03.影世界
トイレから出て用務員室に戻り、やはり視界は全て白黒に変わっている。
学園内がエーテルと微かなマナに満ちているのは相変わらずだが、〔影世界〕の特性はあくまで視覚的な光への干渉に留まっている。
エーテルの見た目を例えるなら、対象の周りを漂う煙に属性や特性に応じた色や粘度を付けた様な輝き、と言った感じだろうか。
薄い膜程度の厚みだったりプールの様に一面を満たしている時があるので一概には言えないが、水と違ってそこら中で濃度の厚みに明確な差がある。
マナは濃い程に白や緑に近付く、霧や粉塵の様な輝きだ。大量にあると水の様な物理に近い抵抗を感じる事もある。
こちらは風の流れ等の周辺環境の影響を受け易い。自然環境から遮断されると、長く維持は出来ないようだ。
視覚的な違和感が相当に酷いが、取り敢えず人のいる所まで様子見をしようと【耳目】を飛ばすと、操作感覚にはっきりと抵抗を感じる程の違いがあった。
(これ。単純に視覚が悪くなったんじゃなくて、実際に〔影世界〕全体のエーテルとマナが濃いのね。)
特に濃いのはマナの方か。
エーテルも量が多いと抵抗感を感じるものだが、引っかかるようなエーテルより滑るようなマナの感触が、視覚から色が消えたせいでより鮮明に差を実感出来る様になっていた。
夜であるという点も災いし、近場には人の姿も見当たらない。
偽りの世界とは有ったが、こちらでの行動が向こうに影響しないとは限らない。念の為警報を避けて『化け猫化』の呪文で黒猫と化し、夜の校舎を歩き続ける。
用務員室は清掃員と警備員が使う部屋なので、当直が今さっき失踪したから当分人が来ない。警備員が監視するのは夜の校舎と業者用出入り口だ。
諸々の倉庫と一緒に校舎の地下にあり、夜は警備用にと亡霊が放し飼いにされている。条件を満たさないと気付きもしないが、認識されると命が危ない。
倉庫内と前には戦闘用のゴーレム付きだ。正直、戦闘力に興味はあるが、影世界で動くのかは未知数。色々試すのは後回しにして警報の範囲外を通る。
(いや待った。亡霊も、ゴーレムもエーテルが見えない?)
それどころか魔法で錠が掛かっている筈の倉庫全てにエーテルの気配が無い。
無論空気中に満ちている量は多いのだが、表の世界でかかっていた筈の魔術痕跡の全てが見当たらない。
もしかしてと敢えてゴーレムの射程内に降り立っても反応一つ無く、『猫爪』で切り裂いても傷すら付かない。
(……成程。手応えはある。けれど現実にあるような全てとも違う。
まるで世界そのものが分厚い壁か地面になった様な違和感。
詰まり此処は、そういう空間なのね。)
恐らくこのゴーレム諸々は〔影世界〕には無い。
あくまでゴーレムの形をした地面、世界の果て。此処は現実世界に別世界を重ね魔法で再現された結界空間だ。
(となると、方針も大分変わって来るわね。)
影世界では一切表世界には影響を与えられないのか。それとも逆に影世界にしか無いものがあるのか。
向かうべきは人の少ない場所では無く、多い場所。だが流石に魔女と偶発的な遭遇があり得る五学年エリアは無しか。
(そしてこの〔影世界〕は何時からあって、誰が作ったのかしらね。)
約500年ほど前。学園設立。
約300年ほど前。学園長ダーククロウが着任。魅惑の魔女が学園に封印されたのも、丁度この前後どちらかだ。
約250年ほど前。学園を覆う外壁結界が建造され、今の敷地が出来上がる。
約173年前。禁忌の魔女が指名手配。始めて記録に登場するも、危険性含めて詳細不明。手配の経緯すら曖昧。
(129年前、漸く〔魔女の饗宴〕が組織されてその危険性が周知。禁忌の魔女がその他大勢から外された。)
51年前。魔法世界の一つが消失。
50年前。禁忌戦役が勃発。
45年前。魔法議会の陥落。
(そして16年前、ナイトバロンが禁忌を討つ。この時禁忌の魂が封じられた。)
新校舎が建てられたのもこの後で、旧校舎はこの時破棄されたという。
(あら?禁忌を封じた時、校舎は無かったのかしら?
それとも禁忌を封じる為にこの校舎を作った?まさかねぇ。)
あの学園長が、最初から禁忌を封じる目算が無かった筈も無い。何より墓守の魔女サンドラは16年前、禁忌が封じられる前に……。
(学園に禁忌の魂が。……封印、動かせたのかしら?)
いや。違うか、そんな分かり易い封じ方をする筈がない。何よりここは七不思議の一つ。不思議自体は旧校舎時代からある。
というより、音楽室の前にあった七不思議は、何だ?
「……七つの鍵でしか入れない普通の出入り口から入れる隠し部屋がある。」
普通の出入り口。
「影世界からしか入れない隠し部屋がある……?」
いや、早計だ。七つの鍵が七不思議そのものを指すとは限らない。そうだとしたらジュリアンは禁忌解放の手伝いをさせられている事になる。
単にまだ見ぬ鍵がある可能性もある。何より零番目はブラフの可能性だってあるのだ。結論を急ぐべきではない。
地上校舎に辿り着いたところで猫変化を解いて廊下に出る。
旧校舎の方も確認したが、エーテルの痕跡一つ無ければ呪文にも無反応。
加えて此処に来るまでに把握したが、現実世界で魔法のかかっていない扉は普通に開けられる事が判明した。
更に言えば、鍵を持っている場合は影世界からでも使える。
何せ講堂は流石に普段は施錠されている。講堂を出るには《星形の不思議鍵》が必須だった。
問題はこの先。放送室へ向かうと、予想通り扉にはエーテルの封印があった。
(《鍵》は合わないわね。でもまあ、見えるなら問題無く開けられるけど。)
一応術式を把握してから封印を解く。今回は戻せなくなると困るのだが、問題無く再封印出来る術式だったので躊躇いなく開けて中を覗き込む。
「え?ご主人様?!先程最後の七不思議を解きに向かわれた筈では?」
「ええ、今も攻略中よ。今私がいるのは校内トイレの隠し通路になるから。」
扉の向こうにあったのは放送室では無く音楽室。
ピアノを弾いていた魅惑の魔女ウェンディは、呪文一つ無く現れたグラトニーを目を丸くしながら迎え入れた。
折角なのでと持て成しに出された珈琲を飲みながら、グラトニーはウェンディに今迄の経緯を推測含めて簡単に説明した。
「最初に疑問を抱いたのは、この音楽室で私達の影が映らないと気付いた時よ。
ここが旧校舎とは全く違う場所にある点が既に不自然だった。だって物理的に存在しない位置関係にあったのよ?
図書館で室内の距離を伸縮する技術は使っている。放送室の広さを魔法で拡げて隠し部屋を創るだけで良かった筈よ。」
何故それをしなかったか。違う。講堂は破壊されず、同じ位置に在った。
「現在位置は、今も昔も放送室と同じ位置。此処は影世界の放送室だった。別世界なんだから室内の調度品を再現せず、他所から調度品を持ち込むだけで完成よ。
法則も影世界に準じているけど、二重に結界を重ねる事で室内に色を再現した。
けれどそれで誤魔化し切れなかったのが私達生き物の影。」
「ですが、影世界も影は黒なのですよね?」
ウェンディが小首を傾げるが。
「ええ。でも、月明かりはどうかしら。
結界で影を写した際、放送室から入る音楽室の向きは半回転している。影の位置が反転した状態が本来の正しい位置関係。でも、してないでしょう?
けれど魔法使いには魔法に対する抵抗力がある。結界の影響を遮ってしまう。」
器物の影は結界が再現した偽物だ。本物の影は音楽室に存在しない。
「詰まり、音楽室が影世界にあると悟らせないために影を隠した、と?」
影世界を調べればいずれウェンディに脱出口を知られてしまう。これが説の一。
「問題は逃亡するだけなら構わなかった場合よね。
例えば影世界からは辿り着いて欲しくない場所に行ける、とか。」
これが説の二。
「七不思議の管理人として、あなたが任命されたのはいつ?」
「え?勿論ナイトバロンが死んだ後ですけど……。
ってまさか!ご主人様は私が封印された頃から七不思議の魔女を揃えていたって言う気ですか?!」
「何も最初の予定が七不思議である必要も無いでしょう?
私、学園長が本気で趣味だけであなた達を集めただなんて信じて無いもの。
七不思議の為に七人じゃ無くて、魔女七人が必要だったから七不思議の噂を利用して表向きの口実に使った。
あなたはどう思うかしら?」
しばし悩んだ後、迷いながら頷くウェンディ。
理由が思い浮かばない点を除けば、やるかも知れない程度の様だ。
「案外、禁忌の封印に影世界が利用されたというより、誤算があって影世界に封じる事になったのかもね。」
〔影世界〕を利用して封じたものの、封印の痕跡が何処にも無かったら異空間の存在も想定に入る。
予想させないために、墓守の隠し部屋に禁忌の魂の欠片を封じて痕跡を残した。
であれば、あの太刀を持ち出した時点で〔魔女の饗宴〕は偽装に気付いていないとおかしい。だが持ち出したのが〔魔女の饗宴〕なら先日の襲撃は無い。
(というより、偽装だと確認するためにあの【太刀】を使ったのかしら?)
「ま。ここに来れた時点で推測の一部は確認出来たわ。
呪文を唱えずに扉を開ければ、もう一度影世界に出られるって方もね。」
封印は自然復活していたが、再び開け直せば問題無く出られた。
序でにと頼まれていたドレスも忘れず手渡して、再び影世界へと出発する。
外の景色には相変わらず色が無く、平面世界の影になった気分だ。
真夜中とて完全な色無しでは無かったのだなと、グラトニーは今更ながらに少し感心した。
次は校舎の各教室を見回るが、教室は兎も角教師職員の部屋を開ける鍵は無い。
だが物は試しと鍵で開く部屋全てを一通り開けていく内に、二階廊下で何故か開かない教室に遭遇する。
(あら。この教室、何の変哲も無い普通の部屋だと思ってたけど。)
何かあるのかと首を捻り、さてどうしようと方針に悩むと。
結論を出す前に扉が開き、中から微かに見覚えがある中年男が現れる。
但し中年男にも当然の様に色が無く、加えて生物特有の染み出すエーテルの流れも全く見当たらない。
<嫉妬の緑目>と『生命探知』で確認するも、目の前で歩き、欠伸すらしているというのに壁や物と全く見分けが付かない反応だ。
(ああ!誰かと思ったら教養学の教師じゃない。)
どうやら見回りをしているらしく、施錠して次の部屋に向かおうとする。
(うん?鍵は開いていたの?)
中年男が次の部屋へ向かう間に鍵が開くのかを試してみると、何の抵抗も無く音を立てて扉が空いた。
「うん?今の音は何だ?」
中年男が鍵の音に反応しこちらを振り向いたので、鍵をかけ直そうかと思いきや。再び錠が全く動かず、男が近付いて来たので諦めて鍵を抜いた。
「ふん。立て付けが悪くなっているのか。」
後で注意しておかねばと八つ当たりの様に舌打ちして扉を蹴り、今度こそと鍵をかけ直して扉を揺らし、鍵の無事を確かめてから次の教室に入って行く。
グラトニーは再び鍵が開き、扉が開く事を確認して再び施錠する。
(成程。用務員室の隠し部屋に書かれていた『衆人の中では何一つ動かせず』とは、人目がある場所では影世界から干渉出来ないという意味だったのね。)
試しに『猫爪』で教室の窓を確認する教養学教師を引き裂いてみるも、やはり手応えはゴーレムと同じく全くの無傷。気付いた気配すら欠片も無い。
先に教室を出てから廊下の窓を見上げると、外には星々と薄雲に紛れた月が煌々(こうこう)と輝いている。
今まで疑問に思いもしなかったが、グラトニーは影世界で見上げて初めて魔法世界にあるあの月が、本物である筈も無いのだと気付かされた。
(まさか月が向こうの世界と同じ事に、今まで疑問を抱かなかったなんてね。)
全ての教室と教職員室を見回る頃には、流石の空も白み始める。
いつでも戻れるならとふと思い至り、グラトニーは自室に戻った。
アヴァロンは寝ている様で問題無く扉が開けられたので、グラトニーは寝る前に机の前に立ち、荷物を取り出す。
一つは影世界に置いた呪具がどうなるかの実験だ。
本当に試したいのはドーム系ハウスだったが、影世界が中に入った者を起点に維持されるタイプの結界だった場合、グラトニーが外に出た時点で術が解除されて中の物ごと消える恐れがある。
出入りの手間を考えると目立ち過ぎてあまり何度も試せない。
『魔法薬』『呪符』『身代わり人形』を机に並べ、前学期に強奪し売却を考えていた方の《携帯訓練場》と、《保身の指輪》を置く。
後は、呪具じゃない小物も幾つか並べた。
初手で試すには少し惜しいが、何が起こったかを把握するため駄目元で【耳目】も置き観測可能な状態で呪文を唱えようとするが。
考え直す。
「ねぇアヴァロン。ちょっと起きて欲しいのだけど。」
布団に包まるアヴァロンの肩を揺らし、影世界から起こしてみる。
まるで石の様に硬く微動だにしなかった教養学教師と違い、限りなくいつものの手応えに近い感触のアヴァロンは、ぅうんと唸って眠たげな顔で薄目を見開く。
既に手は放しているが、瞼を擦るアヴァロンの前でグラトニーは軽く手を振る。
「んん~?……ああ、グラトニーかぁ。
どしたの~?そんなところで。」
無彩色のアヴァロンの瞳がはっきりと〔影世界〕のグラトニーを見つけて、寝ぼけ眼で首を傾げる。
グラトニーはちょっとねと、固くなった自分のベッドに座る。
「多分あなたなら、こっちにいる私を見つけられるんじゃないかと思って。
確認序でにお願いしておきたいの。私は今、七不思議の校内トイレの調査中でね。
あなたにはここを、ジュリアンと来るまで知らない振りをして欲しいの。」
危うく続けてと言いかけたが、アヴァロンが影世界に気付いたのが今という可能性も無きにしも非ず。実際、アヴァロンはえ~?と難色を示す。
「見に行っちゃ駄目~?」
「今はまだ学園長を本気で敵に回す気は無いわねぇ。
この影世界の強度も未だ分からないし、まだ早いとしか言えないわ。
それに一番今あなたが見たいのは、ジュリアンがどう運命に向き合うかであって、場当たり的な衝突では無いでしょう?」
好奇心が疼くアヴァロンは、図星なのは認めた上でうぅんと首を捻る。
アヴァロンにとってはグラトニーのやる事も興味がそそる娯楽の筈だ。
(どっちを取るかで、いつもいつもジュリアンを取るのも、少し詰まらない話にも思えているってところかしら?)
「芝居の裏側に興味があるのは分かるけど、ネタバレは禁じ手でしょう。
手順のある芝居の様だし、今直ぐに此処をジュリアンに教えるのが本当に良いとも限らないわ。
私が粗筋を把握するか、相応の仕込みをする時間も欲しいのだけど。」
とは言え、ここで頷いてくれる性格ではない程度の事は把握している。
「君が一人勝ちする展開も、そこまで面白くは無いんだけどねぇ~。」
舞台裏をそこそこ見ている身としては、と未練を見せる。だが下手に興味を優先して振る舞われると、状況によってはアヴァロンの排除も視野に入る。
(エーテルの気配も表面だけ。マナでも瘴気でも無い未知の気配。
影世界から見ると混ざりっ気が無い分、今まで以上に全貌が見えないわね。)
正直一度、全貌を覗き見てみたくもある。だがそれは彼女な彼を表舞台に引き摺り出す行為にもなる。アヴァロンの希望はあくまで時々踊りに参加する傍観者だ。
別にグラトニーは傍目無謀な戦いを挑むからと言って、勝算の無い争いが好きな訳じゃない。命を理由に頭を下げる意義が見出せないだけだ。
「だったらそろそろあなたからも観戦費を徴収したいところね。
部外者に邪魔されない舞台が用意出来るのなら、いっそ一度くらいあなたと私で腕試しを行うのも悪くないのだけど。」
グラトニーの言葉に、ぷ、と軽く噴き出しながら口元がひくひくと広がり、感情が抑え切れずにアヴァロンの口がドンドンと裂けて顔より大きく割れ続ける。
「も~~~!余り変な誘惑しないでよ~。
私だって君が実を付けるまで待ちたいんだからね?そりゃ蕾の内に摘むのは好きじゃないけど、今の君だって結構気になってるんだぞ?」
ぺしぺしと伸ばした袖でグラトニーを叩くが、幸いにも影世界にヒビが入る様子は無い。異界越しのグラトニーに衝撃が届くようならどうしようかと内心思わなくも無いのだが。
これで結構気を使ってくれている様で、ふぅと深呼吸して気持ちと口元を落ち着かせるアヴァロンに軽く御免と謝罪する。
「でも実際無い袖は振れないわ。
観戦料もあなたの本当を知りたいのもどっちも本音なのよ?」
実際グラトニーは終始笑顔で会話している。
期待通りか予想通りか、思った通りにアヴァロンは異界を覗き見られた。
今以上の手の内を暴きたいと思うのは普通の話だろう。
「私だって欲しがるだけの理由があるくらい、あなたも察しているでしょう?」
「露骨な肩入れはそれこそ一方的になるんだけどなぁ~。」
アヴァロンとしては介入し過ぎない方が面白いのだろう。
「これでも三竦みに四つ巴よ?やる事なす事全てを学生内に済ませる必要があるとしたら余裕が無くて当然じゃない?」
全部を相手取る必要は無いんじゃないと苦笑されるが、グラトニーにとって味方にする意味のある相手は居ない。
最終的には全部が諸共敵になるとしか思えないので、真っ二つに白黒で割って、混乱の内に事を済ます様な場当たり的な手段しか出来ないのが現状だ。
時間稼ぎに応じてくれるほど甘い相手と争っている心算も無い。
唯一例外っぽい立ち位置にいるのがアヴァロンなのだ。
「……まあしゃあないか。
正直ちょっとジュリアンに手を貸し過ぎたかと思ってたし。」
「あら。何をやったのかしら。」
夏季休暇に何かあったらしい程度は聞いていたが、グラトニーも思い付くだけで【古代鮫の骨包丁】や【タートルキングの腕輪】、他に幾つかの《呪装》や《召喚駒》の完成や改良など。
これでやる事が山程あって、休暇初期しか碌に会っていなかった。
「ちょっと修行場が欲しいって話だったから運任せの魔法世界クジを引かせてあげたんだよね。正直話のネタになる程度のほぼ外れクジの奴。
それで大当たり引いちゃって。」
元々大した当てでは無かったので、駄目元で譲った秘宝だったらしい。
戻る手段とセットなので行方不明にはならないが、どの秘境に繋がるかは分からないとか。現物は使い捨てなので既に無い。
流石にネタバレは厳禁だが、兎に角大爆笑物の結果だったと思い出し笑いをしながら懐を漁り、黒鉄の装丁で補強された謎の材質で出来た本を取り出した。
「確か今、死霊と人形の融合で悩んでいたよね?
依り代がどうとかいう、向こうの世界の発想で。多分これ、その手の秘術を研究していたニ何とかちゃんの魔導書。開けると呪われるけど、これあげる。
……確認するけど、その内ジュリアンにも其処教えるんだよね?」
「ええ。多分他の七不思議が先になる気がするけど、二学期に辿り着けなそうなら私からも発破をかける心算よ。」
風呂場で呪文を唱えて表世界に戻ると、残念ながら世界を跨いだ【耳目】との繋がりはきっちりと途絶えてしまった。
アヴァロン曰く、未だ机に並べた諸々は残っているとの事なので、有り難く本を受け取り今日は昼までと、布団に潜り込んで一度目の探索を終えた。
白黒と化した学園を徘徊しながら色々推理するターン。
但しグラトニーにとってはエーテルやマナが見える分、完全な白黒では有りません。
今回のグラトニーの推察は仮説に仮説を重ねたものです。情報が出揃って無いので正解を言い当てている部分と間違っている部分があります。
音楽室での発言を簡単にまとめると、影世界は元々禁忌以外の何かを隠すための代物じゃないの?という疑問に近い推測ですね。




