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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第九部 禁忌の魔女編
190/211

02.仕切り直し

(くそ!今のはまさか上位竜シードラゴンの『竜砲』?!

 あの魔女はまさか、マナすら支配出来るというの?!)


 あまりの光景にカリギュラの影から【四海瓶】の中を覗いていたクルトーは、額に手を当てて大量の魔力損耗(そんもう)以外による頭痛に眩暈(めまい)がした。

 成程()()()()()()()()【四海瓶】の中で、平然としてる訳だと舌打ちする。


 秘宝【四海瓶】を制御しているのがメルビレイ本人なら、【誅仙陣】の中で結界を維持しているのは〔狼王〕クルトーの秘蔵術式『黒森』、その亜種だ。


 ダンジョンは空間に働きかける術式であって、生物に干渉する術式では無い。

 単純に難易度が上がるし、間接的な影響でも十分な効果を発揮するため、つまりは効率の悪い手段だから手を出さないのが常識だ。


 生き物相手に魔力を通すなら、呪文で危害を加えるのが一番早い。

 その前段階で更に膨大(ぼうだい)な魔力を消費して対象の肉体に手を加えるなど、幾ら魔力があっても足りるものでは無い。


 だからこそ。『黒森』と一体化した『()()()<影狼>』に【四海瓶】を内蔵するという裏技的な術式も成立する。生物内に潜めないという術式の限界は、影という平面を利用する事で解決した。


 欠点としては『影狼』を放っている間は常に魔力を消費し続け、一度学園中に散らした『影狼』は一旦術式を解かずに再召喚が出来ない。


 代わりに術を解くまでは全ての狼の視界を選択し、都度(つど)共有が出来る。

 更に狼の到達した場所へなら限りなく転移に近い異空間同士を繋ぐ通路を繋げる事が、【四竜陣】の影響下でも問題無く行える。


 暗がりの中でクルトーは椅子(いす)にもたれかかって額の汗を拭う。

 大丈夫、未だやれると自分に言い聞かせる。


 クルトーが潜んでいる狼の中は常識的な空間では無いため閉塞(へいそく)感は無いが、逆に開放感も無い。精々が不自由なく寝れる長椅子程度の広さだろうか。

 勿論(もちろん)それ程のサイズの狼が<クリスタルガーデン>内をうろついていれば目立つだろうが、生憎外見サイズが結界内で暴れている『影狼』と同程度以外にも、見ただけでは分からない秘術を施してある。


 深呼吸が外に漏れる事も無く、クルトーは改めて残る戦力と現状を振り返る。


 現状、事前に持ち込んだ呪具に蓄えた魔力は殆ど使い切った。

 率直に言って禁忌対策の奥の手だった『スコルとハティ』を使い切った時点で、クルトーは火力方向では出涸らしとすら言えた。


 幻獣としての格が上回る竜は下位竜すら《召喚駒》に収まり切らず『顕在(けんざい)』召喚が出来ないため、巨人と同様の運用しか出来ない。

 ある意味最も融通(ゆうずう)が利く『スコルとハティ』以上の出力を誇る召喚獣等『シズ』以外には存在しないのだが。


(『黒森』を維持しながらじゃ私はストック以外で何も出来ない。

 もう禁忌に【四海瓶】を使うのは現実的じゃないわね。となると、残るストックは全て此処で使い切ってしまうべきかしら?)


 少なくともクルトーは【陣】の攻略抜きに脱出は出来ない。

 自分は戦力外になるが、自前の魔力を振り絞れば禁忌まで総大将を運ぶ程度ならまだ何とかなるだろうか。


(私の役目は総大将を禁忌と大罪を討ち取るための補佐と、両者の元へ少しでも消耗させずに辿り着かせる事。)


 優先順位が高いのは当然禁忌だ。そして両者が喰い合い勝者の糧にされない様に各個撃破するか、不可能なら足止めする事。

 問題は最も優先順位の高い禁忌の居場所が判明(はんめい)する前だと言う点。総大将がこれ以上消耗するのは可能な限り避けたい。


(問題は、残りの手札で〔大罪〕の魔女を倒せるかどうかね……。)

 いや、悩んでいても仕方がない。どの道術を解くまで総大将の援護(えんご)しか出来ないのだから、後は戦局を打破出来る時まで戦力を温存するのみだ。

 深呼吸して再び意識を結界の内外に集中させると。


『見つけたわよ!』

「?!」


 何者かの声が届き、何が起きたのかを把握する前に首根っこに噛み付かれて。

 引きずり出された床が全くの見覚えが無い水晶板で、周囲には見渡す限りに散乱した水晶片や結晶の山が散乱していた、全く未知の場所だと気付き。

 クロトーは『影狼』の身体を起こしながら、事態を把握する。


 目の前に立ち塞がっていたのは、一匹の『影狼』。

 それもクロトーの支配下には無く、干渉も出来ない『黒森』外の狼。


(『影狼』のコピー?まさか、『鏡』に映った連中はこっちの動きを再現するだけの単純動作しか出来なかった筈!)



 クルトーの推測は半分程当たっている。ラビリスの【影写しの獣】はあくまで鏡に映った光景を再現するだけのコピーモンスターだ。

 映ってない能力は再現出来ない。だが肉体的に矛盾さえ無ければラビリスが操作出来る範囲でなら、《召喚駒》に近い運用も出来なくはないのだ。


(けどそれで十分!【獣】は影から引きずり出せさえ出来れば良い!)

 ラビリスに召喚獣や人形呪具の並列操作なんて離れ業は出来ない。元々ラビリスは感覚派では無く計算尽くの合理主義。


(『月光よ、槍と輝け、煌めき檻と囲め』!)

 <クリスタルガーデン>の中核【プリズンガーデン】に〔狼王〕クルトーを引き摺り込んだラビリスは、周囲の水晶に乱反射させた光の槍を一斉に解き放つ。



『くそ!』

 咄嗟のセンスのみで攻撃の瞬間を見切り、『影狼』を跳躍させる事で直撃を(まぬが)れたクルトーだったが、即座に地面に影を落として『黒森』の維持に成功させただけで他の術式を用いる余裕が無い。

 攻撃を仕掛けてきた場所も分からず、自分が追い詰められたと自覚する。


(『申し訳ありません!ダンジョン側出口を鏡の魔女に抑えられました!

 今しばらくそちらの援護は出来なくなります!』)


(『ぐ、このタイミングでか。分かった、そっちは任せる!』)


 漸く水流の余波が収まり始めた【四海瓶】の中で、カリギュラのみがクルトーに返答を返す。

 嫌な予感を覚えながら現状で出来るせめてもの抵抗の為、クルトーは呪具を取り出し『影狼』の数を増やした。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 水流が乱れている間に『群狼』の追撃が来るかと思ったが、どうやら向こうには余力が無いらしい。先程の『スコルとハティ』も大魔力を消費する召喚術なので、それも当然かと放置し、早々に『赤い霧』の届いていない海域を目指す。


 <怪魚王>は前後の(ひれ)こそ人に近い感覚で動かせるが、肉体の殆どは魚同然だ。

 千々(ちぢ)に乱れる水流の渦を容易く切り裂いて泳ぎ進み、並の魚体では並泳(へいえい)する事も容易ではない。


 視覚からカリギュラの姿があっさりと隠れ、どんどん後方に遠ざかる。

 (さなが)投網(とあみ)で引き()る様に『暴食』で包み込んでいたカリュブデスも、水流が鎮まる頃には概ね喰い尽くした。


 奥にある二つの大甲羅が挟み込む様に迫って来たが、その動き自体はグラトニーに比べれば緩やかであり、足止めに進路を塞ぎに来た魚群も大部分が速度重視の《ハンマーフィッシュ》だったが。


『は!温い温い温い!』

 伸ばした前鰭の爪が指先の様に遮る『魚群』を()(さば)き、両脇に掻き分ける程度の手間で排除される。


 多少の破片はぶつかって来たが、そこは甲冑同然の頭部であり。

 何より最早『切り裂き魚』では(うろこ)一つ傷付ける事も出来ず、『スカルマンボウ』や『シーサーペント』等の大型種も、一(つか)みで潰して事足りる。

 万に一つ突破出来てもその(あご)にかかれば一噛みで終わりだ。


 甲羅が近付いた事で一部の罠が発動し、小さな渦巻や毒霧を放ち、投網の呪具が道を塞いだが、進路を阻む障害物としては何の意味も無い。


 間も無く甲羅の(はし)へ届き、視界の(すみ)に此方を迂回(うかい)して必死に遠ざかろうとする、人が丸々入る程の大水晶球が見つかった。

 既に海中の大部分は『赤い霧』に満たされ、向こうも危険を承知(しょうち)した上で合流を優先したと察する。


 ならばと進行方向を全て『霧』で満たし、瞬く間に距離を縮めて。

 グラトニーにとってはいっそ(ゆる)やかとしか言い様が無い速度で逃げる【水晶球】へと異形の手を伸ばす。


「か、カリギュラ卿!い、急いで!急いで下され!

 こっちはもう間に合いませぬ!」

『分かっている!今そちらに向かっているから暫し持ち堪えよ!』


 辺りで次々と《魔鏡》化する海面を一掻きでまとめて叩き壊しながら、メルビレイの【水晶球】を鷲掴(わしづか)みにして力を籠める。


(ふむ、向こうも中々の移動速度ね。

 こっちも思ったより硬いし、少し足止めをしようかしら。)


「『現身よ影よ、固めて凍れ、器に宿り命を戻せ』。

 《ハンマーフィッシュ》!《オクトパスタ》!」

「んな!」


 メルビレイの眼前で一斉に召喚された《召喚駒》が全て赤い霧の渦に消え、全力で泳ぎ続けていた()()()()()()()()現れ、一斉に牙を剥く。

 これで間も無く振り切られた<ハイドラ>も追い付く筈だ。


「「く!やはりこれが『霧』の力か!」」


 奇しくもカリギュラと同じ言葉でメルビレイが驚愕(きょうがく)狼狽(うろた)えて、全身毛玉の様な白髪に埋もれた中から(えら)呼吸している半漁の顔が隙間から覗かせる。

 成程それでと【ルサルカの水晶球】の中が、完全に海水で満たされる理由にも得心がいった。


 一方でグラトニーは握り締めた【水晶球】を(きし)ませて、『暴食』の渦で包み込んで魔力を奪い続ける。次第にミシミシと軋み初め、次第に小さくヒビが入る。


「ば、馬鹿な!発動具は不壊の秘宝!破壊など不可能じゃ!!」


(ふむ、あの《(あくた)の鏡》とやらは水中を『魔鏡』化する呪具だったのね。)

 悲鳴を上げるメルビレイが本の様に抱える《芥の鏡》に、幾つもの文字を描く。


『あら何を言っているの?大の大人が(うた)い文句を真に受けちゃ駄目じゃない?』

「な、何じゃと?何を言っている?」


 <怪魚王>の周りの海水が次々静止し『魔鏡』化する。

 『鏡』から鎖やら網やらの呪具が伸び絡まろうとするが、首を捻るなり鰭を動かすなりと、(もろ)過ぎる程に容易く引き千切れる。

 むしろ結果的に上下左右に揺さぶられたメルビレイの方が、自身の【水晶球】で潰されない様にと必死で手足を伸ばす羽目になった。


『へぇ、未だ遅いか。

 なら『鎌首を増やせ暴食よ』、一重に絡めて一気に喰らいなさい。』


 六本に伸びて絡まる呪詛の塊が、更なる勢いで発動具の魔力を吸い上げる。

 少し時間がありそうなので、折角だからと気紛れに講釈(こうしゃく)をする気になった。


『気付いてないのなら考えなさい。魔法世界最硬は【タートルキング】と言うのに何故発動具は不壊の存在なのかしら?

 全ての発動具はタートルキング以上の強度を誇ると言う話になるでしょう?』


 はっとしたメルビレイの表情を見るに、本当に気付いてなかったらしい。滑稽(こっけい)に思いながらも遠慮無く涸らし続ける。


『けれど発動具が『不死術式』の核だと気付けば意味が変わって来るわ。

 発動具が『不壊』で無ければ不死とは言えない。

 タートルキング以上の強度を実現させたから、不死。

 そう考えれば、発動具には強度を高める術式が必須(ひっす)の筈。』


 これは発動具作りの段階で仕込まれている術式だ。何故なら発動具は使えば使う程精度が上がり、術式が馴染む。

 言い換えれば、常に吸い上げた魔力の一部が発動具の強化に使われている状態と解釈出来る。故に皆が気にしなかったとも。


「な、何を。き、貴様まさか……ッ!」

 壁に手を付いていたメルビレイが、不意に手元にも走る小さなヒビに気付く。


『発動具をタートルキング以上に足らしめているのは(ひとえ)に魔力量。

 一定以上の魔力を蓄積した発動具のみが、不死術式を内包する事が出来る。

 それこそが不壊の呪具【発動具】と言う『不死術式』素材の秘密。

 なら、その発動具に込められた魔力を全て吸い上げてしまったら?』


 言葉の意味に気付いたメルビレイが咄嗟にヒビから離れ、水晶全体に徐々に確実に増え続けている亀裂(きれつ)を見回し、尻餅を突きながら体を縮める。


「か、カリギュラ卿!早く!お早く!もう!もうッ!

 ギ、ギィェエエエエエエエエエエエエエッッッッ!!!!!!!!!」


『当然、不壊の強度も失われる。尤も、半分はハッタリでしょうけど。』


 本当に不壊であれば皆がメルビレイと同じ事をやった筈だ。実際には小さい発動具ほど硬く、大きい程密度が薄れる筈。

 けれど不壊と謳って皆が信じた方が、【不死術式】持ちには都合が良い。


 『暴食』の渦が収束する中でこれはこれでと面白いと、《芥の鏡》を拾って回収していると。近くに現れた壺の口が勢い良く海水を呑み込み始める。


『ふむ。術者の一人が失われたら、流石に結界は維持出来ないようね。』


 周囲のエーテルが裂け、術式が割れて風船が(しぼ)む様に全てが壺の中に戻ろうとしているのだろう。グラトニーも<仮面>を解いて<ハイドラ>を回収する。

 足止めには成功したし、呪詛を使い切った訳でもない。仕切り直すなら水中用のハイドラよりも適した<仮面>がある。



――足元が硬質の床に変わる。

「あら、此処は。」

『ご無事でしたか、我が主よ。』


 呪装を《竜眼玉袍》に戻し、床に転がった【四海瓶】を拾って回収しながら辺りを見渡すと、どうやら見慣れた【プリズンガーデン】の中の様だ。


「ええ。〔狼王〕の動きを封じたのはあなただったのね。」

 『霧』は纏う程度の他は概ね回収した所為か、クルトーもこちらに気付いたものの牽制一つ無く。近場のカリギュラに駆け寄る方を優先していた。


『敵に術を利用された罰、如何様(いかよう)にでもお受けします。』

「不要よ。ここは<クリスタルガーデン>ね。」


 向こうは敵視している様だがグラトニーの方はどうでも良い。

 今気になるのは〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕と本命の現状だ。


『は、では我が主はこのまま禁忌の方へ。

 この者達は私が全て始末しておきますので。』


「気負う必要は無いわ。それに客人は他にも来ているでしょう?」

 【プリズンガーデン】内の様子をラビリスが水晶柱に映し、序でに学園内の現状も簡単な配置で確認しながら指摘(してき)する。


 レイリース達はウェンディの<四面画廊賛歌>、ジュリアン達も合流してオルガノンの<千羽織砂上楼閣>の所に到着した様だ。

 そしてこの<クリスタルガーデン>最深部付近にも、〔饗宴〕の魔女が迫っている様子が略図越しにも伺える。

 せめて彼らくらいは排除してから向かうべきだろう。


 魔女狩り達二人にもグラトニーの声が聞こえたか、こちらに武器を構える二人の動きが止まる。


「〔総大将〕、あなたも行って下さい。あなただけなら外に出せます。」

「何?だがそれは……。」


 カリギュラが口を開くより前に、クルトーと思しき黒髪の半狼美女がグラトニーに挑む様な視線を向ける。


「顔を合わせるのは初めてね。私は〔狼王〕クルトー、魔女狩り六将軍が一人。

 あなたは〔学園〕を禁忌に奪われたのに、今どこにいるかが分かるのかしら?」

「?!」


 カリギュラもクルトーの思惑を察したらしく、動きを止める。それはグラトニーも同様だったが、正直どうでも良かった。


「元々〔学園〕は禁忌の動きを把握するための場所だったもの。

 〔校舎〕周りは切り離して私の支配下にある。禁忌が完全に〔学園〕を手中に収めたいなら、事が終わるまで〔世界塔〕から動けないわ。

 その為に〔学園〕を維持し続けたんだもの。」


「……なに?」

 口を挟む気が無かったカリギュラが思わず声を漏らす程に、魔女狩り達には衝撃だったらしい。けれどラビリスすら軽く驚いたのは少し意外だった。


『宜しいのですか、主様。』

「構わないわ。どの道目指す場所は同じだもの。

 禁忌を探す上でも、学園を奪還する上でも。連中も結局は禁忌と同じ目的で動く以外にはない。同じ事よ。」


「そういう事か……。」

 歯軋りするクルトーの様子に少しだけ上方修正しておく。〔総大将〕が最高戦力な魔女狩りは彼が前線に出張る分、軍師的役割を担うのが〔狼王〕の方らしい。


「カリギュラ様、どの道これ以上の消耗は共倒れになる恐れがあります。

 この後の局面は、どの勢力が他の勢力を制して各大将の元へ駆け付けるかに移行したと判断します。

 今の我々にとっては、三つ(どもえ)の方が都合良くすらある。」


「む……。」

 悩むカリギュラは(いささ)か直情的な自分の自制役として置いているのか。少し(きょう)が乗る程度には気が向いてくる。


 態々(わざわざ)グラトニーに聞こえる範囲で説得したのは、こちらの思考を誘導する意図があるのだろう。分かった上で、ジュリアンが未だ交戦中の事実と照らし合わせる。


――こっちにとっても都合が良い、か。

 ジュリアンなら魔女狩りとも共闘しながら戦う筈。だが今ならそれは無い。

(最も消耗しているのはそこの〔総大将〕。分かった上で、賭けているのね。)


「いいわ、乗ってあげなさい。

 あなたは流血の魔女とそこの〔狼王〕の始末を優先、〔総大将〕の邪魔は不要。

 それじゃ、私は行くわ。」

『ご武運を。』


 近くの水晶の中に沈み込み、一旦〔黒林冥府城〕を経由する。

 その際〔血の従者〕に手を出した一人を『暴食』しながら校舎内の『赤い霧』を引き戻そうとして、止める。


 どうやら彼の犠牲(ぎせい)で避難は概ね完了したらしい。その所為で魔女狩り達は今学生達を探すよりもと、この〔黒林冥府城〕の攻略に集まっている様だ。


(あら、〔旧邸宅〕が破壊されている?ダンジョンの方はまだ繋がらない、か。)

 七不思議を討つ心算なら無意味だろう。だが隠されていた〔樹海祭壇〕が地上に露出(ろしゅつ)しているとなれば話は変わって来る。


(〔邸宅塔〕は……閉鎖されている。こっちは支配権を奪還(だっかん)された訳じゃない。

 単純に外部から結界で封印したのね。あの瓦礫(がれき)にはそういう意味もあったか。)

 出入口を制限した。となれば。


「まあ、その程度の障害くらい用意しているわよね。」

 となればこれは、制限時間があるのだろうか。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 時間は少し(さかのぼ)る。

 グラトニーが魔女狩り達の相手をしていた時間は長くも無いが、短くはない。

 ジュリアン達もレイリース達も現地に辿り着いた、丁度その頃。


 《転移門》を使って【誅仙陣<ティタノマキア>】に入った筈の銀髪の液体金属系少女アヴァロンは。

 何故か此処が<ティタノマキア>の中では無いと一目で分かる場所にいた。


 辺りは見渡す限りの無数の砂丘、砂砂漠の谷間。登れば周囲は見渡せるだろうがそれぞれが数階建ての小山程度には高く、一苦労だ。

 僅かな風が細かな砂と(つぶて)を飛ばして、空気は乾いて(のど)が枯れる。

 太陽の位置が分からないのは無いからだろうか、見えないからだろうか。


 気候は汗が(にじ)む程度に暑く、周囲に砂で出来た無数の人型が周りを囲んでいた。

 アヴァロンははてと、手際に疑問を抱いて首を傾げる。


「『スケープゴート』!『ヤクルス』!」

 毛玉状の羊の上に座りゾンビの様に両手を挙げて群がる砂人形の群れを、槍の様な翼持ちの蛇が円を描いて貫き、アヴァロンの浮上に合わせて螺旋(らせん)に敵を狩る。


(まさか【誅仙陣】を包む規模で侵入を阻んだのかな?

 態々侵入者を阻む程度の目的で?)

 正直理解出来ないやり方だ。無駄が余りに多過ぎる。


 人には有り得ぬ長さで腕を伸ばし槍に変える砂人形の手を、傾けてひらりひらりと身軽に(かわ)しながら、アヴァロンは撃退を『ヤクルス』任せに思案する。


 ダンジョンを一つの結界で包み込めるなら、それは中のダンジョンを破壊可能だと言う意味だ。多少時間がかかったとしても、満たした魔力が内部魔力の総量を上回った時点でそのダンジョンの法則は全て上書き出来る。


 だからこそ本来ダンジョンは破壊不可能なのだ。

 第一に大き過ぎて、第二に大量のマナを溜め込み、集め続けるから。

 しかも今ならダンジョン内に流れ込むマナも閉ざされている。第一第二の条件をクリアし、破壊に必要な条件は十二分に揃っている。


 【四聖天盤】に更なる魔力を加え、『星空の異界』を拡げるも開いたのは扉程度の小さな面積で、二つ三つの岩石を取り出して砂人形に落とすのが限界だった。


「展開術式でも開き続けるのは無理、と。

 この結界の術者は随分優秀で強力だねぇ~?」


 小さな砂人形では届かない高さ、砂丘の上にまで上昇したところで。

 今度は砂丘の中腹から巨人の様な砂人形が背中から身体を起こす。

 幾筋もの滝の様な砂が流れ、目と口が凹んだ巨大な顔が伸びて大口を開いて迫り来る様は、洞窟が迫る様な圧迫感を与えながら空を隠し。


「『シズ』。」

 平然と首の後ろから頭部を丸ごと吹き飛ばしたアヴァロンは、砂煙を突き破って悠々(ゆうゆう)と浮上を続ける。


「まぁ理由は分からなくても、出来そうな相手は分かるんだよねぇ~~~?」

 と言うより、一人しか心当たりがない。一人しか出来ないと言うべきか。

 尚の事、何故?と縦に一回転首を傾げるアヴァロンに、頭上に浮かんだ人影から辺り一面を震わせる笑い声が届く。


「はっはっはっはっは。流石にあなたなら気付くかね。」

 わざわざ自分に敬語。確定だと溜息を吐きながら声の方を見上げる。


「それで?こんな遠回りな真似をして一体何の用なのさ、禁忌の魔女さん。」


 宙に浮かぶのは上半身裸の筋肉質の青年で。

 天井画の様に大きく映り広がって、炎の様な赤毛を頭上に靡かせる様は、いつぞやグラトニーが見た禁忌の魔女の姿とは似ても似つかない。


 それは即ち肉体のマナを完全に手中に収めたという意味だ。今の禁忌の魔女ローレライの体には、幾多の変化能力を持つ魔女達の力がその身に宿っている。


「何を言うかカダスの主。あなたがワザワザこんな所に出向いているのにこの俺が無視する訳が無いだろう?

 違うかね、最初の世界からの一柱よ。」


 魔女でも無く、人でも無く。神の如き扱いをしながらローレライは対等に話す。

 砂の巨人では届かないとなれば、辺りの風は強く渦巻き砂嵐は上空で放電を放ちながら天井に届き土煙の雲を生む。


 (はぐ)れた細い竜巻が幾筋も鞭の様に、話の間もアヴァロンに襲い掛かる。


「勘違いしているけど、あたしは間違いなく二百歳超えてないよ。あたしは不老だけど不滅じゃない。一定周期で産まれ直すからね。

 前回君と契約を結んだのはあたしだけど、その前の事は覚えてないから言われても困るよ~?」


 要件に見当が付かず、今度は首を横に二周捻るアヴァロンを気にせず。

 ほぅそれは初耳だと、興味深い話の様に平然と応じる。


「要件は単純だとも、あなたは俺と不干渉の契約を結んだ。

 なのにそちらは我が娘の側に付いて手助けをしている。流石に放置は出来ん。」

 しつこく真下から熱波の渦に貫かれると、全てを躱し続けるのは相応に難しい。


「戦役中の契約にグラトニーは含まれてないよ~?

 気付かない君じゃないでしょ~?」


 鞭の様に巨大な手が一筋伸びてアヴァロンの前を遮り、津波の様に頭上を包む。

 先程から空の人影に近付こうと試みているが、所定の高さからは一向に地上を離れる事が出来ない。恐らくここが結界の上限なのだろう。


「『ブラックドッグ』!」

 下降しながら逃げるだけでは間に合わず、頭上だけを抉る様に黒犬が人と羊一人分の穴を開けて垂直に急浮上して難を逃れる。

 流石に現状維持は辛くなって来た。序でに疑問符も零れ落ちる。

 話し合いで済ます気は全く無いのに、攻撃は苛立つ程に何故か手緩い。


「だが娘が魔法世界側に付くのなら君も魔法世界側だ。事実我が手勢を討ち取る為に此処へ来たのでは無いのかね?」


「それはグラトニーとの契約の範囲内だからね~。

 特等席で見学させて貰う対価だから、君との戦いには不介入。あたしも今回敵の一人を倒したら契約満了さ。

 残念ながら不履行(ふりこう)は無いよ?」


 アヴァロンはあくまで気怠そうに断言し、ローレライは勝ち誇る様に堂々と腕を組み続ける。


「困るなぁ!〔カダス〕の管理は君達に任せるのが一番都合が良い!流石の俺も君達以上に〔アレ〕を管理する自信は無い!


 何より君達と戦うのなら、私は魔法世界など捨て置いて最優先で!総力を以て君達に挑まねばならない!

 流石の俺も最初の世界からの神々相手に余裕ぶってはいられぬよ!

 折角の俺の復活祭を、横殴りで邪魔をしないでくれ給え!」


 両腕を広げ、降参する様に高笑いを返すローレライ。

 話せば話す程楽しそうに、まさに笑いが止まらないと言いたげだ。

 だからこそ面倒だ。酷く面倒だ。たかが〔饗宴〕の一人や二人、減ったところで全く興味も無い癖に。


(くっそ気が散るぅ!絶対これ核探さないと駄目なタイプの結界じゃん!)

 『シズ』で薙ぎ払えるのは砂地や結界の一部だ。そして下が砂地と来れば、核は絶対移動式だ。というか自分ならそうする。


「横殴りも何も、勝敗に全く関係無いだろう?

 こっちには君が何を気にしているのか全く分からないんだけど?」


 しかも下らない茶番だ。こんな場所を用意しておいて、困るだの想定していないだのなんて全くの(うそ)。最初から分かっていて今迄話を通さなかった(くせ)に。


「なぁに、簡単な事さ!我が娘が君と交わした見学料、それは本当に魔女なのかと確認しに来たのだよ!

 娘はきっと『敵の切り札一人を抑えるか、二番手以下の魔女を一人討ち取って貰えれば十分』だとでも言ったんじゃあ無いのかね?!」


 思わず舌打ちする。益々腹立たしい。詰まり全部予定通りに仕組んでいたと公言したも同然では無いか。一体どっちが不義理なのやら。


 そしてまさに禁忌の言う通り。戦況を変える一人では無く、変え得る一人。

 魔女が切り札と断言出来ない状況で、グラトニーが相手を規定する筈も無い。

 グラトニーは禁忌とは真逆、わざとアヴァロンに自由解釈の余地を残す。


「紹介しよう!ここは我が『枯渇(こかつ)砂漠』から生み出した結界ゴーレム【モート】!

 ここはまさにコヤツの体内であり、こやつの砦そのものだ!


 コイツは一度中に閉じ込めた者を一度も逃した事は無い!何せ俺が逆らった手下の粛正(しゅくせい)用に使っていたくらいだ!大抵の魔女よりも強い!


 娘の手下対策であったが、あなたの相手としてこれ以上相応しい敵はいまい!

 そしてそちらの契約にも叶う相手の筈だ!違うかね?!」


 ローレライの宣言に呼応して、足元の砂漠に巨大な(へこ)みで出来た顔が咆哮する。


 結界全体を振動で揺るがしながら、今度は先程の巨人一人分ぐらいの握り拳で出来た巨大な両腕が空に昇り、結界の半分くらいの高さがある人型に見えなくもない上半身となって起き上がる。


(つまりアレだ。コイツは最初からこの【モート】が何処まで我に通じるか、腕試しがしたかった訳だ。)


 だからこっちがグレーゾーンに踏み込むまで黙って待ち構えていた。

 嫌な気分がアヴァロンの顔に(にじ)み出て、苦虫を噛み潰したような顔が三つ四つに増えてゆく。


「ホントに君は質が悪いな!」

 何が手下対策か、明らかにコレはアヴァロン用だ。

 〔学園〕攻略後。カダスと対立した時。どれだけ渡り合えるかの実験だ。


「ご納得頂けて何よりだ!

 何、娘が此方に駆け付けるまで退屈なのでね!偶には見物ばかりでは無く主演を楽しんでみると良い!悪いものでは無いよ!」


「今度の君との契約はこの決戦が終わるまでだ!

 タダ見なんて図々(ずうずう)しい真似をする以上、契約の再延長がしたいのなら次はこっちを納得させるだけの対価を持って来い!」


 全身から無数の獣の顔が巨大化して溢れ出し、アヴァロンを握り潰そうと両手を伸ばした【モート】とやらの拳を次々噛み砕く。

 お気に入りの体を捨てる気は未だ無いので、アヴァロンは懐の【四聖天盤】に手を伸ばし、全ての眷属(けんぞく)達の制限を解除した。


「<形無き門>!」

 途端全身から瘴気にも似た、歪みが生じてアヴァロンが座る『スケープゴート』が膨らみ形を変える。


 それは四角い上下の無い門であり扉であり、円形にも見える時空の歪みそのもので。開いた扉からアヴァロンが使役する三つの召喚獣が飛び出して次々とその全身に亀裂が走る。


「<骸骨鳥>!」

 解き放たれた小型の『シズ』の背中と翼に鱗が広がり、体毛が消えて半透明の液体の様な怪鳥へと変わる。


「<尖り犬>!」

 アヴァロンの影から顕現した『ブラックドッグ』の瞳が炎の様に燃え上がって、隙間から群体の獣と化して群れを成す。


「<緑の燈火>!」

 飛び跳ねる様に渦巻いた『ヤクルス』は、人を丸呑みに出来る一抱え程の緑色の火の玉となって、増えて繋がりながら周囲を飛び回る。


 全てが魔法世界には存在し得ない、幻獣の枠に収めるには余りにも異質な物理を無視した異形異端の怪物達。

 それら全てが(かしず)く人の形をした眷属達の主を、今更只の魔法使いとは誰も思いもしないだろう。



 砂漠全体が魔力を枯らし生き物が朽ち果てる世界の中で、世界全てを戦場へと変える、化け物達の闘争が幕を開けた。

※明日、日曜投稿予定です。


クルトー「生物に結界術式は組み込めない?

 逆に考えるんだ。《召喚駒》は生物を呪具化する術式だと。」


 術式的には複数体の『影狼』が『影森』という紐やマント等の装飾物で繋がってるイメージになるでしょうか。

 ダンジョンの術式は一つの《召喚駒》は一匹のモンスターとして認識している訳です。

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