02.旧校舎攻略準備
旧校舎を探索する以上、ある程度余裕をもって週末まで待つ他無い。
全授業単位を取っていなければもう少し余裕があるのだろう。というか天文学は適性が無さ過ぎるので、二学年以降は受講する気がない。
微妙に判断に迷うのが魔獣学で。
「お前達には今学期一杯、食用魔獣の世話をしてもらう。」
魔獣学教師マッスリゲルは、相変わらず謎なポージングの所為で顔が記憶に残らない。
「教師マッスリゲル、何故食用魔獣なんですか?
もっと戦いの役に立つ魔獣にすべきだと思います!」
先駆者寮の同期が手を上げて質問する。……多分質問。
「昔それをやったんだが、途中で食べられる生徒が続出してな。
まあ基本を覚えるためだからって事で、一学年は潰しの利く食用になったんだ。」
まさか教師マタハリに半殺しにされるとは思わなかったと、当時の事をしみじみと振り返りながら逆立ちし、筋トレするマッスリゲル。
(((い、色んな意味でこえぇ~~~……。)))
「?」
受講者三人で一頭の鳥猪の世話を担当する事になったのだが。
「『蔦よ宿木よ、手を絡めろ、包んで縛れ』。」
「ちょ!何でそこで魔法使った!」
「え、掃除の為よ?動いたら邪魔でしょ?」
慌てるジュリアンに首を傾げて答えるグラトニー。
当の鳥猪は恐怖の余り怯え切っている。
「いや何言ってるんだよ、普通に連れ出せばいいだろ!」
「何言ってるの、反抗出来ない様に屈服させなきゃ。」
うわぁとジュリアンは絶句したが、気を取り直して言葉を選ぶ。
「いや、ストレス与え過ぎたら死ぬって習っただろう?
愛情を持って丁寧に世話しなきゃ、育つものも育たないじゃないか。」
「おかしなこと言うわね。食べる物さえあれば愛情なんてなくても育つじゃない?
愛情と食事を用意するのは別の話だわ。」
本心からの疑問だったのだが、ジュリアンは何かを察して口籠る。
「……いや。それは、食事を用意する誰かが他にいたんじゃないか?」
「???? ええ、そうね。親と給仕係は別物ねぇ。」
それを聞いて、益々苦みを噛み潰した様な表情を深める。
「えとな?この場合世話係は俺達だから、食事を与えるのも愛情を注ぐのもどっちも俺達が担当する訳だ。別じゃない。そこは分かるか?」
「?意図は分からないけど、そうね。」
「こ、こいつらは怯え過ぎると食事が取れなくなる生き物なんだ!」
「それ、重要かしら?食事が取れない生き物が死ぬのは当たり前じゃない。」
「そ、育てるのが目的だから!料理だって下拵えするだろ?
粗末に扱った食材からは粗末な料理しか出来ない!怯えさせるって言うのは植物で言う雑な育て方をした食材の事だ!」
何を必死で訴えているのかさっぱりだが。
「つまり、扱い方で味が変わるって事かしら?
肉の味は与えた食事の質で決まるものでしょうに。」
栄養ってそういう物でしょ?と指摘するが。
「喉を通らなかったら栄養なんて関係無いんだよ……。」
「難しいわね。喉に手で押し込むじゃダメなの?」
「駄目。それは出来ない生き物だと思ってくれ。コツなんだ。食事を食べさせるのに専用の手順が必要で、それを覚える授業なんだ……!」
気が付けばもう一人の世話係が、何故か必死でジュリアンを励ましている。
呪詛で心を折るのも絶対禁止だと言われた。
呪文学は、一学年で教わった全てを習得し切れる者は稀だという。
呪文を覚えるだけなら一学期、呪文を三節まで制御出来て合格。
二学期三学期で一つの呪文で同じ効果を複数同時に使用するのが今覚える事だ。
「つまり、『火花』や『幻の霧』で十発同時に出すとかの事?」
「そうだよ。普通はそれ、一目で出来ないんだぞ。」
教師ドロテア曰く単位だけなら合格確定だから、授業中は飛行訓練や、飛行中に魔術を使う訓練をするように言われた。もう速さと正確さしか鍛える点が無いという。
「単位中に追加で教えられる事無いんだよなぁ。」
成績だけならグラトニーが既に首席確定と太鼓判を押された。解せぬ。
魔道具学。
今最も熱く大事な授業だ。そして自分の得意分野だけ真面目にやれば良いと思い込んでいた不真面目な生徒達に鉄槌を下している教科でもある。
教師マルガルは純血を優遇しない、学園に不適切な教師なのではない。
実力のある者だけを純血と認める、学園を体現したかのような教師なのだと、一学年の生徒達は理解し始めていた。
だがそんな一部生徒の焦りなど、グラトニーにとっては気付く余地すら無い些事だ。
グラトニーは今取り組んでいる授業こそが、正しく魔法使いにとって必要な基礎なのだと理解している。今学ぶ授業は、全て発動具を作るための土台となる技術だと。
「購買祭の事だけを考えている馬鹿共はまあ、喜ぶが良い。
全ての呪具の中で、唯一元手が係らず絶対に腐らない呪具が今日作る『魔力結晶』だ。
これを加工する事で魔石となり、『着火杖』と『無限水筒』が作れるようになった後に作る『魔法のランプ』に使用する。
つまり消耗品だ。質によって価格は変わるが、成功すれば絶対売れる。買う側には上限があるだろうがな。」
他の呪具だけは挑戦出来る数が決まっており、単位も成功数で判断される。
但し、材料を買うならいくら作成しても良いという追加条件がある。
「教師が認めた以上の品質なら学園で相場通りに買い取ってやる。
だが購買祭に備えて溜め込むのは自由だ。相場以下で買い叩かれても自己責任だがな。
但し、授業外で作った物を買い取る気は無いから、後日売れなかったと言っても買い取らないのは覚えておけ。」
毎年現れる、ごねる生徒への注意事項だ。
授業外で作った品も鑑定の上で学園は買い取って貰えるが、鑑定手数料が割り引かれる事になっている。授業で作る場合だけが、鑑定も授業の内扱いになるというのだ。
「生徒グラトニー。お前はこの大きさ以上を作り続けるようにしろ。
このサイズ以上が学園が色を付ける大きさだ。お前にとってはこっちの方が練習になる筈だからな。」
「はーい。」
いつもならこの段階で抗議が出るのだが、そこかしこの呟きからは淑女の会とか特例の話が聞こえてくる。しかも文句すら出ないとは驚きだ。
淑女の会入りの影響は想像以上に絶大らしい。
魔力結晶は十や二十の魔力を用いて漸く一の小石が出来上がる、ロスが非常に大きいが実体化した魔力の塊だ。
凝縮率が高い程質が良いが、頑丈な分普通の手段では魔力に戻せない。一般的な使い方は魔石として呪文を刻み、徐々に魔力に変換する。
(『暴食』で強引に魔力タンクとして使えるけど、ロスの割に効果が薄いわね。)
授業で作った分は全て換金したので、当日までは特訓に支障が出ない範囲で収納具に溜め込んでおく。
「他に出来る準備……。包丁でも買い漁っておくかしら?」
駄目か。学園街に行けるのも休日だ、流石に校則を無視したり探索日をずらす程の理由じゃない。となると今以上の準備は無しか。
前話が短かったので二話投稿。
尚、現段階でのモブが必ずしも全員名無しのモブとは限りません。
グラトニーが名前を憶えていないだけで、
グラトニーの印象に残った者の名前だけが作中に表記されますw




