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杏仁ミルク

「ただいま……暑ーい……。何か冷たいのある?」

 玄関のドアが力なく開き、妹が帰ってきた。よろよろ、ふらふらというような足取りで部屋に向かう。

 今年は学生たちの夏休みは非常に短い。世界を騒がせているウイルスの影響で、春休みを長くとった結果だ。

「よりによって、今年こんなに暑いなんて。誰よ、今年は冷夏になるでしょうなんて言ったのは」

 暑さでイライラしているのか、妹が悪態をつきながら居間にやって来た。

「おー、ずいぶん荒れてんね」

「だってぇ、映画楽しみにしてたのに、ポシャっちゃったんだもん。お街のほうに患者さん出たから、市内に遊びに行っちゃダメだって。なんとかトラベルだかキャンペーンだかで、バンバン県外から人来てんのに、意味あんのかな」

「県外から来る人は検査済みの人でしょ。……そう思いたいわ。お店も観光客でいっぱいなのよ。それでも例年よりは少ないけどね」

 道の駅のレストランで働く私にとって、祝日や長期休み期間は稼ぎ時だ。毎年、この時期は目の回るような忙しさである。この辺はウイルスの影響があまりないからかもしれないが、このご時世だというのに観光客や帰省客もまあまあ多く、大きな街の飲食店等と比べれば恵まれていると言えるだろう。

「暑いー……」

「溶けるな溶けるな。今冷たいもん出すから」

 扇風機の前でダレている妹に苦笑しながら冷蔵庫を開ける。

「むー……牛乳しかないな。健康志向だこと」

「甘いの無いのー?」

「牛乳は熱中症予防に良いんだから、のみなさい。あんた牛乳でお腹壊すってわけじゃないんだから」

 しばらくガサガサと冷蔵庫をあさる。妹は生の卵が食べられないから、ミルクセーキは駄目だ。……だったら、アレだな。

 杏仁ミルク。グラスに半分氷水を入れ、牛乳を注いで、シロップとアーモンドエッセンスを加えただけの簡単なものだ。


「あー……。生き返るわー」

「そんな大げさな……」

 苦笑しながら私も一口。うーん……、妹にはいいかもしれないけど、私にはちょっと甘過ぎたかな。シロップは控えめで良かったかも。

「ただでさえ暑いのに、マスクつけてるから倒れそうだったの。もう一杯ちょうだい。シロップ増し増しがいいな」

 甘党の妹には、これでも物足りなかったみたいだ。私は胸焼けと軽い眩暈をおぼえた。

「味一緒になるけど、こんなのもあるよ」

 冷蔵庫から杏仁豆腐を取り出し、妹にすすめた。昨夜のうちに作っておいたんだ。寒天でかためて缶詰のみかんを添えた、ちょっと固めの杏仁豆腐。


「姉ちゃん、最近色々作るよね」

「レシピも簡単に検索できる時代だよ。利用できるものは利用しなくちゃ」

 休みの日に、ちょっと凝ったものを作って食べることが私の最近の趣味になりつつある。

 あちこち出かけられないということも、悪いことばかりではない。

 

 



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