第一章 淑女の会 01.茨の園
茨の園。
呪法学園カーズでは珍しく、各寮二学年以上の成績優秀者上位十名には社交用の個室を使用する権利が与えられている。
これは学園が要塞として使われる前の習慣の名残だ。
尤も多くの場合、成績優秀者は友人同士である例も多く、全ての個室が使用される例は殆どない。更に言えば、多くの場合は勉強会か会議室に使われる例が殆どだ。
ついでに言えば探求者寮では事実上只の研究室と化す。
詰まり多くの場合、互いがライバルであり卒業の障害でしかない学園内において、今や社交場として使われる機会は殆ど無いのだが。
預言者寮だけは例外的に、純血専用コミュニティが存在している。
その中でも最も有名且つ厳格なルールがあり、睨まれたら一生が終わるとすら言われる最高位の有力者達が集う場所。
それが、淑女の会の専用個室、茨の園だ。
ルールの一。純血家格一桁、又は学年成績上位五位以内の者。
ルールの二。資格者に推薦され、淑女として過半数に承認を得た者。
ルールの三。同家の場合、上記の条件を満たした成績上位二名の者。
余りに条件が厳し過ぎて所属者が十名を超す事は稀であり、現在所属しているメンバーは二学年のみ。そして今年も、新入生勧誘の時期が訪れていた。
「一学年で乱闘騒動の次は、魔女被害者疑惑、ですか。」
紅茶を口に含んだ少女は小さく溜息を吐き、鈴の様な声で今年は随分とはしたないわねと呟いた。正面に控えつつも同じテーブルに並ぶ、凛とした少女は深々と頷く。
「全くです。幾らこの学園が彼の悪名高き≪最低最古の純血≫監督とは言え。
増して今年起きた事件は全て、無能人が元凶だと噂されているとか。」
実の所、学園内で事件や騒ぎが起きる事は然程驚くに値しない。
というより通年は必ず騒ぎを起こす者が現れるため、その者達を力尽くで黙らせる形で上級生達は上下関係を構築する。そのために寮長を生徒から選出しているのだ。
故に寮長だけは殆ど例外無く武闘派の魔術師が着任するのだが。
三人目。最後の一人は表情とも呼べぬ微笑で、思い出した様に口を開く。
「一学年は今や事実上、無能人の風下に立たされたも同然。
一学年達は無能人に自由を許す上位学生に、反感を溜め込んでいる様ですね。」
三人目の少女が薄目でマカロンを啄み、細めた目を薄く見開く。
「今年の寮長は狙い目年のメリザー君だったわね。
寮が軽んじられる元凶に、寮の粛正を図れというのも酷な話かしら。」
場にいる三人は何れも下位学年乍ら、預言者寮三年主席である寮長を明確に自らの下に見た上で誰も違和感を抱かない。それもその筈。
「学年主席は適性教科の総合成績で選ばれる。
毎年粒揃いの学生を輩出するのは預言者寮とは言え現実的では無いのは分かっていますが、我々の在学中くらいと思ってしまうのは我が侭でしょうね。」
「そりゃあそうよ。結局の所、淑女の会に全学年が揃わないのと全く理由は同じだわ。
魔法使いは少数精鋭。彼を責めるのは我々が同い年であるのを罵るくらい酷な話よ?」
それは嫌だと三人の少女達は笑う。
狙い目年。それは三学年に優等生が少なく、卒業出来ずに燻っている四学年、五学年に分類された学生達が成績上位に食い込み易い世代を指す。
淑女の会は常に世代最高峰で結成される。故に彼女らが三学年に至る来年は外れ年。
彼女らの中に現寮長より明確に劣っていると考える者は一人もいない。
現寮長にとって不幸なのはそれが明確な事実であり、一学年であった昨年なら兎も角、二学年の半ばも近付いた今では誰もが認める事実と化した。
現序列一位ドラクロワ家長女にして淑女の会会長、二学年主席カーリー・ドラクロワ。
序列三位ナーガ家次女、淑女の会副会長、二年次席ガトレス・ナーガ。
序列四位マローダ家長女、淑女の会会員、二年三席メフィレス・マローダ。
何れも純血最高の名門を担う直系であり、当代最高峰の名に相応しい実力者だ。
「で、あれば。私達が動かずに預言者寮の秩序は守れない、という事かしら。」
カーリーは遠くを見る様な視線で言葉を紡ぐ。
「カーリー様のお手を煩わせずとも、我らのどちらかにお命じ頂ければ。」
「そも我々が後ろ盾になれば、現寮長とてその程度は叶いましょう。」
血統主義の頂点でありながら、彼女達には血統以上の格差が存在する。
本来であればドラクロワ家とナーガ家は席順こそあれど限りなく同格。
まして四席すら並ぶ場で傅くなど有り得ない。
「良いわ。退屈よりは少しくらい悪い遊びを致しましょう。
淑女の会主催で、預言者寮総出での交流会を開きなさい。」
「「承知いたしました。」」
カーリー・ドラクロワには誰も敵わない。
二学年にして既に三学年最強と呼ばれる先駆者寮長アルガストとも伍すると噂される、当代最高の天才。
淑女の会に属する才女二人は、躊躇い一つ無くカーリーを上位者として崇めている。
最低最古の純血=学園長ダーククロウの事です。
ルビを入れるかで迷いましたが、揶揄するために名前呼びしてないので敢えてこちらに。




