第四章 運命の開幕 01.最後の冬季休暇
あの後一日休息を取って、改めて〔旧居住区〕の探索をするかと提案をしたが、その気力があるのはグラトニーとアヴァロンだけだった。
結局そのまま休息後に帰宅の運びとなり、グラトニーは探求者寮にある現自宅な結界砦《地獄門》へと帰還した。
ジュリアン達には後は新学期まで呼び出す心算は無いと伝えてある。
サンドライトも特に咎めてはいない。グラトニーから見れば元々ジュリアン寄りの少女であり、準幹部でありながら積極的には動かなかった。
今更本気で味方と思う訳も無いし、ジュリアン達の監視を条件にその自由を許した相手でもある。遠からず殺す事もあるだろう。
ジュリアンと戦った事で現在の問題点も分かった。結界呪具は現状では火力不足で付け焼刃にしかならないだろう。
(いっそ<静寂>の呪詛を積極的に戦術に組み込む事を考えましょうか。)
次に全力を出す時は学園長か本命、盲目の魔女を討つ時だ。可能であれば先に学園長を討ち取りたいが、確実な事は言えない。
どの道奥の手を開示した戦い方には慣れておく必要がある。
「とは言え、今は準備を進めないとね。」
グラトニーは今〔旧居住区〕の地下にある都市結界を形成する最深部、マナ溜りへの接触点。通称〔結界管理室〕にいた。
学園世界を始めとした様々な魔法世界には、必ず何処かに大量のマナが集まる場所〔マナ溜り〕が発生している。
様々な魔法生物が集まり写真の焼増しの様に複製され繁殖するその場所を、世間の多くの魔法種族達は危険地帯として恐れる反面。
膨大なマナを浴びた存在を呪具素材として重宝し、ダンジョンを設置して増える魔法生物に制限をかける等、付かず離れずの距離を保っていた。
しかしそれは近代の話。かつてや一部大賢者と呼ばれる大魔法使い達の間では、この〔旧居住区〕の様に小規模の〔マナ溜り〕に干渉し、都市結界等の防衛施設に活用される例も珍しくなかった。
そして禁忌戦役の折、旧居住区が居住区であった頃に都市結界を維持していた、まさに居住区の中枢とも言うべき一室がこの〔結界管理室〕だ。
つい最近までは完全に廃墟と化しておりこの部屋も荒れ放題だったが、此処に辿り着いて以来、グラトニーは折を見て幾度も来訪し、修繕と改造を決行。
今やこの〔結界管理室〕周辺は、グラトニーにとって事実上の隠し本拠地として要塞化を済ませていた。
(尤も。あくまで現在のであって、固執する様な場所でも無いんだけどね?)
此処はあくまで只のマナ溜りを利用した施設。〔学園世界〕の中核ではない。
魔法世界は人造の世界なのだから、〔学園世界〕にも中核となる施設が必ず何処かにある。となれば必然的にそれを管理していたのは。
(ダーククロウ。学園長になる前から〔秘密の森〕の邸宅に住み、学園の拡大に合わせて〔外周結界〕を建造した男。)
事実上の学園世界の支配者となっている男だ、世界の中核となる施設を放置している筈が無い。それらしい施設が知られていない時点で、既に中核はダーククロウの手中にあると考えるのが当然だろう。
であれば学園世界そのものがダーククロウの要塞であり、ダーククロウ討伐後に学園世界の中核を放置した場合、学園が再び敵の砦となる恐れがある。
何より先手を打って中核を抑えられれば、ダーククロウの力を実質弱体化させる事に等しい。勿論最も警戒されている場所だろうし、劇的とは限らないが。
そしてマナは魔法世界を循環する力の流れだ。言わば魔法世界の血管にも等しいという事は既に調べが付いている。
そう。〔学園世界〕の管理施設は、必然的にマナ溜りの何処かであり、マナ溜りに干渉出来る施設に限られるのだ。
それらを探すなら、同じマナ溜りに干渉出来るこの〔結界管理室〕こそが最適であり、同時に学園世界の中核施設を抑えられたなら不要になる場所だ。
(回せる労力には限りがあるんだから、その時はセーフハウスにすれば良い。)
結界を最深部周りだけ最優先で修復し、更にマナ溜りからの侵入を遮る結界を別に追加した。一応可能な範囲で隠蔽術式も施してある。
この辺は大部分が魔女達の呪具に頼っているが、マナ溜りに干渉する結界など、普通に生きてて関わる機会も無い。実は彼女達の方が乗り気だったくらいだ。
後、若干ながらマナを利用出来る様になったので、《灼熱球》と《雷雲球》という呪具を作成し、結界を通して太陽光と雷雲の電力を蓄積している。
こちらはまあ、結界のオマケ程度なので決戦に間に合うかは微妙な線だ。あくまで余力の再利用で在り、他のマナ溜り捜索の間の暇潰しに作ったに過ぎない。
(ジュリアンは軽い気持ちでダーククロウの罠を確認して貰えれば程度の気持ちで手渡したんだろうけど、あの地図が見られたのは僥倖ね。)
【賢者の石】で表示された地図には〔影世界〕が表示され、学園地下に隠しダンジョン〔学園地下迷宮〕が記載されていた。
〔影世界〕には地下世界が存在していなかった。代わりの様に〔旧校舎〕が配置されていた。どうやらドームハウス等とは根本的に違ったらしい。
一方で〔学園島〕の地下全てを包む様な長大なそれは、広く薄く、しかし中心部を避ける様に広がっていた。
であれば何が、空白部分に拡がっているのか。
(ビンゴ。コレ〔学園迷宮〕はマナ溜りを遮らない構造になっているわね。)
例の戦場は元々観察用だ。ジュリアンに気付かれない様に幾つもの『撮影球』を隠していた。
よってグラトニーはあの時撮影出来た地図の空白地点を中心に、〔旧居住区〕のマナ溜りの中から観測呪具を送り込んで調査を進めていたのだが。
「小規模のマナ溜りは無視して良いわね。どうやら例の初心者向けのダンジョンと繋がっている様だし。」
問題は〔旧学園長邸〕と〔現邸宅塔〕、そして〔学園校舎〕にある。
(校舎がマナの影響が少ない土地に建てられたのも、昔の学園長がマナ溜りを利用したのも理解出来る。なら新しい〔現邸宅塔〕はマナ溜りに無いのかしら?)
〔学園世界〕最大のマナ溜りは〔旧居住区〕一つだけの様だ。禁忌を封印してる事実を隠すために移住したのは分かる。だが現在の〔学園長邸宅塔〕は小規模すらマナ溜りを使っていない。まるで不要と言わんばかりだ。
「禁忌封印にマナ溜りを使っているから、な訳は無いわよねぇ。
マナ溜りは〔学園世界〕の維持に必要だもの。他に封じる必要が出来たからって守りを浅くして良い訳じゃない。
マナ溜りの位置が変わっていないのに、何故邸宅を他所に移すのかしら?」
禁忌の魂が他に残っている事を知っていた?別におかしくはない。
(禁忌の魂より重要な何かを移した?
いや、禁忌の魂が最重要拠点の傍にしか封じられなかった?)
「ねぇ鏡の。マナ溜りの外から都市結界に干渉する手段って作れるかしら。」
『それは……時間を掛ければ可能かと思いますが。
今からは現実的では無いと思われますが?』
通信越しのラビリスは言外に決戦に間に合わないと示唆したのだろう。
だが時間があれば可能になるのか。
「時間が百年単位であれば可能なのね?
方法は、塔を建てるだけで可能になる?」
『ッ!……いえ、直線で呪具を通すか、洞窟を繋げるか。
塔だけなら魔力を直接繋げるしかありません。』
グラトニーの問いの意味が分かったらしい。〔邸宅塔〕だけなら基盤を伸ばす以上の物しか出来ないという意味だろう。
「なら〔外壁結界〕を用いたら?何処まで可能になるかしら。」
『最低でも他のダンジョンがあるなら無理です。他のマナ溜りと混線します。
他のマナ溜りを避け……いえ。やはり線を繋がないと無理ですね。
出力に耐え得る術式が足らないでしょう。最低でも円か、三角が欲しいです。』
マナ溜りを制御するには膨大な出力に耐え得る術式が必要か。
「なら〔校舎〕の一部、特に地下部分と〔邸宅塔〕と〔旧邸宅〕があれば、地中の何処かに制御基盤を移す事は可能になるのかしら?」
通信越しに息を飲む気配がする。そう、十六年前にそれら全てが一新された。
『……恐らく出来ます。円で繋ぐなら、内側の何処かに。
三角形なら中心付近に。』
「成程。成程。となると学園内にあるマナ溜りの位置を踏まえれば、三角形以外に可能性は無いわね。」
『……地中に穴を掘った可能性は薄いかと。
ある程度距離と出力に比例するので、小部屋サイズでは不可能です。』
「なら〔邸宅塔〕の複製を異世界に作った場合はどうかしら?」
『!……可能、でしょう。
複製を術式の基盤に据えて、制御室だけ現物を作って複製に設置すれば、数年で何とかなると思います。〔邸宅塔〕の破壊が術式の崩壊に繋がりますが。』
「その場合、制御室が〔旧邸宅〕の地下に出現させる形なら。」
『全ての問題点は、解決するかと思われます。』
流石は結界の専門家。こちらの意図を全て察してくれる。
「《複合結界》はマナ溜りの影響を遮断出来る方が望ましいわね。
他の魔女達にも伝えておきましょうか。」
(そろそろ尻尾が見えて来たわよ?学園長ダーククロウ。)
◇◆◇◆◇◆◇◆
幽霊は呪詛を纏い、浄化能力のあるマナが弱点となる。
だが実は《召喚駒》に封じられた幽霊ならマナを動力に据える事が出来る。
これは実は《召喚駒》に宿す事で幻獣化するからで、ダンジョンで魔法生物が複製されるのと同じ原理だったりする。
なので〔結界管理室〕を幽霊城で囲み、中の一室として取り込むのも《城》の特性を生かせば不可能では無く。
同じく《ゴーストキング》他、多数の亡霊達を警備に用いるのも決して不思議な話では無い。むしろ自力召喚し続けるより安易な方法ですらあった。
《亡霊》達の特性上マナ弱点は代わり無いが、少なくとも《駒》を通して流れるマナで、召喚対象がダメージを受ける事は無い。
いざとなったら《駒》として取り外せ、普段はマナ溜りのマナで維持されている極めて負担の少ない防衛戦力だ。
だが呪詛を払うのにマナが有効なのは、グラトニー相手でも同じだ。
なのでゴーストキャッスルの外、〔管理室〕の上階にはマナで満たした訓練用の広場を用意している。尚、上下階共に物理的な出入り口は無い。
どちらもラビリスの秘蔵呪具《境界魔鏡》で出入りしているからだ。
一歩間違えれば酸欠になりそうだが、結界で環境を整えているのでその心配はないのだと、既に幾度と無く繰り返す特訓で効果を実感している。
本来であれば常人でも気分が悪くなる程にマナが満たされた一室で、グラトニーは更なる呪詛の制御に磨きをかける。
マナが濃過ぎると術式が乱れ、余程の強力な術式を用いない限り外部から監視が出来ない。それほどの術式が干渉すれば相手にも一発で伝わってしまう。
なのでこの訓練室であれば、周囲を気にせず存分に本気が試せるのだ。
(回復魔法『オーラ』の修得が驚く程役に立っているわね。)
魔法世界で怪我を治す手段は、実の所多くない。
回復魔法等無くとも、不死術式を修得してしまえば魔力任せで自力回復が出来るからだ。ぶっちゃけ魔法薬以外の回復手段をグラトニーは知らなかった。
なので学生は等しく全て魔法使い未満。あくまで見習いでしかなく、不死術式を習得した卒業生こそが一人前、真の魔法世界の住民となる。
だからこそ『オーラ』は廃れてしまったのだろう。
「けれど習得難易度が高いだけあって、マナを遮断しながら呪詛を使うコツなんてこの魔法抜きには体得出来なかったでしょうね。」
(『憤怒』の制御にはイメージが重要。そういう意味では変化系の術と相性が良いのだけど、強度と柔軟性の両立が難しいわね。)
であれば『憤怒』を使った状態を活かせる変化の開発が望ましい。『化け猫化』で爪や牙を『憤怒』で満たすのは可能だが、正直戦い易くはない。
だが<仮面>の『幻想生物化』は消耗の大きさに比例する成果こそあるものの、最も効率が良い戦い方は肉弾戦になってしまう。
(なら、仮面の変化で『化け猫』に変化した場合は?)
「う~~~ん。単に変化効率が悪いだけかぁ……。」
不意に閃く。今の『仮面猫』状態でも【猫眼甲】や《猫爪装衣》の『チャクラ』達は顔を出せるのだろうか。出せた。
(なら異形の猫は仮面猫を経由すれば可能になる?)
少なくとも猫状態なら変化負担は減る。色々と試してみる価値はあるだろう。
推理回と修行回です。
場所は間章三を参照、まあ要はマナ溜りを通して学園を調査して、色々見当を付けました。
Q.マナ酔いしそうな場所で呪詛使いが特訓するってどんな感じ?
A.炎天下直射日光下での日光耐性のない吸血鬼w
主人公は特訓の末マナ耐性を獲得しましたwので、既に普通に特訓するだけならもう痛みも感じません。干渉を弾いているので。




