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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第六部 黄金の夜明け団編
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第三章 分岐点 01.二つの戦場

「な、何よこれ……。一体何が起きたって言うの?」

 突然移り変わった視界に、パトリシアは状況が理解出来ず辺りを見回す。


 そこは水晶の(おり)とも言うべき、視界一面が水晶で囲まれた世界だった。

 床一面は一枚岩の様な半透明の水晶版。傷一つ無い平面に、瓦礫(がれき)の様に水晶が生えて立ち並び、程々に広い障害物を形成している。


 周囲は淡く煌々(こうこう)と照らされて、全ての水晶が朧気(おぼろげ)に光を放つ。

 夕闇よりは明るいが、昼間だった先程と比べれば辺りは薄暗くすらあり、しかし迷路に閉じ込められたと言うには少しばかり周りが開け過ぎていた。


「そ、そんな……。まさか、これは……。」

 見覚えのある景色、体に刻まれた恐怖の記憶にサンドライトが身を震わせる。


「此処に入った事が無いのはパトリシアとピオーネだけだったわよね?

 他の二人は久しぶりの光景じゃ無いかしら?」

 少し離れた水晶を背にして口を開いたのは、表情に緊張感溢れるレイリースだ。

 傍らにはアヴァロンがいつも以上に笑みを浮かべて四人の様子を伺っている。


「レイリース様、一体どうしたんですか?」

「下がりなさい!異変が起きたなら先ず警戒しなさい!」


 無造作に駆け寄ろうとしたピオーネにレイリースが怒鳴り、びくりと肩を(すく)ませ立ち止まるピオーネ。

 その足元にアヴァロンの【液体伸縮鎌】が伸びると、地面を切り払って一同の間に境界線を引く。


「最初にルールを説明するけど、そこから一人でも前に出たら問答無用ね~。」

「ちょ!一体どういう積もりよ!」

 思わず前に踏み出しかけたパトリシアをサンドライトが全身でしがみ付く。


「待ってパトリシア!今は駄目!向こうは絶対本気だから!」

 青褪めた顔色からただならぬ気配を感じて足を止め、アヴァロンが満足げに頷き刃を漂わせたまま手元に戻す。


「私達の役目はジュリアン側に付くあなた達の足止めよ。

 私達はグラトニー側。そしてグラトニーはこう言っていたわ。

 『預言に必須なのは運命の子だけ、足手纏いは殺しても構わないから、本番の前に全力の出し方に慣れておきなさい。』ってね。」


「そ、そんな!わたしは何も言われてません!」

「ああ。『サンドライトには今回はジュリアン側で良いから全力を出せ』って言っとくよう伝言受けてるよ~。」


 慌てるサンドライトにアヴァロンが無情に告げ、絶句する。

(これ見せしめ、いや違う。多分わたしにとってのテストだ。)

 本気で歯向かう前に、どの程度戦えるのかを見せてみろという意味だろう。

 レイリースは兎も角、アヴァロンの方には戦えない様なら殺す様に言い含められているのだろう。アヴァロンなら嬉々として引き受けた筈だ。


「待ってよ!それならあたしはレイリース様の方に!」

「真面目に考えなさい!

 グラトニーに付くって事は、淑女の会と殺し合いだってあり得るのよ!

 私はもうグラトニーと契約をしている!もう引き返せないの!」


「「「なっ!」」」

 契約の意味を知る三人が驚き、レイリースの本気を悟る。


 徒ならぬ様子にピオーネも冗談では無いと理解するが。

「なら、尚の事あたしはレイリース様の方に付くよ!

 だってあたしはレイリース様の味方になりたいからここに居るんだもん。」

「……本気なの?冗談抜きに、私達は魔女や淑女の会とも殺し合うのよ?」

 震える声で拒もうとするレイリースだが。


「本気だよ。必要ならその契約ってのもする。だってレイリース様、ううん。

 レイリースが震えてるのに冗談で言える訳無いじゃん。」

「っ!」


 迷わず線を越えて踏み出すピオーネに、アヴァロンは面白そうに頷く。

「じゃあ、これで丁度三対三かな~?

 あ、ここでの戦いは外に漏れないから好きなだけ奥の手使っていいよ?

 但し出し惜しみするようなら遠慮無く殺すね。模擬戦で済むのは全力を出して負けた場合だけだから~。」


「おいおいマジで言ってんのかよ。そっち武闘派中心じゃん。」

 冷汗流すポートガスの抗議にもアヴァロンは顔色一つ変えない。


「そうだね~。でも魔女が遠慮すると思う?

 後、今回に限っては君達を殺してもグラトニーが後を受け持ってくれるって。

 グラトニーのそういうトコ、私だ~い好き!」

 しししと笑うアヴァロンの顔に、同調する様に笑う口が二つ三つと増える。


「……覚悟を決めますよ。此処、わたしがグラトニーと契約した結界です。

 多分グラトニーの奥の手の一つですから。」

「そう。分かったわ、私も足手纏い扱いされて殺される積りは無いもの。」

「や~れやれ。俺本当に攻撃苦手なんだぜ?」

「あなただって何も用意してない訳じゃ無いでしょう?行くわよ。」


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 巨大化した四つの柱が四角い邸宅の外側に立ち並び、二人のいる邸宅を包囲して結界が起動する。更に津波の様な呪符がグラトニーの周囲を飛び交い、万を超えた呪符がシンプルな遮断結界を変質させ、容易には出られぬ頑強な檻と化す。

 『四柱結界』。三学年で作製する防御学の防諜、侵入阻止結界だ。


 使い捨ての呪具だがシンプルな分、解除は純粋な魔力勝負となる。

 ジュリアンも結界術が三学年の授業で出て来る事は既に知っているが、予習程度で理解出来るほど簡単な術では無い事も理解していた。


「ま、待て!待ってくれ!急に何故だ!理由を教えてくれ!」

(つまり、グラトニーは隠していた手札を明かしているって事だ。)

 グラトニーは常に手の内の一部を隠し、人前で全力を出したがらない。決して、何の意味も無く殺し合いなどと言い出す性格では無いのだ。


 分かっているからこそ、ジュリアンも剣を構えながら説得する。

 一方で呪符が完全に結界と同化する頃には、既に見慣れた人形達がグラトニーを囲み、新たに十体の【騎士人形】が立ちはだかった。


「あらあら。言われないと分からない?

 そうかもね。思えば私達、今迄お互いの事を聞かなかったものねぇ。」

「っ!」

 敢えて避けていた話題を口にされ、ジュリアン口籠る。


「さぁ『抉れ』。そして『霧よ溢れよ』。

 でもそれも当然じゃない?私達はいつ決裂してもおかしくなかった。

 踏み込み過ぎれば必ず衝突する。それが分かっていたから踏み込まなかった。」


 【卍兵】の刃が旋回し、小手調べの《飛杭》と《妖刀》が襲い掛かり。数枚の呪符が霧と化して結界の檻を満たし始める。


「た、確かに俺は今迄君の事を聞かなかった。

 だけどそれは俺達の間の(へだ)たりが、常識が違い過ぎたからだ。昔なら決裂する他無くても、今は違う筈だ!」


 背後や死角を狙いながら正面からも(ひるがえ)る刃を弾き、油断すると自らの体を断ち切りそうになる剣筋を強く力んで抑え込む。


「何が違うと言うの?何も違わないわ。

 あなたは運命に従う『運命の子』。私はあなたを殺す『究極の魔女』!

 あなたが運命を受け入れたからと言って、私が従う必要は無い!」


 グラトニーが【騎士人形】達の盾を呪符で補強し、剣に炎を纏わせ狙いを定めた対象を襲い続ける、『標的戦闘』を命じて前進させる。


「違う!俺はそんな運命を受け入れちゃいない!」

「なら学園長から受け取った物は何?!魔女を殺すための切り札でしょう!」


 グラトニーの指し示す言葉の意味を悟り、ジュリアンは動揺して横っ腹を切り裂かれる。重傷では無いが黙って止まる出血では無い。

 しかしジュリアンは手当より、説得する方を選ぶ。


「何故決めつける!俺だって君を殺す運命なんか受け入れていない!」

「嘘よ!あなたは一人黙って、〔地下墓地〕から〔影世界〕に入った!」


 禁忌の封印があった場所に〔影世界〕側から入れば何があるのか。

 当初は〔影世界〕側に禁忌の封印があるのかと思ったが、それはダーククロウの口から否定された。無論、全て真に受けた訳じゃない。

 だが、ならば何があるのか。


「禁忌の魔女に今のままのあなたが勝てるとでも言うの?

 そんな訳が無い!今のあなたでは只の魔女にすら一人では勝てない!」


 六体の【騎士人形】達の繰り出す剣戟を『怪力化』の呪文を唱えたジュリアンが圧倒する。ゴーレムの自律思考では反応出来ているだけでも上等だろう。

 しかし。【騎士人形】はゴーレムではあるが、発動具でもある。


「な!」

 人形の股下をすり抜けた《飛刀》と同時、他の【騎士人形】を踏み台に頭上から唐竹割りを繰り出す挟み撃ち。いや、左右からも盾が迫る。

 【騎士人形】は、グラトニーが直接操作出来るゴーレムなのだ。

 咄嗟(とっさ)に上下を弧月の斬撃が斬り弾き、隙間に飛び込んで危うく(かわ)す。


「『運命の時』が迫っている!今のあなたでも魔女を殺せる力、手段!」

 六体が攻め、押し返した隙間を二体が埋め。残り二体が奇襲に対処する。

 【騎士人形】が堅実に動くなら、《飛杭》が、《妖刀》が隙を作る。


(くそ!このままじゃ会話する余裕も無くなる!)

 そこで気付いた。

 巨剣による力尽くの薙ぎ払い。質量差でまとめて【騎士人形】達を弾き飛ばし。


「【賢者の石】だよ。隠れている筈の魔女の現在地が全て観測出来る。

 君の位置も含めて、ね。」

 思わずグラトニーの動きが止まる。


 本気?本当なら何故そこまで教えると言うのか。

「確かに俺達は話し合いが足りなかった。

 俺は今まで、君がごく当たり前に、君を出し抜いた事を責めているのだと思っていたよ。」


 ジュリアンが、ひたとグラトニーを見据える。

「裏切りを責めたいのなら、口元の笑みは隠すべきだ。

 グラトニー。君は最初から俺を利用出来るかどうかしか興味が無かった。」


「……正解よ。私はあなたの力を奪うために誘き出した。」

 取り繕った怒りの顔を捨て、満面の笑顔で仕切り直す。

 アヴァロンさんは、楽しい時に顔が増えますw一つの顔じゃ喜びが表現し切れないから仕方がないよねw!

 グラトニーはジュリアン周りに殺して問題のある人間は居ないという認識なので、ジュリアンを本気にさせるために数人死なすのは有りだと思ってます。

 グラトニー視点だと仲間減らした方がジュリアンは強い。でも最低限足手纏いにならない実力があるならこれ以上は言わない心算で仕掛けてます。

 なので甘い考えを持つ者は此処で敵味方問わず退場させる心算。ホラ、審査員にアヴァロン以上の人材はいませんよね?

 傍観者が好みで参加者を蹴落として良いだなんて、た~の~し~い~~~w

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