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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第二部 平和な学園編
22/211

03.交流会

 預言者(プロフェット)寮長メリザーは自分がとことん付いていないのだと内心で嘯く。

 寮長として主催者補佐として、給仕係に指示を出しながら自分の役割に徹し続ける。

 いつもそうだ。メリザーは元々荒事が好きではない。


 寮長だって引き受ける気は無かった。そもそも狙い目年の後釜など冗談ではない。

 そんなのは魔女狩りを志望する武闘派連中に任せておけば良い。自分は失われた古代の英知、失われた古代魔法の復興に情熱を費やす学者、研究者が良かった。

 更に一年下に純血最大の名家が入学したと聞けば、寮長の座はメリザーにとって貧乏籤以外の何物でもない。


 だが同期の武闘派連中が軒並み単位を落としかけた。ちょっとした病気が流行ったのもあったが、一番は成績のバランスが悪過ぎたからだ。

 加えて先駆者(パイオニア)寮に生粋の努力家が現れ連中の得意分野で土を付けさせ、勝手に返り討ちに遭ってスランプに陥れば。ほら選択肢すらなかった。


 かくしてメリザーは先駆者(パイオニア)寮に劣る寮長として着任し、名家のお嬢様方が頭角を現した結果。自分こそが狙い目年の象徴の様に扱われてしまった。


 そもそも成績を著しく落としたのは先代だ。

 先代が学業より実戦と叫び寮を巻き込んだのに、責任だけは自分の所為となった。

 理由は単純、自分は純血の中でも下層。席順もお飾り程度だからだ。

 問題の先輩方は十位前後。ホラ、他に責任を取る奴が居ないだろう?


「ホント、何から何まで違うよなぁ……。」

 会場の豪勢さに内心では浮かれてしまう自分が悲しい。

 こんな機会でも無ければ絶対に口に出来ない茶菓子が並んでいる。

 名ばかりの貧乏純血が何故、こんな殿上人と比較されねばならないのか。


(はぁ。カーリー様だから、この程度で済んでいるんだよなぁ……。)

 他の二人だったらもっと容赦無く責め立てている。間違いなく。

 片やガチガチの武闘派且つ才色兼備揃った万能型。片や文の鬼才、数多くの呪具を使いこなす知略謀略何でもござれの優等生。

 何の躊躇も無く使い潰されるか、蹴落とされるか。どっちみち破滅だ。


「そういう意味じゃ、悪運だけはあるのかねぇ……。」

 ドラクロワ家御令嬢は、例え狙い目年だろうと寮内最優秀なのは評価して下さる。

 引き立て役だろうと利用価値があると見做されたから、最低限の顔は立てて貰える。

 けれど覚えのある瘴気が漂って来たのを肌身に感じ取り、メリザーはやっぱり貧乏くじだと頭を抱えた。




 ちりちりチリチリと空気に心を苛む毒が混じる。

 アヴァロンは何も気付かないかの如く楽し気に雑種の作法を語る。

 まあ主催者が来るまでする事は無いよと、適当なテーブルからクッキーを摘まむ。


 グラトニーもくすくすと妖艶で邪悪な笑みを浮かべて、己から漂う瘴気に気付かぬかの様に適当なチョコに手を伸ばす。

「あら本当に見事なチョコね……。」

 視線が雑種用の待機エリアの中央テーブルで止まる。


 チョコやクッキーが丸テーブルの上を泳いでいた。丸で幻燈の様に優雅に円を描き。

「…………高級なデザートって、泳ぐのが常識なの?」

 そう言えば前に行った学園街でもそうだったと、内心の油断を叱咤するグラトニー。

 実は料理には拘りがあるので、食材を遊ばせるのは好きではない。


「ん~?まあメニューとか、テーマ次第?

 向こうでもチョコレートフォンデュ?なんか滝みたいな奴無かった?」

 一つ摘まんでふむ、これも中々と味わうアヴァロンに並ぶ。

「そう言えばそうね。へぇ、寧ろコレ香りを保つために良いのね。」


 見直した。ちゃんと魔法も料理に生かしているらしいと納得すると、途端に引き気味の内心が持ち直す。これは料理を粗末になんかしていない。大丈夫。

 そう。こっそりと見回せばホラ、周囲の皆も気分を悪くして距離を取るではないか。

(よし。ジャブは大成功、後は向こうの出方を待つだけよグラトニー。)


 内心は兎も角、周囲には呪詛補正もあってケタケタ笑い続けているとしか見えない。

 しかも会場入りした後では下手に騒ぎも起こせないとあって、周囲の差別主義者たちは遠目に互いを突き合って誰に貧乏くじを引かせるかで小声で争う。

 更に言えば、本来押し付けるべき寮長メリザーは、まるで気付かなかったが如く奥の方で給仕役に交代のタイミングを相談していた。


(おい!どーすんだよ!アレ止めないと俺達の責任になるかも知れないだろ!)

 そうなれば二度とこんな豪勢な場に招かれる事など有り得まい。

 彼らが背景として互いで牽制し続ける間に、演奏人形(オルゴールドール)が一際高い音を上げ主催者の到着を皆に知らせる。


「あら、来たようね。」

 流石にどこぞの貴族の入場では無いので入場宣言の様なものは無く。むしろ周囲の沈黙こそが至上の音楽であったかの様に、一斉に止まり沈黙が走る。

 壇上近くの廊下の影から、三人の学生ローブではない独特の装いに身を包んだ少女達が現れて壇上に登る。


 先頭を進む最も長身の少女は武道着と思しき黒色に黄色い羽織を纏い、隙の無い動きで長槍を片手に無音で壇上に歩き立つ。

 腰に届きそうな無造作に伸ばされた赤い髪は彼女の纏う空気に良く似ており、全体を捉える素振りに紛れて確かに一瞬、金色の瞳でグラトニー達を視界に収める。


 最後尾に段を上ったのは腰のラインが分かる水色のドレスの上から小さな毛皮の上着を羽織った柔和な表情の令嬢なのに、まるで従者の様に装飾を控えている。

 閉じて見える程の細目は、波打つ巻き毛の金髪により歳不相応に落ち着きを漂わせる。

 一見して派手な装いに見える服も、成程目を凝らせば学園のローブよりも余程丈夫なのが伺える特殊な呪力を纏った戦闘衣装だと伺える。


 だがしかし。その程度の事はまるで些細な話でしかない。


 他の令嬢とは空気が違う。気配が違う。まるで警戒心の無い稚児の様で。

(あれが、彼女達の頂点なのね。)

 別格。成程、比較される寮長はいっそ哀れだ。


 最も小柄で最も細身で、いっそ病的にすら感じる程の雪肌で。首筋で切り揃えた白髪は微かに小首を傾げて微笑んだだけで、性別すら問わず魅了する薄紫の瞳の美少女。

 頭に茨と薔薇の黒い冠を抱き、凡そ黒一色の随所に薔薇をあしらい飾った短めのドレスは手足共に碌な露出が無いにも関わらず、細身を強調するだけで妖艶さを増す。


 故に妖華というべきだろう。

 濃密で繊細でこの場の誰よりも編み込まれたエーテルが、不可視にも関わらずいっそ華息吹く様子すら伺える磨き抜かれた魔力の器が。

 無邪気に警戒心を削ぐ黒薔薇の様に、茨すら愛らしくみせるのだ。


(成程。これは流石に勝負にならないわね。)

 絶対とは言わないが、強引に苛烈に何の策も無く捻じ伏せるしか余地は無い。技で勝負してはならない。知略で勝負してはならない。

 乱暴に強引に盤面を壊し続けねば、何処かで喉元を緻密に抉るだろう。

(正直教師達では殆ど手の内が分からないけど、明確に腕の違いが分かる相手を見つけただけでも成果はあったわ。)


 挨拶は簡潔に。差し障りなくあくまで上級生と下級生が同じ寮生だと自覚して欲しい。

 自分達が同じ預言者(プロフェット)寮生だと実感して貰いたいとの挨拶に、皆が熱狂した様に拍手を重ねて褒め称える。素晴らしい。何て見事な。


 壇上を簡単な挨拶で収めて、後は御自由にと皆に丁重に繊細に扱われながら。

 少しずつ小さく手を振りながら誰の邪魔もされずに、花道の様に称賛が溢れる。

 熱狂は決して雲上人だけのものではない。


 下の者が上に手を伸ばすのは許されない。しかし上の者が下の者の手の届くところへと歩み寄るのには何の障害も無い。あってはならない。

 決して手を触れずに、さりとて間近で微笑まれて。その笑顔は特級の極上品で。


 けれど熱狂にはヒビがある。亀裂が届き、抑え付けられても無視出来ない。

 笑顔は緊張感によって張り詰め、ヒビが軋み、気配は歪み。

(なんて胡散臭い極上の無邪気かしら。もう貴女の傍にも届いているでしょう?)


 だが素晴らしい。今迄屈していた者達に血の気が宿る。奮起する。

 双方の鬩ぎ合いは決して相手を拒まないのに、周囲の笑顔には怒りが、悪意が交じる。

 邪魔だと。不要だと。害意が膨らむ。


(~~~~~っ!)

 笑顔は決して絶やさずとも、仕草に僅かな乱れが、動揺が伝わる。

(さあ、どうでる?)

 排斥か、激励か、怒号か、義憤か。


「素晴らしいわ!貴女が噂のグラトニーさんなのね!!」


「……は?」

 そこには今迄の笑顔すら凌駕する、満面喝采の笑顔が花開いていた。


 いや、遮る者がいない今、正に花開くように両手が延ばされて両肩を抱きしめるように触れる。そしてまさか、自重を思い出したかのように腕に触れて、両手を包み直す。

「かかか、カーリー様ぁ?!」

 思わず素っ頓狂な声で槍持ちの美女が躊躇しながら構え、切っ先を下手で迷わせる。


「まぁまぁ普通じゃないとは聞いていたけど、まさか此処まで特別な子だったなんて!

 お顔だってとっても整っていて健康的ね!滝の様に艶やかな銀髪もとても似合っているけど、赤い瞳がむしろ肌を白く見せて、とても印象的に美しく仕上がっているわ!

 お化粧は嫌いなようだけど、肌荒れさえ気を付ければ余程綺麗よ!」


 目を瞬かせてグラトニーは理解が追い付かず絶句する。

 呪詛が制御出来ない事こそあったが、維持出来なくなったのも初めての体験だ。

 いや初めてと言うのなら。此処まで無条件の称賛も産まれて初めての経験で。


「背は高めだけど決して殿方に引かれる程のものじゃないわ。むしろ貴女の女性的な魅力は大人びていてこそ活かされるものだもの!

 貴女の艶やかな色香はもっと情熱的に活かされるべきだわ!!」

 声にハートが飛んでいる気がする。というか、そろそろ待って欲しい。


「良いのかしら?あなた達の基準で私は無能人、汚物だったと思うのだけど。」

 感涙を目に浮かべてそうな表情で両手を掴まれ続けるのも流石に困るので、一旦自重をして貰おうと穏便に引き剥がす。何でだ。


「まぁ!それは無粋よ!華の種類は一つでは無くてよ!

 貴女の生まれは確かに私達とは違うだろうけど、貴女は同じ生まれの方々とは全く似ても似つかないじゃない?

 貴女は間違いなく特別扱いされるべき花よ?」

 悪意を隠すのが巧いのかそれとも本心で別種なのか。未だ見極めは付かない。

「それはあなたが私の下に付くという意味かしら?」


 ざわりと殺気立ち、しかし供回りは思ったより冷静に見守り。

「あら?流石に事を急ぎ過ぎたようね。でもあなたは間違いなく一学年でも別格よ?

 そうね。もう少しあなたに馴染みのある話し方が必要なのね。」

 カーリーは一歩後ろに下がると、頬に二指を添えて軽く思案する。


「そうだ。さっきの空気、一学年で起きた乱闘事件のと、身を守った以外は同じよね?

 それ、今ここで見せて頂けないかしら?」

「カーリー様?!」

 無邪気さは変わらずに、背景が本気で心配して声を上げるが全く小揺るぎもなく。


「――へぇ。良いのかしら?此処は交流会と聞いていたのだけど。

 それに無償で私に奉仕しろと言うのも虫が良過ぎない?」

 打算に無邪気さはそぐわない。グラトニーも漸く馴染みの空気に笑みを深める。


「ええ構わないわ。あなただって興味あるでしょう?

 それに、そうね。強くなりたいのよね?

 ならガトレス、対価として貴女の槍で彼女と模擬戦をしてあげなさい。」

「良いのですか?」

 脇で槍を構えていた赤髪の武道着娘が、姿勢を正して確認する。


「構わないわ。彼女にとっても未知の領域だから、使っていいのは槍だけよ。

 もし貴女が彼女に負けた場合、実力を見誤った責として私が彼女ともう一戦、模擬戦を引き受けてあげる。これならそちらも納得でしょう?」


「そうね。その通りだわ。」

 油断も隙も無く、アヴァロンの立ち位置も確認しながら彼女がグラトニーの好む報酬を的確に提示した事に更なる警戒心を抱く。


「分かりました。胸を貸す積もりで全力を尽くさせて頂きます。」

 主の身の安全が上に乗り、本気が声に乗り敬礼するガトレス。

 やるのかいと呟きが聞こえそうな素振りで、肩を竦めて距離を取るアヴァロン。


「という事よ。

 私に、貴女を特別扱いする理由を頂戴な?」

 無邪気な笑みでは無く、挑戦的な、本気を周囲に悟らせるための笑み。


(ホント、() () () () () 。)


 グラトニーの体から『傲慢』の呪詛が弾ける。

 至近距離で、特に淑女の会の三人を諸共に打ちのめす様に。

 恐怖が不可視の幕を拡げ、周囲全てを飲み干し会場全てを悪夢衝動で打ちのめす為に。


(~~~~~~~~ッ!!)


「凄いわ凄いわ!此処まで広くて激しいだなんて、本当に貴女は凄いのね!!」

 喜色で満面の笑みで。しかしレイリースの様に警戒を解いた訳では無い。

 敵意激情を刺激され、内面を抉る筈の衝動を余さず弾いて見せて。


「「ッ!!!」」

 左右に控える二人も驚き警戒心を高めたものの、揺さぶられたのはあくまで驚異の理解と実感であり恐怖では有り得ない。

 知らぬ者軽んじた者が恐慌と悲鳴を上げる中で、しかし二学年を上回る程に動揺も抵抗も明確に成功していた。


(ふむ。これ以上は無意味ね。)


 三年以上は概ね少数、二年は過半数が意識を失う一方。半数の三学年以上は完全な抵抗を果たしていた。二学年は抵抗こそ適ったが万全に動けそうな者は殆どいない。


「メリザー寮長?申し訳無いけど今から、空き日の訓練場の使用申請をお願いするわ。

 ――、さん付けは少し余所余所しいわね。グラトニーと呼んでいいかしら。

 都合の良い日を教えて欲しいのだけど。」

「好きに呼べばいいわ。日付もこっちで合わせるから早めに頼むわよ?」


 逡巡する寮長メリザーだが、グラトニーにも促されて覚悟を決める。

「ええぃ、分かったよ!この場をどうするのかは、そちらにお任せする!」

「えぇ、お任せ下さいな。」

 三学年で寮長が顎で使われるのは良いのかと思ったが、監督役の顔は立てているのか。

 どうやら思ったより良好な関係らしい。


「さて。皆が今、彼女グラトニーの扱いに不服を抱いたけど、これが根拠になりますわ。

 そして同時に、今の威圧は我々の様に決して抵抗出来ない代物ではない。

 正直に言いましょう。今ので気絶した者は学園卒業資格を満たさぬと。特に魔女狩りを目指す方々は御用心を。


 預言者(プロフェット)寮の適性教科は防御術、魔道具学、呪文学の三つと、その発展。

 我らの得意分野、防御学で落第する者は、魔女狩りに相応しくないでしょう。

 一年二年はまだ未熟。三年以降で余力無き方は御覚悟を。


 純血とは、無力な弱者を指さぬのです。我ら純血は、高貴にして伝統ある偉大なる魔法使いの末裔なのですから。

 私は此処に、グラトニーを淑女の会に招待する旨を宣言しますわ。」


「「「な!!!」」」

 驚愕が会場全てを満たす。それは従来の淑女の会の伝統の否定。

「カーリー様!非礼を承知で口を挟ませて頂きます!

 今のは淑女の会の伝統、純血家格一桁の条件を満たしません!」

 咄嗟に声を上げたのは今まで傍観に徹していたレイリースだ。


「あらあら。それくらいしないと釣り合わないでしょう?彼女の特別には。

 それと、厳密には『又は、成績上位五位以内』と続くわ。だから他の条件さえ満たせば違反している訳では無いの。

 ああ、それと御免なさいね。本当は別の日に誘う予定だったのだけど。

 レイリース・ケイロン。あなたを正式に、淑女の会に勧誘します。」

 レイリースをグラトニーの下に見た訳では無いと、謝罪と言う形で示す。


(どっち?これは。グラトニー周りの切り崩し?それとも本気で?)

 一度懐に引き入れた相手だ。既に譲歩した事になる。懐の深みを見せて外目に良い上辺だけを見せて陰で蹴落とすのは、悪意ある苛めの常套手段だ。


 どちらにせよ。

「私自身彼女に劣っているつもりはありません。ですので、返答は後日。

 そちらの試合の後で構いませんか?」

「ええ勿論よ。今年は優秀な子が多くて嬉しいわ。」


 作中美人度ランキング。

 オルガノン>(絶世の壁)>カーリー≧グラトニー>(美女の壁)~

 というイメージ。

 トップ3の中で一人だけ第一印象が美女にならない仲間外れが主人公です(笑)。

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