04.魔法世界の常識
交流会は解散となり、茶菓子の類は意識を保った者や早めに起きた者達への報償という扱いで持ち帰り自由とした。
後片付けは気を失った者達の責任として処理を任せた。
故に意識を保った者達は、不満を持つより先に早々に自室への持ち帰りを選ぶだろう。
不満を持つのは、不公平感を抱くのは気を失った者達であり、彼らには未熟の証として報償を権利として受け取った者達が非難するだろう。
「これで寮内の者は、未熟者とそれ以外で篩にかけられた。
不満は大盤振る舞いをした私達では無く、未熟を棚に上げるものと、独占した者達の中で消化される。私達の支持は彼ら自身が強固にしてくれる。
ですが判りません。グラトニーとやらは、そこまで優遇すべきでしょうか?」
茨の園に戻り、カーリーに口直しの紅茶を注ぎ手渡すメフィレスが、内心の疑問を口に出来ないガトレスに代わり、解説序での疑問を口にする。
「優遇半分、隔離半分かしら?
見たでしょう、あの魔力量。あの子あの会場全てを支配下に呑み込んだのよ?」
「ですが未熟です。」
膨大で強大、確かにスカウトされる理由も分かる。だが制御や発動の練度まで踏まえると既に三年の武闘派ですら一騎討ちでは概ね勝つのが今の淑女の会の会員だ。
淑女の会は別に武闘派の集まりでは無いが、さりとて疑問は残る。
「今は、よ。彼女は無知で、今は未だ二学期半ば。
彼女が二年になる頃には、我々以外の寮生は殆ど太刀打ち出来ないわ。
そしてその時、多くの寮生が才能の壁と感じて心を折る。あの子の力は、正に心を屈服させるために最適な存在よ。」
そうなれば手遅れ、とカーリーは告げる。
「その前に芽を摘むべきだ、と?」
隔離のためであれば、排除の理由が足らない。そこまでがメフィレスが察した限界だ。
「危険ねそれは。だってあの子はあの学園長の肝煎りだもの。
それに実際、あの子が三年になった頃はどうかしら?
私達も今のままでは無いにせよ、本当にあの子よりずっと上だと、あの魔力量と、あの劣悪環境からの成長を見ても、断言が出来るかしら?」
「「……。」」
面と向かって指差された二人は、改めて一から思案し直す。
カーリーの指摘は本来屈辱的な代物だ。だがとメフィレスは思い至る。
(いや、そもそも私達は未だ二学年の半ばでしたね。成長が必要なのは我々自身も同じという話でしたか。)
淑女の会に今、脅威と呼べるべき障害は無い。三学年の最強には一歩譲るまでは認めるが、同学年だとしても勝てないと思う程の差を感じた事も無い。
「成程。ではわたしが『ギーガスの長槍』だけで戦うというのも。」
「あの子絶対隠し玉を幾つか手に入れているわよ?
ハンデ付きなら本当に私が出向く事も在り得ると思っているわ。その上で、流石に無様を見せるようなら優遇はしない。」
私としては、自分達の手で最高の魔法使いを育てるのも悪くは無いと思っているけど、と満面の笑顔で付け加えるのだから、全くもって手に負えない。
(我らが主は、本当に何処まで先が見えているのでしょうね。)
所詮秀才止まりが天才に付いていくのは大変だと、メフィレスは紅茶で口元を隠す。
「お土産はたぁ~っぷり回収して来たよ~。」
「「「でかした。」」」
アヴァロンの大袋から取り出された背負子、中に並んだ高級茶菓子の数々に、突っ伏したレイリース以外の全員が力強く褒め称えた。
緊張感を削がれて涙目になるレイリースだったが、長過ぎる溜息を吐いて席に座る。
「というか良いの?一人でこんなに持って来て。」
サンドライトが常識的な意見を出すが、むしろ場の空気としては如何に茶菓子を意識のある者達で独占するかの方が大事だった様だ。
多分気絶した者達が雑種や下級生に多かったのも理由の一つだ。
報償である以上、意識の無い相手に分けるのは非礼というのが場の判断だった。
「取り敢えず今ので淑女の会のルールは説明したわ。
慣例があるから基本的な作法も把握している。まあお茶会の為に集まる場だから、勉強の相談はアリだけど、勉強自体はタブーね。
寮の方針も話し合う場よ。」
「寮長は入れないんじゃないの?」
「寮長を兼任する例も多いけど、どちらかと言えば純血代表の意見を決める場ね。
で?グラトニーとしては、淑女の会に入る気はあるの?」
「多分私が模擬戦で無様を見せなかったら入る利益が提示されると思うわ。」
入るとは答えてないので、それ次第だと思っている。
「正直わたしは罠じゃないかって思うんだが、その辺は?」
「多分あの人、女でもイケる。」
アヴァロンの指摘に冗談と思ったのか、オイおっさんと恫喝する少女二人。
「でも多分本当よ?彼女、レイリースの口出しを内心喜んでいたもの。
あれ、私にその場で断わらせなかったからね。」
年上の倒錯的な趣味に顔を赤くする二人の乙女、いやもう一人か。
「ぐ、グラトニーはそういうの平気なのか?」
「興味無いわ。それより魔法使いが槍を持っていた方が驚きよ。」
「まあ魔女狩りは学園卒業生の有力な職場だからね。
魔法研究で成功出来ないか、独立して金を稼ぐ腕に自信が無い場合は割と出世の近道な職業ではあるから。」
「そうなの?」
アヴァロンはその辺と無縁だったらしい。
「そりゃ魔女狩りだけが実力主義を謳っているからな。」
「魔法の研究発表ったって本が売れないと有名にはなれないわ。
純血以外は外で自分の工房を持って自給自足するのが雑種の理想の人生なのよ。」
ふむと考え込み、夏季休暇前に聞いた話を思い返す。
「えと『各地の長が作った結界の中で暮らし、増えたら結界を作れる者を中心に独立。』
『魔法議会のある魔法都市だけが数千人の魔法使いが集まる唯一の場所。』
『外交官が各地の村々を把握し、各地と魔法議会の連絡役や学園への案内役を担当。』
後は『魔法使いは千人以下で暮らす例が殆ど。』だったかしら?」
記憶を頼りに自分が知っている魔法使いの常識を捻り出すグラトニー。
より正確に言えば、千人単位が暮らせる結界を張れる魔法使いが先ず居ないという。
複数人の手で張れる結界では数百人が限界であり、これ以外は村の維持が難しい。
逆に魔法都市は長命の純血達が数多く暮らしているため理由無く人を受け入れる余地が少なく、殆どは役職で権利を奪い合うしかない。故に差別が加速する土壌となる。
反面、暮らしの最小単位は一人であり、極論金さえあれば結界も維持出来る。
「呪具売買か薬で生計を立てられれば、それ以上の生活向上手段が無いって事ね。
実は学園が人気な理由が、その手の生活呪具の作り方を覚えられるって点も大きいんだけど、年配者の入学は受け付けてないし……。」
学園が半ば軍人を育てる学校と化していると考えれば、多少は理解出来るが。
「ん?という事は、一定水準以下の魔法使いが増えるとそもそも魔法使い達の村々は立ち行かなくなったりするの?食糧問題とかで。」
結界の数も限られている筈だし。
「「「それ以上いけない。」」」
闇があるのは学園だけじゃなかったかー。
「ま、まあここを出られて個人工房が開けるくらいの魔法使いは割と安泰だけど、それ以外は純血だろうと生活が苦しいのね?」
となると純血が傲慢だというより、必死で差別を続けて生活圏を維持しているのが実情なのだろうか?
「何にせよ、出来れば学園街の外に出て盾の一つや二つ欲しいわねぇ。」
グラトニーの呟きに、微妙な沈黙が流れる。
「いや。魔法使いで盾を自作する奴はいるけど、基本高級品で出回らないぞ?」
「……って、発動具以外の盾が売ってないの?!」
教訓。魔法使いにとって防具は呪具か発動具。
カーリー様は淑女の会の二人が思う程の天才肌ではありません。
単純に本音が読めなくて、常に伏せ札と複数の策を隠し持つタイプ。
指揮官タイプのサポート系なので、火力だけなら三人で一番劣ってます。




