表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第九部 禁忌の魔女編
192/211

02.四面画廊賛歌

 【誅仙陣<四面画廊賛歌>】を維持するウェンディは、魔女狩り達の戦い振りを見ても左程(あせ)りを感じてはいなかった。


(〔大王〕キング。本人が目印になる城塞(じょうさい)型の呪具を用いる事で戦術を単純化してしまうある種の召喚士の天敵。

 けれどそろそろ気付いたんじゃないかしら?

 宮殿を破壊する限り、絶対に結界から脱出出来ないって事が。)


 恐らく再生限界を狙った面もあるのだろう。一度は全ての宮殿を破壊し、二つの宮殿を同時に破壊するのも試していた。

 実際、宮殿のどれかに中央画廊に繋がる入口があるのは間違いない。


 だが此処は絵画の世界。現実とは違い、下絵という別世界が存在している。

 例え宮殿を破片一つ残さず(ちり)に変えた所で、下絵という別世界には届かない。

 下絵という復元元、<陣>そのものに干渉する手段を持たない限り、無限再生し続けるのがこの結界の本質であり(かなめ)


 例えるならば彼らは、型に溜まった水を散らし続けているのだと思えば良い。

 魔法で練られた絵具の彫像、建築物の集まり。どれだけ飛び散っても水が重力に引かれるように、漏斗(ろうと)に注がれるように元の場所に戻り続ける。


 違うのは(おり)の中の者達には本物の木々、建築物を壊している感触を実感している点だろう。彼らは幻術に掛からないからこそ(だま)される。

 此処は『絵画の感触を体験出来る世界』だと思えば良い。本物と呼べるのは別の術式で創られたモンスターだけだ。


 <四面画廊賛歌>のコンセプトは徹底(てってい)した長期戦の消耗戦。

 理由は魅惑の魔女が《召喚駒》以外の攻撃手段をほぼ持たないからだ。


 だが一方で防戦に限って言えば、《召喚駒》は下手な発動具よりも余程優秀だ。

 発動具に頼らずとも《召喚駒》による物量と《呪具》を用いれば、大抵の事態は切り抜けられる。一流の魔法使いとはそもそも戦わない事が最上。

 だからこそ。<四面画廊賛歌>は勝つ事よりも、敵の戦力を()ぐ事に力を注いだ構成となっていた。


 だが逆に言えば、時間さえかければ攻略は決して不可能ではない。

 <四面画廊賛歌>の運用は、本質的には如何(いか)に《召喚駒》で奇襲し分断するかに賭けられていた。




 宵闇(よいやみ)の空を燃え盛る火花が煌々と照らし、樹液に油を(したた)らせた剣山の森が、火種となって燃え続ける。


 炎を(まと)う剣山の森は、正しくは鉄で出来てはいない。硬質な葉が刃と同様に鋭く伸びて、無数の刃物の様に肌を裂くだけだ。

 突き飛ばされれば体に刺さり、容易(たやす)く圧し折れて支えにはならない。

 けれど炎が揺らぐ中で、いつの間にか新しい葉に木々が生え揃っているだけだ。

「ふむ。なるほど、手順を守って攻略しない限り脱出出来ないタイプの結界か。」


 辺り一面に土煙を上げて、地面を(えぐ)りながら砦を圧し潰す西洋城の城郭(じょうかく)で。背後の完全粉砕された城が、炎に呑まれながら復興する様を眺める偉丈夫が居た。

 〔大王〕キング。如何にも騎士と言った装いで重厚な両篭手を組む彼は、結界の規模と破壊痕を観察しながらも余裕の表情を崩さない。


「キング殿、どうやらこのダンジョンは〔学園〕側からマナを供給(きょうきゅう)されていると見て間違いない。多分このまま宮殿を壊し続けても攻略は不可能と見るが。

 そちらに打つ手はあるかね?」


「二つ程な。だが一つは消耗が激し過ぎる。

 ジュリアンが向こう側に付いた様にも思える今、余り派手な消耗は好ましくないだろうな。」


 そちらはどうだと床に手が届かんばかりの黒装束の魔女狩り〔仮面卿〕にキングは進展を確認する。

 彼は弟子達を含めた手当てを終えると、一旦散開して結界の偵察に(おもむ)いていた。


「当たりと思しき宮殿は特定した。他は全部ダミーと見て良い。

 だが正直こっちは正当法に依る宮殿の突破以外には無いだろうと思っている。」


「そうか。どうやらこの宮殿は破壊後入れ替わる事がある様だ。

 だが本命と思しき宮殿を破壊しても脱出は出来なかった。となれば結界を壊すかそちらが確認した本命を正面突破するのが一番正しかろう。」


 念の為壊した本命の位置を確認したが、どうやら入れ替わった後の様だ。

 ならばと頷き合い、本命の前まで蹂躙(じゅうりん)してから【キング城】を収納する。


 キングの戦闘スタイルは敵を【キング城】に閉じ込めての一騎討ちだ。

 狭い室内での戦いはお手の物で、並の召喚獣に後れを取る事は無い。


「《デュラハン》か。どうやら敵の直接操作だった様だが、流石に六将軍と二つ名持ちが加わっては苦戦もすまいか。」


 《召喚駒》に出来ない筈の【ナイトゴースト】四体による包囲網には驚かされたが、別に苦戦する程の敵では無い。精々〔仮面卿〕の弟子が負傷したくらいだ。

 だが並の召喚使いに扱える数では無い。本気で阻止に来たと見て良さそうだが、未だ未だ油断は禁物だ。


「この天窓が出入り口で間違いないな。

 敵自ら通路を明かすとは、余程焦ったと見える。」


「さて油断は禁物だぞ。罠を張ったから明かしたのやも知れん。」


「いや、それは不可能だ、少なくとも出た直後には罠は張れん。

 マナの通り道としては、出入口が小さ過ぎるからな。大抵の術式は出力に耐え切れないだろう。小部屋程度の広さまでは安全が保障されているよ。」


 それもそうかと納得し、全員で次々と内部に突入する。

 無論油断はすべきではない。ここが出口だとは言え、術者はいなかった。

 この先こそ結界の核たる術者が待機する筈の必殺空間。それはこの場全ての魔女狩り達が持ち合わせた共通認識だ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 レイリース達が教師達を連れて戻って来た時、ウェンディが安堵(あんど)したのは間違いなかった。今、不測の事態が起きていた。


(どういう事?〔饗宴〕の魔女達は確かに侵入している筈。)

 ウェンディとしては魔女狩りと〔饗宴〕との共倒れが最も望ましい。

 だから魔女達は最も敵の戦力が揃っていた〔灼熱地獄の木版画〕へと確実に送り込んだ筈だ。

 だが魔女狩り達は一切魔女と遭遇(そうぐう)する事無く木版画の最深部を攻略した。

 加えて魔女達が何処かで戦った様子も見当たらない。


 一同が戻って来たのは正にそんなタイミングだったのだから、決して自身が強い魔女では無いウェンディに安心感が勝ったのも責められないだろう。

 けれど残念ながら、彼らは背中を預けられる様な味方では無い。


「あら戻って来たのね教師トトメリ。聞いていたわよ、さっきのご高説。」

 玉座に似た椅子から見下ろすウェンディの皮肉に対し、トトメリは小さな溜め息を漏らして視線を返す。


「残念ながらあれが妥協(だきょう)点ですよ。

 わたくし如きに過度な期待を抱かれても困ります。わたくしには結局、傍観(ぼうかん)する事しか出来ないのですから。」


 わたくしは〔学園〕に戻らせて頂きますと、入る時に使った扉に向かうトトメリの背にあら、とウェンディは面白がるような素振りで探りを入れる。


「あなたは戦わないのかしらぁ?」


「生憎、盾になる以外何も出来ないもので。

 足手纏いに出来る事は、後を託せる者に期待して余計な事をしないだけですわ。

 ……心配せずとも、グラトニーの死を願っている訳ではありません。」


「……どーかしらね?」

 とは言え、去った者を気にしている余裕も無い。

 気怠げに閉じる扉を見送り、ウェンディは残る一同へと向き直る。


「さて、あなた達はこうして労せず最深部まで来た訳だけど。

 本気で魔女狩りと戦う気はあるのかしら?」

 トトメリは本心からグラトニーを心配している様に見えるが、その実出た言葉が先程のあの顛末(てんまつ)だ。ウェンディとしてはどうにも腹に据えかねてもいた。


「……あるにはあるんだけど。その前にお前さん、魅惑の魔女だよね?

 確か無差別に魅了を振り撒き、親しき者全てを傀儡(くぐつ)に変えた、だっけ?」

「!」


 冷汗を掻きながら訊ねる教師ドロテアに、すっとぼけた顔で首を(ひね)って見せて、ああ!と勿体(もったい)ぶって思い出した振りをしながら手を叩く。


「魅了の呪詛ならもうコントロール出来る様になったわよ?

 ホント、ご主人様のお陰よねぇ~~~。」


「は、はぁ?!ふざけるな!呪詛がそんなに簡単に変わるものか!」

 おほほほほ、と勝ち誇ったように笑うウェンディが信じられないムーンパレスに(あわれ)みの視線を向けて鬱憤(うっぷん)を晴らす。


「あら、ご主人様ならそれが可能よ?

 あなた達の知る情報に、こんなものはあったかしら?」


 ウェンディが伸ばした手から呪詛が集い、まるで重さがあるが如く(したた)り落ちる。

 床に落ちた呪詛は流れ出す事無く溜まり続け、やがて球状の(かたまり)となって膨れ上がると、硝子(ガラス)の様に硬くなりながら彼女自身の回りを包み込む。


「……何?まさかそれは、呪詛を実体化させたのか?」


「せーかい。無詠唱で直接魔力を操るなんて、呪詛以外には出来ないわよねぇ?」


 これは【不可視の盾】。

 グラトニーが呪詛を魔力のみに使い死蔵させるのは勿体無いと、質量を与えられる様に変質させた魅惑の呪詛そのものだ。


 厳密には魅了の呪詛を別物に変換する力、というのが正しいのか。

 濃度を上げた呪詛を液体状を超えて固体にまで強度を高め、それでいて本物の物質という訳では無いから呼吸の妨げにもならない。


 肌身から離す事は出来なかったりするが、自身の呪詛を念入りに染み込ませた《収納腕輪》なら中に蓄積(ちくせき)する事も可能となった。

 あくまで盾なので遠くまで伸ばす事は出来ないが、間近の相手を殴り飛ばす程度の応用は利く。これで教師達が襲い掛かって来ても問題無く防げる。


 ウェンディはこれっぽっちも、彼らを信用する気にはなれなかった。

 が。意外にも魔女狩りだった、ドロテアの方があっさりと肩を竦めた。


「おーけい。それじゃこっちの条件は聞いた通り。

 こっちは禁忌を討つまでは休戦し、倒しに行くのは〔饗宴〕のみ。魔女狩りに対しては休戦する限り敵対しない。

 それでおーけぃ?」


「……ええ、そうね。それで構わないわ。」

 ウェンディの同意に合わせ、生徒二人がウェンディの隣に飛び乗る。


「っ!二人共?!」

「行動で示して下さいね先生方。

 私達は禁忌討伐後もグラトニー側で戦いますので。」


「……本気で、純血を捨てる気なんだね?」

「今更でしょう?魔女狩りは私を魔女に洗脳された者として扱っている筈です。」




 レイリース達の覚悟は事前に聞かされていた。

 グラトニーが禁忌に勝った後、学園を出た後の話。


 〔七不思議の魔女達〕を始めとして、〔血の従者〕を含めた〔黄金の夜明け団〕の中の一部。あるいはそれ以外も含めて。

 必ず魔女狩りの殺害対象として、ブラックリストに載る者達が出る筈だ。


 グラトニー自身は単に向かって来るなら返り討ちにする程度にしか興味をもっていないだろう。

 けれど自分達は違うと。脱出するその段階から生き延びる手段が、脱出先が必ず必要になる。


『最小規模で構わないわ。私達だけの魔法世界を創りたいの。

 勝つ心算で戦うのなら、私達には勝った後の居場所が必要よ。』

 レイリースはグラトニーに、契約の先の未来を語る。その為に必要な力と契約に必要な対価を聞くために。


『ふむ、やりなさい。それなら別に対価は要らないわ。』

『え?でも、魔法世界は。』


『昔の中規模世界は〔基盤世界〕のマナを使って創っていたと聞いたわ。

 この際【四竜陣】の再起動前に、〔学園〕のマナを使って魔法世界を試しに一つ創造しておくのも悪くないわ。』


 と言っても、使って良いのはその一度分だけど。とグラトニーはあっさりと承諾(しょうだく)した。正直肩透かしだったが、純粋に面白い提案だと思われた様だ。


 学園脱出の時を考えるなら、事が終わった直後の学園は弱体化するくらいで丁度良いと事も無げに答えた。

 元々学園のマナを全力で使えばどの程度の事が出来るか、試したかったらしい。


『……あなた達七不思議の魔女達も協力して欲しい。

 禁忌討伐後、グラトニーが生きていて欲しいと願うなら。』

 あの時が真の意味で彼女を同志と認めた瞬間だった。




 片手間に操作していた最後の【ナイトゴースト】が倒されたのを感知し、ウェンディは時間切れだと一同に告げる。


「覚悟は宜しいかしら?最初の客人は、魔女狩り達で確定よぉ?」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 キング達数名の魔女狩りが降り立ったのは、白亜の神殿を連想させる広々とした硬い石の大広間だった。


 幸いにも分断一つされず、欠員一人出る事無く全員が揃っていた。

 全員が前のめりに倒れ込み、たたらを踏んだものの若手一人を除いて全員が床に足を付ける事に成功する。


 後ろを振り向けば壁一面に飾られるのは、灼熱地獄の木版画世界。

 そこに描かれていたのは紛れもない、今まで自分達が居た灼熱の宮殿山地と無数の山道、そして森。


 その全景が視界の端から端、後ろに下がらずに全体像は到底伺えない程に大きく真に迫っており。

 これ程の大きさの絵は何処かの城の吹き抜けにしか飾れないだろう程の大作が、壁の殆どを埋め尽くす広さで描かれていた。


 そして前方。彫刻画の刻まれた大理石の天井から伸びる、四対の支柱が二重の正方形に並び、計八本の重厚な柱によって支えられている。

 床はつるつるに磨かれた数え切れないほどの(しま)混じりのタイル材。


 部屋に飾りっ気が無いかと言われれば否だ。

 中央にはまるでチェスの駒の様に、大量の《召喚駒》が整列していた。


 前列に並ぶのはポーン。《ブラックドック》八騎の後列に続くのは、自分達を狙い定める《アクスバード》八騎。

 ナイトの配置には【ナイトゴースト】二体、《サボテンキング》二体。

 ルークの並びには【タートルキング】二体、《ソードリザード》二体。

 ビショップの駒に【ドライアド】二体、《グリフォン》二体。

 中心、恐らくはクィーンと思しき『デュラハン』が一体。


 そして。彼女が座る、玉座にも似た椅子の下――。

「……《ドラゴン》。あれが奴のキングか。」

「――いや、案外魔女自身がキングかも知れん。

 奴の本領が召喚士なら、クィーンも二体いる方が自然だろう。」


 《召喚駒》に出来る最上位幻獣ドラゴン。あくまで精霊進化前の下位竜であり、部位素材である発動具と違い、上位竜の召喚は不可能とされている。


 では《召喚駒》は【発動具】に劣るか、否。

 召喚駒とは必ず全身を一つの呪具に封じた、正真正銘完全体の再現魔法。何よりその実力は術者の経験値、制御技術に完全依存(いぞん)する。


「おいおい、まさかこの数の《召喚駒》を同時に使役するとか言い出すんじゃないだろうな……。」


 呟く魔女狩りの声は小さく勢いがない。それも当然か。

 大小合わせて三十体の召喚獣が、全て魔女狩り達に狙いを定めて睥睨(へいげい)していた。


「っ!おぉムーンパレス!そっちも無事だったか!」


「……、ああ。そっちも健在な様でなによりだ。」

 付き合いの長い〔仮面卿〕が脇の仙郷山麓の水墨画から出たと思しき二教師達に気付くが、彼らの返事は何処と無くぎこちない。


「立ち位置を良く見よ、〔仮面卿〕。

 どうやら彼らが本当に無事かどうかは、(いささ)か疑問の余地がありそうだぞ。」

 キングの言葉に訝しむより先、脇に二人の生徒を待機させた魔女が口を開く。


「御機嫌よぅ魔女狩りの皆さぁん。

 此処はわたしが管理する【誅仙陣】が一角、<四面画廊賛歌>。

 その中の最深部である〔天井モザイク画の彫像世界〕よ。

 わたしは魅惑の魔女ウェンディ。短い間だけど以後、お見知りおきを。」


 豊満且つ妖艶(ようえん)、長い乱れた髪を(なび)かせた気怠げな美女が、流し目で(くちびる)を弾く。

 魔女狩り達の間にざわり、と緊張と疑惑が過る。それはまさか。


「別に魅了された訳じゃないですよ、御同輩。

 そちらはジュリアンの宣言を聞いておいでですか?」


 警戒される前にとドロテアが先に軽い態度で口を挟む。

 立ち位置はともかく、彼女自身が魔女に警戒を解いていないのは薄々伝わる。

 だが。それでも信用し切れないのが魅了と言う呪詛だが。


「……聞いている。如何にも子供らしい妄言だ。」

「……我々はジュリアンに賭ける事にした。

 それに、グラトニーに対しても一つ無視出来ぬ話を聞いてな。」


「――それ、わたしは納得して無いの。

 そこの怖~いおにーさん達が、学生殺しを容認するなら同じ事でしょう?」


「我々は全面的にお前達を信じた訳じゃない。」

 舌打ちするムーンパレスだったが、それ自体が演技の可能性もあると事情を知らぬ者ほど迷いが生じる。


「それで?明言する覚悟はお有りかしら、お偉い魔女狩りさん方。」

「迷うまでも無い。学生全てが貴様の支配下にあるなら、学生全てを犠牲にしてでも魔女を殺す。それが魔女狩りと言う者だ。」


「あらあらソレほんとかしら?

 単に学生達を殺せる機会が欲しかっただけじゃない?

 ホントは魅了されている方が、あなた達には都合が良かったり?」


「その辺にしてウェンディさん。

 どうせ信じないとは思うけど明言はしておくわ、学園に魅了の呪詛で染められた者はいない。学園の人間は一人残らず自由意思で行動しているわ。

 後で知らなかったなんて、これで言えないわよ。」


(ほぅ。どうやら全くの嘘ではないか。)

 嘲笑(ちょうしょう)し悪意を隠さないウェンディに、魔女に同意しつつもはっきりと自分の主張を通したレイリースの様子を見て、キングは部分なりとも信じる気にはなった。


 少なくとも学生が判断力を失っていないなら、抵抗は出来る範囲かも知れない。

 当のウェンディもやれやれと溜息を吐きつつ、レイリースの主張を肯定する様な素振りを見せてもいる。


(だが大差は無い。魅了に限らず従える手段はあるし、何より〔饗宴〕の介入次第で前提は幾らでも崩れる。)


 蟲毒なり黄金なり、今は討たれたとはいえ饗宴側にも洗脳系の呪詛持ちがいる。

 信じた学生が本当にどちら側かなど、事前に分かりはしないのだ。

 後は油断するか否か、(すき)を作るか否かだ。


「当てにする気はない。魅了していたとして、術者が死ねば解ける呪詛もある。」

 【赤カブトの大太刀】を額に水平にかざして、キングが戦いの構えを取る。


「〔饗宴〕を優先する訳にはいかんのか……。」

「無いな。我々は、禁忌が魔女の力を奪える可能性を知ってしまった。」

 歯軋りするムーンパレスの態度を見れば、今更待機を期待するのも野暮。

 だが横槍は意外な所から挟まれた。


「あら?でも意外と妥協(だきょう)点はあるかもよ?

 ねぇ、そこで蹲っている〔饗宴〕の魔女さん?」


「「「っ?!」」」


 咄嗟に仮面卿とキングが左右に飛び退き、()()()()咄嗟の凶刃から逃れ切る。

 舌打ちしたのは此処に来た時膝を屈した、仮面卿の弟子の一人。


「ちっ。なぁ~~~んだ。一体いつから気付いていたんですかぁ?」


 口元がにやりを歪んで、顔半分が割れる。

 居なかった筈の女の声が響き、弟子の体から反物状の布地がはだけて、渦を成す様に広がり宙を舞う。


 重力を無視して浮かぶ反物の刺繍(ししゅう)が膨れ上がって白髪女の上半身を形取り、同時にほどけた弟子の体は、下半身のみを残して消え失せている。


「は、羽衣の魔女か!」

 羽衣の魔女リリス。死者を羽衣に変え、羽衣を纏って他人に化ける、潜入工作に長けた禁忌の側近、その一人。


「最初から、よ。そもそもこの部屋の入口は狭く、出入りする際には一時的に大量のマナを浴びる必要がある。

 普通の魔法使いには少し息苦しい程度だけど、魔女には覿面(てきめん)に効くでしょう?」


「はっ!なるほど成る程!確かに道理ですね!

 最初から私は罠に嵌っていた訳だ!」

 周囲を多数の魔女狩りに囲まれた状態で尚も堂々と振る舞えるのは、自身の敗北を悟ったからか。否。


 あはははは、と魔女リリスの笑い声が響き、魔女狩り達は身動き出来ずに互いを視線で警戒する。はて偽物は彼女一人かと。

 今の今迄呪詛を感知する警報に、一度も反応しなかった魔女を前に。

 魔女狩り達は既に裏切者の危険を抱えていた。


 だが。相対する魅惑の魔女はあっさりとその疑惑を一笑に伏す。


「あらあらあら?もしかして気付かれてないと思ってる?

 此処はわたしの結界の中。更にわたしの【ビースト・ボード】は結界内の対象の現在位置を記録し常時伝え続けるの。

 強いて言うなら欠点は、わたしが不死鳥の魔女さんの名前を知らないってところかしらね?」


 ぴたり。はっきり〔不死鳥〕と明言されたリリスは、迂闊(うかつ)な行動を誘う為の笑いを止めざるを得ない。何よりそれは無駄な行為と証明されたから。


「あらバラされちゃった。なら小細工は此処までね、リリス。」

「その様ですね、クレアバベル。」


 声が羽衣の魔女の喉元(のどもと)から響くと、溜め息を吐いてええと頷く。

 羽衣が花開く様に、開けた空間に何枚も床に並ぶ。

 並んだ帯からは、一枚につき一人と模様が人型を取って立ち上がる。


 その内四人はジュリアンが居れば覚えがあるだろう、魔女リリスの四人の旧友の魔法使い達。そして六体の羽衣を巻いた騎士鎧の戦士達。


 更に首元から飛び出した一枚の帯は、宙を舞って(ひるがえ)った後に。

 炎に包まれて一息に人型となり、赤い水着や或いは下着を連想させる程に。煽情(せんじょう)的な薄手のドレスを着る褐色肌の若々しい美女が姿を現す。


 長い癖毛の黒髪を両手で弾く姿は退廃(たいはい)的且つ妖艶で、魔性の魅力を有している。

 彼女が魅惑の魔女を名乗れば恐らくは信じられただろう。

 ある意味で似た者同士な二人は、奇しくも煽情的か挑発的か、似て非なる色気を放っている。

 絶対的に違うのは、その攻撃性。受け身か攻め手か、荒々しいか。


「それじゃ早速始めましょうか!あたし達の〔饗宴〕を!!」

 両手に大きめの鉄扇を広げた〔不死鳥〕の魔女クレアバベルの背後から炎の翼が広がり、炎で出来た曲刀が輪を描きながら、十数本に分裂して放たれる。


 ()()

 最初に反応したのは二人と一人。

 一人は魅惑のウェンディ、最速の手駒アクスバード四体による迎撃。一直線に走り出し、全てを両の拳《鉄拳判》で殴り倒した〔大王〕キング。


 同時に視線を交錯させた〔長手〕の仮面卿は即座に《戻る手斧》を六本、炎刀や魔女二人に投擲(とうてき)しながら声を張り上げる。


「キング!一人で相手出来るか!」

「無論!」


「学園諸君、儂は君達を信じよう!〔饗宴〕に君達全員との共闘を依頼する!

 儂らは全員で〔饗宴〕を迎え撃つぞ!」

「「「ははっ!」」」


「なっ!」

(やられた!ここで反発すれば向こうはこっちを巻き込む大義名分を得る!)


 キングが殴り掛かっているのはウェンディで、本心では無いのは明らかだ。

 だが実際三つ巴をやるより〔饗宴〕相手に魔女狩りと共闘出来るのは大きい。

 此処は乗らざるを得ないとも思うが、しかし。


「私達はあなた達を信じないわ。やるわよ、ピオーネ。」


「っ!分かった!『現身よ影よ、固めて凍れ、器に宿り命を戻せ』!

 上空は任せて!《影鴉》!《ケット・シー》!!」


 レイリースの指示にピオーネが応えて、一つの呪文で十体の大小様々な黒い影鴉と服を着た黒猫を一斉に呼び出す。それは決して単なる複数体召喚では無い。


 《召喚駒》による幻獣召喚と《封印駒》による魔獣召喚。死体と生物と言う全く性質の異なる対象への同時アプローチを、何の違和感も無くやってのける。

 本来であれば相応の秘伝秘術があって初めて可能となる極技。


「だからどうしたぁッ!!」

 半数の影鴉が飛来し、同じく四体のブラックドッグが隙間を縫い。

 ナイトゴーストとサボテンキングが左右から狙い澄ました一撃を捻じ込む。

 その全てを拳が。怪力無双の一撃が殴り返す。


(えぇい!融通(ゆうずう)が利かないのは此方も同じか!)

 魔女側の援護に回るべきか迷っていたムーンパレスも腹を括る。

「ドロテア!我々は〔饗宴〕を潰すぞ!」


「わ、分かりました!」

 一呼吸深めの短い息を吐き、切り替えたドロテアは自らにも飛来する火鳥を殴り飛ばしながら、【六頭蛇の金棒】を振り回して走り出す。


 魔女狩りが一人勝ちするのも不味いが、グラトニー側が一人勝ちしても後が予想出来なくなるのは変わらない。

(勝つ相手を選びながら戦うなんて、ホント辛いなぁ!!)

※金曜投稿です。明日土曜日にも投稿します。


 早速裏切る魔女狩り一派w二手に分かれて裏切ったのは片方だけだよwという主張。

 連携しなかったのは魅惑の魔女相手に乱戦したら、結局気付いたら全員呪詛に囚われていたという事態を避ける為です。


 但し口では信用したと言ってるので、証拠が無い内は協力するしか、というのが教師側の判断。学生寄りなのはドロテアだけですねw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ