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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第二部 平和な学園編
21/211

02.招待状

 淑女の会主催での交流会。

 預言者(プロフェット)寮のほぼ全員に一律で配られた招待状に、寮内全ての学生が色めき立った。

 交流会の主催は寮長の許可さえあれば誰でも開ける反面、費用は全て主催者である学生側の負担で行われる。本来であれば、学年別で開かれるのが常識なのだ。

 むしろ入場制限をせねば、費用は幾らでも跳ね上がる。


 今回の交流会において唯一、五学年だけは招かれる事は無かったが、五学年とは単位を満たして尚も卒業出来ない者達全て。他学年全てよりも総数は多い。

 単位不足の四学年が含まれている時点で、不公平と呼ぶのは逆に理不尽と言える条件の緩さだと言える。

 この事実だけで他寮生は驚嘆し、自寮との格差を実感させるに十分だ。


 交流会の内容は軽食会を兼ねた上級生に話を聞くための懇親会となっているが、学園に料理人を呼ぶ事が出来ない以上、茶菓子の類を用意する軽食会こそが最上だ。

 因みに従来だと、基本スナック菓子やジュース等の、安くて数が多い諸々が並ぶ。

 交流会の準備も学生だけで行わねばならないため、二学年の全員が食材搬入や配膳の為に駆り出されると決まったが、不平を言う者は袋叩きにされる空気が既にある。


「――つまり淑女の会って言うのは、物凄いお金持ちで権力者の子女なのね?」

「ほほう。」

 分からない例外の部屋、例によって例の密談スノードーム内で、微妙な理解しか出来ていない二人にレイリースが思わず頭を掻きむしる。

 話の内容よりレイリースが髪を掻きむしったのを見て、二人は態度を改めた。


「そうよ!頂点の頂点!魔法世界の頂点、純血の最高峰!最高権力者の実家!

 はっきり言って、ケイロン家だって本来向こう側よ!後私もお呼びがかかる事を夢見て入学した位にものっ凄い名誉なのが淑女の会に所属出来るっていう事なの!

 しかもケイロン家の家格は五位!現役淑女の会は、一位!三位!四位!だけ!!

 今の淑女の会を敵に回すって事は、魔法世界全体を敵に回すって事よ!」

 荒い息を吐いて、ジュリアンが差し出したコップの水を一気飲みする。


「学園長も?」

「こ、ここ治外法権だし。」

 割と魔法世界の例外で出来ている。

「と、とにかく今回に関して言えば、ケイロン家すらあなたを庇う事は不可能よ!

 下手に庇えばケイロン家が没落しかねないから、実家は私を切り捨てる方を選ぶとしか思えないくらいヤバい事態だって自覚なさい!」


「おいおい、何もグラトニーが槍玉に上がるって決まった訳じゃないだろ?」

「じゃあ逆に聞くけど、このスノードームが買える額を動かしてまで全学年単位で交流会を開く理由って何?

 因みに寮内の意見は調子に乗っている無能人の吊し上げで一致しているわ。」

「す、すげぇな淑女の会。学生が動かしていい額じゃねぇだろ。」

 便利だなスノードーム単位制。


 サンドライト達も絶句して息を呑む。

 他寮の一般的な交流会では、同規模でも魔法鞄越えの出費すら無いらしい。

「というか杖だって普通の交流会程度じゃ買えないわよ?大体は会費制だし。」

探求者(シーカー)寮では時々学年別で開かれているが、基本自腹か持ち込みだな。」

 周囲は淑女の会による断罪を期待し、レイリースも遂に肩の荷が下りると、預言者(プロフェット)寮生の皆に励まされているのが現状だという。


 とは言え、言いたい事は分かったが敵対してくる相手に服従など有り得ない。

「まあ確かにそういう理由なら私に招待状が送られてくるのも分かったわ。

 で?まあ私も特に興味は無いから無視する気だったけど。」

「すんな!というか、多少屈辱的な扱い受けるかもだけど、兎に角当日だけ我慢しろって言ってるのよ!」


「うぅん?あなたもあっち側なのよね?私にそこまでする義理ってあったっけ?」

「寮生に死人が出て平気な訳ないでしょ?!」

 割と毎回思うけど、何でこの子純血育ちなのだろうか。

 他の純血や差別主義者は大体、無能人は殺しても構わないくらいが普通だったが。


「まぁ実際変な事をしたら恨み買いそうな場ではあるよな。」

 実際普段食べられない物が沢山並びそうだとジュリアンが頷く。

「でもまぁ。余り期待されても困るからあなたは距離を取っておきなさいな。」

「いや、だからそれは……。」


 会った事のない相手への対応など分かるものではない。ましてグラトニーは機嫌を損ねないという考え方が未だに理解出来ていない。

 自分がまともな人間関係を築いていないのは理解しているが、その実害が今一理解の外にあるのだ。

(他人を理解するって、随分面倒なのね。)

 敵は敵、味方は味方。それ以外に何があるのか。

 グラトニーにとって重要なものは、いつだって他人の中には無かったのだから。



 交流会は寮にある大広間で開かれる。

 授業終了後、会場を整えるために二学年が総動員されて概ね夕食の時間。

 会場入りが始まり、半数の預言者(プロフェット)寮生が時間と同時に会場入りする。


 事前に配られた招待状を兼ねた予定表によると、メイン会場以外の軽食は待機中の段階で自由に食べて良いらしい。

 尤も殆どの純血達は最初に他の名門に挨拶周りを済ませるのが礼儀であり、余り時間的猶予は無いのだという。

 レイリースも挨拶を受けるために、早い時間に入場している。


 純血以外の貴種、雑種と呼ばれる大多数の寮生のために、どの程度遅らせるべきか目安となる時間も記されている。

「うん。ぶっちゃけ雑種の入場時間をちゃんと記載している辺り、計画立てた人の差別意識はむしろ薄いくらいじゃないかなぁ?

 少なくとも差別意識が高い連中は絶対書かないよ~。」



 模範的高位純血の回答。部屋を分ける。

 雑種風情が来なかったら酷いけど、雑種ライン超えずに聞いていれば後は自由だよ?



「詰まり、雑種は人数外?」

「そう、その他。邪魔さえしなければおっけー。

 無能人は招待しないね~。汚物扱いだから入場厳禁。」

 それでも学生は黒ローブを付けているだけで済む分楽らしい。


「外だとドレスコードまであるからね~。大人だととても面倒。」

「アヴァロンは未体験なのよね?」

 偶にこの不定形少女は年齢不詳の発言をする。

「……大人の振りして忍び込んだ事があるよ?」

「ドレスも自由に作れるのは楽でいいわねぇ。」

 本当に年齢誤魔化せたかは兎も角。


「まあ挨拶はしなくて良いというのは朗報ね。正直面倒だわ。」

「うん。向こうから話しかけてこない限り雑種は挨拶しないかな~。

 適当に雑談して、向こうが言いたい事を聞き逃さなきゃおっけー。」

 無能人用の作法は純血の集いには存在しない。なので表向き必要な時は純血に倣う。


 まあ何もないは無さそうなので、目立たない範囲で寸鉄は帯びておく。

 いずれは殺傷に応用出来そうな呪具も欲しいものだと思いながら会場へ向かう。

「そういえばだけど、グラトニーは前に『色欲』って言ってたけど、それ呪詛が七種類に分かれているって意味?」

「あら。あなたがそれを聞いてくるとはね。」


 いつもは傍観者の態度を崩さなかったので少し好奇心がもたげる。

「いやあ、こっちにも微妙に内容が違ったりするけど、伝わっているんだよ。

 人によっては気付くと思うよ?」

「そう。でもまぁ、察していると思うけど私も敢えて口に出した方が効果が増すのよ。

 だから隠そうと思って隠せるものでも無いのよねぇ。」

 グラトニーにとって最も付き合いやすい相手はアヴァロンだが、全面的に信用した事が無いのもアヴァロンだ。


「もう安定したから呪文無しに漏れないの?

 それとも単に漏らしていないだけだから、気が緩んだら漏れたりする?」

 くすり。こういう時の意図はとても分かり易い。

「そうね。気持ちが浮付いていると、制御が緩んでしまうわ。

 特に例の方は、本来溜め込むものじゃなくて触れ回るものなの。」

 ちりちりと空気が微かに音を立てる。


 そう。そうなのだ。だからグラトニーはアヴァロンを友人だと思っている。

「自己紹介みたいなものだったかぁ。

 でもまぁ、しょうがないよね?いつも気が緩んでいる時間に急用が出来た訳だし。」

「そうねぇ。私もついつい肩の力を抜いてしまうわ。だって楽だもの。」

 入り口付近でたむろしていた貴種の学生、恐らくは雑種の少年達がこちらに気付くと、徐々に顔を青くする。


「まあ偶には忘れるよね。あたしだって慣れたら気にならなくなるもん。」

 楽し気なアヴァロンも周囲の様子に気付いていて見落とす振りをする。

 チリチリと焼け付く恐怖が敵意を持つ者達を焦がす。遠くにいて感じるのだから、彼らはきっと、入場前であれば非礼になるまいと足を引っ張る心算だったのだろう。


 実に面白い。実に楽しい。信用など要らない。信頼など理解も出来ない。

 こういう時気が合うからこそ、彼女はグラトニーにとって友人なのだ。

「ああ、招待状は此処で見せれば良かったのかしら?」


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