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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第九部 禁忌の魔女編
203/211

03.神に近しき魔女

 呪詛が枯渇(こかつ)するのは産まれて初めての体験だった。


 呪詛が(たましい)と生命に直結するものだと気付いてからは尚の事、己の呪詛が枯渇する事態を今一想像し切れなかった。

 特に今の様な、何も()()()()()()()()中途半端なタイミングで。


 何故と自分に問いかける。己の感情では、衝動(しょうどう)では無かったのかと。己が望みを叶える力では無かったのかと。怒りを抱く。疑問を抱く。


 尽きてはいない。弱いのだと気付く。事実にさえも苛立つ。気に障る。

 何故弱い。何故少ない。何故足らない。何故。何故。何故、何故、何故。

 視界が歪み、無理矢理に()じ伏せ引き()り出して見せようと呪詛に激情を注ぎ、何故そんな発想がと疑問を抱く。


 外を見ながらに己の中を(のぞ)き見ている様だった。

 黒い帯の様な煙が立ち上り、身体を覆う七つの瞳が割れて増える。


 外と中に、みゃーみゃーと。


 ヒビ割れる様に自分を覗き見る。意識が(たた)まれる。時間が歪む様に視界が軋む。

 外の世界が遅くなる程に黒い血煙の中を覗き込む瞳が増える。


みゃーみゃーみゃーみゃー、みゃーみゃーみゃーみゃー。

 『憤怒』は行動だ、願いじゃない。『傲慢』は手段だ、願いじゃない。『嫉妬』は結果だ、願いじゃない。『怠惰』は試練だ、願いじゃない。『色欲』は観察だ、願いじゃない。『強欲』は過程だ、願いじゃない。

 『暴食』は?奪えば願いが叶う?奪ったら願いになる?奪えば何を得る?

 復讐は動機だ。目的だ。行動だ。望みだ。何故願った?奪うのは何だ?


(暴食は、願いじゃない?)

 みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

  みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。


 私の呪詛は何だ?私じゃないならこの呪詛は何だ?私は何故呪詛を受け入れた?

 何故邪魔だと思った?何故私は欲した?何故足りない?


   みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

(私は、何を求めている?分からない?何が欲しい?何故迷う?

 何処にある?ある筈だ。確信がある。求めている。足りない。何もかもが。

 何故形に出来ない?何が足らない?私の衝動は何だ?)


    みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

 分からない?こんなにも欲しているのに?こんなにも望んでいるのに?

 探す。求める。増やす。比べる。区別する。整理する。欲しい。


     みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

 何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?

(何故、が私?)

 なら。それ以外は。


      みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。


        みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

 溢れ出す。全身から赤黒い揺らぎが。

 巨大な化け猫が歪み、形を保てなくなる。

          みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。


        みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。


『おや、まさか此処で終わりではあるまいな?』


 声が木霊する。



 全身が粟立つ。毛皮と肉体の区別が曖昧(あいまい)になる。自分が()(たぎ)って往くのが当然だと理解する。何もかもが足りないと、納得する。

 血飛沫の様に血煙が揺らぎ、川の様に無数に枝分かれして流れ出す。



 届いた願いに、答えを得る。これはその一つだと。


 はっきりと聴こえる。自覚する。理解する。

 これだ。これが衝動。これが渇望(かつぼう)。これが願望。



みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

 みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

  みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

   みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

    みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

     みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

      みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。


 見渡す限りの一面に、()()()()が覗き見る。

「『なッ?!』」


       みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

        みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

         みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

          みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

           みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。



 赤い世界の中に形無き瞳が覗き込む。


 幻の様に。裂け目の様に。触る事が出来ない、観る為だけの瞳。


 歪んで境界の曖昧な赤黒い(かたまり)の様な化け猫に、()()()の尾が生えて揺蕩(たゆた)う。


 赤い世界に浮かぶ無数の瞳。

 黒い()()()()()()()()()()()()()()()()が空に浮かぶ。

 小さな笑みが、次第に(のど)を震わせる。



『あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!

 鏡の魔女ラビリス!その忠義や良し!

 (なんじ)が願い、確かに受け取った!』



 【知りたい】。それが衝動。

 欲望は要らない。自分の中にある無数のそれは、余りに溢れていて不純物としか思えない。そんなものに興味は沸かない。



『我は願望の魔女!未練の魔女!渇望の魔女!

 我は願いを蒐集(しゅうしゅう)する者!我は願いを叶える者!

 さあ荒神よ!八岐大蛇よ!貴様の命を全て寄越せッ!!』



 みゃーみゃーと空間全体を猫の鳴き声が満たし、全ての瞳が実体無く駆け回る猫の群れだと、(おぼろ)な影が視界を過る。彼ら全ては現実に干渉する力を持たない。

 彼の者達は一匹残らず傍観者(ぼうかんしゃ)で在り、只の観察する景色でしかない。


 けれど彼らの存在は、如何なる異変も違和感も見逃さずに(とら)え続ける。


『あははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!』

 グラトニーにとって、既に距離は意味が無い。

 噛み付こうと思えば猫頭が喉笛(のどぶえ)に喰らい付き、引き裂こうと思えば猫爪が(うろこ)に突き刺さる。黒い塊と化した化け猫は、瞳に映る全ての場所に痩躯(そうく)(あらわ)す。


 九尾の付け根の胴を払えど(かすみ)の様に霧散する一方で、まるで鉄砲水の様に距離を詰めて渦潮の様に牙を剥きながら(えぐ)り去る。


 圧倒的では無いにせよ、匹敵する程に大きな無形の総身に襲われた八岐大蛇は、しかし辺り一帯に雷鳴の様な咆哮(ほうこう)を轟かせて空気を震わせる。


『舐めるな!霊体相手の戦い方などどうとでもなるわ!』

 宣言通りに全身を覆う呪詛を固めて強化し、障壁で弾く様に殴打する。

 それでも霧の様に散らして躱せる事には変わりないが、黒い塊である本体部分に手傷を負わせる事は出来る様になった。


『どうしたどうした!攻撃が軽いぞ!我を倒すのでは無かったか?!』


(どうして中々対応が早い!もう私との戦い方を確立したか!)

 グラトニーの肉体と呪詛量は体躯に応じて間違いなく増えた。

 しかし反面、呪文や呪具を用いていない分その出力は若干出力の割に薄い、所謂(いわゆる)一撃の軽い攻撃となっていた。


「『暴虐なる怪童、無双の鉄槌、一刀を以て叩き切れ』!

 グラトニー!実際の所はどうなんだ?!」


 巨大剣による『鷹舞踊』で無数の鎌鼬(かまいたち)が空を引き裂き続ける中、前腕に巻き付く『チャクラ』へ小声で叫ぶという器用な真似でジュリアンが問い質す。


『どうって何が?』


「何か全身バラバラで瞬間移動するから巻き込まずに大技使い辛い!

 おっと『召喚:轟雷』!」


 八岐大蛇に『猫脚』が弾かれ、空いた空間目掛けて【剣】へ蓄えていた雷撃を解き放つ。指向性を持って放たれた雷は八岐大蛇の体に直撃したが、尾端に薙ぎ払われかけてギリギリで轟音を響かせ弾き返せた。


『今ので問題無いでしょう?攻撃し易い隙なんて狙って作ろうものなら逆にローレライに付け込まれるわよ。』


「成る程確かに!」


 声音が叫ぶような形になっているのはどうも余裕が無いからの様だ。

 正直頭の目で追うのは諦めたくらいに八岐大蛇の周囲を跳ね回っているが、案外疲労は蓄積(ちくせき)しているらしい。

 時々『オーラ』の輝きが見えてはいたが、彼の秘術は体力迄回復してくれない。


(お互い長期戦が出来る程の余力は残っていないようね。)

 自前の呪詛を引き摺り出す様になってから、グラトニーも自身にかかる負荷が今迄を数段上回る様になった。


 恐らく現状以上の出力を欲すれば肉体の崩壊も在り得るだろう。

 折角(つか)んだ好機、優位が失われる前に仕掛けるべきだ。


『お互い奥の手はまだ切っていないでしょう?

 あなたは隙さえあれば、今の奴を仕留め切れる自信があるかしら?』

 『チャクラ』越しのジュリアンは剣戟を止めぬまま迷う素振りを表情に浮かべ、いやと首を振って否定する。


「多分無理!もう少し削らないと!」

 ある意味こっちと同じ状況か、丁度良い。

『なら私が足止めするわ。あなたの切り札を切っている間に私が溜めに入る。』


「分かった、それで行こう!」

 倒せなかったらそのまま盾となる様に要求した心算だったが、ジュリアンからはあっさり同意が返って来る。

 答えると同時にジュリアンは即座に大蛇の死角で攻撃を止めて空で静止し、剣を構えてマナを集め始めた。


(ッ!守って見せろって意味か!やってくれる!!)

 だが素直に隠したところで見破られて終わりと、グラトニーは四肢と九尾を縦横無尽に暴れさせながら、頭だけはジュリアンと逆位置に離れ口元にマナを集める。


 八岐大蛇が全身を捻り、一瞬だけジュリアンが見える角度を創り出す。

『む、それで隠した心算か!』


(<魔鏡『水鏡』>よ!)

『ッ!『<化竜砲『雷轟』>ッ!!!』?』


 八岐大蛇がジュリアンに狙いを定めた瞬間、胴体真上に転移した『猫頭』が雷の竜砲を至近距離で叩き付ける。


『『薙ぎ払え憤怒よ』、『牙を剥け』ッ!!』

『グゥグググググァァァアアアアアアッッッッ!!!!!!』


 弾き飛ばした筈の幾つかの猫尾が赤黒い槍と化して八岐大蛇を刺して縫い付け、灼熱の空に拘束(こうそく)する。


(こ、これは?!そ、そうか『魔鏡』か!鏡の魔女ラビリスか!)

 この無数の瞳は全てが実体無き『魔鏡』として機能し、転移の対象となるのだと気付いた八岐大蛇が力任せに場を離れようとする。


 だが十の方位から全身を砕かんと、圧力を加えられ続けては叶わない。

 狙い澄ました計算尽くの(おり)の中で、全ての一撃が胴を目掛けている。

 自分がジュリアンを(おとり)に踏み込まされたのだと気付かされる。


『こ、ここ、この程度で、この我が!荒神・八岐大蛇が倒せるものかよ!』


 急所を狙えば力で圧し切れると思われたなら屈辱極まる。個々の力に限れば全ての強者を凌駕し続けた誇りが八岐大蛇にはあった。

 最初に解き放たれたのは最も力の集まる首の付け根の胴体部分。体当たりの如き衝撃で『猫頭』を弾き砕く。が。


「『精霊卸の術<コールドドラゴン>』!!」

 ジュリアンの全身から吹雪が舞い、精霊王氷竜との一体化が完成する。

 生じた空間を利用し身を捻る八岐大蛇が、せめて一頭をと傾ける首を探し。


(四頭と、七尾?!)


 全ての頭が抑え込まれ、全ての尾が貫かれるか拘束されている。

 分離した四肢が二本の尾を捕え、槍の如き九尾が残る全てを穿たんと押し込んでいたのだと漸く全貌を把握する。

 胴を打ち据える衝撃が、尾の一つを潰された激痛を上回ったのだと気付いた時。


「『双竜砲<氷河槍>』ッ!!!」

 マナで出来た双頭から、氷河の如き巨大な氷牙が左右挟み撃ちに放たれた。


『ぐぅぅおのれぇぇぇぇええええええええ!!!』


 我が身を盾に二尾を引き裂かれるに任せ、最も脅威となる氷の双牙に裂けた尾を叩き付けるが、砕くには余りに間合いが足りな過ぎる。

 『憤怒』の槍と化した九尾が竜頭竜尾に匹敵する質量で圧し潰さんと迫る中で、【勝利の剣】に後押しされた氷河は勢い留める事無く巨体の胴体に突き刺さる。


『ぐぅぐグググぐぁぁぁああアアアアッッッッッッ!!!!!!』


 僅かに首を傾け、一頭の呪詛の障壁にヒビが入るのを許容して氷河の槍に狙いを定める傍ら、不意に八岐大蛇の視界を光が掠める。

 マナの双頭を押し込みながら、ジュリアンは剣に更なる力を籠め続ける。


(何だ?あれは双頭に注ぐマナとは別の魔力の流れ?)

 何かを目論んでいる。放置は危険だと氷河の槍への狙いに迷うが、只でさえ無理のある姿勢で『憤怒』を抑え続けており、呪詛の盾にも軋む音が届く。


(マズイ同時は間に合わぬ!せめて一方を先に潰さねば!)

『諸共に、砕け散れィ!!』

「『金剛の獅子よ、灼炎の鬣に、浄化の光を宿せ』ェッ!!!」


 放たれた<竜砲『溶岩流』>が氷河の一柱を打ち砕く傍ら、『浄化の炎』が膨れ上がり巨大剣の魔力を全て炎へと変えて八岐大蛇の胴体を包む。

 それは一見して残る<氷河槍>とも潰し合うかに見えて、竜鱗が纏う呪詛のみを焼き払って渦を巻く。


「『()()()()』。不浄を焼く炎は味方を焦がさず、呪詛のみを打ち払える。

 つまりはまあ、熱を持たない炎って奴も可能なのさ。」


 ジュリアンの言葉が動揺となり、乱れた各頭、各尾の呪詛に揺らぎを拡げ。


『キキき、貴様ぁァァアアアアアア!!!!!!』


 全頭全身をズタズタに貫き引き裂かれながら、八岐大蛇は怒りの叫びをあげる。

 どれ程抵抗しても裂け過ぎた肉は九尾の槍を食い止める事は叶わない。

 弾ける身体を捻ろうにも九と一つの(くさび)全てが心臓に迫る。

『『七罪を刻め、汝らの悔悟は此処に在り』、』


(おのれオノレオノレッ!この八岐大蛇が敗北スルだとォッッッ!!!!)

 ()くなる上はと残る全ての呪詛を撒き散らして弾き飛ばし、自らの血を(かて)に辺り一面に呪いを振り撒く。


「なっ!くそ、『輝け』浄化の盾よ!!」

 ジュリアンが辺り一面の闇を掻き消そうと盾を翳す傍ら、飛び出した()()()()()遮る様に全身の呪詛が手に握る刃に収束し、我が身が人の形へと戻る。


『全く、確かに似ているわ。娘呼ばわりも納得してしまうくらい。

 『恨み辛み妬みに嫉み』、」


「なっ!き、貴様!それは、その飛刀は、まさかっ!!!」


 グラトニーの前で急制動をかけたのは赤い瞳を持つボロボロの黒ドレスを纏った見覚えのある金色の美少女。


「ええそうよ?これはあなたの発動具と同じ。

 あなたに砕かれた大腿骨(だいたいこつ)と上腕骨を『四竜の角』で作った刀身に同化させて、()の部分に橈骨(とうこつ)を使ったわ。

 後は《殺生石》、まあ呪具化した私の生き血を大量に浸み込ませた剣。」


 残っていた《殺生石》は全てこれに注ぎ込んだ。

 以前からずっと、何故誰もやらないのかと疑問に思い続けて。

 詳しく知る事でやらないのではなく、魔力密度の不足で出来ないのだと。

 ある意味で不死術式こそが自分と同じ発想の答えなのだと理解して。


「あなたが考えた事は私も考えたわ。

 私の呪詛を。私自身を【発動具】に仕立てあげた物が、一番敵を殺すのに優れているんじゃないかって。

 そうよね?自分の骨で太刀を創った()()()()()?」



 初めて、目の前の娘が()()()に視えた。



「き、貴様と一緒にするな!

 貴様は己と他の存在を混ぜた発動具を創る意味が分かっておらぬ!

 それは全く異なる異物を術式によって計算尽くで繋げるのとは全く別物だ!

 それは自らを溶かし、自らの魂を異なる異形へと造り替えるのだぞ!」


「あら。力を求めるために己を創り返るのは当然じゃない?

 魂なんて、己で在り方を定めるものでしょうに。」


 そこでああ、とせめてもの時間稼ぎの心算か、残された呪詛を集め続けるローレライの動揺に気付き。

 グラトニーが散った呪詛を一ヶ所に集めるのを待っているとは考えて無いのだと察して(わら)う。


「ああ成る程?あなたは違うのね?あなたは本当は何も欲していない。」

「何?」


 ジュリアンには『チャクラ』越しに、地上や周囲に散る呪詛を払う様に頼んだ。

 今一番グラトニーが警戒しているのは、ローレライの逃走だ。だからここで少しでも力を集め、正面から挑んでくれるのは願ったりだ。


「あなたは自分を誇り過ぎている。自分以外を認めていない。

 当然よね?あなたは八岐大蛇、最強の肉体と最強の力を持っていた最古の荒神。

 あなたは嘗ての最強を知っている。あなたが本当に欲しかったものは、失われた()()()()()()の肉体。」


「ッ!!」

「なっ!ま、待てグラトニー!それじゃあ!」

 驚愕によって虚飾(きょしょく)が剥がれ、ローレライが歯軋りして拳を握る。


「あなたの真の姿は始祖の身体のみ!八岐大蛇は仮初のもの!

 あなたは未だに嘗て破れる前の栄光を追い求める、敗北者の魔女!」

「だ、黙れッ!!」


 憎しみに染まった表情が、焦りが互いの力関係を顕している。

 互いに集める呪詛の総量が、密度が、激情が。互いの立場を現わしている。


「何故八岐大蛇である事を隠していたの!?

 あなたが知る最強の力じゃない!何物にも負けぬ、全てを打ち砕く力!!

 誰よりもその力を知るあなたこそが、昔に届かないと知っていたッ!!

 弱体化した真の自分を、人目に(さら)したくなかったッ!!!」


「黙れ黙れ黙れ黙れ!黙レェェェッッッッ!!!!!!」


 集めた呪詛の大部分を眼前に集め、頭を竜頭に歪めて収束させる。

 これだ、これこそ待ち望んだ瞬間だ。


「アハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 さあ決着を付けましょうか!」


 高らかに嘲笑するグラトニーが赤黒い片手刀【七罰の飛刀】へと、有らん限りの七大罪の呪詛を、自らが枯れ果てる勢いで注ぎ込む。


「砕け散れぇッ!!!」

「『束ねて絡めて穿ち断て』ッ!!!」


 八岐大蛇と遜色(そんしょく)無き<竜砲『溶岩流』>が放たれるのと、呪文『七罪』が宿った【飛刀】が投げられるのはほぼ同時。


「アハハハハハハハハハハハハハッッッッッッッッッ!!!!!!!!!」

「ぐぉおおおお!!!!」


 黒い放電の様な輝きが巨大な渦を巻き、触れる全てを分解し続ける。

 彗星の様に余波を散らして全ての溶岩流を消滅させ、それでも多少は加速を減退させるものの、ローレライを丸ごと包む大きさに全く陰りは無い。


 己が圧し負けるという屈辱に焦り、圧でヒビが入る身体に己の弱体化をまざまざと見せつけられ、動揺が更に呪詛の収束を弱める。


(く、くそ!何処かに隙は?我は八岐大蛇ぞ、一つの勝利に拘らぬ!)

 周囲に視線を向け、己を見つめる無数の瞳と()()()重なる。


みゃーみゃーみゃーみゃー。みゃーみゃーみゃーみゃー。

みゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃーみゃー。


 腕が徐々に消える。放電の様な黒い棘が全身に突き刺さり、ヒビが刻まれる。

 まるで器物になったかの様な傷から、魂を砕かれる恐怖が響く。

 脱出を優先しようにも、吸い込む様な渦が全身を引き込む。


「あははははははははッ!!!アッハッハッハッハッッッッ!!!!!!!!!」


「おのれ!おのれ!おノレェェェエエエエ!!!!」

 ローレライの肉体が塵と化し、渦に届いた【呪界核】が砕ける。


 空が歪み、大地が割れる。


「さあ最後の総仕上げよ!『鎌首を増やせ暴食よ』ッ!!

 禁忌の魔女の呪詛、痕跡を余す事無く食らい尽くせ!!!」


 再びグラトニーの身体から溢れ出した真っ黒な呪詛が、巨大な蟒蛇(うわばみ)の如く鎌首を伸ばして世界の全てを食らい飲み干し始める。

 法則を失い収束する世界を、呪詛に満たされた結界を。


「おっと。」

 一方で慎重に様子を伺い、周囲を警戒していたジュリアンの手に巻き付いていた『チャクラ』が離れる。


 さっき周囲に呪いを振り撒いた様に、【呪界核】の欠片が外へ飛び出すか、或いは結界の一部が分離するかと気を揉んでいたが、問題は無さそうだ。


「どうやら、これで決着かな。」

 ジュリアンの呟きを耳にしながら、グラトニーは理解より速度を重視して呪詛を奪い、空が引き裂かれた様に夜空が現れた。


 結界が消え失せても『暴食』し尽くし、呪詛の欠片を万に一つも逃さない。

 破られた異界の外は、〔樹海神殿〕の中では無くその上空だったらしい。


 呪詛が完全に無くなったと確信出来た辺りで着地し、荒れ果てた地面の上で軽くよろけ、たたらを踏む。

 同時にジュリアンも地面に降り立ち、膝を付く。


 互いに疲労は肉体含めかなりのものだが、グラトニーは深い息を吐いて、懐から《通信球》を掲げ、【盤古旛】に繋げて〔学園〕中へ声を響かせる。


『聴くが良い!全ての魔法種族と数多の者達!

 この私グラトニーは、禁忌の魔女ローレライこと、荒神・八岐大蛇を討ち取った事を、この場で宣言する!!』

※ゴールデンウィーク投稿中。最終章は翌日一挙投稿予定。


 最終章はラスボスエンドとジュリアンエンドに分岐しておりますのでご注意を。

 どちらが正史ルートかは、あなたのお好みで。

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