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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第六部 黄金の夜明け団編
129/211

03.樹海祭壇

「さ、ここからが本番だと思いなさい。」

 現れた階段を一同と共に下り、意外にもシンプルな一直線の通路を進む。


 どうやら本当にこちらを見破られる想定はしていないらしい。後ろを振り返れば歯車が露出しており、整備用の諸々が見て取れる。

 そこそこ長い通路の先に比較的強固な鍵があるが。


「流石にちょっとこれは手間ねぇ。」

 ここに来てから、とてもシンプルに面倒な封印だった。扉自体は鍵一つで開くのだが、封印としてみると十二桁の数字を並べ替えて鍵穴を一致させる術式だ。

 時間を掛けて観察すれば暗算で読み解けなくは無いのだが。


「なら、この鍵は使えないか?」

「【イリアステルの鍵】、だったかしら。」

 パトリシアの問いに頷くジュリアンは何かを覚悟したような表情で口を固く結んでおり、恐らくはグラトニーと同じく、使えば気付かれる可能性も理解している。


(つまり、長々と時間を掛けても同じという訳ね。)

 正直、既に先程の扉を開けた時点で気付かれている恐れはある。浴室の仕掛けも手前は兎も角、奥にエーテルが使われていなかった訳じゃない。


 頷き返して場所を譲ると、重厚な扉はあっさりと開いた。

 続く部屋はシンプルに四角く白い、魔法で補強された石造りの広間で在り。


 中央には巨大な四足の鉤爪を備えた魔法生物が鎮座(ちんざ)し、一同を睨み付ける。


 まるで巨人の様な巨体は生物の様でいて、金属質の光沢を放つ体毛に包まれ一種異様な体皮に加えて、犬とも猫とも分からぬ肉食獣の頭を持ち合わせた。


「バンダースナッチ……。キメラとの違いは継ぎ接ぎじゃ無くて溶け合わせ。

 複数の魔物を用いた完全にオリジナルの魔法生物ね。」

 どうやら学園長は、番人として唯一無二の生命体を作り出したらしい。


 グラトニーが被る《碩学(せきがく)の冠》の『鑑定』術式が、能力不明なこの怪物の名を、魔法世界で何と呼ぶべきか伝えてくれる。


「グラトニー、この際だから俺達二人で前に出ないか?

 君は普段、共闘の練習なんてした事無いだろう。」

「ふむ。確かにね。

 いいわ。その申し出、受けましょうか。」


 ジュリアンが剣を抜いての提案に頷き、順次【耳目】を【卍兵】に交換し、《妖刀》と《飛杭》を二本ずつ浮かせる。

 『強欲』以外では【三彩腰帯】は対ジュリアン用、【古代鮫の骨包丁】は学園長用の奥の手になるので今回は未使用だ。


 【緑目の腕輪】は『生命探知』で使用中なので、今回は【猫眼甲】と【タートルキングの腕輪】を中心に戦う事にするか。

(この際ジュリアンが『化け猫化』を踏まえての提案かも見ておきましょうか。)

 後ろにもジュリアンが皆もそれで良いなと声をかけ、一同が後方で構える中。

 遂にこちらの様子を伺っていたバンダースナッチが動き出す。


「ッ『誇りを』!『金剛の獅子よ、金色の毛皮を、勇気で満たせ』!」

「『抉れ』!『牙剥け化け猫、鳴いて群成せ、嘘偽りで包み込め』!」


 ジュリアンが【浄化の盾】を展開しつつ『怪力化』の呪文を唱えながら走り出すが、バンダースナッチの速さは豹の様に早く、瞬く間に鉤爪を振るう。

 一方でグラトニーは【卍兵】の刃を回しながら『化け猫化』で同サイズに巨大化するが、ジュリアンの返す刃を躱す勢いでグラトニーの前に迫る。


「はっ!『刻め描爪』!」

 鼻で嗤いながら伸ばした両爪で囲む様に切り払いながら『猫爪』の呪文で追い込むが、一合爪を交えただけで飛び跳ね、後方へと飛び掛かる。


 援護の必要すら無くポートガスが『甲羅盾』の呪文で防いだところを、サンドライトが『砂塵刀』、パトリシアが『サメ盾』で手足を狙い撃つ。


 どうやら以前よりも少しはマシになったらしい。飛び跳ねた瞬間を空中で片足を伸ばして蹴り飛ばし、『変形剣』の呪文で大刀化させたジュリアンが切り払う。


 しかし四肢を硬質化したバンダースナッチがその一撃を受け止め、逆に上から圧し潰さんと地面に足を付いて覆い被さり。


「はっ!そのまま『抉れ』ろ!」

 背中を加速した【卍兵】に切り裂かれながら強引に離脱。一撃離脱を試みるも、立体的なグラトニーの視界を振り切るには至らない。


 ピオーネはヒドラの様な大型召喚獣を避け、『影鴉』や『ハンマーフィッシュ』等を文字通り飛ばして、着実に手傷を負わせていた。


 ポートガスは相変わらず守り一辺倒だが、呪具を用いて牽制(けんせい)をしている。


 体格で勝てず、速さで辛うじて勝るも、伸縮自在の攻撃手段を持つジュリアンとグラトニーが退路を狙い撃ち、逃亡方向を制限し。


 守りを破れずに一方的に手傷を増やす中、バンダースナッチが全身から棘の様に無数の曲角を突き出し、ジュリアンを弾き飛ばした。


「くそ!油断したか!」

 容易く受け身を取り立て直すジュリアンだったが、バンダースナッチの角先に集まる魔力を見て即座に盾を構え。


「あなた達は狙いなさい!

 『甲羅の盾よ、総身に宿れ、檻となり小屋となれ』!」

 グラトニーが一同を背にしてジュリアン以外を包む『甲羅球』の呪文を賽の形で展開。殆ど同時に全員を無数の放電が襲った。


「『眠れる砂土竜、爪を砥げ、轟き群れて突き進め』!」

「『罪悪の梟首よ、夜啼きの叫び、悔悟(かいご)の鉤爪を振るえ』!」

「つ、『繋げよ雪娘、凍らせ凍れ、降らせて貫け』!」


 遮断された放電が途切れた瞬間をサンドライトの『砂嵐』が砂塵で傷口を抉り、レイリースの『梟爪』とワンテンポ遅れたパトリシアの『氷柱』が時間差で飛来し直撃する。


 巨体故に弾き飛ばすまでには行かなかったが、バンダースナッチも硬質化が間に合わず(ひざ)を付き。

 突如首を伸ばした巨大な頭部が、誰よりも早くジュリアンに大口を開く。


「っ危ない!」


「『暴虐なる怪童、無双の鉄槌、一刀を以て叩き切れ』ッ!!」

 が。すり抜ける様体を沈めて喉元に巨大剣を添え、『大斬撃』の呪文と共に一閃してその首を斬り飛ばした。


「生憎、グラトニーの二番煎じにしか見えないんでね。」

 ひやりとした周りとは裏腹に、ジュリアンは予想通りと言わんばかりにあっさり胴体の方も両断した。


(へぇ。流石にこれだけの人数が居るとそこそこ戦える様になるのね。)

 既に肉体は力が抜けて軽く潰れていたが、念の為猫爪を頭に刺して術を解く。


 ぶっつけ本番の割に、思った以上に呼吸を合わせる事が出来た。

 集団戦に関しては一日の長がありそうだと、グラトニーも評価を上方修正する。


 少なくとも、ジュリアンと戦う事になったら優先して排除すべきな程度には邪魔だろう。対策を立てないで良い戦力では無い。

(全く以って頭が痛いわね。魔女以外の準戦力で彼らに対抗するなんて。)


 それはさて置き、今はこの先だ。

「――ところで、本当にコレの素材、私一人で独占して良いのね?」

 学園長お手製の魔法生物の素材となれば、相当価値がありそうだと思ったのだがジュリアン達の反応は真逆と言って良かった。


「独占も何も、ゴーレムだって魔獣学を専攻した三学年が卒業課題に造る物だぞ?

 その発展版、しかも新種の魔法生物なんてオレ達の手に負えないって。」

「まあ普通に腐らせるか、何か失敗して大怪我する未来しか見えないわね……。」

 バンダースナッチに何かしらの罠があるだろうと、全員の意見が一致していた。


「正直グラトニーの『暴食』が一番安全に処理出来るだろうし、始末を任せられるなら是非お願いしたいよなぁ……。」

 そういう事ならと有り難く貰っておく。


 実際いざと言う時は丸投げ出来るゴーレムのエキスパートもいる事だ。核らしき部分は破壊済みだが、破片含めて回収して奥の扉に進む。


(しかし本当に此処へ来るのは想定していなさそうね。

 今のもジュリアンがいる事を考えれば本当に危険生物だったわ。)


 結果だけ見れば掠り傷程度の完勝かも知れないが、実際は一撃まともに喰らえば即死もあり得る危険な相手だった。

 当りどころが悪ければ治療の余地も無く終わっただろう。絶対に訓練用の敵では有り得ない。


 バンダースナッチの後ろには正式な扉らしきものは無いが、丁寧に迷彩して隠された壁を動かす封印術式が備わっていた。

 ジュリアンが【イリアステルの鍵】で触れると術式が浮かび上がり、鍵を差し込むべき封印の核が露わになる。

 どうやらこの【鍵】は封印の解除も可能な様だ。


 鍵が開く際に若干のエーテルが吸われるようだが、殆ど一呼吸程度で術式が開き壁が真横にズレていく。


 奥には、甲冑を来た大男と僕らしき騎士ゴーレムが十体鎮座する、台座の丁度()にあたる位置に一同は姿を現した。


 扉が開き切ると、ゴーレム達は揃ってこちらを向き、武器を構える。

「……どうやら、向こうが正規ルートだった様ね。」

 ゴーレム達から見て正面だった方角には、封印の無い扉が閉じていた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


「……?」

「くそ!危うく連戦になるところだった!」

 装備の再確認だけは済ませていたので、ジュリアン達は即座に戦闘の構えを取るが、ふとグラトニーが何かに疑問を持ち動こうとしないのに気付いた。


「どうした?何かあるのか」

「……それを確認するわ。取り敢えず騎士三体はこっちが受け持つ。

 それ以外はそっちに任せるわ。」

「ちょ!残り多くない?……ああもう!」


 グラトニーが自作のゴーレム兵《騎士人形》を取り出し、反論も聞かずに端から三体へと向かわせて沈黙を保つ。

 抗議を諦めたパトリシもア舌打ちしながら、杖を構えて覚悟を決める。


「『現身よ影よ、固めて凍れ、器に宿り命を戻せ』、

 『ヒドラ』!『オクトパスタ』!こっちは二体受け持つよ!」

「大物はジュリアンに任せて、全員で残りのゴーレムに当たるわよ。

 遠距離攻撃主体の私達が、態々分断されてあげる必要は無いわ。」


 レイリースが本来魔法使いは空間を広く取り、箒で飛び回りながら戦うのが普通だと一同を叱責(しっせき)する。ピオーネは召喚獣任せでも問題無いらしい。


「そういや、此処は閉所だったな!

 『伸びろ石壁、堅く防げ、大きく拡がれ』!」


 ポートガスが魔石を用いて石畳の上で石壁の呪文を唱えて騎士ゴーレム達の動きを制限する。

 そう言えば『石壁』は『伸びろ』の場合、維持に魔石を消費出来るんだったか。


(成程。地面に土が無くても壁が維持出来ると考えれば、コストを踏まえても使う価値がある術なのね。)

 この手の小技は今迄必要なかったが、不要と断じるには早かったようだ。


 グラトニーが冷静に周囲を観察していられるのは、《騎士人形》がある程度自律行動を取れる、傀儡子の魔女クリスに教鞭を受けた自作ゴーレムだからだ。


 並のゴーレムでは自律思考が出来ず戦闘行動が難しい物も多いが、グラトニーは『ナイトゴーストの結晶』を呪詛『強欲』で複製し結晶化した『黒騎士結晶』を核に用いる事で、二流程度の騎士と同等の戦闘力の再現に成功した。


 近付く対象全てを攻撃する『範囲防衛』と人形呪具と同じ要領で標的を視認指定する『標的戦闘』の二パターンを選べ、いざとなったら思考を止めて人形としても操れるのだが。


(明らかに弱過ぎる……。さっきの方が遥かに強かったわね。)

 正直《騎士人形》は発動具素材であるナイトゴーストと同程度、要は物理的な鎧を持つ亡霊騎士でしかない。

 敵の騎士ゴーレムは明らかに《騎士人形》と五分か、若干劣勢な程だ。


 流石にクリス並のゴーレムを作れとは言わないが、ダーククロウならもっと強いゴーレムを量産出来る筈。

 それこそジュリアンが直接斬り合ってるくらいのゴーレムが揃えられるだろう。


(いえ。こっちがジュリアン達を想定した難易度だったのかしら?)

 となればグラトニー抜きで突入が前提だったのか。ならばジュリアンにだけ見せる予定の何かがあると想像出来る訳で。


「さて。こっちは終わった訳だけど。」

 《騎士人形》は他の人形呪具以上に破損が確実視される。なので耐久度より優先して、魔力を注ぐ事で修復出来る様に加工してある。

 待っている間に殆どを修復しつつ、他の連中の観察に戻ると、ジュリアンが順当に倒す頃には大体の敵が倒されていた。


 そもそも量産側の騎士ゴーレムでは、ピオーネの召喚獣相手に荷が勝ち過ぎる。

 『石壁』の呪文を破壊するには火力不足だし、分断されれば箒で飛び回るパトリシアやサンドライトを捕らえる事は不可能。


 レイリースは意外にも《滑走靴》という自作呪具を用いて走り回っていた。

 これは見た目こそ只の厚底靴だが、授業で習った洞窟などを歩行するための呪具《滑らない靴》を応用したオリジナルの様だ。


 《滑らない靴》は微量の魔力に反応する『土の魔石』で地面に吸着するという品で、コツを掴めば壁歩きも可能となる名前とは裏腹の秀作だ。


 だがレイリースの《滑走靴》はその逆、魔力を流した間だけ爪先の方角に滑るという代物で、石畳だろうと砂利道だろうとローラーシューズの様に加速出来る。

 流石に厚底の半分以上の凹凸は無理の様だが、閉所では箒で飛び回るよりも余程機敏に相手を振り切り、『梟爪』の餌食にしていた。


 時々ポートガスが彼女の胸に釣られ、サンドライトに肘打ちされていたが。


 因みにアヴァロンは、新発動具【ブロッケンの腕輪】を披露し、『霧の鳥獣』で熊を生み出してバックブリーカーで一体を砕き、今は一緒に横で観戦している。

 一応補足すると、普通そこまで自由な呪文ではない。

 結果だけ見れば、預言者寮組が大体半数を倒す大活躍だった訳か。


「それで、何が気になったんだ?」

「……多分、あと少し進めば確信が得られるわ。」

 ジュリアンも分かったと敢えて問い質さず頷き、甲冑は換金するとの事で適当に分ける。実際加工し直す手間もあるので、そこまで欲しくも無い。


 石壁も消えて見晴らしが良くなったので、台座の先にある大門を開いた。

 大門の中は濃厚なマナが溢れており、下へ下へと下る長い階段があった。

 全員が箒で進むのは難しい程に濃厚なマナは、下に進むほど強く魔力による抵抗を意識しないと気分が悪くなる程の濃さがあった。


 グラトニーに影響を与える程では無かったが、途中で幾度か折れ曲がった階段の果てに、再びの石で出来た大門を開くと。


 そこは一面の大空洞、地底洞窟の中だった。

 但し、通路と思しき一筋の石畳を除き、周囲は上下に連なる鍾乳洞。


 しかし何よりも人目を惹くのは、中央に鎮座する巨大な木の根、その束。

 びっしりと生い茂る根に絡まれ囲まれた、重々しい石造りの神殿だ。


 平面の天井を支える石柱の天井は土色で、石柱は植物の様な濃淡のある緑に白いヒビの様な円柱。神殿の扉すら石造りで複雑な紋様が一面に刻まれて。


「凄い……。これ、この空間全てのマナがあの神殿に集まっているって事……?」

 竜巻というよりは、神殿そのものが低地にある様に錯覚するほど渦を巻き、溢れ返る程にマナが注がれ続ける。

 マナだけ見れば、湖に空いた栓とその周りの様だ。

 恐らくはゴーグル越しであれば、グラトニーに近い光景が見えるのだろう。


「全く。誰の許しを得て此処へ入って来たのやら。」


 後ろから聞こえた声ではない。濃厚なマナの中でも【耳目】の瞳は背後を睨む。


 現れたのは天蓋(てんがい)、鍾乳石の影が塊の様に落ちて。

 紅蓮のローブ姿の優男風の容姿にトレードマークとも言える捻くれた木の枝に見える、骨の杖。

 邪悪なイケメン、見た目だけは甘いマスクの学園長ダーククロウが一同の正面に姿を現した。


「君達は今の状況が分かっているのかな。

 僕は君達にこのダンジョンの立ち入りを許可した覚えは無いんだか。」


 常とは違う、明らかな威圧的な態度。そしてその身に纏う魔力の圧。

 初めて見る学園長が取る戦いを辞さない態度に、ジュリアンを初めとした一同は一人残らず身を固くして各々の武器を握り締める。


「ふむ。取り敢えずこの場所を説明して。」


「マイペース過ぎやしないかい?

 君は僕の話を聞いていなかったのかな。」

「あら。此処はあなたの昔の屋敷でダンジョンとして解放していた場所の一部よ。

 閉鎖していないあなたに咎められる理由は無いわ。」


「……いや。君、封印を解いて入って来たよね?」

「封印を解くのは自己責任という許可なら得ていたわ。」

 流石にちょっと予想外だったのか、軽く絶句して額に手を当てる。


「いや。物事には限度があるよ。」

「散々好き勝手周りに罠を仕掛けておいて、裏を掻かれたから罠にかからない方が悪いは通らないわ。自分の日頃の言動と行動の責任よね。」


「……流石の僕もちょっと日頃の言動に後悔したよ。

 だがこの先は本当に不味いんでね。例え何と言われてもこの先は通せない。」


「ふむ。つまり力尽くで通る試練な訳ね。」

「ねぇホントちょっと待って?

 君此処に何があるか知ってて強行突破する気なの?」

「教えないから強行突破一択なんじゃない。何処に疑問の余地があるの?」


「………いや。君はもう少し常識を知ると良いよ?

 周りを見てれば自分が如何に非常識か、少しは分かるだろう?」


「あら、語るに落ちたわね。

 今探求者(シーカー)寮では『今ならギリセーフ』を合言葉に、違法呪具の試作品が日々増え続けているわよ?

 果たして私と魔法世界のあなた達、どちらが常識的かしら?」


 後ろでポートガスが噴き出し、何故か皆が無言で注目する。

 本人は違う!俺は無実だと叫ぶが、あれよあれよという間にその場で正座させられて呪符で出来た石を足に載せられて尋問されてる。

「…………んん?」



「……詰まり今、探求者(シーカー)寮で違法呪具が作られているのは事実な訳ね。」

 全員に一旦仕切り直しを懇願(こんがん)された。何故だろう?

 別に誰という主導者が居ないのが質が悪いと、思わずジュリアン達が頭を抱えて思い悩む。


「あの。因みに寮長は止めなかったの?」

「亀寮長?彼も今なら責任者は儂じゃないって呟きながら、妙にこそこそして防衛エリアに設置してたわよ?」


「ほ、ほう。つまり君は彼らにそれを許したのかね。」

「いえ?私は知らないわよ。

 だって魔法世界の違法呪具ってどんなものか分からないもの。」

 実際口を挟まないとしか言って無い訳だし。


 と思ったらジュリアンが劇的に反応した。

「わ、分かった!魔法世界の犯罪や違法呪具に関しては後で説明する!

 それより問題は探求者(シーカー)寮の現状だ!」


「た、多分皆で、半分意図的に曲解している気がするなぁ……なんて。」


「うわぁ…………。まさかこの僕が学生の暴走に頭を抱えるとは思わなかったよ。

 うん。ちょっと探求者(シーカー)寮の悪癖を魔法世界全体の常識にされると流石に困る。

 でもそれが普通じゃ無いってのは流石に分かってくれないかな?」


「?普通でしょう?力に溺れるか、はたまたルールか技術の違いよね?」

「…………えっと。つまり君には、全ての寮が同じに見えているとでも?」


「当然でしょ?

 純血だろうが正義だろうが、全員が破っても許されると思っているから、今の寮同士の衝突は起きているのよ?

 裏を掻くなら良いは、魔法世界の本音。文字通りの暗黙の了解じゃない。」


 まさかね、等と良く分からない疑問に何を今更と否定すると、そこかしこで胃を押さえる様によろめき、呻き声が上がり始める。

 まるで何か聞いてはいけない事を聞いて、苦痛に耐えられなくなった様だ。


「あら、精神攻撃?一体何n「「「いやお前だよっ!!!」」」。」

 ジュリアン達どころかダーククロウも声を揃えての抗議に、流石のグラトニーも予想外の事態が起きているのだと気付く。


「……いや。ゴメンそれ魔法世界の負の面だから。

 そこを常識と思われるとちょっとホントに何も言えなくなるんで勘弁して。」

 そ、そうか。先駆者(パイオニア)寮はルールに溺れているのかと、ジュリアンが床に両手を付きながら胃の辺りをさする。周りは耳を塞いだりと様々な悶え方だ。


「そ、そうだね。流石に僕も教育に悪いって言葉の意味を噛み締めたよ。

 と、兎に角此処は入って欲しくない場所なんだ。これだけじゃ引いてくれないのも理解した。少し気持ちを整理させて。」

 何故か(ひざ)を折っていたジュリアンが立ち直る中で、意見が一致したダーククロウも深呼吸をしながら額に手を当て、天井を見上げて仕切り直す。


「うん。簡単に話せる範囲で話すと、此処は禁忌の魂を封じた禁域なんだ。

 学生はどう足掻いても此処に入って来れない筈なんだよ。」

 それは詰まり、物理的には上の邸宅と繋がっていない事実も示唆(しさ)していて。


「流石の私も【イリアステルの鍵】でしか辿り着けないダンジョンを想定しておけと言われても困るわね。」


「――!」

「?グラトニー、それはどういう意味だ?」


「多分此処は上の館から侵入した場合のダンジョンよ。

 恐らくこの先には、あなたが来る予定の場所がある。」

 敢えて自分の居ない時に、とは付け足さない。


「……それは『運命の子』としてって意味か?」


「心当たりになる預言は無いわ。

 けどひょっとしたら、先に進めば一致するかしらね。」

 今グラトニーの手元には魔法世界で公開を禁じられた預言集【黙示の預言書】がある。ジュリアンの質問はそちらを指したのだろうが、嘘を付く必要も無い。


「色々聞きたい事はあるが、先ずは何を根拠(こんきょ)にそう思ったのかな?」


「手前の敵の方が奥のゴーレムよりも強かったわ。最深部の方が弱い理由が、私達が想定外の通路を使った以外思い付かないわね。」

 だが、何故番人が二ヶ所に続けて居たのか。何故強い一体にしなかったのか。


「学生に辿り着けない場所へ繋がる手段、それが【真実の鏡】から手に入る【イリアステルの鍵】を使った者を指定した転移門。

 旧邸宅は物理的に繋がっていないからこそ、学生には辿り着けない。」

 違うかしら、と問い返すと。少し沈黙の末、ダーククロウは降参する振りで首をやれやれと横に振った。


「当たりだよ。そしてその時こそ、運命の子が究極の魔女を討つ瞬間だ。

 だがどの道この先の扉を開けるには【賢者の石】が必要だ。【石】を持たない時点で今は預言の時じゃないのさ。」




――――へぇ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()のね?




 一瞬の気配にダーククロウが反応するが、グラトニーは平然と態度を崩さない。

「拍子抜けなのはこっちも同じよ。

 腕試しの為に来たのに、ほぼ少数の雑魚しか遭わないんだもの。

 つまり今回は完璧に裏口を見つけてしまった結果の事故な訳ね?」


「――ふむ。まぁそうなる。君が封印を解けるのは知っていたが、上限までは把握している訳じゃない。魔女達が暗躍している今は、封印の解放は遠慮してくれ。」


「二学年で入れるダンジョンなんてもう訓練にならないわ。

 三学年で入れるダンジョンを教えて。」


「無理無理。三学年でしか入れないダンジョンなんて、四竜のダンジョンしかないからね。流石に『運命の子』を現状で竜の巣に送り込むのは駄目だ。

 ギリギリで負けた所を魔女に襲撃されたり、竜を魔女に奪われるのはデメリットが勝ち過ぎるよ。

 因みに僕の塔はダンジョン化してあるだけで、ダンジョン扱いしていないから全面的に立ち入り禁止だよ。」


 残念でしたと笑う学園長だったが。

「なら言う事聞いてやる代わりに〔旧居住区〕の侵入許可と魔導書一つよ。

 鍵なら此処にもうあるわ。」

「む、そう来たか。」


 《外周門の鍵》自体は以前対価として受け取っているが、ジュリアンには教えて良い内容ではない。故にジュリアンを連れ出すには別の理由がいる。

 つまり学園長が許可を出す自然な状況が今になる。つまり本当の対価は魔導書の方になるのだ。


 故に、学園長はこの要求を拒み辛い。

「鍵そのものが既に成果だろう?許可だけで充分だと思うが。」

「先に進むなというのはそっちの都合よ。引き下がる対価。

 ダンジョンでの拾得物は権利。」


「う~ん、明らかにダンジョン外の場所を荒らしといてなんて面の皮の厚さだ。

 君には人の別荘を荒らした罪悪感は無いのかい?」

「別に分けてあった場所じゃ無いし、隠し通路で繋がっていたわよね。対価。」


「う~ん。ま、いいだろ。じゃあこの《泥田坊の魔導書》をあげよう。

 ゴーレムを作るための泥を魔力で生み出す魔導書だ。一つしか無いけど、ゴーレムを作らないとか、分けられないとかの反論は聞かないよ。」

 どうやら《呪具人形の魔導書》の亜種、劣化版の魔導書の様だ。こんな所か。


「ま、それで構わないわ。」

「それじゃ、交渉成立だ。外周壁の番人には伝えておくよ。」

 魔導書を受け取り、バイバイと手を振るダーククロウに背を向け、一同と一緒に来た道を戻る。


「いや、それ普通にちょっとお高いけど店で買える魔導書だし……。」

 道中に尋ねるとジュリアン達は普通に使わないとの事だったので、素直に貰う。

 元より目的は果たしたので、お駄賃程度でも構わない。


「それよりさ~。グラトニーはあれで良かったの~?」

 アヴァロンは薄々気付いていたのだろう。グラトニーも隠す気はない。


「そう言えば、結局君が気付いた事は確信出来たのか?」

 思い出したジュリアンの言葉に皆も興味を示す。


「ええ。【イリアステルの鍵】は元よりジュリアンが持つ物だった。

 学園長は預言を成就させるために、積極的に誘導しているわ。」


 【鍵】の所有者だけ辿り着く直通ダンジョンを用意したりね、と告げるとジュリアンは言外の意味を察して無言で頷く。

 学園長ダーククロウを疑うのなら、『運命の子』の預言をも疑問を抱かねばならないのだと。

 ゴールデンウィークなので、連続投稿に挑戦中。月2、火3は流石に無理なので4、5日分の連続投稿を目指しています。7日も可能なら通常通りに投稿予定。


 ぶっちゃけこのタイミングでの完全衝突はどっち視点でも無いです。なのでどっちも程々で引く心算で話してる筈なのに、何故か異様に自信ありげに押すグラトニー。

 安い魔導書で値切った様に見えて全面的にグラトニーの要求を呑まされているのは、内心でかなり派手に動揺しているからですw

 流石に魔法世界の常識は「約束は相手にだけ守らせて自分は破るもの」なんて解釈はダーククロウにとって想像の外でしたw

 ええ勿論グラトニーは本心で誤解してますwだってジュリアン以外全員彼女の敵の立場からしか物事を教えて無いので割と誤解する下地しか無いw

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