか。
適正審査は既に行動に設置されている儀式陣を用いて行い、全員の机に並べられた魔法陣の中央に、机のナイフで血判を付ける事で発動する。
適正が脳裏に響いたら、魔法陣に各寮色のローブと帽子が召喚されて完了だ。
「それでは、指に傷を。アーケロン!」
「「「アーケロン。」」」
『煉獄……いや、預言者!!』
何故か迷ったような声と共に、掠れた声が言い直す。と同時に黒いローブと帽子、更に何故か歪で呪われてそうな金の腕輪が出現する。ご丁寧に細工には三つの目がある。
ざわり、と周囲から更に人気が退く中、グラトニーは妙に頑丈な手応えと柔らかさを両立させたローブを試しにと羽織る。
帽子は縁が大き過ぎる三角帽子だったが、成程縁の模様は強固な防御陣の様で、頭部に程良く固定されて頭を揺らした程度では離れない程に安定していた。
(でも、取り外す事は出来る、と。成程ローブ共々凄い技術ね。)
沈黙前の周囲の歓声と既に羽織った皆の様子を思い出すに、そこらで手に入る代物では無いと察せられるが、悲鳴の様に広がった叫びが思考を遮る。
「パっ、煉獄だッッッ!!!!」
周りが椅子を倒して驚き怯む有様に、どうも想像以上に特別な事態らしいと首を捻る。
「新入生グラトニー!そ、その腕輪はどうしたのかね?」
「今適正審査の魔法陣から出た品ですわ。煉獄というのは何です?」
途中で冷静さを取り戻したムーンパレスが姿勢を但し、近くで腕輪を観察する。
「本物だな。だが、君のローブは間違いなく黒だ。先に質問に答え給え。
君の脳裏には何と響いた?」
「最初に煉獄と言いかけて、次に預言者でしたわ。」
視線で説明を迫ると、ムーンパレスは少し言い淀む。
「……煉獄とは今は禁止された魔術の適性だ、だが君は預言者の装備を与えられている。だから君は間違いなく預言者だ。その腕輪も付けておき給え。」
グラトニーと同じ黒を纏った者達から悲鳴や悲嘆の溜息が溢れる。他の色、紺と深緑達からは真逆の安堵と歓声だ。
「腕輪が出たのは私一人の様ですが?」
「危険な物では無い。その適性の術者は禁術に関わる者達から命を狙われ易い。
それ故の防護魔具だ。」
嘘は言って無い御様子で小さく胃が軋む音が届き、気付かなかった事にして素直に手首を腕輪に通す。
すると腕輪はローブをすり抜けて上腕に移動し、二の腕を固定する様にローブの上から包み込んで止まった。軽く腕を動かすも全く支障を感じない。
「凄いねぇ。つまり魔術から排除された筈の適性が出てきた訳だ。」
全く動じる事無く腕輪を観察するアヴァロン。ムーンパレスは気が付けば既に立ち去った後の様だ。
「あなた凄いわね。」
毒気を抜かれたグラトニーが、改めて首を捻るアヴァロンを適当にあしらう。
歓声に振り向くと、各寮の上級生が壇の前に登場している。
彼らが新入生を寮に案内すると宣言した瞬間、同じローブ色の人間……同じローブ色の者達が揃って、初見の広間に出現していた。
「驚いたかね!ここは最も伝統を重んじ、魔法界を担う純血の砦!
私は預言者の寮長にして三学年生のメイザーだ!純血諸君歓迎しよう!」
(あらあら。純血以外はお呼びじゃないと公言する者が寮長ねぇ。)
つまり分かりやすくそう言う場所だと言う事だ。グラトニーも小さくくすりと嘲笑を浮かべる。
寮生は先生方が部屋を割り振る間、新人達の歓迎会を開くのが習わしだという。
「そう深く考える事は無いぞ!要は質問会と立食パーティを兼ねているだけだ!
純血は奥、それ以外は手前で境界が引かれているので注意する様に!」
言葉と同時にカーテンが引かれ、料理の並んだテーブルの数々が姿を現す。
奥の料理ほど豪勢で、手前の料理は雑に量を並べただけの物が殆どらしい。
「質問。テーブルは食べていいの?」
「え?……いや、……出来れば遠慮してくれないか……?」
「え~~~?じゃあ先輩方は?」
「絶対に食べ物じゃないからな?!」
アヴァロンの質問に本気で怯む寮長メイザー。
「私も質問良いかしら?純血ってどういう区切りなの?
純血の先輩方全員が同種族には見えないんだけど。」
「「「…………お前!なんていう事を!!!!」」」
一部の新入生を除き、歓迎会の会場中から一斉に悲鳴の様な叫びが上がる。
どうやら純血最大のタブーに触れたらしい。
2021/9/23 改行スペース他微修正。




