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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第七部 学園の夜明け編
152/211

第一章 授業再建 01.学園防衛網

 学園制圧直後の数日間は基本方針を定め、後片付けをするだけで終わった。


 そもそもグラトニーの本音としては、精々教師に要求があるくらいで学生達は割とどうでも良い。

 強いて言うなら〔血の従者〕と〔黄金の夜明け団〕に約束した授業の再開だけは譲る気は無かったくらいで、むしろその辺は紙を始めとした一部の魔女達がかなり乗り気だったので仔細(しさい)は彼女らに任せる心算だ。


 概ね方針のまとまったグラトニーは、概ね把握し終わった〔学園〕の機能に合わせた基本方針を説明するため、会議室に全ての教職員を集合させた。


 会議室には既に一通り揃っていたのでグラトニーは<忘却『神隠し』>で室内に転移する。


 『神隠し』は本来他人の死角しか転移出来ないが、影の形を操るダーククロウ製の呪具《影隠しの帯布》があれば死角を自在に作り出せる。


 今回わざわざ転移したのはコレの改良版《影隠しの指輪》が完成したからだ。

 以前の目立ち過ぎる《帯布》では巻いた際に違和感があり過ぎるので、ついでにどの程度の完成度かを試してみたかった。


「何だ、今日はグラトニーは来ていないのか?」

「今来たところよ。」

「っ?!」


 三白眼のマルガルに柱の影から現れたグラトニーが応じ、マタハリ、トトメリがマルガルと殆ど同時に腰を浮かせて驚愕(きょうがく)する。

 彼女達はもう一方の扉を確認したが、勿論空いている形跡もない。ふむ、これは〔影世界〕を経由する限りほぼ見破られないと見て良いか。


「なっ!ば、馬鹿な!一体どうやって!」

「あ、ゴメン遅れました~~~。……え?何、そんなに駄目?」

 ボルテッカが当の扉を開けて現れ、一斉に空気読めと睨まれて首を傾げる。

 グラトニーは全員が揃ったタイミングで部屋に入った積もりだったが。

(そう言えば素で忘れていたわね。まあいいか。)


 六人の魔女の内、四人は既に揃っている。紙に傀儡に魅了に茶会だ。他の二人は学園の運営には関わらないと決めているので今日は不参加だ。


「さて。全員揃ったようだから始めましょうか。」

(((始めるんだ……。)))


 渋々席に座るボルテッカを傍目(はため)に、グラトニーが一同に視線で発言を促す。

 呪詛を隠そうともしない眼差しに、一時は弛緩(しかん)し空気の緩んだ一同に緊張感が走り、一部の者の背筋が凍り付く。


 この場には既に各寮代表者二名を選出し、寮ごとの希望を携えて席に付いているが、今回から淑女の会は別枠として預言者(プロフェット)寮の代表者は別にいる。

 淑女の会に従う派閥(はばつ)からの選出なので、はっきり言って彼女らの傀儡(かいらい)だろう。

 グラトニーとしても別に問題視する心算は無い。

 だがそれ以上に戸惑いが強いのは、無視されると思っていた先駆者(パイオニア)寮の面々か。


「先に、何故探求者(シーカー)寮長がここに来てないのかお尋ねしても?」

 切り込んだ預言者(プロフェット)代表の少女の問いにも、問われた探求者(シーカー)側は別段気を悪くした様子は無い。


「ああ。実は現寮長は先日の防衛戦で、違法呪具をこっそり実戦投入した罪で反省房送りになっている。

 なので今後は私が寮長に復帰し、多分時々副長が入れ替わる形になる。」


「「「……。」」」

 先代寮長ティーパーティの言葉に、全員いつもの探求者(シーカー)かと強引に納得する意志を固め、それ以上の追及は無言の総意で控えた。


「さて。これ以上の質問は全て後にして貰うわ。

 先にこっちの要求を伝えるから、話はそれを聞いてからにしなさい。」

 グラトニーの指摘に緊張感が戻り、全員が沈黙したのを確認し口を開く。


「先ず、私の目的は『禁忌の魔女の殺害』。

 学園の意義は〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕を迎撃し、私が直接禁忌と対峙(たいじ)するための盾よ。

 あなた達全員は、そのための駒として生かしているに過ぎない。」


「「「っ!?」」」

 はっきりと言い切られ、学園側の殆どの面々が動揺する。

 一方で一部教師と探求者(シーカー)寮の面々にとっては予想の範囲内であり、教師達だけが顔を(しか)めるに留まっていたが。


「教師達への要求は三つ。1つ、魔女が攻めて来た時に迎撃する事。

 2つ、可能な限り最短で、私に残りの全授業を終える事。

 3つ、上記に反しない範囲で学生達の授業を再開する事。

 基本はこの三つよ。詳細はこの会議で詰めていくわ。」


 ここで恐る恐る手を上げたのは、意外にもボルテッカだ。

「そもそも何故〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕が攻めて来ると確信しているんだ?

 何か放置されない理由でもあるのか?」


 思わずきょとんと首を傾げ、そう言えば彼女は禁忌を見てないのかと気付きつい噴き出す。ああ成程、知らないとこうなるのか。


「来ない筈無いでしょう?禁忌にとって魔法議会は一度落した場所だけど、学園は一度も陥落させて無いのよ?

 ここを落とさないで魔法世界を手に入れたなんて恥ずかしくて言えないわ。」


「魔女狩りが攻めて来た時はどうする?

 てっきり学生を盾にして我々を戦わせるんじゃないかと思っていたが。」

 皮肉気に口を挟むマルガルに他の教師達が慌てふためく。


「だってあなた達堂々と魔女狩り側に付くかこっそり連中と繋がるかのどっちかでしょう?魔女狩りが来たら校舎内で大人しくしていなさい。

 校舎外から戻るのが遅いと思ったら適当に学生を殺すからその心算で。」


「道理だな。分かった。」

「本気ですか教師マルガル!」

「何を言っている。ならはっきりこの場で聞くべきか?

 魔女狩りと繋がっていても、校舎内に居れば問題無いのだな?とでも。」


 マルガルの言葉に抗議した職員が青褪める。此処でグラトニーが魔女狩りとの接触を禁じるとでも口に出されれば、その時点で行動の自由が減る。

 迂闊(うかつ)な倫理観による反論をするくらいなら、黙って裏切った方が都合が良いのだと遅まきながらに皆が自覚したのだ。


(まあ私の<嫉妬の緑目>を防げるのは教師以上が限度みたいだけど。)

 一面に呪詛が満ちる環境であれば、無詠唱で発動する魔力は彼らには見分けようがない。その手の呪具が存在しないのだから。


 今、心が読めない面々は教師と淑女の会だけだと思っていたが、意外にもティーパーティとストラードも干渉を防ぎ切っている。

 グラトニーから漏れ出る呪詛量は総量に関わらず以前と同程度。逐一怯える者もいるが、現状で肩を凝らせてまで呪詛を隠す理由も見当たらない。

 この場にいて呪詛を防げないなら論外としか言いようが無い。今後も必要が無いなら呪詛は出したままにする方針だ。


「まあ敢えて明言するなら校舎内で内通しているなら殺すのは当人だけよ。

 但し、淑女の会は魔女狩りとも戦って貰うわ。

 連中の襲撃は交渉失敗の証拠、責任一つ取れないならその時点で学生達を生かす理由は無くなるわ。」


「ええ、承知しています。」

 ここで返事をしたのはカーリーだ。

 思いもよらぬ重責に対し、半ば裏切者の様な視線を向けていた教師達が己を恥じるように視線を俯かせる。


(この辺カーリーは交渉強者よね、ホント。)

 グラトニーを対禁忌用戦力として数えられない点が、ある意味教師達の限界だ。

 いや、マルガル辺りは案外彼女らと裏で図ってそうか。


「とは言え、魔法議会と魔女狩りは別組織です。

 それに〔魔女狩り総本部〕は建前魔法議会の下部組織ですが、魔女に対しては魔法議会を無視して良いという権限を持ち合わせています。

 絶対の保証は致し兼ねるという点は御覚悟を。」


 淑女の会は公式の場ではカーリーよりメフィレスが対応する事が多い。

 これは言質を取らせないためと、敢えて論者との間に壁を作って発言権を高めているからだ。逆にガトレスは武威を担当し、容易に発言しない。


 一方で魔女達と淑女の会以外の全員が戸惑いを露わにする。彼らにとっては議会の説得が必ずしも身の安全に繋がらないと、今更ながらに気付かされた様だ。


「学生達には二つ。1つ、人質として校舎か寮内のどちらかに留まる事。

 2つ、〔黄金の夜明け団〕を通して出された指示に従う事。以上よ。

 魔女だろうが魔女狩りだろうが学生は戦力外。校舎と寮の外に出た者は人質扱いしない。それを弁えるなら、校内では自由に過ごしていい。」

 ここで一旦言葉を区切り、全員を見回す。と言っても魔女達は後ろに居るが。


「これから〔学園寮〕を動かして〔校舎〕に隣接させるわ。序でに〔学園街〕の中にある〔業者寮〕も一緒にね。

 〔学園街〕と〔農園区画〕は閉鎖して〔秘密の森〕を拡げて〔獣の森〕と一体化させるわ。〔獣の森〕って元々そのための場所だったらしいわね。」


「ま、待って下さい!そのために何が必要か、あなたは分かってるんですか?!」

 慌てて立ち上がったマタハリが、はっと我に返り座り直す。


「ええ勿論。私は【山河社稷図(さんがしゃしょくず)】を使うと言っているのよ。

 あれの正しい使い方は既に把握しているわ。」


「ちょ、ちょっと待て!あんたら一体何の話をしている!」

 割り込んだ教師の顔を見るに本当に分かっていない様子。今度はグラトニーの方がどういう事かとマタハリを振り向く。

 マタハリは軽く咳払いをして視線で教師に着席を促して口を開いた。


「グラトニー、あなたの言うそれは禁忌戦役以来使われた事の無いものです。

 【山河社稷図(さんがしゃしょくず)】は自然にマナが貯まる迄おいそれと動かせず、学園長以外に使い方すら把握していません。


 存命中の学園関係者で知っているのは教頭ムーンパレス、私ことマタハリ、教師マルガル、マッスリゲル。

 確か、教師トトメリも在籍こそしていませんでしたが……。」


「ええ。仰る通り私も当時に訪れた事があります。」

 つまり五人以外は新米教師だったのか。そういう事なら解説くらい必要か。


「ふむ。簡単に説明すると、この学園は戦時には建物を移動させて配置を組み替えられるように出来ているわ。

 そして〔学園街〕と〔農園区画〕は元々学園の敷地にあった施設じゃあ無くて、超大型の《結界ハウス》の一種。いざと言う時は仕舞って運ぶ施設だったのよ。

 序でに〔学園街〕を囲む外壁は〔学園寮〕を〔校舎〕と隣接させれば城壁として活用出来る様になっているわね。」


 ここまでは良いかと尋ねると、驚いた表情の教職員と寮代表達が慌てて頷いたので先を続ける。


「〔獣の森〕は本来〔農業区画〕にあった〔秘密の森〕の一部を移動させた場所になるわ。つまり元々学園には〔秘密の森〕しか無かったのよ。」


 イメージとしては学園の東半分が秘密の森、西半分の上から反時計回りに並んで〔海竜湖〕、〔渓谷地帯〕、〔砂漠地帯〕、〔灼熱火山〕が広がっているのが学園本来の地形だった訳だ。

 序でに言うとそれぞれシードラゴン、サンダードラゴン、アースドラゴン、ファイアドラゴンの上位竜が種族単位で生息し、守護している。


「その上で、以前ダーククロウが決闘祭で使っていた宝具【山河社稷図(さんがしゃしょくず)】は本来、学園の防衛設備を兼ねた巨大なダンジョンを形成する秘宝よ。

 これを学園周辺、今の中庭一帯に展開し、ダンジョン化する。」


「一つ確認させて。学園……先代学園長は【山河社稷図(さんがしゃしょくず)】を起動させた際、来年度までは使用不能になると言っていたわ。

 万一に備えるならジュリアン卒業後には使える様に、不備が無いかを確認しておきたいって話だったのだけど。」


「ああ、それ半分嘘よ。だってダーククロウは禁忌を手駒にする予定だったもの。

 最低でも来年度まで【山河社稷図(さんがしゃしょくず)】を使いたくなかったのよ。不足分の魔力は私が補ったから、明日から起動させられるわ。」

 事も無げに明かされた裏事情に、魔女達すらも動揺する。


(『ちょ、ちょっと待ちなさいグラトニー!一体何処まで明かす心算?!

 仮にも相手は魔法世界の元英雄、魔王だなんて言っても信じないわよ?!』)

 慌てた傀儡ことクリスが首飾りを通して『念話』を届ける。グラトニーも念話で応じながら安心する様に告げた。

(『心配無用よ。単に裏切者だった事だけ明かしておくわ。』)


「ちょ、ちょっと待って下さい!一体何を根拠に!」


「あなた達だって奴の言動には不自然を感じていたんじゃない?

 あいつは元々魔法世界に反感を抱いていたわ。何より禁忌を侮っていないなら、私を入学させた意味は何?


 答えは単純、不完全復活させた禁忌を手中に収め、ジュリアンには究極の魔女として私を討たせて預言を達成させる。

 後はジュリアンを旗印に魔法議会に不正有りとして弾劾(だんがい)し、全てを手中に収める心算だったのよ。」


 厳密には手中ではなく滅ぼすため、ジュリアンは使い潰す心算だったのだが。

 ダーククロウが表向き用意していた設定では、生前ジュリアンが魔女との繋がりを掴んでいた事にする予定だった様だ。


「そ、それが学園長があなたを庇っていた理由だと?」


「ええ。ジュリアンにはあなた達の知らない諸々を囁いていた様だし、私もその全てを知っている訳じゃ無いわ。

 けど私を殺させなかった理由は『預言通りじゃないと殺せないと分かっていた』とでも言えば、十分よね?」


 この辺は確証の無い推測だが、筋さえ通っていれば細部はどうでも良い。

 大体はダーククロウの行動通りなので、一同も一概(いちがい)には否定出来ない様だ。


「別に信じる信じないはどうでも良いわ、奴は死んだもの。

 大事なのは明後日には全部動かしてしまうから、それまでに必要な準備を済ませなさい。私からの連絡事項は以上よ。」


 グラトニーが締めたにも関わらず、教職員や代表達は黙り込んで何も言わない。

 軽く溜息を吐き、用は済んだからまあ良いかと一人納得する。

「どっちも期限は来年度末までよ。それまで大人しく出来たらあなた達は助かる。

 さて、授業に対してはあなた達に任せるわ。明日の分の予定だけ決めて。」


「ふむ。それなら明日の午前中は全部私の単位で埋めろ。

 午後は教師マタハリ、お願い出来るか?それ以降はこの後の話し合いで決めれば良い。それでどうだ?」


「あ、はい。私も構いません。」

 我に返ったマタハリがマルガルの確認に頷いたのを見て、グラトニーは後を魔女達に任せて席を立つ。


 部屋を出たグラトニーを見送って、マタハリはマルガルに向き直る。

「教師マルガル、一体あなたはどういうお積もりですか?」

 魔女達の目を気にしているマタハリと違い、マルガルの返答はあっさりとしたものだ。というより、隠す気も無い。


「知れた事。グラトニーにとっての優先順位はあくまで知識、力だ。

 我々が教える事を拒んだら奴は、我々を吸収して力に変える方を選ぶ。

 学生達の命を守りたいのだろう?ならグラトニーにちゃんと(えさ)を与える事だ。

 奴は我々が授業を行う間は無暗に学生達に手を出さんよ。」


 マルガルが横目で魔女達を確認するが、一人茶会と呼ばれた魔女が深々と同意している他は、目に見えた反応を見せない。


(一枚岩ではない。だが、おいそれと隙を見せない程度には老獪(ろうかい)か。

 全く以って、面倒な話だ。)

 マルガルはひっそりと(ろうかい)いて溜息を吐いた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 自分は、以前ほどに関心を示されなくなったと思う。

 単純に今はそれどころでは無いのかも知れない。けれど、自分は何度も足を引っ張り負け続けた自覚がある。そしてグラトニーは甘い相手じゃない。


「ねぇちょっと!」

 近付く事すら恐ろしい瘴気を堂々と撒き散らし、廊下を歩く銀糸の髪を(なび)かせた美女が背筋の凍るほど整った笑顔で振り向く。


「あら?何かしら。」

 廊下で話しかけて来たピオーネに、グラトニーが興味深い眼差しで応じた。

「ここ、場所大丈夫?大事な話があるんだけど。」

「ふむ。場所を変えましょうか。」


 事情を薄々察したらしいグラトニーと手製の《魔法の絨毯(じゅうたん)》に乗り、今は校舎の屋上に移された《結界砦『地獄門』》の一室に案内される。


 最近手に入れたという見事な白テーブル《食卓美膳》に置かれたケーキスタンドには、一応名門の端くれであるピオーネから見ても見事なお菓子が並んでいた。

(さ、流石料理に拘るグラトニー……。これ全部自作なのかしら。)


「さて。それじゃ話を聞きましょうか。」

 お茶を差し出されて適当に手に取るよう勧められた上で、椅子に腰かけたグラトニーが紅茶を口に含む。驚く程様になっている上品な仕草に、しかし冷汗が昇る。

 どんなに笑顔に見えても、グラトニーは絶対に隙を作らない。

 多分、本気の機嫌を損ねた途端にピオーネは死ぬだろう。


「うん。単刀直入に言うね、レイリースと交わした契約をあたしにも結ばせて。

 あたしはこれ以上レイリースの足を引っ張りたくないの。」

 以前は様付きで呼んでいた純血トップクラスのお嬢様を呼び捨てにするのは今でも抵抗があるが、彼女の隣に並ぶためにはその程度の覚悟じゃ足りない。

 グラトニーはまぁある程度見当が付いているのは予想していたわと頷き。


「それで?あなたに力を与えて私にどんな意味が在るの?

 レイリースと常に一緒の行動を取らせる意義は?

 そもそもレイリースが死んで終わる程度の契約の後、あなたが契約を守る理由は何?別に彼女が死ななくても、衝突くらい在り得る話よね?」


 射貫く様な視線。能面の様な変わらぬ笑顔。

「っ!?」

 あっさりと覚悟を一蹴され、自分の考えの甘さを思い知る。


 けれど諦める心算も無い。グラトニーは相手を否定したからと言って、話を聞いていない訳じゃ無いのは今迄の経験で分かっている。


「えっと。レイリースを守りたいのはあたしの都合で、あたしがレイリースを守るのは構わない。

 けどグラトニーがレイリースを守る契約をする気は無いし、彼女だけを戦わせる時もある。そういう意味よね?」


「そうね。」

 という事は詰まり、自分でどんな力が欲しいかを考える必要があるのか。しかもその力が、グラトニーにとって有益じゃないと意味が無い、と。

(多分、これであってる筈よね。となると。)


 自分が何故負けたのか理解は出来ている筈だ。ピオーネは召喚獣の周りに気を遣いながら、自分の身を守れるほど器用じゃ無いのだ。


「グラトニーは〔魔女の饗宴(ワルプルギスのよる)〕が攻めて来るのは来年中って思っているのよね。

 でもレイリース一人じゃ魔女には勝てない筈よ。私をレイリースの護衛にして。それなら例え失敗しても私の所為だし諦めも付くから。


 それにさっきの喧嘩別れの話なら、レイリース一人じゃ無くて、友達皆を守れる力ならレイリースと別れても契約続ける意味あるんじゃないかな?

 で。その為に必要なのは、多分私が召喚獣を使っている間身を守れる手段。


 ――たとえば、物凄く硬い何かに閉じこもるとか!」

「?!?!???!?!?ッ!」


 グラトニーの膝が床に付く。腰が椅子から滑り落ちたのだと、彼女の後頭部が見えてようやく気付いた。


(あ、すっごい!この姿勢でもあたし死ぬ!)

 直感がテーブル越しでも死の危険が消えて無いと告げる。理由は無い。

 割とピオーネは理屈の分からない直感で死ななかった事がある。


「…………それ、誰が運ぶの?」

「え?あ!タートルキングっ!!」

 巨大肉食亀。人を丸呑みに出来る、魔法世界で最硬と名高い発動具素材。

 最高の笑顔でピオーネは勝利を確信してしまう。



(そうか。コヤツ護衛対象を押し潰す気か。)

 今迄センスだけで戦って来たんだなと今更ながらに戦慄(せんりつ)するが、大丈夫。

 グラトニーにとって予想以上にピオーネが未知の生き物だっただけだ。

 お茶を零さず震える(ひざ)を脚力だけで持ち上げて椅子に深々と座り深呼吸。


 グラトニーは未知の生物を前に、今持てる知性を総動員し思考する。

 大丈夫。大事なのは手段じゃない。そう。叶えるに足る願いか、使うに足る提案か否かだけ。


「……レイリースは自身がそれなりに身を守る手段を持っているわ。

 戦術的な話ならあなたをレイリースが守った方が効率が良いくらい。その辺の話は理解出来るかしら?」


「ん~~~?でもそれじゃ意味が無いよ?」

 グラトニーが言っている話が戦い方に関する話だと言うのは分かる。

 でもそれはレイリースが先に死ぬのではという話だ。どちらかと言えばピオーネは友達を助ける力が欲しいのだが。


(おっけぃ理解出来てない。そもそもコイツ、召喚獣活かせてない。

 機動力とか回避とか弱点関係無しに、ただ助けやすそうな力な訳ね。)


 実の所、グラトニーから見たピオーネの弱点は単純に召喚獣に乗って戦えば割と解決する問題だ。同時に物事を判断出来ないなら出来る奴に任せれば良い。

 必要な手駒は揃っていて、単に活かせないだけ。


(レイリース方式は無駄ね。絶対方針で分裂する、多分衝動的に。)

 つまりは、単に強い力だけ与えても駄目。外付け頭脳も駄目。

 そして多分レイリースに任せても対応し切れずにパンクする。


「……問題は理解したわ。」

「え、ホント?さっすがぁ!」


 伊達に怖いだけの相手じゃないのだと、ピオーネは無邪気に喜ぶ。

 そりゃあレイリースが認め、従う程の相手だ。自分には分からない事だって直ぐに分かると今なら素直に認められる。

 そして気付かない。警戒もしていないので心の中が読まれているとも気付かないし、グラトニーの手が無茶振りに震えている事にも気付かない。


(……うん。覚悟は本物。実際友人のために命を賭ける気概(きがい)はある。)

 ただ想像以上に戦いに向いていない。単純に周りの指示に従っている間は有益なタイプだが、ブレーキとブレインが無いと適切な行動が取れない。

 戦いの経験を積めば化けるかと思ったが、予想以上にドン臭い様だ。


 どうしよう。

 捨てるには惜しいし敵に回すと面倒だ。

(いや待てよ?そう言えばこの子、知性ある召喚獣が結構いたわよね。)


「そうね。一旦他の意思疎通(そつう)が出来る召喚獣達の意思も確認しましょうか。

 あなたの場合、彼らの考え方も無関係じゃ無いわ。」

「あ、なーるほど。ちょっと皆も出て来て!

 『ウォルター』!『悪紋字』!『茶釜入道』!『キャロル』!」


(コイツ、馬を室内に呼び出しやがったぞ。……今回は見逃すけど!)

 せめて断れと思ったが、単純に意見を聞ける奴を全部出しただけだろう。


『こうして面と向かって話すのは初めてだな、化け物よ。』

 ひょいと器用に角を動かし、ピオーネを背中に乗せたユニコーンが思念波の様な何かで言葉を伝えてくる。

 彼女自身は何故背中に載せられたの分からず、首を捻っているのだが。


「ふむ。あなたと話すのだけは初めてね。」

 ユニコーンの後ろに待機する紳士服のケット・シー、ウォルター。

 手乗りサイズで現れ、左右の方に乗った右の大蝦蟇大将・悪紋字。

 同じく左のぶんぶく茶釜?茶釜入道。

 肩に乗った二体は揃って半精霊の元悪霊だ。


「で。キャロルだったかしら?

 戦闘中あなたの背にピオーネを載せて戦わないのは何故かしら。」

『お、お前。ユニコーンに逃げる以外の事が出来ると思っているのか……?!』



 一瞬意識が飛んだ。まるで多次元宇宙を垣間(かいま)見た気分。



「そ、そんな種族がいるのね……。」

 足蹴にするか戦場を走り回るくらいは出来るかと思っていたが、どうやら想像以上にユニコーンは虚弱らしい。

 とにかく戦場で気を強く持ち続ける事も辛いのだとか。今も物凄く辛いと言う。


 一応呪詛を抑えながら悪紋字と茶釜入道の背中はどうかと思案したが、自分でも酔いそうなくらい動き回る二体だ。論外。

(というより、絶対この二人はフリーハンドを与えて自由に戦わせるべきだわ。)


「あ~、儂らじゃ思いの外打つ手が無くてのぅ。

 一応一人が守りに付くくらいはやっていたんじゃが、どうにも難しい。」

「嬢ちゃんの身さえ守れれば何とかなるんじゃが、訓練にも限度がなぁ……。」


(はは~ん、さてはこいつ等、自分達では頭打ちだから私に頼るのも止む無しとか考えたな?)


「……さて。最後の一人は戦いはともかく、逃げ回るのは得意よね?」

「はて。ですが私めにはそもそもご主人様を抱えて逃げ回る事が不可能に御座いますが、その辺は如何にお考えで?」


 ケット・シーは言ってしまえば大きな猫だ。精々が小柄な子供の様な体躯なので精々が周囲に七色の霧を放ち、幻を映して術者の姿を(くら)ませる程度だ。

 だが正直言って、この中では一番護衛に最適。そう、ケット・シーにすら劣ると認めよう。多分的確に逃げ回れるのはコイツだけだ。


「《変化の杖》方式よ。《変化の杖》は偽の肉体を産み出し、本物の体を杖の中に封じて偽の肉体を遠隔操作するという呪具。

 つまり、ピオーネを呪具の中で待機させて、あなたが逃げ回れば解決する!」


「「「『ぉおお~っ!!!』」」」

「あれ?ひょっとしてあたしが要らない子?」

 召喚獣達の歓声の中で、ピオーネが首を捻る。


「まあ呪具の中で戦況の把握や援護(えんご)は普通なら出来ないけど、そこは契約で何とかなるわ。ピオーネが引っ込んでいる間はあなたが逃げ回る事になるから、あなたが付けていてもおかしくない呪具を用意なさい。

 魔獣使いなら多少の防具はおかしくないしね。」


 召喚獣は身も蓋も無いが死者、生前に使った事の無い装備が扱えるようにはならないが、魔獣使いは生きた幻獣を従える。

 死んだら終わりの魔獣使い最大の利点は、呪具による強化と対象の成長だ。


「あ、うん。頑張る。首輪に鈴とかで良いかな?」

「その辺はあなた次第よ。要は呪具の中で周囲を把握する目と、その中から呪文を行使出来れば、後はあなたの【タートルキングの籠手】で充分援護出来るわ。」

「な、なるほど!」


 呪具が破壊されたら契約は終わり、ではグラトニーが困る。

 彼女に関してはこれ以上を求めても無駄だ。諦めよう。これ以上は只の賭けだ。


(これで正式にあたしも〔血の従者〕かぁ。)

「契約に関する諸々はあなた達にも教えておくわ。

 但しこれを召喚獣であるあなた達が他の誰かに漏らす事は禁ずる。

 違反した際は主人の命を失う事と明確に定めるから、この件に関してはピオーネのメモ帳に徹しなさい。」

「あれ?やっぱりあたしをオマケ扱いしてない?」




「という訳でレイリース。彼女があなたの護衛となるから、今後はなるべく一緒に行動を取るようにしなさい。加減は任せるから。」

「何が?!」

 作戦会議と言う名の方針説明会。学園内の建物を動かしますw

 教師達にとっても六人の魔女達が現れた事でダーククロウへの信頼は大分揺らいでます。のでグラトニーが言った事も否定出来ず、様子見しか出来ない者達が殆ど。


 そして未知との遭遇w

 ピオーネが予想以上に戦力にならない理由に漸く得心がいったグラトニーですw


 変化の杖方式は変化体に憑依する形で動くので、意識は呪具内に有りません。意識が外部に有るので、回復は出来ませんが魔力は使えます。


 収納系呪具は物理法則や容量を増やすために外界から独立させるので、空間的な断絶状態にあり、互いが干渉出来るほど質が悪い呪具となります。


 ドームハウス方式は呪具を用いて外界の様子を把握出来ますが、最小サイズが水晶玉になっているから可能な裏技です。外部と繋がれる術も天文学系列のみ。


 なので変化体という五感の無い呪具に憑依出来る力を与えよう、と言うのが今回の契約になります。道具を核に出来る霊体を与えよう、と解釈しても良いでしょう。

 判断は召喚獣達に任せろw君には助言を活かせないよw

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