ミルクセーキ
「おばちゃーん、ただいま。ミルクセーキつくってー」
姪っ子が外遊びから帰ってきて、開口一番そう言った。
「ジュースあるじゃん。ジュースとか麦茶じゃ駄目なん?」
「ジュースすっぱいしー、麦茶はママがいっぱい作ってて飽きたー。あまいの飲みたい」
姪っ子の家とは、お隣同士だ。しょっちゅう遊びに来る姪っ子のため、パックジュース等買いおきしていたのだが、果汁百パーセントが裏目に出たらしい。炭酸飲料? いやいやブタのもと。クリスマスなんかの特別なとき以外、飲ませはしない。
軽くため息をつきながら冷蔵庫を確認。牛乳、オッケー。卵、オッケー。
「すぐできるから、座って待っとき。ぬくいのと冷たいのとどっち?」
冷たいのがいい! と元気な返事。よしよしちょっと待ってなさい。
鍋に砂糖と卵を入れて、泡立て器でシャカシャカ。牛乳とバニラエッセンス、そして塩を一撮み加えて少し混ぜた後に、氷を入れたシェーカーに入れ、またシャカシャカ。グラスにそそげばふんわりと泡立つミルクセーキの出来上がり。
「おいしーい。もうちょっと飲みたいな」
瞬く間に一杯飲み干す姪っ子に苦笑する。
「ふとるよ。あんまり甘いもん食べさせないでって、ママからも言われてるんやけ」
彼女のママ、つまり私の姉である訳だが、虫歯も勿論こわいが太るのはもっと怖いというタイプだ。近々、習わせているバレエの発表会もあるせいか、尚更過敏になっているふしがある。
私はどちらかと言えば、虫歯の方が怖いが。あの痛みはもはや拷問だ。
「後でバレエするからふとんないもん。もう少しちょうだい」
「ダメ。虫歯になって痛い思いしても知らんよ」
「はーい……。でも、またミルクセーキつくってね」
やはり姪っ子も虫歯が怖いらしい。すんなりとあきらめてくれ、雑談などし始めた。
「おばちゃん、今度の発表会でね、私コンペートの踊りやるんだ」
おそらく、くるみ割り人形の演目である『金平糖の精の踊り』の事か。
発表会まで、あと1ヶ月だという。むむ、しばらくミルクセーキはお預けにしたほうがいいかもしれない。
金平糖が膨れ饅頭になっては、目も当てられないのだから。