とうもろこし
それは、ある日の蒸し暑い夕方の事。
玄関先に突如、新聞紙にくるまれた物が出現していた。ドアの前に、でん、と置かれたそれにはメモ代わりの付箋が貼りつけられている。そこに書かれていたのはただ一言。
『たべてね』
こう書くと何やらホラーかサスペンスかのようだが、なんのことはない、田舎特有のおすそわけである。大抵は家人に手渡しするが、いなければ玄関先やポストの中に置いておくのだ。ビニールではなく新聞紙にくるまれているところからみて、おそらく中身は野菜だろう。この暑い季節、新聞紙でなければムレてしまうのだ。それはさておき、困った事がある。
「……誰からだろう?」
そう、留守中に置いておかれると誰から頂いたのかわからない。野菜の場合、中身を確認し、もれなく電話帳をめくりめくり、近所中に電話をかけるという作業がセットでついてくるのだ。
今回は、とうもろこしが十本入っていた。内心、これは探しやすい、とガッツポーズ。トマトやきゅうりならいざしらず、この辺でとうもろこしを植えている家は少ないからだ。
(この辺だったら……後藤のおばさんかな?)
早速、心当たりのあるお宅に電話をかける。
ビンゴ! 一発目で当たりだ。後藤のおばさんは家とよくお裾分けし合う間柄で、食べざかりの子供がいるからと、特に沢山持ってきてくれたらしい。恐縮しきりの私に
『大丈夫よー、軽トラで来たから。今年のは例年にくらべて甘味が薄いけど、いっぱいできたから食べてねー』
後藤のおばさんは、電話の向こうで朗らかに笑った。
さぁて……このとうもろこし達をどうこなすか。何せ、十本もあるのだ。ただ塩茹でするだけ、というのもつまらない。いや、塩茹でだっておいしいんだけど。
すりおろして牛乳とブイヨンでのばしてコーンスープ? それとも塩味をきかせた炊き込みご飯にしようか。芯をいれて炊くと甘味が出ておいしいんだよね。揚げ物はちょっと面倒だけど、かき揚げだって悪くない。ああ、それとも……。
頭の中で次々とレシピが浮かんでは消えてゆく。
何にしようか。何作ろうか。また食べたいと子供が言ってたレシピにしようか。あれも食べたいな。あっ、これもおいしそう。だけど。
だけど、どうせなら。
たくさん作るなら、お裾分け返しできるのがいいな。
剥きたての、つやつや光るとうもろこしに問いかける。お前は何になりたいの。
おいしくつくろう。たのしくたべよう。そろそろ皆が帰る頃。




