表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第二部 平和な学園編
24/211

05.二学年の三強

 色々悩んだが予想以上に準備出来る物が無く、模擬戦当日がやって来た。

 見学は両者が許可した知人だけで、淑女の会側は三人以外いない。

「魔法使いにとって手の内は秘するものよ。そもそもこれは訓練の一環だしね。」

 敗北は恥ではない、と断言する。


 グラトニー側はアヴァロンとレイリースだけだ。そもそも預言者(プロフェット)寮の訓練所の申請で、他寮生は自動的にお断りだ。

 装いは先日と殆ど変わらず、魔法使いの装いは呪具である事が多いから、余程汚さない限りは正装として通じるという。

 勿論ドレスコードの存在する場所はあるが、基本は例外。

(へぇ。異世界人は警戒心無いのかと思ったけど、上に行くほど常在戦場の心得だった訳ね。そう言われるとドレスが防具というのも実に効率が良いわ。)


 勿論実態は逆である。魔法使いにとって戦争などそれこそ禁忌の魔女くらい。まともに戦えた英雄ナイトバロンは鎧姿で有名だ。

 多くの魔法使いにとって鎧は野蛮な証であり、花形はあくまでドレスにある。

 ドレス型の鎧に意味は無く、鎧に使えるドレスを纏う事でドレスの呪具としての価値を知らしめているだけだ。


 が。ある意味で武闘派の魔法使いにとっては都合が良い。

「さ、模擬戦である以上条件は事前に確認するからね。

 先ず勝敗は相手が戦闘不能になるか、致命傷になる攻撃を当てられる段階まで。

 模擬戦で殺しは無しだって点は最重要な。殺したら反則負け。」


 模擬戦が許可制なのは、教師が監督するためだ。そもそも生徒に武芸の達人などいないので寸止めや先に血を流させた方等のルールは無駄。魔法で普通に双方重傷がある。

 なのでこの場合、緊急時に止められる教師が引き受けざるを得ない。

 例えば元魔女狩りの教師ドロテアは、大体こういう時酷使される。


「何故?殺し有りが一番実戦的じゃない?」

「寸止めの方が難しいからだよ。腕を磨くのが模擬戦の目的なんだぞ。」

 言うと思っていたので教師ドロテアは予定通りの台詞を口にする。

「成程。確かに殺意無く殺すのは難しいわね。」

 教師マタハリに任せなくて良かったと安堵するドロテア。


 一方で淑女の会側は改めて念押しされたルールに戸惑いを覚える。

(カーリー様?魔法で寸止めって出来ましたっけ?)

(ガトレスには意味のあるルールじゃなくて?)

(いえ。わたしは寸止めしない理由が分かりません。向こうの問題かと。)

(そう言えばそうねぇ。)


「続けるよ。使う魔法、呪具に制限は無し。

 但し魔法以外の毒は無しだ。あと試合前の仕込み、第三者の伏兵、横やりも禁止。

 壁に衝突したら場外。吹き飛んだ方の負け。相打ちはアリ、引き分けもな。

 何か質問は?」

「アヴァロン、ダメだって。」

「あいよ~。」

 まあ分かってたと、席に移動して報酬のパンを頬張るアヴァロン。


「……思ってた以上に個性的な子ね?」

 笑顔のまま首を傾げるカーリーに、レイリースは内心で密かな称賛を送る。

「こちらにも異論はありません。」

 二人の同意を見てドロテアが舞台から降りて手を掲げ、周囲にも緊張が走る。


「それでは、合図と共に開始とする。始め!」

 手が振り下ろされると同時、ガトレスが視界を振り切る勢いで斜めに走り出す。

「『火花よ、飛ばせ』!」

 一方グラトニーは最速で魔法を飛ばし距離を保ちながら次の呪文の時間を稼ぐ。


(『盾』で視界を塞ぐより攻めを選んだか。良い判断だ!)

 尤もそれは通じればの話だ。常人では殴打に近い『火花』の術を、ガトレスは無造作に槍で打ち払い間合いに捉える。


「『伸びろ』!何?!」

 長引かせる気も無かったガトレスが発動具『ギガースの長槍』を伸ばしたのだが、瘴気が溢れた瞬間、手元だけを縮めて自分の腹を殴打しそうになる。


(武器に干渉された?いや、これが噂の一年同士の乱闘の真相か!)

 グラトニーへの敵意を向ける程自分へ武器や魔法を叩き付けたくなる衝動に気付くと、ガトレスは即座に『破魔の指輪』の守りを発動させる。

(これは一学年では相手にならん訳だ!)

 ガトレスは本気で相手を同格と見做し、全力を出す決意を定めた。



(早過ぎる!まさか足止めすら出来ず手の内を晒されるなんて!)

「『亡霊よ、影を映せ、形に力を宿せ』!

『お前に、騎士の剣を、与えよう』!『お前に、盾を、与えよう』!!」


 動揺する内心を抑えて次の手を打つ。

 グラトニーの予定では呪詛は一切秘匿する予定だったが、明らかに武人の走り込みだと察して足止めに切り替えた。が、それでも間に合わず負けかけた。


 呪文や同期に見せていない呪詛を使う事態になったら素直に負ける気だが、現状のまま手の内一つ見れずに終わる気はない。

 それに今の攻防で最低限の時間は稼げた。


「何と。一年に亡霊を操る家の者が退学させられたとは聞いていたが、まさか家伝の秘術を奪えるとは思わなかったな。

 しかも同時に二体も出せるとは。」

 声に緊張が伝わるが、しかし同時に出せるのはまだ二体が上限だ。

 しかも剣の動きで牽制出来たのは僅かな時間、小さな盾しか出せなかった。


(一体を護衛に残すのは下策ね。二体揃えで漸く勝負になるかしら。)

 迷いを突かれたか、ガトレスがすり抜けようとした瞬間を左右から狙い澄ますが、片や盾で背後から殴り飛ばそうとしたにも関わらずあっさり捌き弾かれる。


 それでも二体を同時操作する内は動きを封じる事が出来たが、グラトニーに武芸を学ぶ機会があった訳では無い。

 舞踊の経験があるから体力と基本的な体の動きを理解しているだけで、距離を維持しないと動きを見極める余裕もない。


(さて。五分というには身贔屓が過ぎるわね……。)

「『無垢なる巨人よ、総身の無双を、我が身に宿せ』!」

「!!」

 ガトレスが乱戦のまま更なる呪文を唱えると、咄嗟の盾が腕ごと一撃で霧散する。


(強化魔法?!……駄目!単にエーテルの流れと詠唱以外に何かある。)

 数合だけは凌げたが、速さ膂力が上がったガトレスの槍技と怪力にいとも容易く二体の亡霊騎士が粉砕される。

 しかも一撃は生身で受けての相打ち狙いで一方的に打ち負かした。


(守りの一撃は指輪ね。私の呪詛を防いだのと別の指輪。)

 呪詛はあくまでグラトニーを狙わないと意味がない。そして今の膂力から判断するなら強化しない呪詛の守りは強引に突破出来るだろう。

(けど未だ打つ手はある!)


「『幻の霧よ、剣を模れ、刃を突き立てろ』!!」

 霧が剣の形を模り、同時に二十本の剣が並ぶ。

「まぁ!!」

 一学年で習う呪文としては最上級の難易度の呪文。本来は一振りずつ増やすのが基本とされるそれを、同時に、しかも槍衾と言える程の数。

 観戦していたカーリーが驚きの声を上げ、他の皆も驚きで腰を浮かす。


 当たれば致命傷確実、本来であれば止めるべき筈の呪文の飛来に対し。

「ぬるい!!」

 一薙ぎで進行方向の刀剣を砕き散らし、残る刀剣を後方に置き去りにして距離を詰めるガトレスだったが。


「『不可視の水よ、水衣よ、祖は我が身なり』!

 『姿形を示せ、二の腕拳は、剛力なり』!!」

 危ういところでケイロン家の家伝『無手』の秘術が間に合い、グラトニーの体が真横に浮くと同時に振るわれた不可視の腕が、ガトレスの脇をすり抜け足元を抉る。

(見えてないのは間違いないわね!気配だけで良く避けるものよ!)

 『無手』なら魔力次第で術者の肉体を無視した力を引き出せる。


 立ち上がったレイリースの悲嘆を無視し、着地する前に透明な裏拳がガトレスに迫る。

「終わりだ!!」

 呪文抜きに伸ばされた長槍の一撃が裏拳ごとグラトニーを弾き飛ばし、場外へと派手に叩き付ける。


「そこまで!勝者ガトレス!」

 土煙が上がるが、視界が隠れる程では無く。

 完全に霧散する前の『無手』で辛うじてクッションを作った地面に落ちる。




(なんという一年だ。本当に手加減する余裕が無かった……。)

 本音を言えば、先程の『幻の霧』。狙いが甘く無くて時間差で狙われたら死を覚悟する程の状況だった。


 更に『無手』の秘術。ケイロン家の秘伝を見たのは初めてだが、生身では無いから強化以上の膂力が出せるというのは目から鱗の発想だった。

 余裕のある状況で殴られたら打ち返すどころか潰されていただろう。

 ガトレスにとっては向こうの実戦経験の甘さに救われた勝負だ。


「全く、知らない術だらけだったわね。その槍も家伝の発動具なのかしら?」

 一見して平然と歩いてくる様に驚きながら、ガトレスはいいやと向こうの知識不足に苦笑しながら槍に視線を移す。


「いや。家伝では無いし、二年に成ればお前でも手に入るかも知れん。

 これは魔道具学で習う、正しい発動具の形だ。」

「?どういう事?」

 まあこの程度は構うまいと助言序でに答える。


「本来発動具は万人向けじゃない。魔法の杖が例外なんだ。

 入手した素材を自分用に加工して、発動具に作り替える。それが正しい魔法だ。

 魔法使いの強さは本来、扱える発動具の数と技術で決まるのさ。」

 だから精進すると良い、と告げて訓練所を出て観客席に移動するガトレス。


「カーリー様の御意思、納得出来ました。

 私も彼女の淑女の会入りに同意いたします。」

「……ですねぇ。私が相手だったら手加減どころの話では無かったですから。」

 メフィレスもグラトニーから視線を離さず同意を示す。

 とは言え、まだ負けるとは流石に言わない。彼女とて三強の一角なのだ。




「うちの家伝が私が思っていた以上に凶悪だった件に付いて一言。」

 呆然と訓練場の破壊跡を見下ろすレイリース。

「レイリースじゃ同じ事やったら直ぐにガス欠だよ~?

 君の場合はもっと繊細さで勝負しなきゃ~。」


 うぐぅと黙るレイリース。実際『無手』の効率は間違いなく破格だ。

 殆どの魔法は放てば終わりなのに、『無手』は形状に気を使わない分何度でも戦える。

 攻撃力では『亡霊騎士』に劣るが、現状では数しかない『亡霊騎士』より遥かに応用力と汎用性が優れている。


 が。それでも二年の上位には届かないと理解出来た。

(殺さない戦いに何の意味があるかと思ったけど。

 成程負ける側に立ってみると都合が良いわね。)

 あれはマグレ勝ちでは意味が無い相手だ。マグレで勝つ限り似たタイプの相手には毎回不覚を取るだろう。教えを乞うには教師や明確な上位者である必要は無い訳だ。


「淑女の会といったかしら。私は所属してみる心算だけど、どうする?」

 我に返ったレイリースは選択の余地あると思う?との問いだった。

「あたしはそもそも誘われてないしなぁ~。」

 アヴァロンにとっては今まで通りになる訳か。

 さて。これは魔女探しにかまけてられないかも知れない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ