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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第九部 禁忌の魔女編
198/211

04.デミウルゴス

 只ひたすらに広い水面(みなも)の様な地面の無い異世界の中で。

 地に伏した異形の甲冑(かっちゅう)男〔魔女狩り総大将〕カリギュラと、後ろに飛び退き距離を離した初対面の男のみがグラトニーとジュリアンを出迎えた。


「ふむ。そなた達が来たのならば、こちらの姿の方が良いかのぅ?」


 飛び退いた初対面の男――禁忌の魔女ローレライは髪の色を黄金に染め上げた、柔和(にゅうわ)そうな童顔の元アルビノ美少女の姿へと変化する。

 但しその装いは黒を基調としたドレスの様な瘴気に満ちた呪装を纏い、六筋の帯を腕に包ませる自身と同じ長さの【金属杵】が、更に冒涜的(ぼうとくてき)な雰囲気を漂わせる。


 転移門を潜るため縮小化した<七眼朧猫>から降りたがったジュリアンに、グラトニーは(ぞう)と同程度にまで巨大化しながら要求を却下する。


「あなたまだその【勝利の剣】を使いこなせていないでしょう?

 回避は受け持ってあげるから、慣れるまであなたは攻撃に専念なさい。」


「あ。そういう事ね。」

「ジュリアン!貴様、魔女の言葉を信じるのかッ!!」


 納得したジュリアンに対し、意地で体を起こすカリギュラが怒鳴る。

 だが離れた禁忌の魔女ローレライとは違い、『赤い霧』の中にいるカリギュラは当然『傲慢』と『嫉妬』の影響を受けて支えの《大剣》を自らに圧し付けない様に力一杯の抵抗を見せている。


「言った筈ですよ〔総大将〕、三つ巴になれば最初に負けるのは魔女狩りだと。

 〔学園〕制圧より禁忌討伐を優先すべきだともね。」


「そんな事は聞いていない!」

 怒鳴るカリギュラに、ジュリアンはいっそ冷徹(れいてつ)に言葉を続ける。


「しかもあなたは歩調を合わせるどころかたった一人で先行し、禁忌に敗れた。

 あなたに従って共倒れは御免(ごめん)ですよ、学園皆殺しに許可を出した総大将殿。」

「ッ!!」

 ニマニマと笑みを浮かべる禁忌への警戒は勿論(もちろん)二人共欠かしていない。


「それに前提も違います。グラトニーは未だ禁忌の手の内も【勝利の剣】の真価も把握(はあく)していない。そんな状況で俺を敵に回す様な馬鹿な真似はしない。

 敵対しようがしまいが、今なら俺を禁忌と戦わせながら両者の手の内を観察出来るのに、自分から敵対して優位を投げ出す事はあり得ません。」


「……いや。それ本人の前で言って良いのか?」

 思わず口から洩れたカリギュラは、凄く不味い事を口に出させた様な態度で。


「あら?私が考えている事なんだから私が把握しているのは当然だと思うけど?」

 つい口を(はさ)んでしまう。

 ……当然よねぇ?お互い分かった上で組んでる訳だし?


「…………カリギュラさんは俺達が信頼して協力していると思ってるんだよ。」

「?一時共闘よね?利害が一致(いっち)しただけの。

 禁忌を倒すまで限定で、どっち優位で終わるかだけが問題の。」


 ジュリアンが微妙な気配で満面の笑みを浮かべている。これは何か考え違いをしていると思っている時の顔だ。


「君は約束を守っても不便が無い契約しかしないだろう?

 彼は魔女が約束を破るものだと思っているから、君が自分の()()()()()()()()()していないと気付かなかったんだよ。」


「…………っ!!!!!!!!!」

 残念なモノを見る目でグラトニーに(さと)し、指摘(してき)されたカリギュラが顔を真っ赤にしながら押し黙る。


「ふむ。まあその男の問題ならどうでも良いわ。」

「君はもう少し普段の他人に興味を持つべきかな。」

 やはりジュリアンの胡乱(うろん)な眼差しはグラトニーに向けられたものらしい。


「〔総大将〕、今のあなたに余力はない。

 あなたに出来る唯一の選択は、最後の力を()()()()()使うか否かの二択です。

 私の言葉の意味、よく考えておいて下さい。」

「なッ…………!」


 だがまぁ、そんな事より禁忌の魔女だ。

 くっくと笑いながら傍観(ぼうかん)していたローレライは、終わったかね?と首を傾げる。

「別に待たなくても良かったわよ?やる事は同じだもの。」


「何、子供に論破される御老体も中々に楽しくてのぅ。

 それじゃ先ずは、(なんじ)らがどれだけ成長したかを見せて貰おうかの。」

 宣言と同時に空一面に魔術陣が広がる。広さは一見では端が伺えない程で。


『キャシャァァァアアアアアア!!!!!!』

 グラトニーは即座に<七眼朧猫>の毛を総毛立たせて、爆風の如く『赤い霧』を撒き散らして全力で走り出す。


 完成した魔術陣から巨大な『島』が、重力に従って落下し始める。

「な!」


 後ろで発動の速さに驚きの声を上げるカリギュラだが、グラトニーには事前予想の範疇(はんちゅう)だ。そもそもあの巨岩、(ぜろ)から生成する必要は無い。

 事前に何処かの魔法世界に結界を張って置いておき、魔術陣等による結界を通路代わりに空と繋げれば良い。


 これが収納具なら準備も大変だろうが、結界術なら短時間だけ地面を穴に変える術式を組み込むだけで良い。後は落下中だけ魔力を消費するだけで済む。

 結界術なら魔石等を用いれば更に負担を減らせる。


(その程度の小細工で私から逃げられると思ったのかしら!)

 落下する『島』の中心から遠ざかるローレライを追うグラトニーの速さは、宙に自在に足場を創り、撒き散らす呪詛によって獣離れした速さで距離を詰める。


「正直この速さだと狙い定まんないんだけど!

 最初の仕掛け時は飛び道具って事であってる?!」


 ほぅ、とこっちの読みを察している事に感心しつつ、ジュリアンの問いにええと(うなづ)く。だがこの程度の速さなら前は対応していた筈。すると剣の問題か。


『狙いよりタイミング重視よ。精度に期待なんかしてないわ。

 誤射する相手なんて居ないんだから、派手にやんなさい。』


「あ~、そういう。だったらしばらくは足を固定しといてくれるかな。」

『ええ。』


 一応立ち上がれるように角の様に曲げた毛皮で固定し、先ずは自動で獲物を追跡する<鬼火玉>を十数体、八尾の一本を振るって解き放つ。


「ほう。だがまさか黙って抵抗しないとは思っておるまいな?」

 ローレライが弾いた指から呪詛が(むち)の様にしなり、途端頭上の『島』半分。禁忌側の岩が砕けて降り注ぐ。


(攻撃にしては随分(ずいぶん)温いわね、目(くら)まし目的かしら。)

 七つの瞳は『千里眼』を宿し距離や障害物を問わぬ視認が可能だが、『赤い霧』が拡がり切る迄は感知能力も万全とはいかない。見失う()は避けたい。


「先ずは一発!『召喚:竜巻』!」

 幾つかの<鬼火玉>が岩塊に衝突する中で、首元のジュリアンが【勝利の剣】をローレライに向けて突き出し、二人の周囲から動きを拘束する様に竜巻が生じる。


「ほぅ?」

 一見して禁忌は何も影響を受けず(そで)のたなびきだけで防いだかに見えるが、この場合岩塊(がんかい)を砕いて視界が一直線に開けた方が大きい。

(<我は至れり>!)


 静寂の魔女の近接間合いに辿り着く呪詛。元は〔饗宴〕の一員である以上、ローレライが使えない筈も無い。

 即座に背後間近へ転移した瞬間、グラトニーは巨大な一尾を刃の如く振るい。


(<一振りに在らず>!)

「<武装『刀剣』>よ!」

 分裂する斬撃の(うず)を虚空に生じた等身大の『刀剣』の数々が相殺する。


(『砂嵐杭』!)

「ぬぉおおお!」


 瞬間移動の衝撃と急制動にジュリアンが体を低くして耐える中で、ドリル化した砂嵐が離れた両者の間隙(かんげき)を包囲する様に囲む。


「ふ、<竜巻>よ!ふはははは!やるでは無いか我が娘よ!」

 嵐の魔女の呪詛が砂嵐を弾き、砕き合いながら楽しくて仕方がないという様に大笑いで両手を広げるローレエライ。


「『召喚:業火』!」

「おっと!<白夜『吹雪』>よ!」

 ジュリアンの爆炎が吹雪の渦で相殺する間に、気体ならざる『赤い霧』が周囲を満たす一方で。両者は『島』の上空に到達し、揃って降り立つ。


『<仮面『土蛇』>!』

 だが当然それは休息の為などでは有り得ない。グラトニーが突いた地面が波打つ様に揺らぎ、囲む様に()を描いた(へび)がローレライに迫り。


「宿れ<蟒蛇(うわばみ)>よ!」

 地面が割れて六体の巨大な岩盤の『蟒蛇(うわばみ)』と化して『土蛇』達を弾き砕く。その間にグラトニーは後頭部に瞳を開きジュリアンに合図を送る。

 迫る『蟒蛇』達に対しジュリアンが【剣】にマナを漲らせて真横に構え。


「『再現:切断』!」

『『生えろサメ壁、大きく拡がれ』!』

 鮫型の『石壁』が『蟒蛇』達の喉笛(のどぶえ)を貫いて砕き、間隙に唐竹(からたけ)割りの斬撃が足場ごとローレライ諸共両断する。否。


「おおっと!危ない危ない!出力差は手数で補うかぇ!」

 巨大な大剣がひび割れ、しかし斬撃はローレライの立ち位置だけを砕かれる。


「だがそろそろ出力を上げさせて貰おう!<天地鳴動『落雷』>!」

(<我は至れり(<時は止まれり>ッ!)>!)


 巨大な化け猫<七眼朧猫>が落雷の落下直前に掻き消え、転移した場所のはるか後方に笑みを浮かべたローレライが狙いを定めており。


(そして<仮面『鎌鼬(かまいたち)』>!!)

「そらもう一発!『落雷』!!」

「『召喚:轟雷』!」


 グラトニーと殆ど同時に振り向いたジュリアンの【剣】から視界一面を埋め尽くす程の無数の落雷が弾け、衝突し合い。

「ははッ!では(たたみ)返しと行こうかの!」


 足元の岩盤が弾け飛び、周囲を囲む様に風を引き裂いた無数の鎌鼬を全て余す事無く打ち砕く。そろそろ頃合いかと、グラトニーは首元から『チャクラ』の影を伸ばして腕に巻き付き、ローレライの死角からジュリアンに提案する。


「ジュリアン。そろそろ大技頼みを止めて手数で追い詰める手段を探しなさい。」

「ん。もう少し最大出力の感覚を掴みたかったんだけど。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジュリアンからすれば、今迄のグラトニーの戦い方は随分と違和感を感じた。


 グラトニーが初見の手口を見せる時は、殆どの場合必殺を狙っていた様に思う。

 敵を追い詰めるチャンスがあるのなら必ず有効に使おうとする。無駄は避けるのがグラトニーの戦闘スタイルで、だから常に奥の手を隠している。


 先程の『瞬間移動』の呪詛は、本来死角で行うべきだ。遠目で隠れたところで姿を探すのは目に見えている。しかも二度似た使い方をした。


(バレて当然、いや、そうか。これは〔饗宴〕の魔女から奪った力なのか。

 だから大本は禁忌に『強奪』されているし、同じ力を禁忌が扱える。)


 実際ローレライは今転移する呪詛を使った。奴は今、グラトニーに出力差だけで勝って見せている。つまり今は派手に力自慢をして遊んでいるのだろう。


(瞬間移動対策、【勝利の剣】の中にあるか?)

(<該当三件。――『思考加速結界:思考時間加速術式』。

 『超加速結界:行動結果反映術式』。『術式破壊:加速阻害(そがい)』。>)


(ん?今の加速扱い?転移じゃないの?ていうか瞬間移動に対する対策は無し?)

 軽く思考加速を使って確認すると、先ず思考加速は使用時間に応じて頭痛が増し体感時間を伸ばす術式らしい。


 これによると今の現象は二つ。点と点の接続による『距離の縮小』と『行動時間全般の省略』結界の二種類だった。前者は移動前阻害以外に手段は無く、後者なら体感時間を揃えるか自身が射程内にいる場合のみ術式阻害が可能との事。

(魔法世界的には他の瞬間移動手段は無いって事なのか……。)


 どうも【勝利の剣】にある情報ではそれが全ての様だ。

 グラトニーが何故かワンテンポ守りが遅れ、咄嗟に落雷を召喚して一面の攻撃を弾いていると、視界の端で明らかに禁忌が不可視の風に反応を示していた。


(この雷撃の中で?!いや、()()()のか?向こうにも魔力の流れが!)

 否定しようとした瞬間、天啓(てんけい)の様に筋道が繋がる。グラトニーはジュリアンに今の二つを見せようとしていたのだと。


 今の二つは最初から考慮に入れておかないと不意討ちで即死もあり得る。

 通じないと事前に分かっていないと極めて危険な二つだ。

 思わず毛皮を握る手に力が入り、と同時にグラトニーから提案が入る。


(やっぱり!グラトニーは見せるために大技を連発したんだ!)

「出力だけなら多分あなたの【剣】が最強よ。

 相手は以前その【剣】の使い手と戦った事があるのを忘れてないかしら?」

 父ナイトバロン対策がそのまま自分にも通じるという事か。


「実のところ、派手な大技以外は単なるマナの供給源にしかならないんだこの剣。

 ただ俺が持っている発動具の力は全て剣のマナだけで発動出来る。

 大技以外となると、それだけだね。」


 爆炎で氷柱の槍衾(やりぶすま)を打ち砕きながら、上半身の傾きだけで重心を合わせて衝撃を殺す。小声で会話しながらでもグラトニーは、殆どの余波を体捌(たいさば)きで凌ぐ。

 結界術を使えばそれなりに大技があるが、逆に言えばそれだけだ。【勝利の剣】はあくまで武器の形をしているだけ。元々戦闘目的の至宝ではない。


「ならそろそろ補助輪は終わりにしましょうか。

 はっきり言えば、向こうの手の内なんて関係無いわ。勝ちたいなら殺すか手傷を与え続けるしかないのだから。」


「……りょーかい。精々本気の君に巻き込まれない様、全力を尽くすさ。」

 ここからが本番だ。毛皮の拘束を解いて貰い、即座に背中から飛び降りる。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 薄く一見して分からぬ程に拡がった『赤い霧』こそが<幻夜・百鬼夜行>の領域内であり境界線だ。


 既に人間の枠を捻じ伏せ精霊王たる四竜をその身に収めたグラトニーは、ローレライの出した『島』を余さず包み込み、〔外周結界〕に匹敵する広さを誇るこの『異界結界』すら殆ど全て埋め尽くす程にその領域を拡大していた。


 これにより少なくともこの結界内に()いては、禁忌の魔女の退路は断たれた形になる。この程度はローレライも当然気付いている筈だ。


 両者が転移を使える以上、敢えて距離を詰める意義は薄れた。

 であれば次に競うべきは手数。如何に相手の隙を作り、拡げられるか。


 膨大な魔力に裏付けされた天変地異の様な術式の雨霰(あめあられ)の中で、幾度も衝突の土煙を上げながら。ジュリアンは背中から飛び降りると同時に、振り抜いた刃で渦巻く大竜巻を解き放って全ての余波ごとローレライを巻き込むが。


「その程度かのぉ!」

 体から膨れ上がる様に広がる風圧が竜巻を弾き。

 次の瞬間弾けた渦が無数の鎌鼬と化して、更に全ての鎌鼬がジュリアンの構えと重なり三日月状の『牙』と化す。


「秘剣・餓狼陣!」

 突き刺さる無数の牙は弾けた渦が幾つ鎌鼬化出来たかで決まり、その総数は本来十あれば良い方だった。しかし今は全ての竜巻を完全制御し切る手段がある。

 何より、刃を振るい全ての牙に号令を出しながら距離を詰めるジュリアンの姿がローレライの視界に映っている。


「なッ!」

 数百の鎌鼬全てを牙に出来た事に本人も驚いていたが、その程度で勢いを緩める程ジュリアンは甘くない。


 グラトニーも咄嗟に周囲一帯に<戦火の武具庫>を『霧』の中から形成し、転移した瞬間を狙い撃つ体勢を整える。

 一瞬判断が遅れれば既に手遅れ。盾は間に合わず、逃げ切る前に刃が届き、衝撃波で諸共に消し飛ばせばジュリアンに破られる事になる。後は全て無防備。


「この程度!」

 無数の『刃毛』が『牙』を弾き、貫きながら砕かれる。

 『牙』は続々と降り注ぎ、しかし間隙に数多の『武装』が生じて更に空間を押し広げる。迫るジュリアンの一閃を跳躍(ちょうやく)で凌ぎ、『甲冑』が生じた鎌鼬を弾く。

 その『甲冑』を砕かんと『巨大剣』が突き刺さり地面を割る。


((<<時は止まれり>>ッ!!))

 ()()()行われる加速空間。

 実力と強制力はローレライの方が勝っていようと同じ法則であれば分割は出来ないと踏んだが、まさに大当たりか。


「ちぃ!」

 上半身のみの巨人並の甲冑は拳一つで人を殴り飛ばすには足りても、『牙』の中で用意された以上、<七眼朧猫>には明確に劣る。

 『巨大剣』を傾ける『餓者髑髏(がしゃどくろ)』を前にすれば、頭蓋骨(ずがいこつ)の中に納まりそうな大男でしかない。まして今振り向くべきは、グラトニーが迫る背後。


「『武装』よ!群れて溢れて圧し潰せ!」

(<戦火の武具庫『槍衾』>!)


 甲冑越しに無数の刀剣が生み出され、津波の如く間隙を埋め尽くす(かたわ)らに片手で『巨大剣』を受け止めて。

 津波を押し止める槍は強度に劣る反面、(つば)の隙間を埋めて津波の穴を塞ぎ。

 『甲冑』の腕と首筋を絡めて『巨大剣』からの退路を断ち。


(<『術式破壊:加速阻害』。>)

「ぬ!」

「ぉぉおおおおおッ!!!!!」


 自ら退路を埋めたローレライが加速時間を破られ、振り向き様に袈裟(けさ)切りの一太刀をその身に受けて鮮血を飛び散らせる。

 今迄に受けた掠り傷とは明確に違う、肩骨を断つ一撃。しかし浅いとジュリアンは更に刃を(ひるがえ)す。引き換えにローレライは両手刀を『刃毛』で包み刃と化し。


「ま「甘い!」」

 手首を切り飛ばしながら身を翻し、首筋の前に両足を切り飛ばして受け太刀を弾いて(なお)もジュリアンは止まらない。

 差し込まれた『手刀』諸共ローレライを両断した一閃は、まさにナイトバロンを彷彿(ほうふつ)とさせる鋭さを見せつける。


 『甲冑』は砕かれ圧し潰さんと『巨大剣』を受け止めたのは。

 紛れもない頭ごと両断され宙を舞ったローレライの、最初の手首で。


「「ふ、ふはははは!まさか、まさかこの(わらわ)が後れを取ろうとは!!」」

 割れた頭が二つに増えて、二つの生首が飛び散った体の傍らで浮かんだまま。

 喝采(かっさい)をしながら爆笑する。


「「素晴らしい!まさか二人共ナイトバロンに匹敵する速さとは!

 見事!見事ここまで成長したものよ!流石の妾とて魔法使いである事に代わりは無い!剣士の速度に対応し続けるのに体一つでは流石に足りぬ!」」


 彼の姿は五体全てが宙に浮かび、文字通り四肢(しし)がバラバラだ。

 肉体を砕かれて尚も平然とするローレライに対し、グラトニー達も一時手を止めざるを得なかった。


「……グラトニー。このローレライが偽物って可能性は。」


『無いわ。……というより今分かった。

 さっきから体の影に隠れている小さな【金属杵】。

 あなたの魂の大半は、その中に宿っているのよね?だから肉体がどれだけ破壊されても、その【(しょ)】の中の呪詛が尽きるまでは、何度でも再生可能。


 つまり今あなたの『不死術式』が宿る【発動具】は、その私の『鑑定』呪具にも登録されていない、その【杵】そのものという事になる。』


 戦い始めも今も、その腕に巻き付く六筋の帯。しかし(こぶし)の中に握られる大きさとなっても一度とて武器として使われなかったその本体。

 援護に(てっ)したグラトニーの目は、頭部が破壊された瞬間に溢れた呪詛の源の糸をはっきりと(とら)えていた。


「ッ?!待って、呪詛の元って、それは詰まり!」


 ジュリアンも気付く。魔女は呪詛をその身から放つ。だが実は、発動具と呪詛は融合し同化するものであって、発動具が本体になる事は無い。


 発動具は元々マナが宿る呪具。()()()()()呪詛を宿す事は出来ない。

 もし発動具が原形を残すのであれば、それらは後天的に計画的に用意された代物以外では有り得ない。


 魔女化して、発動具と融合(ゆうごう)した後に用意した、新たな『不死術式』だ。


「ふ、ふはははは!気付いたか!そうだ!お前達はもう知っている筈だ!

 妾が誰に魔女として産み出されたかを!そう、ダーククロウだ!」


 とびっきりの悪戯(いたずら)が成功したという歓喜に打ち震えながら、その笑みは無邪気というには余りに醜悪(しゅうあく)で悪意に満ちる。


「我が娘は聞いた事があるんじゃあないか?簒奪(さんだつ)の魔女という名を。

 そう、己の呪詛をストックする事に成功した魔女だ。」


『ええ絵画の魔女が。でも変ね。現れたのはあなたの後って話だったけど。』



「それは正しくはない。というより、それは只の複製だ。失敗作さ。

 そいつは呪詛を呪具に封じる事しか出来なかった。オリジナルは大分前に呪具に封印されてダーククロウの実験材料になっていたのだよ。

 複製の性能を試すために幾度となく放たれていたから、簒奪の魔女は生き続けていると誤認されたのだ。」



『それで?結局何時までそのオリジナルは生きていたのかしら?』

 読めて来た。複数の不死術式。その絡繰(からくり)と秘密。


「ダーククロウは実験を繰り返し、呪詛を増やし様々な器に呪詛をストックした。

 魔女から奪った呪詛を自分の手で使いたかったのだろうが、奪った呪詛から出る呪詛は全て『簒奪』の呪詛一色のみ。

 奪った呪詛は簒奪を産み出す燃料止まりだったのだ。


 だからダーククロウは考えた。器が足りないのではないかと。大量の呪詛を溜め込める器が。だが捕えた簒奪の魔女にそんな器を与える訳にはいかない。

 ()()()、人格の無い強大な器を持つ()()必要だった。」


 二つの頭が一つに融合するが、今回は阻止しない。禁忌の魔女が語るとびっきりの秘密に興味があったし、何より無意味だと確信していた。



「ダーククロウは()()()()()()()()()()()()に複製した呪詛を流し込み続け、完成品を様々な実験体の心臓と交換したのさ。


 頭は〔忘却〕の呪詛(まみ)れ、体は〔簒奪〕の呪詛(まみ)れの竜の心臓で動く、自我を持たない実験体さ。だがこれは正しくない。動物の本能だけは保たれていた。


 だが何も分からないと何も出来ない。ダーククロウはゴーレム化の技術を用いて()()()()()を与え、成功例を何体か養子として学園に入学させた。


 卒業までこぎつけた一体の名は、確か当時はグリンデだったか?ダーククロウは〔簒奪〕こそ扱えなかったが呪詛を宿す事に成功した一体を元に、次の実験を繰り返す積りだった様だが。()()逃げられたよ。


 もう分かっただろう?そう、その竜の心臓を持ち改竄(かいざん)された書類のお陰で、呪詛を上書きしかねない『不死術式』を()()()()卒業出来た魔女。

 ダーククロウから魔女創りの実験記録の数々を持ち出して逃亡し、禁忌の二つ名で指名手配された魔女こそ、この妾ローレライだ!!」



『つまり、あなたがオリジナルの〔簒奪の魔女〕を吸収した実験体なのね?』


 ダーククロウがオリジナルを使った筈は無い。奪われたからオリジナルは失われ複製を作らねばならなかった。複製が放たれたのは禁忌の魔女の後。


『あなたは『暴君』。『簒奪』じゃあない『屈服』を手に入れているのは『忘却』の影響も受けているから。

 あなたは呪詛を蓄えた竜、自我を学習し呪詛を食らった獣の本能側。

 さて、あなたは()()『不死術式』を保存したのかしら?』


 竜の寿命は百年では足りない。発動具に出来る竜の心臓だ、肉体が滅んだ程度、心臓が残っても不思議はない。肉体を奪ったのは始祖が最初だろうか?

 躊躇(ちゅうちょ)しないグラトニーと違い、ジュリアンの顔色は大分悪い。


「はっはっはっはっはッ!!!当てて見せよ!

 お前は既に見当を付けた筈だ!」



 にやり、と(わら)ったのは果たしてどちらか。両方か。

『【()()()】。魔法世界最高の至宝。流石に始祖の秘奥は手に余ったのかしら?』



クハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!



「イヤイヤ!流石に相互(そうご)補完されている【核】三つは不可能さ!

 他の二つを破壊した後なら可能だろう!だがもうそれも不要だ!

 何せ妾は既に始祖の肉体を手に入れた!【世界核】自体は中規模だろうと本質的に違いは無い!元々問題が出力だけならどうとでもなるのだからな!

 既に、妾がマナを使う上での障害は、全て取り除かれている!!!」


 ある意味で【世界核】以上の極上素材。千年間マナを浴びて不朽(ふく)ちの肉体。

 【世界核】に最も近く、最も最初に奇跡を伝承した者。



「さぁかつて妾にあった弱点は既に失われた!

 その上で聴こう!汝らは一体、どの様な手段で我を倒すと宣うのか!

 全てを知った上で尚も、お前達は()()()()()滅ぼす力があるというのか?!」



『あら何を言っているの?

 私はジュリアンに、私が最初に考えていた、禁忌の魔女が〔運命の子〕を恐れる真の理由を教えただけよ?あなたの口からね。』



 【勝利の剣】を手に入れたジュリアンなら、禁忌の魔女を()()()()確信した。


 だから敢えてオルガノンに管理を任せ、図書館に()()()()()理由を作った。

 元々禁忌が侵入して来るであろう〔世界塔〕に禁忌が()()()()可能性があった【勝利の剣】を残しておく理由は無い。

 管理させるなら()()()支障の出ないオルガノンが最適だ。


 理由を説明されたオルガノンは、ジュリアンと接触した時の為にと()()【剣】を保管する。元々彼女はジュリアンがグラトニーを説得する線に賭けていた。

 図書館に手掛かりが無ければ、先にジュリアンはグラトニーの元へ来る。


 ()()()()()予定通り。()()()()予想外。


 運命の子の条件を二人で満たすなら。

 自分一人では預言が禁忌殺しの()()()()()としたら。

 ジュリアンには【勝利の剣】を()()()()()ならない。



『奥の手が必要なのはあなたでしょう?

 私達は()()()()、元々自分達であなたを討つ手段を用意した。そして手数ならば既にあなたを封じられると確信した。

 このままで勝てると思っているのなら、やってみれば良いでしょう?』



 ローレライの告げる真相に動揺(どうよう)していたジュリアンも、勝利を確信する様なグラトニーの言葉を聞き、既に立ち直っている。


(甘かった。グラトニーは今の内容を半ば()()()()()()勝算を整えていた。

 この程度で禁忌に敗れるなら、グラトニーは躊躇無く一人勝ちする。)


 自分を叱責(しっせき)する。もう一度覚悟を決め直す。切れかけた集中力を呼び覚ます。


(忘れるな。禁忌の魔女は通過点、あくまで勝利条件の一つだ。

 全てを一度に叶える覚悟が無くちゃあ、ハッピーエンドは不可能だ。)


 目指すは最高の勝利一つ。ゴールは禁忌を倒した後にしか無い。




 挑発(ちょうはつ)だとは理解している。自分も今さっきやっていた事だ。

 精神的な揺さ振りは焦りに繋がり、術の威力を乱す。だが逆に確信は、術の威力を底上げし、安定させる。


(……ふむ、どちらも揺らがぬか。自慢(じまん)半分だったのは確かだが――。)


「――ほう?まさか小手調べで勝利を確信されるとは思わなかったな。

 少しでも長く遊びたかったから、慣れぬ小技にも付き合ってやったのだが。

…………まさかこの程度が妾の限界だと思ったのか?」


()()()()()()()、面白く無いな。)

 一面の空気が変わる。




 辺りに満ちていたのはグラトニーの『傲慢』と『嫉妬』の気配。

 それらが唐突に(うす)く感じる程に周囲が息苦しい緊張感をはらむ。


「『輝け』!」

 咄嗟にジュリアンが洗脳を警戒する程の高圧な呪詛の風を放ち、ローレライは首を傾けて視線と顔で不快を(あらわ)す。


(ようやく、その気になったわね。)

 グラトニーは鼻で嗤って周囲に(ただよ)わす<武具庫>の武器を、全て一切叩き込む。


(<天地鳴動『空隙』>)

 対するローレライは空気を震わせて音に魔力を加え、振動を衝撃に換えて一斉に砕く。全ての強度を強引に保ちはしない。

 砕けると思わせた瞬間に数振りの()()()『剣』を仕込んでおいたが――。


(――爆発と圧縮による二重衝撃波、か。ま、この程度は見破るわよね。)

 先に本気を見せる気は無かったが、遊んでやるという空気は流石に不快だった。


『子供(だま)ししか見せない奴が(あなど)られるのは当然でしょう?

 不愉快なら屈服させればいい。恐怖させればいい。流石に危機感無くのんびり遊ばれていたら。』


 言葉を区切る。

 常人なら心臓が潰れる様な呪詛の奔流(ほんりゅう)。密かに『赤い霧』の影響を掻き消して驚かせようとしているのだろうか?



『私だって欠伸(あくび)くらい出るわ。』

 その瞬間。一帯が『島』ごと弾け飛んだ。




 予想通りローレライは侮られるのが嫌いなタイプだった。


 幾ら肉体の破壊が効果的とはいえ、あの程度で勝てるなら世話は無い。

 昔の体験から自分の目が(あざむ)かれている可能性も疑ったが、どうやらローレライは万全なら分割した魂に合わせて肉体を分割する事も可能らしい。


 撒き散らされる熱量を<杖魔法『()』>で遮りながら、派手な衝撃波の割にまるで殺傷力が無い理由を収束する魔力の流れで察する。

(ち、随分派手な煙幕ね!なら、『巨人剣』!!)


 間に合わない事を半ば悟りながら次の判断材料にと一撃を放つ。防ぐか躱すかを見極める前に、『剣』が砕けて土煙を纏った壁が迫る。


「っ?!」

 咄嗟に足場を(びょう)に変えながら壁に突き刺し、砕けた足場諸共弾かれる。

 砲弾の様な勢いを全身の発条(ばね)で殺すもジュリアンとの距離は相当に離れ、代わりに全景が視界に収まる。土煙を突き破ったのは、自身を上回る程の大拳だった。


 吹き抜ける砂塵と『赤い霧』越しに感じる地面がある違和感に、拳を放った相手の姿を追いながら他の目で周囲の景色も観察する。


 視界全てに満ちる砂嵐は足元程強く酷い。それもその筈、眼下に在ったのは地面では無く砂丘(さきゅう)砂漠(さばく)。地面の境界付近は特に土煙の様に砂が渦巻いている。


 そして砂嵐の向こう側。


 立ち上がる様に身体を起こした巨大な人型は、(くじら)や竜と比較しても更に大きくて広々と視界を(さえぎ)る。文字通り天を突く程の類を見ぬ巨体。


 髪は実際に燃え盛り顔は能面(のうめん)の様に瞳と口から煙の様に瘴気を吐き出し、漆黒の巨躯に一見して分かる継ぎ目は無かった。


『フハハハハハッ!!!!よくぞ吠えた!

 確かに、確かにこれは儂の手抜かりだ!子供を(しつ)けるには先ず、力というものを先に教えるべきであったな!』


 殴られた際に転移させられたかと思ったがそれは無い。グラトニー自身への干渉は最初から十全に対策を練ってある。


『……ダンジョン以上の規模を持つ異界術式。

 抜かったわ、もう少し真剣に考えておくべきだったわね。』


 グラトニーの呟きの意味を理解したのだろう、ローレライが漆黒の顔を笑みに歪めながら眼前に巨大な黒い杵を構える。


『そういえば紹介が遅れた様だな。

 お察しの通り、この異界は元世界核によって創造された別世界だ。

 この中にいる限り儂は、あらゆる天変地異が意の侭に産み出し操る事が出来る!

 これぞ我が至宝、【呪界核〔デミウルゴス〕】である!』


※ゴールデンウィーク投稿中。今日から完結まで毎日投稿予定です。


 天変地異決戦、開幕。

 二人はお互いが認める程度には似た者同士。

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