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ガラクタの学園  作者: 夕霧湖畔
第一部 入学編
10/211

02.暴走

 廊下を歩いていると、げ。という声が聞こえてグラトニーは振り向いた。

「あらリリースだったかしら。」

「レイリースよ!あなた純血の大家ケイロン家を何だと思っているの!」


 たわわな双丘を怒りで揺らす金髪美少女の同級生レイリースが怒鳴る。

 既に談話室ですら見慣れた光景過ぎて、誰も関心を払わない。


「前にも言ったでしょ?純血も大家も私は知らないんだから区別付かないって。」

 グラトニーにとっても何も考えずに話せる揶揄(からか)い甲斐のある相手なので、今日も気楽に受けて立つ。


 今日はいつも止める供周りの二人はおらず、顔色悪い同級生が一人だけだ。

 だからだろうか。今日のレイリースは普段とは違い、更に押しが強かった。


「ぅうう~……。なら今から時間を空けなさい!

 今日という今日は、純血の高貴さと偉大なるケイロン家の素晴らしさをあなたに叩き込んであげる!」


 思わず首を捻る。

 それは純血の歴史をわざわざグラトニーに教えるという事だろうか。

 一緒にいた同期もちょっと本気で慌ててレイリースを制止する。


「んん?教養学なら出ているわよ?」

「そんな上辺だけの歴史じゃないわ!レイリース家がかつてどんな活躍をしたか!

 そもそも純血とはどんな家か!

 何故偉大なのかを教えてやるって言ってるのよ!!」

 あれ普通に興味あるぞと、グラトニーも断る気が薄れ始める。


「待ってよレイリースさん!本気なの?相手はあの無能人で狂人だよ!」

「え?ええ。だ、だって教えないとこいつ全然分からないでしょ?」

 突然爆発した様に語気を荒げる同期の少女。名前は忘れた。


 レイリースも初めて見る態度らしく妙に素直に応じるが、錯乱(さくらん)している彼女には逆効果だった。

「おかしいでしょ!何で純血が無能人に手を貸すの?

 無能人なんて世界から排除するのが当然でしょ!何で皆無視で済ますの?!」


「い、いや。殴り掛かって返り討ちに遭った連中はちょくちょく居るし……。」

 何故か私物を優先して狙う、殺気一つ無い連中しかいなかった筈だ。グラトニーも面倒臭がって放置していた学生達の事だろう。


「禁止されてる魔法で殴り掛かって来るんだから、あなた方的には大人しくないんじゃ無いかしら?」

 個人的には最近魔法の練習台にして良い相手が減って来たので、ちょっと退屈というか、肩透かしな感じがある。


 教師も本来なら気軽に挑発するグラトニーを責めたいが、先に違反するのも喧嘩を売るのも被害者側なので、厳罰化が出来ないだけだ。


「そんなの知ったこっちゃない!殺すべきなの!排除すべきなの!」

「おやまぁ。」


 先程から貰い立ての指輪が警報を発し続け、学園に来て教師以外から向けられる初めての殺気に、グラトニーは思わず満面の笑みを浮かべる。

 そうだ。敵意とは斯くあるべし。

 グラトニーには痛めつけるという感覚がどうにも肌に合わなかった。


「ちょ、ちょっとあなた?それは犯罪者の台詞よ?」

「うるさい!うるさい五月蝿いウルサイ!!お前死ねよォ!!」

 杖では無い。流石におかしいと恐怖を感じたレイリースが距離を取るも、跳ね除けるようにナイフを振り(かざ)して刃を突き立てる。


「あらあら。私に殺気を向けておきながら浮気をするの?

 だからあっさり止められるのよ?

『亡霊よ、影を映せ、形に力を宿せ』。」


 レイリースに振り上げられたナイフを横から摘まみ取り、只の果物ナイフなのに疑問を覚えながら亡霊を作り出す。


「くそ!無能人の癖して!

『幻の霧よ、剣を模れ、刃を突き立てろ』!」

 今度こそ取り出した杖が霧状の白い剣を作り出し、正確にグラトニーの心臓へ向けて放たれる。


「『盾よ』。

『亡霊よ』、『お前に、騎士の剣を与えよう』。『お前に、盾を与えよう』。」

 レイリースが思わず悲鳴を上げて逃げ出す間に、グラトニーは魔法の盾で剣を弾くと、亡霊に更なる装備を与える。


 どうやら教師マルガルは完璧な仕事をしたらしい。

 試作品と言いつつ感覚的には本物と全く違いが無い感触、疲労感で、亡霊が素の呪文だけの時以上に機敏に動く。


「くそ!『幻の霧よ、剣を模れ、空を舞い続けろ』!」

 授業では人に向けて使う事が禁止されていた呪文を躊躇(ちゅうちょ)無く使い、一撃で砕けた最初の呪文を速度と引き換えに長持ちする剣へ変えて切りかかる。


「駄目ね。まるで剣を使い慣れてない。

 魔法の剣だって真剣と同じよ?剣捌きがそのまま反映される。」

 数合の後に剣を叩き砕き、駄目だしするグラトニー。だがまるで殺気に呼応するように魔力が増大していく少女に驚きながら観察を続ける。


「『礫よ、貫け』!『火花よ、殴れ』!」

(正気じゃあないわね。痛みが麻痺しているわ。)

 だがそれだけならグラトニーの脅威では無い。痛みならグラトニーも感じない。


 いや。正しくは違うか。グラトニーは感じているが、気にならないだけだ。

 怪我をしているとは分かるし、出血の危険も解る。ただ激痛で身を捩る気持ちが心から理解出来ないというだけだ。

 そもそも、今回は盾の魔法で攻撃が届いていないのだが。


「『幻の霧よ、剣を模れ、刃を突き立てろ』。」

 グラトニーの反撃を少女が辛うじて躱すが、脇腹から血が飛び散る。

 致命傷には遠いが自然に止まるほどの浅い傷では無い。何より先程から体が痙攣(けいれん)し始めている。


「くそ!くそくそくそ!

『幻の霧よ、剣を模れ、空を舞い続けろ』!」

 同じ呪文を五度。五つの剣が漂うが一つ一つの精度は悪い。剣の強度は維持出来ているが、速度は目に見えて遅くなり自滅が見えている。

 だが初めて亡霊が守勢に回る必要が出て来た。


「『火花よ、集まれ、集まれ、集まれ、砕け散れ』!」

 剣を押し付けて強引に亡霊の動きを抑え付け、残る余力と魔力を、同じ呪文を重ねがける事で強引に溜めにかかる時間を減らし。

 維持出来なくなる前に飛ばす様に解き放つ。


「『盾よ、包み込め』「『生えろ石壁、堅く防げ、大きく拡がれ』!!」。」

 即座に盾を広げるグラトニーに、被さる形で巨大な石壁が廊下を埋め尽くす規模で出現する。呪文を唱えた声は敵対していた少女とは別の声だった。

(ふむ。盾の呪文だけじゃ凌げなかったわね。強度を過信したか。)


「だ、大丈夫ですか?!あなた達一体何をやっているんですか!」

 石壁が消えた後には爆風の反動で倒れた同期の少女と、慌てた風情の見慣れぬ少女が、土煙の中から姿を見せる。


「どうもこうも無いわ。襲われたから抵抗した。それだけよ。」

 恐らく手助けした相手だろう。警報は止んでいるが警戒は解かず、消えた亡霊を直ぐに出せるよう魔力を蓄えておく。


「おいおい、なんじゃこりゃ。随分派手にやったもんね。」

「!『亡霊よ、影を映せ、形に力を宿!!』」

 突然現れた長身の女から飛び退き呪文を唱えるが、女はグラトニーを圧倒する速さで肩を掴み床に叩き付けて呪文を中断させる。


 全身黒づくめの背中からは、細く長い黒金棒を抜き首筋に添える。

「事情はこれから聞く。大人しくしないと骨折は覚!」

 咄嗟に飛び退いた女の背を亡霊の剣が薙ぎ払う。


 が。剣が空を切った瞬間に亡霊ごとグラトニーは金棒で壁に薙ぎ払われた。

「へぇ。流石にコレ以上は手も足も出ないわ。大人しくしましょう。」

 指輪警報は先程から点滅する様に反応している。グラトニーが仕掛けた時だけに。これは本当に戦う気は無いのだろう。


「アンタまじかよ……。もしかしてアンタがグラトニー?」

 壁にめり込んで腕が折れたのにまるで異常が無かったかの様に手を上げる姿に、長身の女はドン引きした顔で金棒を担ぎ直した。


「ええそうよ。あなたは?」

「ドロテア。今日到着した、元魔女狩りの新しい呪文学教師よ。

 そっちは?」


「は、はい!サンドライト、先駆者(パイオニア)寮の一学年です!

 そこで倒れている子は預言者(プロフェット)寮のキャラベルさんです!」

 先程の石壁の呪文を使ったと思しき少女が、ひぅと敬礼しながら名乗り、大人しくしていれば大丈夫だからとキャラベルと呼ばれた少女を担ぎ上げる。




「で。当然の様に私だけ残されたわね。」

「向こうに聞く事は一通り聞いたしな。

 サンドライトって子は明らかに無茶な呪文を止めた以外何もしてないし。」


「私だって何も分からないわよ?」

「よくも裏切ったなぁ……。」

 隣では半泣きのレイリースが蛇に睨まれた蛙の表情でグラトニーを呪っている。


「裏切るも何も、あなた敵だって言ってたじゃない。

 それにあの子私知らないし。」

「同じ寮の同級生くらい把握しなさいよぉ……。」


 現在位置は保健室。今は教師マタハリが全員の診察と治療を終えたところだ。

 教師マタハリが溜息を吐いて、机を指で叩きながら口を挟む。


「今回はそっちのグラトニーだけを悪者扱いは出来ないからね。

 あんた、この子が禁止薬物に手を出してたの知ってた?」

「???」


 きょとん。そう表現するしかない表情で、レイリースが続きの言葉を待つ。

 多分脈絡(みゃくらく)の無い話にしか思えなかったのだろう。


「いや。だからこのキャンベルって子の体から禁止薬物が検出されたって話。」

「????えっと。キャンベルからは、最近授業の度に調子が悪くなるって相談を受けただけですけど……?」

 教師マタハリの言葉に、先程と同じ表情で首を傾げる。


 処置無しと顔を上げた教師マタハリは、壁に背を預けて傍観していた新教師ドロテアと顔を見合わせる。

「本気で言ってるんじゃない?もう少し説明しないと分からないと思う。」


「禁止薬物ってこの魔法世界にあるの?」

「いやあるよ。そりゃあるよ。例えば廃人薬の元とか狂人薬の元とか。

 後は禁呪の元になる原料も、他に有効活用出来ないと分かっている素材は交易が禁止。売っても買っても駄目な奴。


 魔女狩りって言っても必ず禁呪使いだけが犯罪者って訳じゃないからね、私ら魔女狩りが普段取り締まるのは寧ろそっち。

 魔女が必要とする禁止薬物を調査する過程で魔女を見つける訳。」


 占術だって対策もあるし、万能じゃないんだよ、と注釈を付けるドロテア。

 魔法世界では捜査と言えば、鑑定と占いが主流らしい。


「今回は僅かに廃人薬と同じ成分が体内から検出されたわ。

 序でに彼女の持ち物から、直ちに影響は無い程度が混じったハッカ飴が発見されたのよ。

 この飴を誰から貰ったとか、人にあげたとか、あなたは聞いてる?」

「えっと。確か学園近くの魔法街で買った物だって。」


 レイリースが上げた店名をチェックする傍ら、グラトニーは気になった点を聞く。

「そのハッカ飴で彼女は正気を失ったの?」

 後ろのベットで寝るキャンベルの方を見るが、怪我はグラトニー同様に治療済みなのに意識が目覚める気配は全くない。


「それなんだけど、今の症状の原因かも知れないけど、いきなり錯乱した原因では無いわね。

 廃人薬で錯乱させる事は出来ない。けど微量過ぎて長年飲み続けたのならともかく最近食べただけの残留量しか観測出来なかった。

 勿論他に違法薬物も、魔術や魔法薬を用いた形跡も無かったわ。」


 教師マタハリが断言する傍ら、グラトニーはハッカ飴を(かじ)りながら首を捻る。

「でも間違い無く原因はこの飴だと思うわよ?」

「って何食べてるの!証拠で危険物よ!?」

 慌てる教師マタハリとドン引きする新人教師と生徒一人。


「って。何でお前さんは断言出来るんだ?何か根拠でもあるのか?」

 ふむとグラトニーは先程から気になっていた事を訪ねる。

「ねぇ。あなた達ってひょっとして、呪詛を()()()()()()の?」


「いやいやいや。私はあなたが呪詛を振り撒いているから情緒不安定になったってずっと疑っているわよ。」

 レイリースが手を振る傍ら、ハッとドロテアがハッカ飴を振り向く。


「ちょっと待て!呪詛はエーテルを放つ筈だ!他に何かあるのか?」

「いやいやいや!ちょっと教師ドロテア?そんな学説初耳ですが?」

 何を言っているんだという顔のマタハリと違い、ドロテアの表情は硬い。


「ああ成程。じゃあマナとエーテルの区別は()()()()()の?」

 ひぅ、と教師マタハリの表情が引きつる。


「……出来る。但しマナの観測は高度な呪具が必要だ。

 そして呪詛対策として用いられる魔力が、マナだ。」

 だから呪詛はマナでは無くエーテルを用いていると言うのが定説だ、と簡単に説明して締め括る。


「え?世界に満ちるマナ、肉体に宿るエーテルですよね?

 マナを操るには余程高度な魔術知識と呪具が必要で、魔術はエーテルを用いてしか使えない。授業でもそう習いましたけど?」


 レイリースは問題点が理解出来ていないらしいが、グラトニーは呪詛が扱える。グラトニーは、呪詛とエーテルの()()()見えているのだ。

「じゃあ今、私の指先には何がある?」

 人差し指を立てて問いかけると、慌てた教師二人が各々の観測ゴーグルを取り出し指のエーテルを確認する。


「「3ッ……き、消えた!」」

 数字の先から呪詛でエーテルを染め上げる。呪詛で3の形を維持したまま壁を向いて、3を壁に投げつけると、壁には3の字型の焼け跡が出来た。


「嘘、本当に観測出来ない……。」

 教師マタハリがゴーグルを外しながら呆然と呟く。


「成程、成程。

 魔法使いが不死身で魔女が不老って言われて意味が判らなかったけど、もしかして禁呪のデメリットが呪詛なのかしら?

 肉体が呪詛に染まった魔法使い、それが魔女なのかしらね?」


 ピシリ、と固まるレイリース。

「そうか!禁呪の研究が呪詛を浴び続ける事に繋がるなら、呪詛の研究が禁じられるのも頷ける!

 禁呪の特性を理解する頃には呪詛が浸み込んでしまうって事なら!」


 マタハリの言葉にグラトニーが口を挟み、それは違うわと訂正する。

「だとしたら私が魔女だもの。

 学園長は確信を持って魔女じゃないと言っている筈よ。」


「え?学園長の言葉を信じるんですか?」

「待って先生?!」


 あー、と教師ドロテアも同意し、懐から銀細工のお守りを取り出す。

「これは魔女を識別出来る呪具。コレに反応が無いならこの子も大丈夫よ。」


 手渡されたお守りをしげしげと観察するが、これといった変化も無い。

「白ね。呪詛を抑え切れないのに、コレを無効化出来るとは思えない。」


 ドロテアはマタハリの机に近付き、ハッカ飴にお守りを近付けると辺りに鈴の音が鳴り響いた。ハッカ飴から離すと音が消え、グラトニーを振り向く。

「想像通りよ。その飴には呪詛が溜まっている。」


 重い沈黙が流れるが、青褪めている二人の顔を見るためだけに思い付きを教えた甲斐があったというものだ。

 グラトニーの指摘に誰もが否定する言葉を浮かべられぬ中、レイリースが恐る恐る手を上げる。


「あの~。これひょっとしなくても公表出来ない話ですよね?

 学園周辺に魔女がいるっていう。」

 教師二人が咄嗟に目を背け、レイリースがショックを受けている間にマタハリが咳払いで仕切り直す。


「話を戻しましょう。魔女の仮説は興味深いですが、問題は何故、です。

 グラトニー、あなたには呪詛の効果が分かりますか?」

「大雑把になら。そうね、強欲になる。何かを欲するか、受け入れるか。

 そんな衝動ね、これは。」


「詰まり本音を解放する呪詛を受けた結果、あなたの呪詛に我慢出来なくなったって事よね?」

「「「…………。」」」

 レイリースの分析に、その場の三人の視線が集まる。


(((事故だこれ……!)))

「ああ、魔女が手駒を増やす筈が、その前に別の呪詛で暴走したっていう……。」

 痛む額に手を当てるマタハリ。概ねドロテアの反応も似たり寄ったりだ。


「もう教えた方が良くない?学園内に魔女が入り込んだ疑惑。」

「!?」


「そうね。グラトニー、あなた生徒レイリースを嫌ってはいないのよね?」

「ええ面白いわ。」

「?!?」


「なら話は早いわ。生徒レイリース、あなたグラトニーと和解するか、なるべく付かず離れずの距離を取りなさい。あなたが呪われた時、助けてくれるとしたら彼女だけよ。」

「?!?!?」


 急展開にパニック顔のレイリースが教師二人を見て右往左往する。

「じゃあ私が弱みを握ってこの子に勉強の手伝いをさせるわ。」

「待って?!」


「というかこの話自体が弱みでしょ?学園に魔女がいるって知った上で一番生徒達の中で安全な環境って、呪詛に気付けるアンタにしか分からないわよ?」

 実際生徒達の間にどれだけハッカ飴が出回っているか分からない。

 その事に気付いたレイリースは、血の気が引き過ぎて意識が遠のいた。


 ガチ差別派筆頭レイリースさんへの周囲の反応。

初期 =すげぇ!あの瘴気の塊に怯まず罵倒しに行ったぜ!

決闘後=ああ、うん。そりゃ腕力に訴えない筈だよねぇ……。


 本人視点では一切悪い事していません。だから知人が犯罪に走ったら止める。

 2021/10/22 改行スペース他微修正。

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