第二章 学生の財テク 01.新たな授業
魔道具学。
教師マルガル曰く、魔道具学にとって魔法薬は基礎。魔法薬の本領は薬草学に属するという。魔道具学の真価は呪具を作成出来る様になってからが本番なのだと。
「詰まりだ。前学期の単位を落とした者は以降この先の授業を受ける必要は無い。
受けたいのなら前学期の単位を取ってからだ。反論は認めん。」
学生が抗議したところで覆らない程度には、この学園の教師権限は強い。この世界特に学園内において、パワハラという言葉は無いのだ。
何せ学園長が最大のパワハラ男だ。
「何故こんなに抗議する生徒が出たのかしらねぇ?」
単位を落とした数名は全員自主的に出る事は無かったので、強制的に排除された。
グラトニーから見れば真面目にやっていれば単位は取れると思ったので、尚の事首を傾げる状況だった。
「そりゃ購買祭で学費を稼ぐ連中も多いからな。
半端だろうと呪具が作れる作れないだと稼げる金額も違うさ。」
購買祭?と首を傾げたが授業に関係無い話なので教師マルガルに睨まれ、後でなと小声でジュリアンが授業に意識を向けたので、グラトニーも視線を戻す。
(別に二つの事を同時進行でやれば良いだけだと思うのだけど。)
グラトニーは一度に複数人の会話を聞き分ける方が普通だった。
証拠という訳では無いが今も帽子に魔女オルガノン作の『エーテル球』という呪具を複数同時に付け、軽く浮かせながら授業を聞いている。
これはエーテルを注ぎ過ぎると加速して飛び跳ねるという物で、大小有るので適量の魔力を注ぎ続ける必要がある。授業を聞きながらの訓練にはとても都合が良い代物だ。
「一学年が作る呪具は『魔力結晶』、『着火杖』、『無限水筒』、『魔法のランプ』の四つ。
これが出来ない者は二学年でも授業を受けさせないから覚悟しておけ。これは二学年で扱う呪具の基礎だからな。
因みに三学年は魔道具学の単位は全て取る必要は無い。一単位取れれば卒業だ。
何故なら三学年で扱う呪具は完全に才能の世界だからだ。全て製作出来るなら私の跡を継げる人材だという証拠だ。」
その時は卒業後の進路に私の助手を選べ、と力強く告げられた。
とは言え、最初の授業では四つの魔道具作成までは進まなかったが。
「今日の授業は終了だ。あと生徒グラトニー、放課後補修を受けろ。
君が興味持ちそうな話をしてやる。」
どうやら教師マルガルの視線が幾度となくエーテル球に注がれていたのは気のせいでは無かったらしい。
薬草学。
「教師マルガルの言い分は正しいですよ?はっきり言ってくれる分優しい位です。」
まあ自分の為に言っているのは間違いありませんが、と教師マタハリが肯定する。
「実の所、二学年からは魔法薬は完全に薬草学で担当します。
何故最初から薬草学が担当しなかったかと言えば、アレ薬草関係無いですから。」
補助輪的な意味で薬草使っているだけなので、魔法だけで生成出来る薬ですと断言までされた。ぶっちゃけ魔道具分類の薬らしい。
尚内訳は、薬草の効果を一瞬で使い切る『超傷薬』、液体に蓄えた魔力分の魔力を吸収除去する『魔法除去薬』、漬けた物を残さず溶かす『消化薬』の三つだ。
言われてみれば心当たりもある。
「なので薬草学は、兎に角薬草の効果を理解する事にあります。」
大怪我を治す魔法なんて禁呪くらいですので、怪我の治療は全面的に魔法薬次第なんですよと、グラトニーを笑顔で脅迫しながら授業を続けた。
購買祭の事を聞き忘れていたと気付いたのは、放課後の補講を受けに来る直前だった。
まあ後日でも構わないかと扉を開く。
「よく来たな。話というのは君が帽子に付けている水晶球の事だ。
どこで手に入れた?」
席に座るよう勧めて、前置きを省いて尋ねる。
グラトニーも慣れたもので、少なくとも学園所属の魔女の素性は明かす気も無い。
事前に予定していた通りの回答を告げる。
「前に学園街で見つけたわ。」
「そうか。では先ずそれを鑑定させろ。
私の見立て通りならそれは『エーテル水晶球』という危険物として回収が義務付けられている品だ。但し例外が二つあるから、該当すれば回収はしない。」
「構わないけど、例外は教えてくれるのよね?」
恐らく例外だと知っているグラトニーはあっさりと手渡し、マルガルも早速鑑定する。
「勿論。これは君の使っていた通りエーテル制御の訓練用具だが、制御をしくじると水晶球で出来てるため、怪我や死亡事故の原因となった品だ。
……やはり例外の方だな。例外その一は、業者では無く自分で作成した物だ。その場合は自己責任となる。回収するのは業者だからな。
これはもう一つ。昔、友人が作った改良版の方だ。魔力が籠っている間は水晶が軟体化してゴム同然の柔らかさになる、事故の心配を取り除いた品だ。」
完成品を公表する前に死んだが、まだ現物が残っていたとはな、と語る。
「さて、なら提案だ。この『エーテル球』を一つ譲って欲しい。
欠陥品の方のエーテル水晶球は武器として使える。理由は分かるな?
君がこれを譲ってくれるなら今欠陥品の複製を一つ、我がエーテル球の複製に成功した時にこちらも返そう。
我はこのエーテル球を友人の代わりに公表したい。」
目はいつもの半眼のままだが、表情は何の裏も躊躇いも無い、真顔だった。
「……友人の名前を聞いても?」
「オルガノンという、まあ同期だった。事情があって奴の名前では出せん。」
昔を思い出し忌々し気に語られると、不意にああ成程と思い至る。
「という事は、コレはあなた宛ての暗号だったのかしら?」
箱に入っていた手紙を腕輪から取り出し、マルガルに見せると益々苦々しい顔をする。
「……だな。これは『エーテル球』の方の設計図だ。
ほれ、こう解くんだ。自分に何かあった時は、我の名で出せと書いてある。」
幾つかの場所に呪文の文言を描くと、途端に汚れで読めなかった筈の手紙が綺麗な設計図へと変わり、我が唯一の友人に依頼する、と書かれていた。
(古い手紙だこと。我が師匠殿はいつからこの水晶球を保管していたのやら。)
「流石にこれを譲らないのは無粋ね。現物も一つならそちらに差し上げて構わないわ。
それで『エーテル水晶球』の方は私でも作れそう?」
つぃといつもの表情に戻ったマルガルが当分無理だと首を振る。
「まあ欠陥品だから三年になる頃には出来るかもな。
だが折角だ。これを参考にすれば若干の硬質化も出来る。
後で何個か武器として作り直した物を設計図付きでやるから、何れ作れるようになって見せるがいい。」
「分かったわ。」
以上だと言われて席を立つグラトニー。
さて。次に夜間授業を受けに行く師匠はオルガノンで決まりだ。
何十年機会を伺っていたのか、是非とも冷やかしに行ってやろう。
※オルガノンさんは遠巻きにされるタイプの美人です。
教師マルガルも化粧すれば化けるとは言え、見た目も社交性も最悪。
どっちも研究者気質なので、当時はとても話が合いました。




