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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
間章三 アンデットパーティ
104/211

05.ゴーストキャッスルと王の騎士

『ナグラアスハ!私の声が聞こえるかしら?』

『む、グラトニー殿か?何処からか分からんが、聞こえているぞ。』

 魂に直接語り掛ける声に、契約で繋がる両断騎士が応じる。


「王の魂は捕らえたわ。けれど王は人食い城に繋がれたままの綱引き状態。

 あなたは今から手当たり次第に城を壊しなさい。」

 グラトニーは『召喚駒』の封印を続行するため、地下玉座の前から動けない。

 土地と結び付けられた人食い城を倒すには、城そのものの弱体化が必要だ。


『し、城を?柱を壊せという事か?』

「柱でも壁でも死霊でも良いわ。

 ただ死霊程度は幾らでも補充出来るから、兎に角ど派手に。修復が追い付かないくらいに徹底的に破壊なさい。

 城の再生力をどれだけ上回れるかが勝負よ。」


 六芒騎士とやらは全員倒したらしい。両断騎士との繋がりを通して老王の魂に連なった騎士達が合流し、すこしだけ召喚駒の重みが増す。


(成程、あくまで彼らは老王の一部。

 差し詰めゴーストキングと配下達ってところかしら。)


「『暴食よ』!」

 魂自体が召喚駒に残っている訳では無いが、召喚駒を封印し終わらない限りは人食い城との繋がりは断ち切れない。


 試しに玉座を吸収したが、繋がりを通して直ぐに再生が始まってしまう。

 魔力の綱引きは今の所優勢だが、問題は階下のマナ溜りだ。

 城が活性化してしまった分、向こうはグラトニーと違い体力切れが無い。


「ちぃ!『遥かなる鮫の王、噛み砕く幻想に、死の恐怖をまとえ』!!」

 巨大な鮫頭部が地下天井を砕き頭上から落ちる酸を払うが、天井は縁から泡立ち再生を始める。だが玉座の復活は遅れ、咄嗟に玉座を二つ目の召喚駒に封じる。


 魂の引き合いは止まらない。

「『刻め描爪、群成せ積もれ、諸共に引き裂け』!!」

 猫爪が壁一面と言わず、上層階にも傷跡を届かせる。


 『猫爪』の群れと『鮫の王』が次々と建物を破壊し、地上階に到達した頃に頭上で顔を出した死霊達が次々と飛び降りた。

「単調ぉ単調ぉッ!!」


 契約の魂が王に繋がっているのなら、死霊達は幾ら吹き飛ばしても問題無い。

 最初は潜伏の為、先程迄は吸収の為に控えていた『傲慢』と『嫉妬』の呪詛を解放し、飛び道具は愚か近付く死霊全てが同士討ちを始めている。


(『嫉妬』は恐怖に限らず害意そのものを歪める力。

 恐怖を感じない死霊だろうと、害意を向けている限り問題無い!)

 何より、死霊全てが恐怖を感じない訳では無いらしい。


 幽霊城そのものが、体内を破壊し心臓部を砕かんとする怪物に慄き、咆哮の如き悲鳴を上げる。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 悲鳴に答えるかの如く、二体のデュラハンが城を目指して疾走する。

 城外は王との繋がりを失いかけている事で、二重にあった城壁が揺らいで徐々に一重の防壁へと縮小し始めている。


 本来は小国の小城であった物だ。都市結界と融合してダンジョン化し、強制的に巨大化していた偽の城郭(じょうかく)が薄れていく。

 町の結界を侵食していた術式は、再び力を失おうとしていた。


 共に本拠を目指すデュラハン達は、主の呼びかけに答えて城を目指す。

 デュラハンとは本来、戦場で果てた大勢の死霊が復讐(ふくしゅう)という執念に取り込まれて一人になった、集合意識の塊とでも言うべき怨霊だ。


 彼らは多くの騎士達であり、元々は王の臣下だった者達だ。どの王の臣下だったかは既に分からない。記憶が保てなくなった者同士なら、敵同士が融け合うくらいで当たり前だ。


 だが今のデュラハン達は違う。明確に主があり、守るべき城がある。

 今その縁が、術式が切れかけていたが、そんな事は関係無い。彼らは己の本能に従い、変わらず王の危機に駆け付けるのみ。


『行かせぬ!』

 一人の騎士が合流した二体の前に立ち塞がるが、投槍の一撃を二手に分かれて避けて、一方が足止めに突撃する。

 距離が遠過ぎて、騎士は遠回りしたデュラハンの制止を諦めた様だ。


『やれやれ。だが、一対一なら負ける気はしませんよ将軍。』



 城の再生は追い付かず、遂に地上の階層が崩れ始めている。


 今や二つの召喚駒は、片やゴーストキング、もう一方はゴーストキャッスルと完全に機能を分離し始め、ゴーストキャッスルの心臓部も既に捕え始めていた。

 そこへ城門を突き破って、崩壊中の吹き抜け玄関へ躍り出る影が一つ。


「もげらっ!ごほぁ!がふぅ!!ひぎ、おごろヴぁっ!」

「……うん?」


 現れたやたらカクカクした白髭顔の亡霊老騎士は、同じくやたら活きのいい馬に乗ってさっそうと現れて飛び出し。

 グラトニーのいる地下階に着地した、自分の馬の背に背中を打ち付けた。


 下半身は専用の馬具で鞍に固定され、咽返(むせかえ)る手元には専用のバケツもあり。

 誰がどう見ても現状を想定したような酷過ぎる馬装。

 老人サイズの短めの剣にスライド式の長方盾は、明らかに彼の現状を理解した名工による専用装備だ。


 というより、こんな特注品作ってまで何故戦場に出した。


「あなた何者?何しに来たのかしら。」

 すえた胃液の臭いを漂わせる()()に眉をしかめながら、絶対に近寄らせない覚悟でグラトニーは呪詛を強める。


 しかし亡霊老騎士は呪詛に気付くどころか、我に返ったように高らかに背筋を伸ばして声を張り上げる。


「やあやあ遠からん者は音に聞け!我こそはオルバ三代将なるぞ!

 祖国の敵よ、我が剣の錆になりたくなければ神妙に致せ!」

「……『『『え?』』』?」


 何だろう。今聞いてはいけない言葉を聞いた気がする。

「……三代将?三大将軍では無いのね?」

 語感を確認したくて別の言い回しを選ぶが。


「むむ?ええと、三代続いているから、三代将軍で合ってるとも!

 我こそはオルバ王国三代に渡り仕え、息子孫に至るまで代々将軍職を継承(けいしょう)した、オルバ一族である!

 戦死した我が息子、並びに孫に代わって、今こそ将軍職に復帰せり!」


『ちょ!おまっ!!』

 やたら禍々しい柄だけの黄金剣を引き抜き、高らかに宣言する老騎士。

 高笑いが耳障りで情報過多で、ちょっと色々理解が追い付かない。


「……あなた、王族だったの?」

「うん?そんな訳無かろう。我こそは由緒正しきオルバ……っ!

 ……あれ?家名だったかの?国名だったかの?」


 瘴気濃度が増し、攻撃が止んでいる筈の城郭(じょうかく)にヒビが入る。

 慌てて召喚駒への吸収を切らさないよう更に呪詛を注ぎながら、グラトニーは自戒を試みる。


(落ち着きなさいグラトニー。別に何も変な事は言って無い。

 そう。彼らは魂が摩耗(まもう)し、記憶も定かでは無くなっている存在。ミスはある。)


「息子達はいつ戦死したの?最近の話なのよね?」

 違う。最近って何時だ。この老騎士が何時から記憶があるのか分かっていない。


「十年前に決まっておろう!戦場で死ねなかった我が子らの無念を晴らす!

 それが文官将軍等と呼ばれた息子達の無念を晴らす、唯一の方策である!!

 後方待機など、絶対にして堪るか!『……!……ぇ!』」


「おい六芒!変人騎士の一員ナグラアスハ!

 三大将どころか唯一の将軍がデュラハン化してないわよ!!

 将軍が一人しか居ないってどういう事よ!」


『なにぃ!と、突然何だ……、って。いや待て。

 ……いや、……思い出した!そうだ、オレは将軍と面識が無かった!

 そうだ、確か将軍職の不在が問題になって、オレが将軍候補に挙がってた!


 それで……、くそ、駄目だ!

 敵が攻めて来る方が早くて、結局どうなったか思い出せない!』

 おい揉めた理由全部分かった気がするぞ。というよりアレだ。


(詰まりデュラハンは全部、改造で縁付けられた野良かぃ!!!)

『聞きなさいグラトニーッッッ!!!』

「え?何?今度は何?」

 首飾りからの声にようやく気付き、慌てて耳を傾ける。


『良かった、やっと届いた……。

 あの老将軍が握ってる柄、アレ凄く見覚えがあるわ!あの柄は必ず破壊して!

 アレ絶対術式まだ生きてる!』

(凄い必死ね。今どんな顔しているか凄く見たかったわ。)


 叫ぶオルガノンなんてめったに無い。今の彼女の表情筋は、絶対に仕事しているに違いないと漸く悔しがる余裕が出て来る。


 気を取り直して亡霊老人に向き直ると、彼は荒れ狂う『傲慢』と『嫉妬』の呪詛効果で自らの首を締めていた。

 『負けん、儂は負けん……!』と必死で抗っている最中だ。


「あ~~…………。『暴食よ』!兎に角全部喰らい尽くせ!」

 段々考えるのが億劫(おっくう)になりながら老亡霊を吸収し、柄を砕いて取り込む。


 王と城との繋がりが途切れて王が完全に駒の中に宿り、繋がる亡霊達も数珠繋ぎに煙と化して、一気に封じ込められた。

 加えて城も、まるで内側から布切れの様に駒に引き込まれ、最後の一押しと瘴気を拡げろば、瞬く間に弱体化して駒に宿った。


(ゴーストキング、ゴーストキャッスル。回収完了ね。)

 どうやら城兵は野良以外全部がゴーストキングの一部だったらしい。

 回収の際に繋がりのある魂は全て吸収に成功し、唯一直接契約したナグラアスハだけが例外として外に残った。


 城郭が消え、抉れた地面に立つグラトニーの背後から、障害が消えた()()()()()()首筋へと刃を振り降ろす。

 地上のナグラアスハが切り捨てた以外のデュラハンに気付くのと同時。振り向き様の手刀は刃を通り過ぎ、大剣の凶刃がグラトニーに届いた。


『無事か!グラトニー殿!』

 急ぎ城郭後に飛び込み、着地の衝撃を殺して顔を上げると、血塗れながらいっそ美しいとすら言える笑顔を浮かべたグラトニーがいた。


 腹部を手刀と爪で刺し貫かれたデュラハンが、必死で喉元(のどもと)に届いた剣を押し込もうと足掻くが。

 鋼の様な手応えを断ち切るには握られた手首だけではまるで足りない。


「<武人刀>。体の一部を硬質化して刃物の様に扱うだけの力だけど。

 別に攻撃にだけ使う必要は無いわよね。」

 溢れる鮮血の中で腕輪から手持ち最後の召喚駒を取り出し、二体目のデュラハンを駒の中に封じる。


「こっちは大体終わったわ。城の方も王も、ガワを回収したから復活は無い。

 後は瘴気の範囲外であなた達の魂を解放するだけね。

 一応、マナ溜りの調査には付き合って貰うわよ。」


 鮮血を《猫爪装衣》が吸収し、顔や手の部分も【猫眼甲】が舐め取る。

 風になびき煌めく長い銀髪は、月明かりに映え正しく天女の如き美しさだが、誰も彼女を褒め称える気力は湧かないだろう。

 グラトニーは瘴気を抑えて尚も、禍々しさに満ちていた。


(全く、そら恐ろしい魔法使いとやらがいたものだ。

 だがまぁ、これ以上は今を生きる者達の問題か。)

 己が内心に苦笑するナグラアスハは、当代の人間に合掌(がっしょう)しながらも他人事で済む今の自分に安堵を覚える。野次馬根性、というのだろうか。


『構わんよ。オレにも同胞達全員の繋がりが感じ取れるようになったからな。』

 今なら互いに分かる。ゴーストキングとは、死霊を携えた王の亡霊だ。


 ゴーストキャッスルが人食い城ならゴーストキングは軍勢の王。家臣を引き連れて戦う戦場の亡霊なのだ。

 それは最後まで臣下と共にあった証であり、同じ未練を抱える者達の残滓(ざんし)

 故に連なる死霊が全て回収されるまで、封印は決して完成しない。

 年末年始毎日投稿、明日で最後です。

 ええ、田舎にデュラハンに成れる様な騎士なんていなかったんですw

 この世界のデュラハンは複数の騎士の集合体だったり、とっても有名な騎士の死霊が記憶を失う程に摩耗した成れの果てだったりします。

 但し大抵の騎士はゴーストナイト止まりです。腕と精神力の両方が備わらないと大量の魔力や呪いを蓄える事が出来ないので。魔法使い適性の高い騎士自体が希少ですからね。

 つまりデュラハンが味方なのは禁忌の所為で、あやふやな記憶の所為で身内出身だと勘違いしただけというオチ。え?今まで三代将が現れなかった訳?

 だって指揮系統に組み込まれてないし、そもそも戦場に間に合って無いし……。

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