表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
間章三 アンデットパーティ
103/211

04.幽霊城攻略

 騎士ナグラアスハが契約で得た力は『自分が切り伏せた者の魂を回収する』という代物だった。

 契約が完遂するまでの間はグラトニーの呪詛全般に同様の能力が宿っている。

 肉体に関しては回収の隙を考えれば、多分破壊した方がやり易いだろう。


 グラトニーとしては契約対象外になった者がナイトゴーストでありデュラハンなので、彼らを封印石に吸収出来る時点で何ら問題は無い。

 協力者という名の実質手駒が増えたに等しかった。


(ゴーストキャッスル。召喚駒になら出来るのね。)

 触り程度しか記述の無い教科書を閉じて、小さく溜息を吐く。

 何処かで解説を見た覚えはあったが、まさか実在を疑われた程の代物だったとは思わなかった。


 発動具や呪装としては成立しないが、《使役駒》に封じてしまえば使える様だ。

 此処まで大型だとそれこそ目立ち過ぎて扱い辛いが、移動拠点としてはある程度小型の方が都合が良い。一番欲しいのはやはり城そのものだ。


 心配なのは改造によって召喚枠から逸脱(いつだつ)している可能性だが、その意味でも事前に他の死霊達は回収して総量を削っておきたい。


「敵は魔力が尽きない限り、無限に復活して襲って来るのよね?」

『ああ。オレもそうだが、既に全員何度も死んで蘇っている。』

 ただ大勢の魔法使いと戦った記憶は無いから、記憶があるのは一度城が破壊された後なのだろう。』


『普通のゴーストキャッスルってそもそも城が人を消化するから、中には戦える兵士自体が居ない場合も多いの。

 今思えば騎士達を率いているのは王様で、城はただの魔力源だったのかも。』


「城と王が繋がっていて、片方だけしか砕かなかったから復活したって説ね。」

 呪いの剣云々が予備核としてもう一振りあった可能性もあるが、そもそも順番に巡るしかない。


「ならやっぱり先に王か城を落としましょう。」

 死霊なので夜の方が活発になるとは言え、瘴気が漂っている所為で昼間でも動きに支障は無いという。なら万全の構えで待ち構えられるより先手を取りたい。


『あの兵力相手に強行突破するのか?』

「あら。広場で戦うより室内で戦った方が勝算高くない?間合い的に。」

 魔法使いとしては微妙な線だが、『暴食』の間合いと何より矢が邪魔だ。


『まぁ、たった二人で囮も何も無いだろうが。』

 むしろナグラアスハの突撃を援護する方が効率が良いまである。


 方針がトントン拍子で決まった二人には、どちらも時間を掛ける趣味は無い。

 近付ける限りを地下道で近付き、適当なタイミングで地上に出る。

 兵士達の警備は地上までだった。


『見ての通り、地下は繋がっていないからな。

 何より我々は、既に半ば理性を失いかけている。何故戦っているのかすら曖昧(あいまい)なのに、敵に備えた適切な配備など出来る筈も無い。』


 苦々し気なナグラアスハだが、こちらにとっては都合が良い。

 因みに城の支配下にあるのは武装骸骨兵だけで普通のスケルトンやゾンビ達は何時から徘徊してるか見当も付かないという。


『故に、同胞に気付かれずに近付けるのはこの堀の前までだ。

 流石にここから王の元まで突破するのは不可能だぞ。既に何度も試している。』


 既に何度も突入しただけあって、外堀周り以外の地下は完璧に把握していた。

 正門前の家までは気付かれる事無く辿り着いたが、地下室の上は残っていない。


「問題無いわ。そもそも私一人ならどうとでもなるもの。」

 先ずは『化け猫化』して、二尾で掴んだナグラアスハを背中に乗せる。


『お?おぉう。』

「毛の中に伏せて隠れてなさい。『姿無き猫又、猫撫で鳴き真似、七変化』。」

 巨大な化け猫の口からおどろおどろしい音でグラトニーの声が響き、『猫騙し』の呪文を自分にかける。


「今姿を錯覚させる呪文を掛けたわ。

 声を出せば気取られるから、私が術を解くまで黙っていなさい。」

『に、俄かには信じられんが、分かった。戦う時は下ろしてくれ。』


 先程の悲劇再来を避ける為、【耳目】だけ先行させて空から俯瞰しながら階段を上ると、門番は此方を視界に入れても気付いた様子は無い。

 【耳目】でも自分の姿が見えない事を確認しながら城門前の橋を渡り、門番の脇を抜けると静かに城壁に前脚を添える。


 そのまま壁に張り付いた様に脚を伸ばして、数階建ての外壁の上にと足先を届かせる様は正に化け猫の面目躍如(めんもくやくじょ)だ。そもまともな猫が人より大きい筈も無いが。


 ゆっくりと胴体を伸ばして城壁の上に足を載せる。

 自重で壁が壊れる事も無い。が。

「んん?今何か物音がしなかったか?」

「いや。特に?」


 兵士が此方の方をきょろきょろしている間に中庭に降り立つ。

「……『姿無き猫又、幽玄に溶け込み、深遠を忍べ』。」

 念の為。念の為、足音や気配を消す呪文も追加しておく。


 維持は少しばかり大変だが、素早く走らなければ大丈夫だ。坂になっている代わりに門が低い裏手側に回り、同じ要領で中壁を抜ける。


(『す、済まん。小声で話しても良いか?

 今、何故目の前を通ってる彼らは気付かないのだ?』)


(敵が来たら控えなさい。『猫騙し』の呪文は私を別の姿に錯覚させる術よ。

 『忍び足』は猫の様に気配や足音の類を消す術。

 私達の声は隠せない。あなたの姿も、私の影に隠れているだけよ。)

 『猫騙し』は声を誤魔化せば他人の振りも出来る魔法なので、何に錯覚させるかのイメージが重要だ。今回は城の一部として錯覚させている。


 開いている窓か裏口があれば話は早いが、無ければ危険を承知で玄関を抜けるべきか。迷い処だ。


(『術を突破する方法は、あるのか?』)

 ナグラアスハも人のいる時を避けて口を開く。

(感知を破る術か、高い魔法抵抗力ね。

 自我が曖昧になっている城兵達に見破れる術じゃあないわ。)


 デュラハンと遭遇した時は不味いが、彼らは多分三体しかいない。

 見分けが付かないので確証は無いが、恐らく三大将と呼ばれた者達らしい。

(『交代で城外を見回っているから、今城にいるのは一人だ。

 そちらはオレが引き受けよう。』)


(……空き窓、無いわね。)

 攻め手を警戒し、一階は窓が無い造りになっているという。

 一階が土台扱いの実質地下一階で、二階に大広間としても使える吹き抜け玄関がある。


 当然出入り口も二階にあり、一階から伸びる石垣の階段は防衛線と儀式場を兼ねた設計になっている訳だが。


(でも三階まで体を伸ばせば、裏口の窓が行けるわ。)

 化け猫様々だ。


 【耳目】で中の様子を伺っても人の気配すら見当たらない。それもその筈、元々城郭の上層階といえば警備以外は侍従や侍女執事といった非戦闘員が占める。

 生活空間に兵士がひしめいていては、歩き辛くてしょうがない。


 兵士騎士は、下層階で敵兵を食い止めるものだ。

 その下層階の騎士兵士の大部分を無視して忍び込む事態など、真っ当な城兵が想定する筈も無い。それは警備が事前に気付かぬ無能の証なのだから。


「そこだぁ!甘かった侵入者よ!我ら無敵の六芒(ろくぼう)騎士!」

「我らの目を誤魔化すなど不可能と知れぃっ!!」

 階段まで続く一直線の廊下の中に、騎士が五人。それぞれが数名の部下骸骨兵を伴って次々と現れ、一斉に構える。


「遠からん者は声を聞け!我こそは六芒騎士の一人、〔長手〕の、……槍ぃ!」


「隣に並ぶは天下無双、〔剛力〕の斧!」


「中央を構えるは〔大盾〕の鉄槌にして!」


「右に居並ぶ〔怪鳥〕の……鉈?二つ鉈ぁ!!」


「そして脇を固めるは六芒騎士最長の間合い、〔鷹の目〕の弓ぃ!」


 それぞれ獲物にちなんだ名乗りを上げて、決めポーズを構える五人の鎧騎士達。

「「「我ら六芒騎士の総力を尽くせば、勝てぬ者などいないと思えッ!!」」」


(うわぁ。何か普通に迷彩を見破りやがったぞこの変人共。)

 既に無意味と化した偽装を解き、グラトニーは理解を超えた姿に冷汗を掻く。


『おまっ!お前ら外の守りはどうしたぁ!!』

「「「我らは元より別動隊を任されているッ!!」」」

 同僚の総結集に思わず叫ぶ両断騎士。そう言えばこやつも六芒騎士の一人か。


「……ねぇ。こいつら将軍以下にしては我が強過ぎない?」

『ろ、六芒騎士は騎士達の中で、型破りが許される程腕が立つ連中の集まりだ。

 将としては三流でも騎士としては精鋭だ。』


(そうか。心が強くて腕が立つ奴が、頭も良いとは限らない。

 確かに見落としていたわ。)


 胡乱(うろん)な瞳で疑いを抱くグラトニー。

 兜越しにも分かる目を必死に逸らした狼狽え振りは、必死に。そう、とても必死に同類扱いしないでくれと訴えている。


「あなた達、自分の名前は憶えて無いのかしら?」

 ナグラアスハの手前、一応確認してみると。


「「「侮るな!例え我らが己の名前を忘れようとも、我らが王への忠義さえあれば使命を果たすのに支障はない!!」」」

 此処まで行くといっそ清々しいが、ナグラアスハは胃の辺りを抑えながら、彼らと対称的に顔色を蒼褪めさせているのが、またも兜越しに伝わってくる。


『というかお前ら。

 まさか今そっちには五人しかいないのを忘れていないだろうな……!』


「何を言っているんだ『貧乏くじ』の大剣!」

「いや、確かリーダーは『両断』だっただろう?」

「リーダーがそこにいるのは多分また政治的な何かなんだろう?」


「「「……兎に角侵入者を捕らえるから、後は任せたぞリーダーッ!!!」」」


『いい度胸だ貴様ら、ちょっと全員そこに直れ……!』

 瘴気というか怒気を全身から漲らせたナグラアスハに、部下骸骨兵達が狼狽えながらも取り敢えず武器を構えて指示を待つ。


(……成程?

 自我の無い部下骸骨達がわざわざ狼狽えるという事は、日常で繰り返された光景を再現しているのかしら?…………え?)


 もしかして毎回リーダーと殴り合ってたのか。

 想像するほどにグラトニーの理解から外れ出す。


「まあ良いわ。この場に将軍達がいない内に終わらせる。

 続けて仕掛けなさい。『幻の霧よ、剣を模れ、刃を突き立てろ』!」


「「「散れッ!」」」

 三十を超す『幻の剣』を一斉に弾きながら突っ込み、逃げ遅れた部下骸骨達が十名以下の被害で切り抜ける。


 中央を突破して来た六芒の大盾使いはナグラアスハの唐竹割りを驚くほどの身のこなしで傾けて盾ごと避け切るが、続く横薙ぎに弾き飛ばされる。


「『刻め描爪、群成せ積もれ、諸共に引き裂け』!」

「手強いぞこの娘!」


 脇や天井を跳ねてナグラアスハを躱そうとする一同に無数の猫爪が切り裂くが、六芒の全員が多少の手傷で防ぎ切る。


 が。引いたと見せかけた一瞬の隙を付いて壁を蹴り、六芒の二つ鉈がグラトニーに切りかかる。


「『暴食よ』!!!」

「何ぃ!」

 袖から生えた猫爪を咄嗟に防いだ二つ鉈の騎士を、『暴食』の瘴気が丸呑みして吸収する。今度は前回と手応えが違う。回収は成功の様だ。


 そこへ三人を足止めするナグラアスハを突破した六芒の斧使いが斧を振り上げて迫り、遮る【盾兵】ごとグラトニーを殴り飛ばさんと斧を叩き付ける。


「『(えぐ)れ』ッ!」

「なんとぉ!」

 【盾兵】の影から【卍兵】と《飛杭》が飛び出し、咄嗟に後ろに飛び退いて凌ぐ斧使いだが、躱したところを追撃が次々と飛来する。


「『遥かなる鮫の王、噛み砕く幻想に、死の恐怖をまとえ』!」

 勢いに圧されて下がった斧使いを、廊下を埋め尽くす程に巨大な鮫の頭部が一呑みに噛み砕く。

 回避された様子も無く、砕けた斧が塵と消えてグラトニーの瘴気に溶けた。


 呪文で倒した場合まで魂を回収出来るかの確信は持てなかったが、実際にやってみて呪詛を載せた魔力なら可能だと確信する。

 同時に確信する。やはり武器の間合いでは魔法使いは圧倒的に不利だ。


「ともあれ、二人目!『牙剥け化け猫、鳴いて群成せ、嘘偽りで包み込め』!」

 呪文と共に瘴気が全身を包み、再びグラトニーが巨大な化け猫と化す。


 咆哮同然の威嚇(いかく)を込めた鳴き声を上げて走り出し、六芒の槍が躱して大盾が鉄槌ごと宙を舞う脇を疾走して鷹の目の弓使いとの距離を詰める。

 体当たりではなく爪で弾くが、見事に飛び退かれて無傷で避けられる。


「先に行く!三人を回収してから後に続きなさい!」

 言い捨てながら階段室の扉を蹴破り、玉座の間へ向かう。寝室の可能性もある筈だが、彼らにとって王の所在地は常に玉座だという。


(生前の記憶が影響しているんでしょうね……。)

 外回り中を狙ったとは言え、時間を掛ければ戻って来る。流石にデュラハン三騎と彼らを同時に相手する事態になれば、勝敗がどう転ぶか分からない。


 予定とは違ったが今の内に二手に分かれないと分断どころでは無い。敵に気付かれず最深部まで進めるのなら、一丸となって進む手もあったが。


『……大丈夫ね。流石に昔と同じ戦力は無いと思う。』

 オルガノン曰く、かつては十のデュラハンの召喚駒が玉座に並び、配下に無尽蔵に復活し続けるナイトゴーストが数百は配備されていたという。


 学生による強行突破という無茶な状況も、実態は単に城へ突入した最初の一人がナイトバロンだったというだけに過ぎなかった。


 それは普通な事なのかと思ったが、魔女全員口を揃えて否定された。

 そもそも魔法使いが何で騎士相手に剣で勝てるのかと聞かれた際、オルガノンが不自然に沈黙を貫いた事実をグラトニーは見逃していない。

(戻ったら絶対問い詰めるわよ。)


 廊下を埋め尽くさんばかりの巨大猫が、突風が吹き抜ける様に兵士を薙ぎ払い、玉座のある階に到達する。


 本来であれば城が変形し、通路が増える難所だったらしい。ただ必要な呪具は攻略当時に破壊され、痕跡も残さず爆発したという。


 思えばあれは最初から破壊時は爆発で魔法使いを仕留めようとした罠だろうとはオルガノンの言だ。

 実際残っていれば彼女が絶対に回収したと平坦な口調で悔しがっていた。


「成程。此処なら確実に敵が来て、広々と空間を使えるわねぇ。」

 首無しの馬に首を脇に抱えた騎士。既に一介の死霊ではなく、伝承と同一化した最強と語り継がれる亡霊の頂点。


 謁見用の広間には絨毯が敷かれ、両端に幾つもの柱が並ぶ吹き抜けの空間。

 死を告げる者デュラハンが幅広の剣を携え、骸骨兵士達を引き連れて無人の玉座の前で待ち構えていた。


不埒者(ふらちもの)め、我が剣の錆にしてくれる!』

 首無しの馬が(いなな)きをあげ、型通りの言葉で切りかかる。


「甘い!『刻め描爪、群成せ積もれ、諸共に引き裂け』!!」

 伸びる前脚から繰り出される猫爪が近付く前のデュラハン達を一重に薙ぎ、防御し損ねた骸骨兵士達の一部が粉砕される。


 乱戦状態から始まった前回と違い、既に巨大な化け猫と化しているグラトニーはデュラハンの間合いに入る前に飛び跳ね、頭上から無数の『猫爪』で切り刻む。

 この時点でグラトニーへ真面に攻撃出来るのは、同じ様に壁や天井を跳ね回れるデュラハンのみとなった。


 直撃しない『猫爪』や《妖刀》に《飛杭》が飛び交うが、大剣の守りは掠り傷以上の隙を許さない。逆に巻き添えを喰らった兵士達の被害は甚大であり。

 巻き込まれた骸骨兵士の全滅も間も無くの話だった。

『来たれ!我が同胞達よ!』


 全滅と同時に距離を取ったデュラハンから瘴気の影が揺らぎ、数十近い骸骨兵士が湧き出してくる。仕切り直した隙にグラトニーも【卍兵】を追加した。

 だが同時に疑問が過る。今、デュラハンは距離を取る意味があったのかと。


(これは……条件行動って奴かしら?)

 真っ当な生物であれば無駄と分かるが、あくまで根は型を繰り返す亡霊ならば。


「『暴食よ』!」

 旋回する【卍兵】と挟み込み正面から粉砕しようとして、ふと気付いて瘴気の渦を拡げて骸骨兵士達を巻き込むと、デュラハン以外は容易く吸収される。


(成程。彼らはあくまで本体の付属物で、替えの利く部品でしか無いのね。)

 形こそ兵士だが、中身はスカスカ、魂は欠片も無い。


 何か妙に自我の強い連中が紛れていたせいで勘違いしたが、城から出た亡霊達はあくまでこのゴーストキャッスルの付属物だ。

 デュラハンで言う剣や鎧と何ら変わりない代物だったのだ。

 無限復活の絡繰(からくり)も、魂を複製している訳じゃ無いと考えれば納得も行く。


「生憎正面対決でなら物量で圧し潰せるのよねぇ。

 『遥かなる鮫の王、祖は群れの主、眷属の猛威を振るえ』。」


 物は試しと、数十匹の鮫の幻を具現化させて骸骨兵士やデュラハンを襲わせる。

 本来は激痛を与えるだけの呪文だったが骸骨兵士達は見事に砕け散って、デュラハンだけは反応すらせずに周囲の《妖刀》や【卍兵】を捌き続けた。


(成程。アンデットは単純に痛みではなく、エーテルの圧力で砕けるのね。)

 自我無き相手にとっては物理ダメージと同じらしい。単純な耐性で凌いだデュラハンは再び下がって骸骨兵士達の召喚を試みるが。


「そら、<電撃砲>!『嫉妬の緑目よ、獲物を縛れ』!」

 周囲を囲んだ上で放電がデュラハンを撃ち抜き、『金縛り』で拘束する。デュラハンにとっては只の時間稼ぎだが、乱戦の最中ならメッタ刺しにする隙となる。


「さて、先ずは一体。」

 弱ったデュラハンに召喚駒を放り投げ、封じ込める。後は安定化させるだけなので移動しながら完成させてしまおうかと思ったが、流石に慢心か。


「『暴食よ』。」

 玉座を丸ごと吸収し、一時的に地下への脱出口を強引に開く。


 王がここに居ない以上、最有力は最深部とやらだ。ひょっとしたらそこにはマナ溜りもあるかも知れない。

 グラトニーは【耳目】だけを先行させながら脱出口へ飛び降りた。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 支柱に偽装された隠し通路は鉄棒を使って屋根裏部屋を経由し、別の支柱から降りるという手順を繰り返すものだった。


 通路は一直線だったが地下には鉄棒が三つ並び、となると脱出口も三つあったのかも知れない。

(というより、この鉄棒は本来一つだったのかもね。)


 不自然にエーテルが伝わる鉄棒から手を離し、最深部と思しき部屋は城を巨大化させている術式が一面に張り巡らされていた。


 部屋の中央には一人の武装した老王が一人。一目で彼が目標の王だと分かった。


『……痴れ者、ガ。我が城ハ、誰ニモ、渡サン……!』

 玉座から体を起こし、ゆっくりと剣を構える。


「……ねぇ。ゴーストキャッスルの本体って、何だっけ?」

『大抵は玉座とか城の象徴となる何かよ。

 さっきあなたが壊していた方じゃ無くて、老王が座っている方が本物になっているんでしょうね。昔砕いた剣があったのも此処だったわ。』


 首飾り越しに見ているオルガノンが答える。指摘通り老王の足元にある魔法陣を見て成程ねぇ、と頷く。

 だがしかし。


「そう。でも私の目にはこの魔法陣、只の(おり)にしか見えないの。

 『遥かなる鮫の王、噛み砕く幻想に、死の恐怖をまとえ』!」


 呪文と同時に頭上から現れた巨大な鮫の頭部が、老王の眼前を通り過ぎて周りの床石を砕く。

 只の鮫であれば床を砕く様な真似など出来なかっただろうが、これは特殊な進化を遂げた古代鮫、その具現。

 開いた大口は鼻先を曲げて牙を垂直に突き立てて床下の更に下、天井諸共に噛み砕いて大穴を開けた。


『これは……っ!』

 そこにあったのはある筈の無い空間。出入り口の無い一室。

 結界で閉ざされた、棺が置かれたある筈の無い隠し部屋だった。


 グラトニーが着地するが、頭上の老王はまるでグラトニーの方が眼前から忽然(こつぜん)と消えたかの様に気付かない。


「玉座を破壊すれば、確かに城は消えるんでしょうね。

 でも、玉座と王は別の存在。騎士達を率いているのはあくまで王。

 32年前は、上の階にこの棺と同種の触媒が並んでいたんじゃないかしら。だから城を破壊すれば、他の亡霊達もまとめて消す事が出来た。」


『……けどその中に王の触媒は無かった。だから王を触媒に再び城が復活した。』

 部屋には濃厚なマナが集まり、上層階の玉座へと注がれている。

 しかし棺を開けた王の遺骸には、無数の骨と瘴気の檻で遮られマナが届かない。


(遮断されたお陰で半永久的に浄化出来ない呪いの塊が、上層階の玉座に注がれて設計図通りのダンジョンを形成する。成程、これは一種の結界な訳ね。)


「さて、先ずは契約を果たしましょうか。『暴食よ』!」

 棺の中の遺骸(いがい)を吸収し、保管されていた老王の魂を取り出す。他の骨は只の死霊の媒介(ばいかい)で魂を縛る何かでは無かった様だ。


『ウォオオオオオォォォォ…………!!!』

 頭上の老王が本体を失って苦痛の悲鳴を上げ、直ぐに動かなくなる。放置すればやがて浄化されるか、無貌(むぼう)の死霊となるだろう。


 だが今なら、只の殻の器だ。容易く召喚駒に封じられる。

 ……と、思ったが。


(ん?……んん?)

 手早く老王を封じた召喚駒が玉座の前で浮かんだまま。

 いや玉座自身が吸引力を発揮する様にグラトニーの干渉から駒を引き寄せ、その中から老王の遺骸、諸共にグラトニーが回収した魂を抜き出そうとする。


 異変はそれだけではない。

 地下玉座の前に立つグラトニーの周りが歪み、徐々に床から刺激臭のする何かが染み出してくる。


 気が付けばそれは床に限らない。

 天井も壁も、全てがすえた臭いと液体を滲ませて。


「成程。ゴーストキャッスル、人食い城の本領発揮って訳ね。」

 地下室全体が徐々に胃の中へと変貌(へんぼう)し始めていた。

 新年初投稿です。間章三完結までは毎日投稿します。

 化け猫万能。全身が伸縮自在で巨大化も自由、但し燃費だけは最悪な!此処まで化け猫寄りの発動具作ったら夜な夜な術者が食べられる危険性が高いです。尚、現実は超懐いたw


 オルガノンが口籠ったのは、ナイトバロンの戦闘スタイルが魔法使いとして異常だったからなだけです。裏はありません。

 ナイトバロンはラッシュの傍ら格ゲーの様に呪文を唱える、ぶっちゃけヘラクレスしたりスーパーマンして人形やゴーレム用の鎧を着ている高笑い星人。そんな世界最強の魔法使い。

 オルガノンさんは彼の先輩で現場に居て、共に戦ってフォロー(後始末)もしています。


 グラトニーは頭が良いので大抵の事は気付きます。反面いい空気吸っている方々は行動が分かったからと言っても納得は出来ませんw

 結果ナイトバロンを見るオルガノンと同じ目で六芒騎士達を見ています。

 とても良く似た師弟ですねw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ